悪を裁く審判の歌 part4
黒山と奏太の2人が見回った結果、特に事件が起こることは無かった。
事件が起きないこと自体は珍しくない。むしろ、重度の中二病患者という存在の方が珍しいので、事件もそうそう起こりはしない。
見回りの結果は申し分なくこれで良いのだが、黒山の顔はいつにも増して暗くなっていた。
「成果が無かったことがそんなに不服なのか?」
「…………」
実のところ、木曜日の事件に関して情報をあまり得られなかったことに黒山は不満と焦りを覚えていた。
黒山には能力による代償や性格が相まって、基本的には他人に興味がない。重度の中二病患者が起こす事件の被害者を助けるのはあくまで仕事だと割り切っているだけであって、正義感や親切心の類は持っていない。
しかし、鈴木花梨の一件で詩織が真悠を取り戻す為に『予測できない能力を発現する存在』となってから、彼女に害をなす可能性のあるものを取り除かなければ安心できなくなっていた。
そんな具体的な思いはともかくとして、奏太は過去を覗くことが出来ない黒山の気持ちを理解できてはいないものの、黒山が不満や焦りを感じていることに顔を見て気付いた。
そして、奏太にとってその顔がまるで、何の成果を得られなかった自分(奏太)を責めているような気がして不快だった。
黒山は、奏太が不快感から出た言葉に対して否定をしなかった。
「……そう見えるか?」
「ああ、見えるね。俺にはまだこの事件の重大性がわかってねーからお前ほど必死にはなれねー。だけど、俺だって能力を使って情報を集めていたんだぜ?」
「それでも出なかった。……すまない、八つ当たりだということはよくわかっている」
「まだ解決には遠いかもしれないけど、地道にやっていくしかねーだろうよ。俺たちはそこまで万能じゃない」
「ああ、そうだな……」
「……巡回も終わったことだから、俺はここで帰る。じゃあな、お疲れ」
「ああ、お疲れ」
奏太は黒山に別れを告げて、家の方向へ歩き始めた。
奏太の態度は、仲間というには少し冷たいものだった。それは本人も自覚している。
実のところ、奏太は黒山を嫌っているのだ。性格だけでも好きにはなれないのだが、どんな相手にも冷たい拒絶的な態度を取っているにも関わらず、2人の女の子から好意を寄せられていることが更に気に入らない点だった。
そして何より、奏太の能力では黒山の過去を見られないからだ。
沙希や奈月の過去を覗けば、黒山とどういった関係なのかはわかるが、黒山がどんな人生を送ってきて、どんな環境で重度の中二病患者となって、そして2つの能力を持つような存在となったのかは一切わからない。
そんなよくわからない存在を仲間と呼べるほど、奏太は簡単に人を信用できないのだ。
振り返ることを一切せず、心の中で「頭を冷やしやがれ」と呟いて去っていくのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
黒山が自宅に帰った頃には午後4時を過ぎており、時期相応に日が沈み始めていた。
「あら、おかえり!」
「ああ、ただいま……」
黒山の中ではそのまま自室に入っていく形がベストだったが、丁度自分の洗濯物を取り込み終えた咲苗とばったり会ってしまった。
この家は、そもそも咲苗が所有している家であって黒山の家ではない。
虹園塾の先生であった虹園の息子……虹園光輝の指示とはいえ「住ませてもらっている立場」である黒山は、自分がそういった立場であることを理解しているため、自分の理想通りにいかなかったからとはいえ、不機嫌になることはなかった。
しかし、一方で咲苗は、今日の黒山が普段より機嫌が斜めになっていることを察していた。それ故、彼女は黒山に冗談混じりで話を始めた。
「あれ、透夜? とても明日、両手に華で遊びに行く男の顔には見えないんだけど、何かあった?」
「んぐっ……!? 何故そのことを!?」
そんな話題を振られて、黒山は先程までの不機嫌さを忘れてしまうほどに驚いた。
それもそのはず。彼は翌日「詩織と真悠の2人の女の子と街へ行く約束をしている」という話を誰にもしていないからだ。
もちろん、同居している咲苗にも。
では何故、咲苗がそのことを知っているのか?
「ふっふーん! あんたのクラスメイトが話してくれたのよっ! 何たって、梶谷さんが男子と仲良くすることすら珍しいって見られているのに透夜を遊びに誘ったわけだし。それに栗川さんが、梶谷さんと一緒だとはいえ、男子と遊びに行くなんて、他の男子からしたら大惨事よ?」
「くっ……」
そう。咲苗が黒山に言った通り、咲苗は黒山のクラス……1年3組のクラスメイトから話を聞いていたのだ。
咲苗の仕事はスクールカウンセラー。普段何かしら問題を抱えている生徒の相談役になったりするわけだが、彼女の本領は重度の中二病患者の治療で発揮される。
少し前に下崎照を受け持ち、彼が完治した今は鈴木花梨の治療を受け持っている。
そんな咲苗の手腕は折り紙付きで、2,3年生は勿論、入学してから1年も経っていない1年生からも信頼を寄せられているのだ。
「透夜……。あんたは、明日の約束に対してどう感じているのか大体予想がつくけど、特に栗川さんと遊びに行くという事実は、多くの男子を泣かせているってことを自覚して欲しいな」
「下崎の時に梶谷から聞いてはいたが、栗川はそんなにモテるんだな……」
「あったりまえじゃなーい! あんたはむしろ何も思わないの!? 同じ女である私から見てもあの子は可愛いわー! それに、類は友を呼ぶって言うのは本当よね。梶谷さんの可愛さもレベルは高いわっ!」
「…………」
咲苗のエキサイトぶりに、黒山は絶句していた。
とはいえ「何も思わないのか?」と問われて「何も思わない」と答えれば、それには嘘がある。
決して何も思わないわけではないが、いくら真悠が可愛いからといっても恋愛的な目線で見ることは出来ない。
それは、美貌という面で同じく高い評価を得ている沙希に対してもそうだ。黒山にとって彼女達……詩織、真悠、奈月、沙希の4人を恋愛対象として見られないでいる。
しかし、鈴木花梨の一件以来、自分達とは根本的な意味で違う力を発現した詩織が気になっているのも事実だ。
それを恋愛感情と呼んで仕舞えばそれまでだが、黒山は彼女を「守る対象」として見ているのだと言い聞かせている。
そして仮に、黒山が誰かに恋愛感情を抱けば『孤高』ではなくなってしまうだろうし、『黒』がそれを許さないだろう。
もっとも、それは黒山の意識次第だが、彼はまだ2つの能力を手放すつもりなど微塵も無かった。
「それはともかくとして……。周りの男子からすれば羨ましい状態なんだから! 明日はそんな暗い顔して出て行くんじゃないよ!?」
「わ、わかった」
「ならよし! ほら、あんたも洗濯物取り込んだら?」
「あ、ああ……」
黒山は自室に戻る予定を変更し、咲苗と2人で決めたルール上、遅かれ早かれ自分の洗濯物を自分で取り込まないといけないので自分の洗濯物を取り込む為、脱衣所へ籠を取りに行った。
そんな黒山の姿を本人に気付かれないよう、咲苗は優しい笑顔で数秒見てから、家事に戻った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんなこんなで、木曜日に起こった事件の対策を固められないまま、その日はやってきた。
1月14日 日曜日。
詩織と真悠、そして黒山の3人が、木曜日の事件が起こった現場である街で遊ぶ約束の日だ。
咲苗から念を押され、集合時間の10分前に集合場所に辿り着いていた黒山は、周囲を警戒しつつひたすら彼女達の到着を待った。
両手に華……という表現は、妥当であっても黒山的にはあまり好まない。だが、街で遊ぶということで自分を誘ってくれたのは、詩織に危険が降りかかる可能性を考えれば助かるし、道中に関しても、代表者ではないが、それに匹敵する能力を持った真悠がいるのである程度安心出来る。
もちろん楽観視はしていない。あらゆる事態を想定して黒山は今日に臨んでいる。
電車の時刻的に、乗り遅れることさえ無ければ遅刻することはないので、ほぼ集合時間に2人の女子はやってきた。
「やっほー! 黒山くん!」
「ごめん、黒山君。待たせた?」
「いや、俺も今来たところだ」
黒山の表情はいつも通りだったので、詩織はそれが本音だと思った。
しかし、実際はそうやって答えるよう、咲苗から教わった結果だ。経緯はどうあれ、真悠はその返事に感心していた。
一方、黒山は普段と違う2人の印象に釘付けだった。
詩織の私服は、一度デパートで助けた時に見たことがあったが、今回はまた違う印象の私服だった。
紺色ニットのタートルネックと、足にフィットするジーンズ。その上に、白に近い灰色のコートを羽織ることで、清楚さがあり、年頃なのかナチュラルメイクが施されていることで大人びた印象が醸し出されている。
隣の真悠は白いトップスに、膝下まである赤いスカート。アウターに黒のライダースジャケットを着ることで、元の美しさが合わさって、弱い男では近づき難い綺麗さを出している。大人しめの男子よりも、やんちゃ系な男子にモテそうなファッションだ。
そんな黒山の視線に2人は気付いている。真悠は普段から見られ慣れているので特に気にしていないが。
「ど……どう?」
「え、あ、ああ……その」
詩織は感想を求めずにはいられなかった。黒山透夜という男が気の利くコメントの出来ない男と知っていながら。
結果、誰もが予想できた通りに黒山はコメントに困っている。
客観的に見ている真悠は、黒山がコメントに困っている時点で詩織の気合いの入れようが功を制していると悟ってニヤニヤしているが、何かしらコメントを期待しただけあって、その反動が大きく、詩織の機嫌が若干斜めに傾いた。
(うーん……。しーちゃんもしーちゃんだけど、黒山君も何か褒め言葉の1つでも言えればいいのになぁ)
(あ、そうだ!)
状況を冷静に観察していた真悠は2人に「じゃあ、行こっ!」と先へ促して、詩織に遅れて歩き出した黒山に小声で1つ忠告をした。
(ちょっと黒山くん!)
(……なんだ?)
(しーちゃん、結構服装に気合いを入れて来ているんだから、帰りまでにちゃーんと褒めること! いい!?)
(だが、俺にはなんと言ったらいいか……)
(素直な感想でいいの! それくらい自分で考えられるでしょ!?)
「……2人とも、何をコソコソ話してんのよ?」
「な、なんでもないよー? ねぇ、黒山くん?」
「あ、ああ。何でもない」
「そ」
真悠による黒山への警告は、2人でコソコソ話していることに気付いた詩織により中断された。
「中断された」というのは、あくまで黒山的な見方であって、忠告をした本人である真悠は伝えるべきことは全て伝えたつもりだ。
もちろん、黒山がそれで気の利くコメントが出来るとはあまり思えない真悠だが、その時はその時で、今度こそ本気で2人の縁を『切る』ことも考えている。
その方が真悠的にも楽だし、詩織の傷もある意味「無かったこと」に出来るからだ。
あらゆる事態を想定して今日に臨んだ黒山も、ファッションの感想を求められるという事態は想定しておらず、この想定外にかなり苦しめられることとなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こんな状態である両手に華デート(?)は楽しめるわけが無かった。
元々、黒山が楽しめるかどうかは、詩織や真悠にとってはもちろん、黒山本人にとっても未知数ではあったが、コーデの一件を引きずっている詩織は、いつのまにか腹癒せに、自分が取り敢えず楽しめる形にしていた。
これが自分勝手かと問われれば、案外そうとも言えない。
幼馴染で同性なだけあって、その内容は真悠も楽しめるような内容だったからだ。(取り巻く空気は別として)
基本的にはショッピング……という形ではあるが、高校生という立場である以上、そこまで金銭に自由は無いので買うものは限られている。
だからと言って、予め買うものが決まっているわけではないので、あの店や……この店や……という風に色んなところへ回っているので、男からすれば「うんざり」とか「退屈」と思ってしまうような状況となっている。
しかし、それは「普通の男なら」という条件付きで、優しい男性は取り敢えず笑顔で付き合うかもしれないが、黒山はそのどちらでも無かった。
こんな時でも警戒を怠っていない。
ここは基本的にカップルか女性だけでしか近付かない店ではあるが、そもそも今回の犯人が清村で無いことを前提とするなら、男の単独犯だとは限らない。
黒山には、見た相手が重度の中二病患者かどうかを見極める目があるので、未然に防ぐことが出来る可能性もあるからだ。
「詩織を守る」という、ただ一点で言えば褒められたものかもしれないが、異性としては未だに気の利いたコメントを言って、詩織の機嫌を直せていない時点で最悪だ。
真悠はそんな黒山を呆れ半分で、わざと目を細めて見ていた。
読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。
毎回毎回、我ながらよく後書きを書くなぁと思っています。
実際のところ、後書きを楽しみに読んでくださる方ってどれくらいいるんでしょうか?
あんまり需要(?)が無いようなら、書かない方が良いかもしれませんね……。
さて、ライトノベルにはイラストというものが付き物だと思います。
実際、イラストがあるかないかでも、物語な彩りがかなり変わってくると思います。場面をイメージしやすいですしね!
私は絵心が皆無なので、イラストをそもそも自力で書けるわけではないのですが、こうして小説を書く上で「あっ、このシーンとか絵があった方が、読者は物語に引き込まれやすくなるだろうな」と思うことがあります。
例えば、バレンタイン話の沙希だったり、今回の詩織と真悠が着てきたコーデとかですね。
そうやって考えてみると、一番最初に「小説で挿絵」を始めた人は本当にすごいと思います。
それでは、また次回も読んでくださると嬉しいです!




