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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「悪を裁く審判の歌」
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悪を裁く審判の歌 part7

自身の限界を拒絶したスピードで人気の無い道へ入っていき、ひたすら声のした方へ走っていると、突き当たったところで腰を下ろしている人が見えたので急停止した。


聞こえた声は青年の声。腰を下ろしている男も、おそらくは黒山とあまり変わらない年齢の外見をしているので、声をあげたのが彼であるのは間違いないだろう。


急接近したにもかかわらず、頭を下げたままで何も反応しない男に黒山は話しかけた。



「……大丈夫か?」


「…………」



声をかけても反応が無い。


そっと下から顔を覗き込んでみると、彼は目を瞑っている。念の為、体温と脈を手で確認すると、気を失っているだけだということがわかった。


とはいえ、このまま放置しておくわけにはいかない。


黒山は犯人の追跡を諦め、ひとまず針岡に連絡をして、彼を引き取ってもらうことにした。


携帯端末を取り出し、連絡先から針岡の電話番号を指定して電話をかけると。



『ん、透夜か? どうしたー?』



予想外に早く。奇跡的にワンコールで出てくれた。


「例の現場付近にいるんだが、また人が襲われた。気を失っているし、おそらく服とかで見えないだけで怪我をしている可能性もある。回収を要請する」


『んー、わかったー。GPSでお前の位置は把握出来てる。どうにか車で回収出来そうなところまで来れるかー?』


「わかった。どうにかする」


『頼むわー』



被害者の男を肩に背負って車道へと出ようとした時、黒山は誰かの視線……あるいは敵意を感じたので、敢えてここで止まって様子を見ることにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「黒山君、遅いなぁ……」


「そうだねぇ。せっかく遊びに来ているというのに、まさかこうなるとはねー……」



詩織は「遅い」と言っているが、黒山がここを離れてから10分も経っていない。


詩織が短期だということもあるのは間違いが、待ってる側としては長く感じても仕方がなかった。


黒山の報告が早かったのが幸いとなったようで、警察が来てどうのってことは今の所ない。だが、人が叫び声を上げてしまう程の事だと言うのに、最早誰もそのことを気にしていない。


案外、関わると良くないことを本能が察知しているのかもしれないが。



「あとどれくらい待てばいいんだろ……。それに、さっき叫んでた人、大丈夫かな?」


「きっと、ちゃんと黒山くんが助けてくれているから大丈夫だよ! 信じて待とう……?」


「うん……そうだね」


「……でも」


「うん?」



詩織の正面に立って話していた真悠が目にも留まらぬ速さで右手を突き出した。


その手には真悠の能力で具現化した刃物……身の丈ほどあるククリナイフに似たはさみの片割れを持っており、詩織の顔にギリギリ当たらない位置で止まっていた。



「えっ……ま」



真悠の名を呼び、能力を発動させた真意を問おうとした瞬間、金属同士が激しくぶつかり合う音がした。


ぶつかったのは真悠の刃物と、何処からか投げつけられたナイフの『ようなもの』。衝撃音に詩織は耳を痛めたが、理解できない状況にそれどころではなくなっていた。


周囲の通行人はその音と真悠の持つ刃物に気付いた為か、立ち尽くす者もいればパニックを起こす者もいたりと、まばらではあるが反応を見せた。


しかし、真悠は投げつけられてきた方向を睨んで、珍しく敵意のある声を出した。



「私の前で、私の大好きなしーちゃんを狙うだなんて馬鹿な真似をするもんだねぇ?」


「えっ!? 私を狙って……!?」



詩織も恐る恐る真悠と同じ方向を見ると、人混みの中から何処か様子のおかしい猫背の男が出てきた。



「あ、あんたは!?」


「ヒヒッ! 久し……振りだな。相変わらず、心が……浮かれているな」


「あれ? しーちゃん、この人と知り合いなの?」


「……前にこの男に襲われたことがあって。その時は奈月が助けてくれたんだけど」


「ふーん? つまり、敵……ってわけだ?」



真悠は右手の刃物を男に向け直し、構えた。


この男は以前、詩織が沙希と一緒に奈月の部屋へ遊びに行く時、駅から家までの道の途中で襲ってきた男だ。


その時は幸い、沙希と奈月の2人が詩織を迎えに来ていたので大事には至らなかった。


男は真悠による明確な敵意を的確に感じ取り、両手にナイフのようなもの……『ヤイバ』を具現させ握った。



「お前に……用はない。俺は、そこの女の心を……切り裂きたい」


「させると思うー? そうしたいなら、私を倒してからね。まあ、勝つのは私なんだけどー?」


「大した……自信だな。お前の心は……どこか渦巻いている。不快だ……」


「あっそう。私は、あなたがしーちゃんを襲った時点で既に嫌な気分だったんだけど?」


「フン……」



男が鼻を鳴らすと、一瞬で距離を詰めて真悠の喉元をめがけて右手の『ヤイバ』を突き出した。


真悠がそれを涼しい顔してハサミの片割れで下から上へ弾くと、男は「これが本命」とも言うかのようにすかさず左手の『ヤイバ』を腹へ差し込もうとした。


大きなハサミの片割れを握った真悠の右手はまだ上。ガードしようにも間に合わず、そのまま差し込まれる。





……と思いきや、まるで鉄の壁を突いたかのような衝撃で男の左手は痺れ、左手で握っていた『ヤイバ』を落としてしまい、拾わずにステップだけで後ろへ下がると、落とした『ヤイバ』が霧散した。


そんな男を見て、真悠は笑顔で……



「残念でした!」



と言った。



「……俺のヤイバ……何に、当たった?」


「さあー? なんだろうねぇ?」



男が狙った真悠の腹には、紺桔梗の色をした穴が渦巻いていた。


上から見ればそれが腹の直前で渦巻いているのがわかるが、正面や斜めから見れば腹で渦巻いているように見える。


後ろから見てる詩織には何が起こっているのかわかっていないが、とにかく真悠が無事だったことに安心していた。


そんな詩織の気持ちと、自分の思い通りにいかなかったのが相当気に入らなかったのか、男は再び真悠へと襲いかかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(……これは時間の無駄か?)



黒山はその場で助けを待つフリをして、敵が仕掛けてくるのを待っていたが、一向に動きを見せないのでいいに加減行動しようかと考えていた。


流石に座り込んでいる青年を担ぎ上げるだけの力は無かったので、青年の左腕を自身の肩に掛け、左手で彼の左腕を掴んで立ち上がり、足は引きずる形で車道の方へ出ようとした。


まさに歩き始めた瞬間、黒山は後ろから「何か」が迫ってくる気がしたので首だけ振り向くと……。



もう1人の自分が、能力で限界を拒絶していない普通の状態で走ってきた。


その様子は助けに来たわけではなく、はっきりと敵意を持って迫って来ている。


黒山は出来るだけ慎重に、かつ素早く青年を地面に下ろすと、もう1人の自分に突進をするような姿勢で構えた。


やがて相手が目前に迫ると、勢いよく地面を蹴って突進を始める……ように見せかけて、相手とすれ違うギリギリのところでターンをし、右腕で相手の首を絞める要領で腕を回して、身体ごと回転。


遠心力とバランスを崩した反動で相手を転ばせ、右手を相手に向け……



「お前の存在を『拒絶』する」



そう言って、もう1人の自分を『拒絶』することで跡形もなく消し去った。


逃走の時間稼ぎの為にもう1人の黒山を作り上げたのだろう。黒山に敵意の視線を向けていた存在は既にいなくなっていた。


このまま犯人を追いかける選択肢も無くはなかったのだろうが、黒山は救助を優先。再び、肩を貸した状態で持ち上げ、車道がある方向へ歩き出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


車道へ出ると、丁度出てきたタイミングで一台の普通車が方向指示器を点滅させ、続いてハザードランプを点滅させた。


中から出てきたのは針岡ではなく、針岡よりも若い男性だった。



「君が黒山透夜(くろやまとうや)君?」


「ええ、そうですが……あなたは?」


「針岡さんの後輩で中澤(なかざわ)と言います。針岡さんに言われて被害者の回収に来ました」



針岡相手に敬語を使わない黒山でも、流石に初対面である年上には敬語を使うだけの常識はあった。


拒絶的とも友好的とも言えない、礼儀正しい挨拶をしてきた中澤に少なくとも嫌悪感を抱くことは無かった。



「そうでしたか。では、彼をお願いします」


「わかりました。黒山君は?」


「俺はすぐに友人の元へ戻らなくてはなりませんので、ここで失礼させていただきます」



被害者の男を後部座席に乗せ、黒山も礼儀に沿って一礼をすると、再び自身の限界を『拒絶』して猛スピードで走り始めた。


そんな黒山を見送った中澤もすぐに運転席に乗り込み、次の目的地である(言い方は悪いが)虹園の息がかかった病院へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方、真悠と男の戦いはまだ続いていた。


『ヤイバ』1本では真悠に歯が立たないと悟ったのか、男は再び左手に『ヤイバ』を具現させ、小回りの効く特徴を生かして素早い連続攻撃と、距離を開けて移動し別の角度から攻撃する手段を真悠の反撃に合わせて使っている。


その攻撃はなかなかに巧妙で、流石に真悠もハサミの片割れ一本ではガードしきれないのか、死角を突かれるたびにどうにか紺桔梗の渦で刺されるのを回避していた。


いくら相手の攻撃が巧妙であろうとも、防戦一方の真悠ではない。所々相手の攻撃を予測し、身を翻して回避してからハサミの片割れを素早く振りかざす。


だが相手は奈月と互角に戦える相手。真悠の反撃にもうまく反応して回避し、攻撃を再開させる。


真悠の反応も普通の女の子だとは思えないほどだが、男の動きは、最早その道のプロなのではないかと思わせるものだった。


真悠は隙を見て、後ろへ飛ぶことで相手との距離をあけると、ハサミの片割れを振り回しながら話を始めた。



「そろそろ諦めて帰ってくれないかなー、なんて」


「せっかく……条件が揃っている……状況だ。諦め……られない」


「そっか。でも私はそろそろ疲れてきちゃったから、幕引きといこっかなー?」


「……?」



真悠は右手でハサミの片割れを振り回したままで、左腕を左横へ伸ばし手のひらを広げると、そこに紺桔梗の渦が発生した。


その中へ左手を入れ、何かを掴むように握ると、勢いよく引き抜いた。


すると紺桔梗の渦は消え、真悠の左手にはハサミのもう片割れが握られていた。



「さーて、本気でいくよ?」


「ほう。俺の……ヤイバが当たっていたのは……それだったか」


「当たりー! でもわかったところで、あなたとはここでサヨナラ、だよ!!」



真悠がゆっくり歩き始めると、男は走り出し、動きで真悠を翻弄しようと真悠の周囲を回りながら攻撃をし始めた。


しかし、真悠は両方の割れたハサミで弾く。いつもと違う瞳……紺桔梗の瞳をした真悠に攻撃は何一つ通用しなかった。


それどころか、真悠は器用に男の両手から『ヤイバ』を弾き奪うと、間髪入れずに相手を切りつけた。


だが、相手の反応もなかなかに素早いもので、手応えはあまり無かったようだ。



「くっ……」



男は真悠に切りつけられた左肩を右手で押さえている。そこから徐々に血が滲み出ていた。


真悠の能力『絶縁とする為の人斬り鋏』は、人と人の縁を切るだけが取り柄ではない。


その実態は「人と人」の繋がりを切ることに特化しているのではなく、「何かと何か」の繋がりを切るものだった。


そしてそこが、真悠自身が望む形とは違っていた部分となっている。


つまり今回の場合は、男の皮膚と皮膚の繋がりを切ったわけだ。


それが「(かす)った」程度で済んだのは、男としても周りとしても不幸中の幸いだったかもしれないが、もしも直撃していたと想像すると、吐き気を(もよお)す人も出てくるだろう。



「うーん、残念。ここで決まるはずだったんだけどなぁ」


「やって……くれたな。どうやら、手段にこだわる……余裕はないようだ」


「まだやるつもりー?」


「ああ……。だが、今度こそ……これで終わりだ」



男は右手を縦と横に振ると、縦一列に23本。横一列に22本の『ヤイバ』を十字の形で空中に具現させた。


その数に詩織はもちろん、真悠も驚きを隠せなかった。



「うーん、これは流石にやばいかなー……」


「えっ……ちょっ……」


「……行け」



男は人差し指を真悠と詩織へ向けると、合計55本の『ヤイバ』が2人の少女を切り裂かんと動き始めた。


真悠は両手に握ったハサミの片割れ2本を捨て、詩織を守ろうと抱きしめ、背中を向けた。



「しーちゃん!」


「ちょっと真悠、何してんの……!?」



55本の『ヤイバ』が詩織を庇う真悠の背中に差し込まれる。


悲鳴をあげながら。あるいは目を逸らしながら、誰もがそうなることを疑わなかった。


痛ましい。可哀想。友を庇った少女は立派だ。少女を狙った男は最低だ。許せない。


色んな思いが渦巻くことだろう。




しかし、それらが現実になることはなかった。



真悠の背中に『ヤイバ』が、人1人分ほどまで迫ったところで、黒い影が目にも留まらぬ速さで間へ割り込むと、時間が止められたかのように55本全てが空中で停止。その直後、それ以上そこに存在することを拒まれたかのように散らばり、やがて霧散した。



「怪我はないか? 2人とも」



真悠と詩織が聞き覚えのある声がした方向(=『ヤイバ』が飛んできた方向)を見ると、そこには両手のひらを相手の方向へ向けている黒き拒絶……黒山透夜(くろやまとうや)がいた。

読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


はい、またこのパターンです。私はこのパターンが大好物です。


話の内容についてのちゃんとした後書きは、この章が終わってからまとめとしての形で書かせていただこうと思います。



「隣の転校生は重度の中二病患者でした。」とは全く関係のない話を1つさせてください。


初めて書いた話「もし君が、本当にそれを望むのなら」ですが、続きを考えて書き始めてはいるものの、世界観・設定的に続きを書くのが困難になりました。


なんと言っても、後先考えずに衝動だけで書いたものですから(実は「隣の転校生は重度の中二病患者でした。」もそう)「もし君が、本当にそれを望むのなら」は一旦削除しようと思います。


と言っても、登場人物やモンスターと戦うといった基本的な部分は変えずに、世界観や設定をちゃんと考えた上で同タイトル名で作り直そうという魂胆なのですが……。今度は書き溜めします、はい。


削除は5月に入ってからにしようと思っています。


我ながら、この小説と関係の無い話を後書きとして入れるのはどうかと思い始めていますが、十人十色! 人それぞれですよね!(単なる開き直り)



さて「隣の転校生は重度の中二病患者でした。」も次回かその次で50部となります。


「書き始めて1年」まではまだ日がありますが、ここまでやってこられたのも、一重に毎週アクセスして読んでくださる方々あってのことです。


深く御礼を申し上げます。そして、今後ともよろしくお願い致します。



それではまた来週。次回もお楽しみにして下さると嬉しいです!

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