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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
比較的日常なイベント編
40/222

黒き拒絶と猛き炎の対決・前編

鈴木花梨の事件からおおよそ1ヶ月半程経ち、季節は本格的に冬へと突入した12月の始まり。


「定例報告会」が今日の放課後開催される為、黒山は帰りのショートホームルームが終わってからすぐに旧・虹園塾へと向かった。


旧・虹園塾とは、かつて超スパルタで有名だった塾で、虹園塾を卒業できた人間はどんな困難にも強く優秀なことから、実際の能力を問わずに「虹園塾卒業生」という肩書きだけでも強さを誇示できる。


もっとも、大した能力を持てずに虹園先生からひたすら叱られた塾生の大半は辞めて逃げ出してしまうという。


しかし、時代が進むにつれて「スパルタ教育」が受け入れられなくなってから、虹園塾の講師である虹園先生が失踪する形で虹園塾は無くなった。


その後、20年程放置されていたが、年々増加傾向にある「重度の中二病患者」の関わる事件対策を考える場所の一つとして針岡により再び使用されることとなった。


針岡もいわゆる「虹園塾卒業生」であり、当時はスパルタで辛いことが多かった場所だとはいえ、彼にとっては思い出深い大切な場所の1つなのだ。


ただしそれは、彼の持つ能力『忘れさせられる為の暗示』の代償が「忘れたくない大切な思い出が少しずつ消えていく」というもの故に、辛かったスパルタの記憶が消えずに残った結果がもたらした意識かもしれないが。


ともあれ、現在では付近にある3校の学校から、重度の中二病患者を無力化する役割を与えられた者たち……「代表者」がここ最近で起こった事件を報告し、対策を立てる場所として使われている。


おおよそ週一に開催される「定例報告会」には夏休み以降にここへ来た黒山が大体1番乗りで現れる。



「おー? 透夜ー。今日もお前さんが1番乗りかー」


「……毎回、あんたよりは遅い」


「まー、俺は車だからなー。信号待ちがあるとはいえ、各駅で停車する電車に比べりゃそりゃあなー」


「そうか」



重度の中二病患者は、世間一般的に公表されていない存在だ。


そもそも中二病とは、医学的な病気でも精神疾患でもない。自身が想像する理想的な自分像を言動という形で心の中から外へと伝えてしまうものである。


「人間、想像できるものは最終的に実現可能だ」とは言われるものの「中二病が悪化して、自分の想像した理想像とは少し違った異能力を持ってしまう」などと言われたところで誰が信じるだろうか。


仮に信じられたとしても、思春期を健康的に迎え終わった普通の大人達は、そんな異能を持った子供達に対して恐怖心や差別、偏見を持ってしまうことだろう。


それは黒山と同じく生活を送っている高校生達にも言える事。よって「重度の中二病患者」を隠さないといけないし、それに対応する為の組織の存在を知られるわけにはいかない。


針岡は黒山が所属するクラスの担任であるのだから、帰りのショートホームルームが終わった後で一緒に来ることが出来るのに、そうしないのは、ほぼ週一で「定例報告会」が開催される度に、黒山が針岡の車で移動したら絶対に他の生徒にも目立って「重度の中二病患者」の存在とその対応をする組織の存在が知られてしまう可能性があるからだ。


針岡はこれを黒山に説明したわけではないが、黒山は可能性の1つとして理解していた。


黒山がいつも座る席に座ると(特に席が指定されてるわけではない)閉められていた扉が勢いよく横へスライドして活発系な女子高生とその後を続いてお淑やか系な女子高生が入ってきた。



「やっほー! おおっと、今日も透夜が1番かー!」


「どうやらそのようね」



活発系女子高生・奈月とお淑やか系女子高生・沙希の2人は扉を静かに閉めてから、針岡に何も言うことなく、いつも座る席に座った。


この教室の席数は虹園塾が運営されていた頃と変わらない。代表者は5人で席も余裕で余るのだが、撤去される気配が見えない。


普通のよくある席の配置であれば撤去されていたかもしれないが、この教室の席の配置はいわゆる「コの字」で、話し合う際に相手の顔をよく見ることが出来る配置となっている。


各校、代表者が1人、もしくは2人でなければならないというルールはないので今後も増える可能性がある。この先、席の配置が変わることはないだろう。


針岡そっちのけで奈月と沙希が黒山と雑談を繰り広げていると、憂鬱そうな顔で奏太が。人柄によくあった私服を着て無表情な鎌田が入ってきた。


鎌田は特に思うことはないが、奏太にとって奈月・沙希・黒山の3人が話しているところにあまり居合わせたくないと思っている。


奈月と沙希の2人は大親友だが、同時に黒山を巡る恋のライバルである。言動に出てはいないが、内心では現在も1人の男を取り合う戦いが繰り広げられていることであろう。


そして2人の女子から好意を抱かれている黒山に対しても、同じ男としてあまり良い印象で見ることができない。


そんな3人が固まっているところへ突入するのだ。憂鬱な顔をしてるとはいえ、入って来れただけでも奏太は褒められるべきなのかもしれない。


奏太と鎌田の2人も席に着いたところで、針岡はやる気のない声で「定例報告会」の開催を宣言した。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


鈴木花梨の事件以降、黒山の周りで事件は起こっておらず、比較的平和な日常だ。


しかし、彼のクラスメイトで席が隣である詩織が、重度の中二病患者とは性質の違う能力を発現させたことから、そう遠くないうちに何かが起こるであろうことを黒山は予想していたので、現在の平和な日常を「嵐の前の静けさ」だと思って過ごしている。


何事も平和が1番。例え、本当に「嵐の前の静けさ」であってもその平和が出来るだけ長く続いて欲しいと黒山は願っていたのだが。


黒山・奏太・鎌田の3人が何も報告することが無いのに対し、奈月から1つの報告が上がった。



「そういえばなんだけどさ、鈴木花梨の事件を追っている最中の話。沙希ちゃんと詩織ちゃんが私の家に集まってくれたことがあって、その時にナイフを持った男に襲われたんだよね」



沙希が奈月の報告に少し補足を加える。



「あの男……持っている刃物を『ヤイバ』とか呼んでいたわ。私と奈月がちょうど迎えに行ったから対処できたけど、あの男は詩織を切りつけようとしていた」



黒山はその報告を流すことが出来なかった。


どう聞いても、傷害未遂にしか聞こえないので普段なら警察の仕事だと無視するが、力を発現させた詩織を見た後では「自分以外にも梶谷の能力に気付いて襲った人間がいるのでは?」と考えてしまっていたからだ。



「それは……梶谷個人を狙ったものだったのか?」


「うーん、どうだろ……。私には何か狙いがあって詩織ちゃんを襲ったようには見えなかったけどなぁ」


「私も奈月に同感ね。どちらかといえば、あれは通り魔に近いものだと感じたわ」


「そうか、わかった。また同じようなことがあったらその都度教えてくれ」


「ん? おっけー! わかったよ!」



黒山がここまで関心を抱くことに、奈月と沙希は「珍しい」と感じた。とてもただ「クラスメイトの女子が心配」だという理由に思えない。


2人はすぐに「あの力と関係しているのかな?」と思い返した。そうすることで理解はしていないものの納得はできる。


しかし、黒山の考えていることは2人が考えていることよりもっと深刻だった。


決して、襲撃者に対する2人の印象……「通り魔的」というのを疑うわけではないが、だからといって楽観視出来ない。


黒山が自分の考えを脳内でまとめている一方で、奈月と沙希はそれ以上報告できることが無いので席に座った。


情報が少ないので対策の立てようが無い。そもそも、相手が「重度の中二病患者」とも限らない。


今回の「定例報告会」は奈月と沙希の報告のみで終了した。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「おい透夜!」


「…………」


「おい!」


「ん!? ……ああ、鎌田か」


「ぼうっとしてどうしたんだよ?」


「いや、何でもない……それで、俺に何か用か?」


「ああ、武装型について教えてくれ」


「武装型か? それは構わないが……」



黒山は悩んだ。鎌田に武装型について教えるのかどうかではなく、何故学びたいのか聞くかどうかを。


黒山がそこを悩んでいると悟ったわけではないか、鎌田は聞かれるまでもなく考えを告げる。



「透夜。おめぇも感じてるんだろ? 2人の報告からしてこれから何か嫌なことが起こるってよ」


「…………」


「梶谷がどんな能力に目覚めたのかは知らねぇ。だけどよ、護らなけりゃならねぇのは変わんねぇだろ? 梶谷だけじゃねぇ。栗川や他の奴らもそうだ」


「他人の事を考えるとは、お前らしくないんじゃないか?」


「ああ!? そいつは誤解ってやつだぜ? 俺は人の話を対して聴きやしねぇ大人が大っきれぇなだけで、そうでない奴らを護りてぇって気持ちはあるんだぜ?」


「そうか、わかった」


「んじゃあ、表に出ようぜ?」


「いや、その必要は無い」


「あぁ!? それってどういう」


「能力の使い方は、イメージ次第で決まる。武装型というのはそのバリエーションの一部でしかないんだ。……そうだな、強いて言えば、イメージを全身……あるいは身体の一部に込めることが必要だ。しかも発動の一瞬だけじゃなく、武装型を使用している間な」


「イメージを身体に込める……」


「だが全身は難しいかもしれないな。俺自身、2つの能力を併用しないと全身武装型を使えないからな」


「そういうものなのかよ?」


「そういうものだ」



鎌田にとってはあまり釈然としない「そういうもの」であったが、まずは武装型のイメージを整えることに集中する事を決めた。


鎌田が武装型についてどう考えているかなど、黒山にとってはどうでもいいことなので、取り敢えず帰ることにした。



「それじゃあ、俺はもう行くぞ? このまま残っても針岡が施錠できなくて困るだけだしな」


「ああ、わりーな。……ちょっと待て」


「まだ何かあるのか?」


「今度の日曜までに俺は武装型を習得してみせっから、俺と勝負しやがれ! 前々から会議室に呼ばれた時の決着を付けたいと思ってたんだ」


「そうだな。……いや、やはりやめておこう」


「あぁ!? 何でだよ!?」



鎌田は能力に目覚めてからまだ日が浅い。ましてや、こうして代表者として活動し始めたものの、ルールを知らない。


黒山が鎌田の誘いを断ったのは、まさにルールがあるからだ。重度の中二病患者を取り締まる立場である以上、基本的に私情で能力を使って戦ってはならない。


「それはな」とルールを説明しようとしたところで、針岡が話に割って入ってきた。



「鎌田ー。これにはちょっとルールがあるんだわー。お前さんらは私情で勝手に戦っちゃいけないんだよなー」


「んだと!? いやまぁ、理屈はわからんでもねぇか」


「でもな、許可を取れば話は別なんだわー。俺が許可を申請してやるから」


「あ? まじかよ!?」


「……どういった風の吹きまわしだ?」


「たまには教師らしいことしてやんねーとなーと思ってよー。向上心があるのはいいことだー」


「あんたのことちょっとだが見直したぜ! ありがとよ!!」


「いいってことよー」


「…………」



こうして黒山の意思が尊重されることなく、鎌田との対決が決まった。


とはいえ、会議室で戦った時点で鎌田の実力は高かったので、武装型を習得した後はもっと実力が高くなることだろう。


黒山は「全身武装型」を使うことになるだろうと予想し、当日解除できるよう、梨々香に協力をお願いすることにした。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


代表者として活動していく上で、能力の高さはかなり重要だ。


しかし、能力の高さと一言で言っても、高さとは色々あって、奈月や鎌田のように純粋な戦闘力だったり、沙希や奏太のような相手を確保するのに必要な情報を得るための能力。そして黒山や白河のように1回の発動で、どれだけの相手に影響を与えられるかの効果範囲等がある。


中でも、純粋な戦闘力は測るのが容易だ。同じ代表者同士で戦わせればいい。


戦闘力において代表者として選ばれる時点で、その人の能力が高く評価されているということなのだから。


ただし、だからといって本人達の意思だけで戦わせれば、場所によっては目立ってしまうし、場合によっては後遺症が残る怪我をしてしまうかもしれないので、それこそ大人達の責任の元、管理が必要となる。


対決の当日、日曜日を迎えた黒山と鎌田の2人と、責任者である針岡。そして、黒山の暴走を唯一解除できる梨々香を乗せて、朝早くから県境にある山奥へと車で向かっていた。



「ところでよぉ、なんでこうなったんだ透夜?」


「何がだ?」


「何がだ? じゃねぇよ! 俺はおめぇと戦うだけなのになんでこんな移動させられてんだよ!?」


「代表者同士が戦える場所は決まっている。対決は鎌田が望んだことなんだから文句を言うな」


「ちきしょう! ……それで、女の子が一緒に来るだなんて聞いてねぇんだけど!?」


「ごめんなさいね。梨々香は小泉梨々香。よろしくね、鎌田君」


「お、おう。こちらこそよろしく……って、そうじゃなくてよぉ、説明しろ!」


「鎌田の実力は、俺から見ても高い。恐らく全身武装型を使用しなくてはならないと思ったからだ。あれを使えば、間違いなく俺は暴走する。そしてそれを止められるのは俺が知る限り、梨々香だけだ」


「ま、マジかよ……」


「ああ。まじだ」



そんなこんなで鎌田を納得させ、4人は目的地へと到着した。


県境にある山は、外から見れば木々が生い茂っているただの山で、基本的には立ち入り禁止となっている。


しかしその割に道は整えられており、車が通ってもどうということはない。


猿くらいは出そうな場所であるが、脇に木々が生い茂った道路を抜けた先に目的地があった。



「なん……なんだこりゃ」


「ここが今回、俺とお前が戦う場所だ」



目的地には「何故ここまで来ないと見えなかったのか?」と思わせるほどのドームがあった。


名古屋ドームや、東京ドームのような立派な広さは無い。ドームというより、闘技場のような趣きがあるが、一対一で戦うには広すぎる。


そしてその横には、闘技場とはあんまり関係無さそうな建物があり、鎌田はそちらも気になった。



「この戦う場所はともかくとしてよ、あの横の建物はなんだ? つーか、人がいるのかよ?」


「あの建物は現在無人だ。……あそこは特に立ち入り禁止になっているから近付くなよ」


「でもよ、せっかくだし覗くくれぇなら……」


「鎌田」



闘技場ではなく、その横にふらっと向かおうとした鎌田を黒山は呼び止め、右手を鎌田の左肩においた。



「あ? なんだよ?」


「一寸先は闇だ。好奇心を持つことがいけないというわけではないが、うまくコントロールしないと命を落としかねないぞ」


「おめぇ、何を言って……?」


「針岡。俺たちをここに連れてきたのは構わないが、あんたも俺たちがあそこに触れてはいけないことを知っているだろ? 責任者としてちゃんと止めろ」


「あー? あー、そうだなー、悪い」


「……それじゃ、行くぞ」



正直なところ、鎌田だけでなく針岡と梨々香も気になっていた。


そもそも、立ち入り禁止である山奥に、この闘技場の存在があることさえ驚くべきことだ。加えてその横に「人が生活出来そうな建物」がある。彼らの好奇心を責められる人間など誰もいないだろう。


そして、責任者である針岡でさえ、その建物が何なのかを知らないし、知らされていない。ただ彼の上司に当たる人達から「触れてはいけないし、触れさせてはいけない」とだけ告げられている。


では何故、この4人の中で黒山だけが建物に好奇心を抱かなかったのか?


それは彼が、この建物がなんなのかを知っているからに過ぎなかった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


闘技場の中へ入っていくと、4人以外にも人がいた。


この闘技場で戦うことに申請が必要だが、その申請された内容は上層部だけでなく、各責任者にも通達される。


同じ重度の中二病患者であり、代表者である人の戦いは学べる点も多いので、戦闘を観戦に来る他校の代表者がいることもあるのだ。


特に黒山は転校が多かった為、いろんな場所で活躍している。そんな彼の実力を知る者は多いし、彼が代表者へ誘ったという人の実力が気になるという人が多かった。



「さて、今更別に準備は必要ないよな?」


「ああ! いつでもイケるぜ!!」


「梨々香。いつでも仲裁できるように準備をしておいてくれ」


「わかった、任せて!」



黒山と鎌田は既に針岡が上層部から支給されたという戦闘服を着ていた。


黒山が黒で、鎌田は真っ赤。観客席から見る他の代表者からもわかりやすく色が変えられている。


実際に着用している黒山と鎌田は知らなかったが、この戦闘服は試作のもので、至る所にプロテクターが取り付けられている。


重度の中二病患者同士の戦闘は、能力にもよるが相手を怪我させるものがほとんどだ。代表者だからといって、いつでも無傷で勝てるわけではないし、逆に怪我をさせられて戦線復帰が不可能となってしまった元・代表者もいる。


代表者は貴重な戦力だ。1人失うだけでも、その地域を担当する者にとってかなり痛手となる。


この問題はかなり前から挙げられており、その対策としてようやく動き出した結果がこの戦闘服だ。高実力者同士の対決という最高の場でテストしないわけにはいかなかったのだ。


黒山と鎌田の2人は闘技場の中心で50m距離を開けて、向かい合うように立った。


黒山が辺りを見回すと、ちらほら見たことのある顔もあった。その中に、奈月と沙希がいるのも確認できた。


意識から鎌田以外の存在を排除し、これから始まる戦闘に注意を向ける。



「わかってるとは思うがよ、手加減するんじゃねぇぞ、透夜!」


「そんな余裕はないさ」



針岡……ではなく、奈月と沙希をここまで連れてきたであろう沙苗の拡声器を使った「始め!」という声が戦闘開始を告げた。


本来なら針岡が言うべきなのだろうが、彼ではやる気のない「始め」となってしまうのがオチだ。


奈月と詩織と梨々香はそう考えたが、黒山と鎌田の2人はそんなことを考えている余裕が無かった。


咲苗による「始め」の直後、鎌田は両手に炎を精製して黒山へ投げつけた。


対して黒山はその炎を回避した。


そこから先ずは鎌田と距離を詰めて攻撃する予定だったのだが、黒山にとって予想外のことが起こった。


先程回避した炎が消えずに、後ろから黒山を襲ってきたのだ。



「くっ……!!」



黒山は咄嗟に右手を炎へ向けて『拒絶』を使うことで炎を消滅させた。


炎に注意が向いたその一瞬を鎌田は逃さなかった。



「うっらぁっ!!」


「っ!?」



鎌田の突き出した拳から、大きな拳の形をした炎……「炎拳剛波」が黒山へ放たれた。


急に放たれた炎拳剛波は、黒山を動揺させた。


その効果範囲もそうだが、注意が他の方向へ向かった一瞬を突いた攻撃が、巨大な拳の炎だという大きな見た目だったという要素が大きい。


しかし、その大きな拳が黒山を戦闘不能にすることは無かった。


その大きさに合わせて『拒絶』を使用する必要が無いと、どうにか判断できたからだ。黒山は自分の前身のみに『拒絶』を展開させ「炎拳剛波」を自身の左右に受け流した。


鎌田の中で「おそらくこう対処してくるだろう」という予想があったので、黒山が「炎拳剛波」に当たらなかったことに驚くことは無い。


だが、結果として鎌田は驚いた。炎拳剛波を受け流し終えた黒山がそこにいなかったからだ。



「…………」


「野郎っ!!」



黒山は鎌田との距離を詰めず、両手で「鉄砲の型」を作り、鎌田へ「拒絶弾」を左右交互に連続で撃ち放った。


それに加え、自身の限界を『拒絶』することで得た足の速さで移動しつつ、攻撃を続行する。


黒山の「Run & Gun」に対して鎌田も移動しつつ、本来の弾丸に比べてかなり劣る速さで迫る「拒絶弾」に両手で精製する炎を投げつけ、当てて消滅させた。


だが、防御ばかりしているわけにもいかない。鎌田は「拒絶弾」の速さに目を慣らせ、回避しつつ、両手から後方へ炎を噴射し高速移動を始めた。


自身にとって程よい距離となったところで、噴射を地面に向けて空中へ飛び上がる。そして再び自分の後方へ噴射し、その勢いで威力をあげた飛び蹴りを黒山へお見舞いした。


その高速飛び蹴りに、黒山は咄嗟に回避することでどうにかダメージを受けずに済んだものの「拒絶弾」で反撃できるだけの余裕はなく、鎌田の落下地点から少し距離をとって両腕武装型に切り替える。


その直後、落下した衝撃で巻き起こる砂けむりから噴射で勢いをつけて「纏火」で炎を纏って出てきた鎌田が右手の拳を全力で黒山に振るった。


そしてその攻撃に反応できた黒山も右手の拳を鎌田に振るうことで、2人の拳が激突した。


しかし、その激突は一瞬だった。


右手の拳から『拒絶』を展開しているにも関わらず、黒山が後方へ吹き飛ばされたのだ。



「ぐっ!?」


「まだまだぁっ!!!」



鎌田は追撃する。後方へ噴射することで黒山へ衝突しようとした。


……が、それは実現出来なかった。



「…………」


「なっ!? いってぇっ!!!」



勢い良く突っ込んでくる鎌田に黒山は両腕を向け『拒絶』のオーラを向けた。


そのオーラに直撃した鎌田は能力を強制解除され、勢い余って地面に転倒してしまった。



「くっそ……!」


「はあっ!!」



転倒のダメージで動けなかった鎌田へ、武装型にしたまま鉄砲の型を作り「拒絶弾」を撃ち放った。





読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


おおよそ5千文字で終わる予定だった短編の1つが「輝くことを願った女剣士」と同様に思ったより長くなってしまったので、2週に分けることとなりました。


この話を「割と日常」と呼んでいいのか微妙ですが、来週までお付き合い願えると幸いです!


戦闘シーンはやはり書いてて楽しいです。


そういえば、先週のバレンタイン話で20万文字を突破しました!


これも毎週、なにかと呼んでくださる皆様や特にブクマをつけて下さった方々の支えあってです。


本当にありがとうございます……!! 今後とも「隣の転校生は重度の中二病患者でした。」をよろしくお願いします!


それではまた、次週をお楽しみに!

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