黒き拒絶と猛き炎の対決・後編
地面に倒れた鎌田へ放たれた『拒絶』の1弾。
この闘技場にいる全ての人は、鎌田が倒された時点で黒山の勝利だと確信していた。
それはギャラリーだけでなく、黒山自身もまさに「トドメ」のつもりで『拒絶』の弾を放ったのだ。
しかし鎌田は諦めていない。
むしろ、ここまで追い詰められたことに闘志を燃え上がらせ、地面に倒された痛みをそのまま怒りの感情へと変える。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」
鎌田にとって、怒りの感情とは「火種そのもの」。
雄叫びと共にその火種が鎌田の周りで燃え上がり、着弾する寸前で『拒絶』の1弾を消した。
「なに……!? くっ!」
「おらぁぁぁぁぁっ!!」
再燃し始めた鎌田に驚き、黒山は咄嗟に距離をとった。
炎を纏いながら鎌田はゆっくり立ち上がる。
「へっ……流石は透夜だぜ。けどよ、俺にはまだ『これ』があるんだぜ!?」
「…………」
黒山は、鎌田の言う『これ』が何なのかすぐに思い当たった。
先日概念だけ教えた「武装型」。だが黒山自身、ここまで早く使えるようになるとは思っていなかった。
「いくぜ……『炎騎士』!」
鎌田は、自分が放つ技の1つひとつに名前をつけている。
しかし、それは心の中で叫んで技のイメージをそのまま威力に変えるという鎌田が考え出した1つの工夫だ。
鎌田の武装型『炎騎士』もまたその1つであることに変わりはないのだが、習得してからまだ日が浅く、他の技のように心の中で叫ぶだけでは安定して使用出来なかった為、敢えて技名を口にしている。
鎌田の周りで燃えている炎が鎌田の中へ一気に凝縮し、赤い炎の騎士甲冑へと姿を変えた。
騎士……と呼ぶにはあまり洗練されていない姿ではあるが、この短期間で全身武装型を発動させた鎌田を見て、黒山は驚きを隠せなかった。
「驚いた。それがお前の武装型か?」
「おうともよ! そんじゃあ、再開と……いこうじゃねぇか!!」
赤い騎士甲冑を身に纏っていても、手ではなく背中のブースターから噴射された炎で鎌田の動きは俊敏だった。
黒山はその場で腰を落とし、攻撃に備える。
「うおおりゃああああ!!」
「ふんっ!」
鎌田の右拳が黒山を襲う。
対する黒山も鎌田の右拳に自分の右拳で迎え撃つ。
ブースターで勢いをつけた攻撃にも関わらず、黒山の右拳が押し合いに負けることはなかった。
だが、鎌田の攻撃はブースターによる勢いで威力を上げるところで終わりではない。むしろ、ここからが武装型の本領発揮だった。
「ブースト!」
「なにっ!?」
鎌田の右手首から炎が噴射する。赤い炎の騎士甲冑を纏った鎌田自身には炎のダメージはない。
鎌田本来の力とプラスして手首から炎が噴射されて起こる力に黒山は押し負けた。
直接拳によるダメージはなく、鎌田の威力に後方へ吹き飛ばされた形だが、鎌田はそこに留まらず追撃をした。
黒山が鎌田の方を見ると、既にブースターで近付いていた鎌田が右拳を黒山の目前で止めていた。
「……どういうつもりだ?」
「バースト!!」
鎌田の行動に黒山は降伏勧告をしているのだろうと咄嗟に予想したが、それは間違いだった。
鎌田が「バースト!!」と叫んだ瞬間、右拳を中心に炎が爆発した。
いや、この場合「爆発的に炎が広がった」が正しいかもしれない。
この超至近距離の攻撃に黒山は防御出来なかった。鎌田のバーストによって、全身に火傷の痛みを負う。
「うぐおっ……。これは、やばいな……」
「はっ! これで終わりか?」
「いや……。鎌田、お前の武装型は、大した、ものだ。……だが」
「あぁ?」
「俺も、本気で、いく」
黒山は鎌田の返答を待たずに、即時「完全武装型」を発動した。
その場から一瞬にして空へ飛んだ黒い魔人。それと同時に闘技場の全体で黒い霧が発生した。
鎌田はその存在に怖気付くことなく、空でこちらを見下ろす黒い魔人の目の前までブーストして飛ぶ。
空中で見つめ合う黒い魔人と炎の騎士。
「そうこなくっちゃなぁ! 俺はてめぇのそれすら超えてやるぜ!」
「…………」
黒い魔人は鎌田の言葉に聞く耳を持たず、攻撃を開始した。
一瞬の速さで鎌田の後ろへ移動し、かかと落としを食らわせる。
いくら鎌田といえども、その動きについていけず、かかと落としを受けてしまい、地面に叩き落とされた。
激しい落下音を聞く間も無く、黒い魔人は更なる追撃を仕掛ける。
鎌田の落下スピードを超えるスピードで降下し、そのまま鎌田の頬へ右拳のストレートを見舞った。
その圧倒的な力に、武装型で能力を高めたにも関わらず対処しきれなかった。
鎌田の「炎騎士」は「拒絶弾」などの能力によって生み出された攻撃には滅法強く、ほぼ完全に防御できるが、直接的な物理攻撃にはあまり効果が表れない。
物理対策に関して強いて言うなれば、この炎騎士は元より鎌田の炎で形成された騎士甲冑なので、触れた相手に火傷の痛みを与えることができる。
しかし、全身武装型を発動した黒山は、その全身に『拒絶』が掛けられている。故に、鎌田の騎士甲冑に触れたところで、火傷の痛みを負わせる効果を拒絶してしまうのだ。
「そんなのありかよ……」というのが鎌田の偽らざる本音だが、黒い魔人は鎌田が意識を失う、もしくは降参するまで止まらない。
未だ立ち上がれない鎌田に黒い魔人は次々と無情に攻撃を続ける。
その鎌田が一方的に攻撃される光景は最早、模擬戦に相応しくなかった。
しかし、黒山……黒い魔人にとって、鎌田が負けを認めるまで模擬戦は続いている。つまり、一方的であってもまだ手を止めないということだ。
とはいえ、彼らをまとめる立場である針岡や、沙苗にとってはもう既に止めなければならない状態なので、梨々香に『奇跡』を起こしてもらうことにした。
その奇跡により、両者の能力は強制解除。鎌田はぐたっと力を抜いて寝そべり、まだ暴走状態に陥っていない黒山は意識が残ったままだったのですぐさま、能力を使った梨々香に課せられた代償を拒絶した。
能力を強制解除されたからか、黒山が発した黒い霧は無くなっており、空には雲ひとつないスカイブルーが広がっていた。
悔しい気持ちがいっぱいではあったが、いつもより綺麗に透き通って見える空を見て「まあ次、勝ちゃいいか」と鎌田は思った。
その後、本人は抵抗していたが、一応大事を取って鎌田は担架で運ばれ、ある程度傷の治療をしてもらい、模擬戦は終了した。
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帰り道。針岡が運転する車内での事。
お昼は途中にあるサービスエリアで済ませ、もうじき夕方となる時間帯。
車内は沈黙に包まれていた。
しかし、その沈黙を破ったのは意外にも黒山だった。
「それにしても鎌田。まさかこの短期間で武装型……しかも全身武装型を習得するとはな」
「まあなぁ。けど、結局てめぇの全身武装型に手も足も出なかった」
「俺に全身武装型を使わせる時点でお前の強さは大したものだ」
「へっ、慰めなんかいらねぇぜ? 俺はもっと強くなって、てめぇを超えてやらぁ!」
「ふっ……。楽しみにしている」
黒山が言ったことは全て本音だ。
白河や黄泉路のような存在以外……つまり、自然に重度の中二病患者としての能力に目覚めてしまった相手でここまで自分と張り合おうとする人は初めてだった。
鎌田には口が裂けても言えないことだが、そもそも2つの能力を併用している相手に能力1つでは太刀打ちが不可能だ。
もちろん、能力の相性にもよるが、都合よく2つの能力に対しても相性が良いなんてことは無いだろう。
だが黒山は、今回の模擬戦を通して鎌田に期待することとなった。
「もしかしたら、1つの能力だけでも自分を超える日が来るかもしれない」と。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
どこかで書こうと思っていた黒山VS鎌田が書けてよかったと思っています。
今回はちょっと、鎌田について後書きにさせていただこうと思います。
中学・高校生には思春期。思春期には反抗期が付き物です。
しかし、私の経験上、思春期は誰しも同じタイミングでくるわけではありませんし、反抗期に関しては来る人がいれば来ない人もいます。
特に反抗期は、育ってきた環境や両親の性格が密接に関係しているのではないでしょうか。
鎌田浩二という人間は、反抗期そのものは既に来ていても「気に入らない大人に気持ちをぶつける」ということを退学寸前までしてきませんでした。
「どうせ言っても無駄」というのは、鎌田に限らず誰でも思ったことがあると思いますが、鎌田はそれを大人全体においてそう思っています。(現在は事件が起こる前ほど激しくではありませんが)
とはいえ、言うまでもなくストレスは溜まります。そこで爆発した時が、会議室に呼ばれた時でした。そこでようやく面と向かって父と衝突したわけですが……。
鎌田の言葉使いが悪いのは、完全に親の影響です。
人間、言葉使いというのは他の人から非常に影響されやすい。私もそうで、母の言葉使いが基本的に悪いばかりにそれが標準語のような感覚で育ってきました。
もちろん、義務教育を受ける上で正しい言葉使いを覚えて、相手に対して乱暴な言葉使いをしないようになりましたが、どうしても頭にきて感情が怒り一色になると出てしまいます。
ただそれは単に私の性格が真面目なだけで(自分で言うな)、鎌田のように正しい言葉使いで自分を取り繕わない人だって世の中にはいるはずです。
かつて、私の高校時代にも鎌田のような話し方をする友人がいました。話し方自体は彼を参考にしていると言っても過言ではないでしょうね(笑)
そして鎌田が基本的に「父親が嫌い」というのは、私自身もそうだったのをそのまま持ってきました。
親といえども同じ人間ですから、間違いもしますし、そもそも親になったから……成人をとっくに迎えたからといって、心が大人になりきっているとも限りません。
鎌田の父親は、鎌田の母親と離れることで自分の愚かさに気付いて今があるわけですが、母親と離れることになってしまった鎌田本人は「それでよし」だと今までもこの先も思うことはないでしょう。
もしかすると、鎌田浩二が人の親になった時、初めてわかるかもしれませんが……。
もし前にも書いていたらごめんなさい。実は、鎌田親子がぶつかり合うシーンは、私の願望そのものでした。
話は変わりますが、後編の文字数が3千文字なのであと2千文字をおまけで残しますので、そちらもぜひ読んで下さると嬉しいです!




