守る側となった死神と守られる側となった少女
とある一軒家。そこで2人の高校生は暮らしていた。
男の名前は黄泉路悠生。女の名前は藤波優璃。2人は血の繋がりがなく、まったくの他人だ。
そんな高校生2人が1つ屋根の下。「2人だけ暮らすのは色々まずいのではないか?」とか「黄泉路はともかく、優璃の両親がそれを許しているのか?」など色んな疑問があるだろうが、実際は全く問題ない。
いや、むしろ優璃の両親がそれを許していることこそ、問題なのかもしれない。
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優璃はかなり早いうちに能力を発現させた。
普通の人には絶対に持ち得ないその異能の力に、優璃の両親は嫌悪感を覚えた。
もしも、優璃に兄や姉。弟や妹がいなければそんなことにはならなかったのかもしれないが、優璃には2つ上の姉である優良がいた。
両親は優良ばかりを可愛がり、我が子でありながら優璃に対して化け物を見るような目で見るようになった。
優璃は常日頃から何かと「重度の中二病患者」から狙われたりしたが、早いうちから能力を発現させたのが幸いとなったのか、どうにか自力で退けてきた。
そんなある日、国の行政機関から優璃の異能について説明され、保護したいという話が出た。
両親にとっては願ったり叶ったりだろう。優良という娘がいる以上、寂しい思いはしないし、ずっと恐れ続けた「化け物の一家」という汚名を周囲に呼ばれずに済む。
そしてもし、優璃の異能が解明されて「普通の人間」へと戻れたのであれば、発現する以前のように愛することができると思ったのだ。
それは優璃がまだ13歳の時のことだった。
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一方、孤児として施設にいた黄泉路は、一番最初にいた施設の管理者である虹園(息子の方)から1つ任務が与えられた。
それは、虹園の娘と同じ異能の力に目覚めた少女・藤波優璃を守ることだ。
黄泉路にとって……いや、黄泉路と同じくして一番最初の施設にいた子供達からすれば、この任務は嬉しいものだった。
自分が生まれた意味をそうして全うできるのだから。
元より拒否権はないが、虹園の命令に黄泉路は二つ返事で引き受けた。
しかし、そんな彼自身予想できなかっただろう。まさか「自分と同じ歳の女の子と一緒に暮らすことになろう」と。
その後、優璃を守る存在として優璃の両親へ挨拶へ行った。
誰しも自分の子供の安全を他人に委ねるのは不本意だろう。ましてや、娘と同じ歳である少年に委ねるなど普通なら出来ないことだ。
しかし、優璃の両親は普通ではいられなかった。
もしも優璃に何かあった時は、預けた側である優璃の両親や、護衛を任された黄泉路に責任が問われることはない。
その責任は、虹園の娘や優璃のような異能の力に目覚めてしまった子供を保護する機関に問われることを優璃の両親は説明されていたからだ。
結果として、優璃の両親は中学生の男女が1つ屋根の下で暮らすことを認めてしまったのだった。
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そんな経緯があって2人は暮らすことになった。
優璃はごく普通の家庭で育ったので家事が出来なかったが、一方で黄泉路は一番最初の施設にいた頃から一通り家事が出来る。
むしろ、当番制で少なくない人数分の家事に比べればたった2人分の家事などどうってことなかった。
しかし、そんな黄泉路に早速超えなければならない壁が立ちはだかった。
それは……。
静寂に包まれた家で、優璃の部屋をノックする音が短く響いた。
優璃はすぐに扉を開いた。あまり歓迎しない顔で。
「……何か?」
「洗濯に困っているんだ。服はともかく、下着は流石に触れられるの嫌なんじゃないかと思って」
「それは……遠回しに、化け物の下着に触れたくない……と?」
「違う。俺は男子で、君は女子。普通、男子に洗濯されるのを嫌がるだろう?」
「私は……別に、気にしない」
「えぇっ!? まあ、とりあえず同居人として普通に洗濯するけど、気にはした方がいいと思うよ?」
「化け物として?」
「違う。女の子としてだ!」
いくら能力による代償があるとは言えど、黄泉路だって1人の男子。女子の下着を見れば思うところはある。
流石にその下着で……という間違いを犯すことはないが、しばらくは洗濯物と心理戦を繰り広げることとなった。
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2人とも引っ越しをしたという関係上、どうしても転校を余儀なくされた。
いきなり2人転校生として現れるというのはかなり異例なので、目立つことになってしまったが、これといって問題は無かった。
ど田舎! というほど田舎ではなかったが、子供の人数は多くないようで、どうにか各学年20人ほどいるものの、クラスは1クラスしかなかった。
そんな状況もあってか、新しいクラスメイトは2人を歓迎してくれた。
しかし、黄泉路は転校を何回か経験しているため慣れていたが、優璃は初めての転校だったし、性格上、お世辞にも社交的とは言えない。
だから転校してからずっと、中でも1番近い相手である黄泉路にくっついていた。
そんな中、ある日の夕食時のこと。
「藤波さん、俺ばかりにくっついていないでクラスの女子と仲良くしたらどう?」
「私といるの……嫌?」
「そんなわけないだろ? ……ってそういう話じゃなくて、普通に同性の友達を作った方がいいという話だよ」
「……でも」
「ん?」
「怖い……」
黄泉路は優璃の本音に正直「可愛い」と思ってしまったが、ここで甘えさせてはこのまま友達を作る事が出来ないし、この先、友達を作る力が身に付かないのは社会に出てから本人が困ってしまう。
すぐに「やれやれ」という気持ちに切り替えて、自分の話をした。
「俺も、最初に転校した時は怖かったよ。周りに知らない人ばかりってほんとに怖い。だけど、そこで怖気付いて友達を作れないままじゃ駄目なんだよ。そのまま1人のままで居続けちゃったら、余計に怖い思いをしてしまうんだ」
「……悠生君は、何回か、転校を……しているの?」
「うん、まあね。その度、新しい友達を作らないといけないから大変だけど、こればっかりは仕方ないんだよね」
「どうして、そんなに……転校を?」
「うん? んー、ほら、藤波さんも見たことあると思うけど、変な能力使って襲ってくる人いるでしょ? ああいう人達を止めるために色んなところに行く必要があるだよ。今回は、君を守りながら……って感じだけど」
「私を……守る?」
「え? 聞いてないの!?」
「……うん」
「君のご両親は君に何も説明せずに預けたのか……」
「あの人達は……私を、人だと……思ってないから……」
「そうなのか? こんな可憐な娘に育てておいて人間だと思えないだなんて信じられないな」
「……可憐な?」
「うおっあうっ……! わ、忘れてくれ!」
「……ちょっと、嬉しい……かも」
「そ、そうか? ま、まあ、それはそれとして、君は明日からちゃんと友達を作ること!」
「うう……頑張る……」
その後、ほぼ一方的に黄泉路が話す形となってしまったが、クラスメイトの話をしているうちにその日の夕食は終わった。
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翌日、案の定いつも通りにくっついている優璃をどうにか女子の輪は入れる為に、黄泉路はちょっとした工夫をした。
「この子、ちょっと人見知りする性格なんだけど、仲良くしてあげてくれないかな?」
「いいよー!」
「よろしくね、藤波さん」
黄泉路自身、勇気を振り絞って女子の塊へ入り、その中に優璃を置いてきたのだ。
こうして、どうにかクラスの女子と打ち解けるきっかけを作った黄泉路だったのだが、お昼を過ぎてから1時間座学をした後の5時間目の体育で、移動中、既にクラスの女子と一緒に優璃がいなかった事が気になった。
本日2回目の勇気を振り絞って、移動しながら盛り上がっている女子に話しかけた。
「あれ、藤波さんは?」
「藤波さんなら、なんか先輩に呼び出されていたよ?」
「知り合いなのかな? 2年生の先輩が視聴覚室へ連れて行ったみたい」
「え? 視聴覚室って、普段鍵が閉まってなかったか?」
「ん? 前の学校ではそうだったの? この学校の視聴覚室は鍵が閉まってないよ? だから告白とかはあそこですることが多いんだぁ」
「きゃー!」
「転校してきて早々、いきなり告白されているのでは?」と浮ついた考えを持っている女子たちは勝手にエキサイトしていた。
だが一方で、黄泉路は自分の油断と勘違いに背筋が凍った。
「しまった……!」
「えっ?」
「俺は急いで視聴覚室に向かうから、もしも先生に聞かれたらトイレだって言っておいて欲しい!」
「えーっ? 黄泉路くーん!?」
自分の名を呼ぶ女子に振り向くことなく、ただ一心に視聴覚室へと走り出した。
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「はぁはぁ……君、とっても綺麗だね。なんかすごく傷付けたくなる!」
「……やめて。近寄らないで」
「なんだよぉ〜。もっと悲鳴とか上げて欲しいな。でもでもー、そんな屈しない感じもまたいい!」
「話がある」という一言に疑うことなく、優璃は視聴覚室へとついて行ってしまった。
しかし、瑠璃にとってはそこまで珍しいケースではない。そのまま普通に告白されて断ることもあれば、襲われることもあった。
その度恐怖に耐えきれなくなり、不思議な力が発動して自分を守ってくれる。
だが今回は1つ後悔することがあった。
自分に「守る」と言ってくれた男の子に、一言だけでも言ったからここへ来るべきだったと。
そうすれば本当に守ってくれたかもしれない。
自分を襲撃者による恐怖から解放してくれたかもしれない。
本当の意味で、自分を預けられる存在になってくれたかもしれない。
あるはずもない可能性を振り払い、優璃は今回も自分で戦う覚悟を決めた。
その瞬間。
タイミングを合わせたかのように、閉められていた視聴覚室の扉が勢いよく開いた。
「無事か!? 藤波さん!!」
優璃を助けにきた男子・黄泉路の声に反応したのは優璃でなく、彼女をここへ連れてきた2年生男子だった。
「なんだよ、お前ー! 俺の邪魔をするなよ!」
「邪魔? あなたはまさか、彼女に危害を加えようと?」
「だってさ、こーんな綺麗な子、そうそういないっしょ? すっごくなんか、傷付けてみたくなるんだよねー」
「なるほど。……ということは、俺は彼女を守る為にあなたと戦います」
「俺は別に戦うつもりないんだよねー? だってさ、わざわざお前の相手をしなくても、俺の方がそこの綺麗な子と距離が近いんだから、そっちを攻撃するに決まってるじゃないかー!」
2年生男子は、どこからか出刃包丁を取り出し、そのまま優璃を切りつけようとした。
優璃はとっさに反応して両腕でその攻撃を防御しようとするが、出刃包丁が彼女の腕を切りつけることはなかった。
恐る恐る腕の隙間から前を覗くと、目の前で黄泉路が大きな鎌で防御していた。
「は? なんだよ、お前! 意味わかんねーよ!? 普通間に合わねーだろ!?」
「……どうして、間に合ったの……!?」
「俺は敵となった人の質問には答えませんが、藤波さんの質問に答えさせてもらうと……能力を使って光速で移動したからだよ」
「はあっ!?」
「申し訳ないありませんが、時間がないのですぐに終わらせます」
「お前ぇ! 舐めてんじゃねーよ!?」
2年生男子はすぐに別の角度から黄泉路を切りつけようとするが、その手が止まった。
直前まで目の前にむかつく美形の男が立っていたはずのそこには、一回り大きくなった死神が立っていたからだ。
「はっ……!? ば、化け物……」
その2年生男子の言葉が自分ではなく、目の前で背中を向けている死神へ掛けられた言葉だと優璃はすぐにわかった。
死神にその言葉が聞こえていたのかどうかは定かでないが、大きな鎌で2年生男子を切りつけ、意識を『刈り取った』。
ギリギリ倒れる直前まで意識が薄く保たれるよう調整したため、いきなり脱力して倒れ込むことを防ぎ、2年生男子は怪我することなく無力化された。
優璃が意識せず瞬きしたその一瞬で、目の前にいた死神は元の美形男子・黄泉路に戻っていた。
黄泉路はすぐさま振り返り、心配そうな顔で優璃に話しかけた。
「怪我はないか!? 俺的には一応、ギリギリ間に合わせたつもりだったんだけど……」
「うん……大丈夫。でも、どうして、わかったの?」
「クラスの女子に聞いたんだ。2年生の男子にここへ連れていかれたってさ。どうやら彼女達は、単なる告白だと思っていたみたいだけどさ」
「そう……なんだ」
「体育には出られそうかい? この先輩はもう少ししたら目覚めるようになっているから放っておいても大丈夫だから、先生に何か聞かれたらこの人のせいにすればいいと思う」
「うん……わかった。……でも」
「うん?」
優璃はその華奢な身体では想像できないほどの力強さで黄泉路に抱きつき、押し倒した。
無理もないかもしれない。状況に慣れているとはいえ、怖いものは怖いのだし、自身の力が発現するのはいつだって恐怖が高まった時なのだから。
そんな状況から自分の予想を反して助けに来てくれた黄泉路は、優璃の中でまさしく「ヒーロー」だった。
「いってて……。って、何をしているの!? 早く行かないと……!」
「少しだけで……いいから。こう……させて」
「……わかったよ。でも、少しだけだよ? 正直なところかなり手加減したから、10分もここにはいられない」
「……5分だけでいいの」
「あ、そう……」
「ね……」
「うん? なんだい?」
「これからは、君のこと『悠』って呼ぶ……だから、私のこと……名前で、呼んで?」
「……仰せのままに」
自分にしがみつく女の子と柔らかく美しい髪を優しく撫でながら、黄泉路は考えていた。
(毎回これだと、流石に心臓に悪いな……)
落ち着いた態度を取っていても、心中は緊張で一杯で、綺麗な髪からするいい匂いが余計に黄泉路をドキドキさせていた。
きっちり5分後。宣言通りに、優璃は離れて体育の授業へと向かったのだった。
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黄泉路が初めて優璃を守った出来事から3年が経った今でも、2人は同じ場所で暮らしている。
黄泉路にとっては特に特別な日ではなかったが、優璃にとっては忘れられない日だ。そして、その日を思い出す度、夜になると黄泉路のベッドへと潜り込んで来る。
「……ん? 優璃か。また思い出していたの?」
「……うん。ね、悠……」
「なんだい?」
「これからも……あの時のように……私を、守って……くれる?」
「もちろんだよ。任務とか関係なく、今や君は俺にとってこの世でたった1人の大切な人だ。俺はこれからも優璃を守り続けるさ」
「……そう。ありがとう……」
こうして横でそのまま眠りについてしまうのが、このパターンのお約束だ。
瑠璃ヶ丘高校で「仲間」の存在を感じてから、こういった日が多くなった。
あの場所には、自分と同じように色の能力を持つ黒山がいる。黄泉路自身、黒山の能力をよく知っているので問題はないと思っているし、それを優璃に何度も説明をしているが、それでも優璃は心配なのだろう。
優璃の頬にそっと手を当て、ゆっくり静かに優璃と反対側を向いて黄泉路も眠りについた。
こちらも読んで下さりありがとうございます! こちらにも夏風陽向です。
本当は単にこの2人のバレンタイン話を書きたかっただけなのですが、思ったより長くなってしまったので、この2人のバレンタイン話は来年のバレンタインに書かせていただこうと思います。
おそらく、この2人のエピソードは今後書くことになるかもしれません。というか、書きたい。
こういっては何ですが、我ながらライトノベルとしての主人公でいえば、黒山より黄泉路のほうがそれっぽい気がします。
黒山はどちらかというと、少年漫画の主人公のような設定ですからね……。
いっそ、主人公を黒山から黄泉路に交代してしまおうか。
……冗談です(笑)
それでは次回もお楽しみに!




