嫉妬と強奪の女王 part19
保健室から退室した黒山は、誰の能力かはわからないが、今回の戦闘において極力部外者を巻き込むことのないよう空間が移動された痕跡を消す為に校庭へ出た。
屋上以外の場所を対象に能力が掛けられたのだということは、見ただけですぐに理解できた。
しかし、これだけ大規模に能力を発動され、その痕跡を消すにはかなり苦労を強いられる。
こういった広範囲を対象に能力を使える人は限られる。黒山自身、これだけ範囲が広すぎると『拒絶』し切れる自信が無い。
だがそれは『拒絶』のみ使用した場合のことであって『全てを覆う為の黒』を使えば問題はない。
そして黒山は2つの能力を併用して、今回の痕跡を全て消した。範囲こそ広いものの、痕跡そのものに使う能力は小さいので、暴走することも無かった。
時間も時間なので、3人の女子は針岡が送っていったことだろう。黒山はそのまま帰ることにした。
……のだが。
「黒、久しぶりだな」
後ろから声を掛けられた黒山は振り向かざるを得なかった。
そしてそこにいたのは、気絶した男子達を呼び起こした黄泉路だった。
「やはり黄ぃだったか」
「ああ、ちょうど応援に来ていたついでに呼ばれてね」
黄泉路は昔から「黄ぃ」と呼ばれている。黒山が「黒」で白河が「白」であるように「苗字に含まれた色で呼び合う」というのが、定められているわけではないが、彼らにとってのいわゆる暗黙のルールだ。
実を言えば、黒山と黄泉路はおおよそ10年振りに顔を合わせた。もっとも、黒山にとっては白河以外のメンバーと10年、顔を合わせていない。
何気に昔話が出来る仲ではあるが、黒山も黄泉路も昔話をするつもりは全く無い。
ではなぜ、黄泉路は黒山に話しかけたのか? 黒山自身それが気になったが、その答えはすぐにわかった。
「失神による無力化とは、なかなか手加減されたものじゃないか」
「意外か? わざわざ怪我をさせる必要はないだろ?」
「そうだね。だけど、手加減しているとはいえ、黒の能力を使った失神は怪我を負わせる可能性があるからおすすめはしない」
黄泉路は、意識の無い人間の意識を呼び起こすことができる。それはつまり、逆も出来るということ。
そういった能力を持っている故「失神するということの恐ろしさ」を知っている。
今回、奈月の剣撃と鎌田の猛き炎をくらい、痛みにより起こった失神と、黒山の能力により起こった失神は同じ「血管迷走神経反射性失神」。
これは若年層に多いと言われており、強い痛みやストレスが原因で起こるもので、後遺症の心配はないとされるが、失神し倒れた時に怪我を負う可能性がある。
奈月や鎌田の場合「攻撃を当てた対象が失神する前に痛みで倒れ込む」ので「失神してから倒れる」のと比べてまだ怪我のリスクは少ないと言えるが、黒山の場合は「失神してから倒れる」方なので、怪我のリスクが懸念される。
黒山はそこまで考えていなかった。……というより、考える必要性を感じていなかった。敵として立っている以上、手加減の必要などない。
その考え方は間違っていないだろうし、黄泉路もその考え方自体否定するつもりは無い。
しかし「重度の中二病患者を無力化し、保護する」のが与えられた役割だ。ならば、能力を使われ操られた人にはもちろん、能力を使用した相手も最小限の怪我で無力化するのがベスト。
黒山は黄泉路に指摘されて、能力の使い方を考え直す必要を感じた。
「……わかった。考えてみよう」
「わかってくれて何よりだ。それじゃあ、俺は行くよ」
「ああ」
黄泉路は今回、屋上で黒山と白河が戦っていたのを感じていたが、そこも昔話と同様、口には出さなかった。
それは単純に「2人が争っていた理由は知らないし、興味もない」からだった。
黒山は黄泉路が駐車場へ消えて行くのを見届けてから帰宅を始めた。
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駐車場へ向かった黄泉路は、自分が乗ってきた車の後部座席へと乗り込んだ。
その車の運転手は、針岡のように黄泉路が担当している地域にある高校の先生で、兼任して代表者達をまとめる立場にある男性だ。そして、黄泉路が座った座席の隣には女子高生が座っていた。
「悠、お疲れ様。お友達とは会えたの……?」
「友達……というわけではないんだけど、うん、会えたよ」
「そうなんだ、良かったね……」
黄泉路のことを「悠」と呼んだ長い黒髪を下げた少し痩せ気味の女子高生は、少し笑いながらそう言った。
そして、黄泉路もその女子高生に微笑みかけてから、運転席に座る先生に問い掛けた。
「そういえば、針岡先生は先生のご友人でしたよね? 先生は話してこなかったのですか?」
「話してこなかった。ここから離れるわけにはいかないし、嫌でもまた近いうちに会うことになるだろうからさ」
「そうなんですか」
「ああ。さて、仕事を全て片付けたところだし帰ろうか」
「お願いします」
車が発進しだし、30分程かけて高速道路に入って黄泉路が外を眺めていると、隣に座る女子高生が黄泉路の肩を軽く2度叩いた。
「うん? どうしたんだい?」
「そういえばね。さっきの学校に、私の仲間がいた……と思う」
「えっ?」
「本当か!?」
その発言に、黄泉路と運転している先生は驚いた。
特に黄泉路にとっては無視できない発言だ。
「と思う……というのは、どういう意味?」
「うーんとね、あの子は多分だけどね、たまに無意識で力が出てしまうって感じなんじゃないかな? だからきっと、あの子も色んな人に襲われたり、巻き込まれたりしちゃうんだと思う……私のように」
自らの過去を思い出してしまっているのだろう。
黄泉路は過去の恐怖に震える彼女の頭を微笑みかけながら優しく撫でた。
「悠……」
「大丈夫。優璃は必ず俺が守る。そしてその子の近くには黒っていう強い男子がいるから」
「うん……ありがとう……」
黄泉路に与えられている役割は2つある。
1つは、代表者としての役割である、重度の中二病患者を無力化すること。
そして最優先事項であるもう1つの役割は、隣に座る女子高生・藤波優璃を守ることである。
優璃は、重度の中二病患者が起こす事件に巻き込まれやすい体質を持っていて、重度の中二病患者が使う能力とは違う性質を持った力を使うことが出来る。
その能力には固有名称が無く、決まった効果も無い。ただただ、彼女が心から本気で望んだことを実現させるのだ。
そして彼女が言う仲間というのは、詩織のことを指していた。
黄泉路は詩織のことを知らないので、特別何かを感じなかったが、優璃の頭を撫でながらこれから先のことを考えると、少し憂鬱な気分になった。
(これは、そう遠くないうちにまた黒と会うことになりそうだ……)
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一方、瑠璃ヶ丘高等学校の校長室では……。
空間を切り取り、一時的にダミーと差し替える能力を持つ校長と「学校として」言えば部外者となる人間の2人がいた。
「いやはや、無理を言って申し訳ありませんでした。校長先生」
「いえいえ。それよりも、彼女はどうでしたかな?」
「ええ、あれは間違いありませんな」
「左様ですか。それで、彼女をどうするつもりなのですかな、虹園さん?」
「今は特に何も。ですが、近いうちに黒山君へ新たな指示を出す必要があるでしょう。……彼が私の言うことを聞けば、ですが」
「なるほど、かしこまりました」
瑠璃ヶ丘高等学校の校長と話すこの男は、針岡や黒山が世話になった「虹園先生」ではない。その息子である。
現在、重度の中二病患者への対策を仕切っているのは「虹園先生」だが、優璃や詩織などの「予測できない力を発現する存在」を守り、それが何なのかを究明する組織を取り仕切っているのが、息子である彼だった。
既に40代後半となった彼もまた、1人の父親である。そして彼の娘は、優璃や詩織と同じ能力を持っている。
彼は、詩織が「予測できない力を発現する存在」かどうかを見極める為に、今回の戦闘を見ることにしたのだ。
校長はどちらかというと「虹園先生」側の人間だが、優璃や詩織のような存在を守ることに関しては協力的だ。
「本日はありがとうございました。失礼いたします」
「ええ、お気をつけて」
虹園は校長に一礼してから、校長室を後にした。
その後、10分程経ってから、校長も校長室を出てから、校内の施錠を用務員に依頼してから帰宅を始めた。
虹園には愛想よく答えたが、内心実は「黒山が言うことを素直に聞くことはないだろう」と思っている。
黒山の境遇を知る彼にとって、虹園の都合のいい発言は不快そのものだった。
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月曜日の朝が来た。
前日に何があろうと、起きて学校に行く準備をしなくてはならない。
私は特に戦ったというわけではないので筋肉痛だったり、身体的な疲労を引きずることは無かったが、精神的に言えばまだ疲れている。
でも、鈴木花梨の能力によっておかしくなっていた真悠もいつも通りに戻った。
今まで通り、一緒に登校できるようになったことが嬉しくて、精神的な疲れそっちのけで元気に明るく登校した。
つい昨日の夕方にあんなことがあったにも関わらず、私と真悠の会話は昨日の出来事には全く関係のない話題だったし、最近あまり一緒にいられなかった分、話が弾んだ。
登校中は見なかったが、教室にたどり着くと、黒山がいつも通りに自分の席から外を眺めていた。
私がわざとらしく自分の椅子を強く引くと、黒山は「ちらっと」こちらを見て再び窓の景色に目を向けた。
どうやら自分から話しかけるつもりはないようだ。
私は彼に「おはよう」とだけ言って、授業の準備を始めることにしたのだった。
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その後、1日は何事もなく「いつも通り」に過ぎ去っていった。……しかし。
「梶谷ー、栗川ー」
「「はーい」」
帰りのショートホームルームが終わった後、私と真悠は針岡先生に呼ばれることとなった。
場所は進路指導室。本来、1年生であればまだそこまでお世話になる場所では無いはずなのだが、重度の中二病患者関係の事件に巻き込まれた時は、ほぼ確実にここへ呼ばれている気がする。
さて、そんな進路指導室だが、3年生がちらほらと姿を見せている。
瑠璃ヶ丘高等学校は進学校ではないので、進学する生徒もいれば、そのまま就職する生徒もいる。
この時期になれば、就職試験の結果が届き、内定を貰った会社へ御礼状を書きに来たり、次の受験先を検討しに来る人が多いようだ。
しかし、そんな中、そこそこ物騒で事情を知らない人からすればわけのわからない話が出来るのか? という疑問もあるだろうが、どうやらその点について心配は無い。
針岡先生の話によれば、進路指導の先生が防音空間を展開させる能力を使えるらしく、他の生徒に聞かれることは無いのだそうだ。
私と真悠は、上級生による「1年生が何の用だろう?」と言いたげな視線を気にしないようにしながら、針岡先生に続いて応接室の中へ入り、針岡先生がテーブルを挟んで向こう側へ。私と真悠は扉側の椅子に座った。
黒山の姿が無かったが、話はすぐに始まった。
「さてー……2人を呼んだのは他でも無い。鈴木花梨についてだー」
「…………」
私と真悠は聞き役に徹することにした。正直、鈴木花梨がその後どうなったかはどうでもいいのだが、この先同じことを起こされても困るので、今回も関係者である私と真悠は知る必要があるのだろう。
「まあ、栗川は例外となったがー、本来はカウンセリングを受けて貰って、能力を手放す必要があるー。そんなわけで、鈴木花梨はスクールカウンセラーによるカウンセリングで重度の中二病を治療中だー。……何か質問はあるかー?」
「治療中でも能力を使えるんですか? もし使えたなら、また他の生徒が危ないんじゃ……」
私は素直に危惧していることを質問してみた。
下崎の時は黒山が重度の中二病を発症させている原因を拒絶したから能力が使えなくなったわけだし、鎌田の場合は転校という形で黒山や沙希達の仲間入りした。
今回も後始末としては新しいタイプなので気になったのだ。
「それについても心配はいらーん。あんまし良い状態とは言えんけど、透夜と戦った時に感じた恐怖から能力を使えなくなってるらしいー。だけど、実のところ能力本体が消えたわけじゃないから治療は続けるんだがな」
「わかりました」
「あんまし良くない状態」……黒山は一体何をしたというのか。
気にはなかったが、私はそれを追求しなかった。
だが、別の件で続いて真悠が針岡先生に質問をした。
「せんせー!」
「んー? どうしたー?」
「結局、しーちゃんが使ってくれた心地良い光ってなんだったんですかー?」
「…………」
私にはあまり記憶が残っていないが、真悠は感覚上その瞬間を憶えていたらしい。
しかし、針岡先生がその質問に答えれることはなかった。
「俺にもわからんー。けど、多分。透夜なら知ってるかもしれん」
「なるほどぉ……」
私も真悠も、これ以上質問が無かったので今日は解散となった。
その日の帰りは、私の気まぐれで久々に手を繋いで仲良く帰ったわけだが、私は今回の事件で感じた「幼馴染……真悠の大切さ」を噛み締めていた。
私が出したという光については謎が残るが「今はこれでいいのだ」と自分に言い聞かせることにした。
「嫉妬と強奪の女王」……終。
今回も読んでくださった方、ありがとうございます! 夏風陽向です。
part19まで続いた「嫉妬と強奪の女王」。どうだったでしょうか?
途中でサブタイトルを間違えて、女王を魔女にしてしまったりでちょっとアレでしたが、最後まで書けてよかったなと思っています。
実は「隣の転校生は重度の中二病患者でした。」を書き始めた頃から、真悠が嫉妬で狂って黒山と戦うシーンを書きたいなと思っていました。本当はもっと狂わせたかっt……
真悠は詩織のことが大好きですが、恋をしているわけではなく、あくまで幼馴染として見ている……はずです。
ですが、普通の人からすればほぼ百合……というか、ほとんど百合ですよね。
そこは本人がどう思っているかで決まってきますが、ご想像にお任せします。
さて、この後の「隣の転校生は重度の中二病患者でした。」ですが、すぐに新章に入るのか、それともショートストーリーにしていくのかは悩み中です。
次の章の予告をさせていただくと、正義と正義がぶつかり合います。
黒山達は、重度の中二病患者による事件を取り締まる為に組織された団体の一部ですが、突然他にも類は友を呼んで個人的に結成された団体もあっておかしくはないでしょう。そんな彼らがぶつかり合う話……にするつもりです。
今後も「隣の転校生は重度の中二病患者でした。」をよろしくお願いします。
バレンタイン話も楽しんでくださいね!
1時間後に投稿します!




