嫉妬と強奪の女王 part17
黒山は真悠が放つ乱舞に防戦一方だった。
弾くのではなく、ガードすることでダメージそのものはないものの、時間が限られているなかでこの状況は黒山はもちろん、代表者一行にとって良くない状況だ。
実を言えば、黒山が真悠を倒すこと自体は赤子の手を捻るように簡単なことだ。
しかし、黒山は真悠に対して明確に「倒す」という意識を持っていない。はっきり「敵」と認識し、かつ男子であるならば下崎の時と同じような手を使えるが、真悠は女子。どんな大義名分があったとしても手をあげることはできなかった。
だが、真悠を花梨の能力から解放するには、まず真悠を無力化しなければならない。
というのは、詩織の『想いの力』を用いて拒絶する際に無防備となるからだ。
ましてや黒山は、真悠が攻撃してくるのは花梨に命令されたからで、目的を達成する、もしくは目的を達成出来なくなる決定的な要因が出るまで攻撃を続けるだろうと思っている。
であるならば、先程の下僕達同様に「意識を保つことを拒絶」させるしかない。
乱舞を続ける真悠の刃に拒絶を貼り付け、次にガードした際に自分が刃から拒絶される仕組みをして後方へ弾かれることで距離を取った。
右腕の武装型を即座に解除し、手を鉄砲の型にする。
そして真悠の頭部をよく狙って拒絶の弾を放とうとした。
……のだが。
「拒絶しろ、自分が意識を……」
「待って!」
黒山が拒絶の弾を放とうとしていることを察した詩織は咄嗟に彼を止めた。
そして真悠はその隙を逃さず、一気に黒山との距離を詰める。
再びくる刃を武装型が解かれていない左腕でガードし、すぐ右腕を武装型に切り替えた。
「くっ……! 梶谷、何故止めた!?」
「その弾を撃って、真悠は次にいつ目覚めるの?」
「…………」
黒山は答えられなかった。
現にこの弾を撃たれた下僕達は目覚めていないし、黒山自身この弾の時間的な効果範囲がわからなかったからだ。
だが、詩織も考えなしに黒山を止めたわけではない。
「黒山君、真悠の動きを止められる?」
「あ、ああ。可能だが、どうするつもりだ?」
「想いの力……必要なんでしょ?」
詩織は黒山が誰かが持つ『想いの力』を使って、相手の何かを拒絶しているところを見たことがない。
つまり、黒山にとっての想いの力の使い方とは違う方法で詩織は解釈していた。
「確かにそうだが……。俺が言っているのとは」
「いいから、出来るならやって!」
「……わかった」
黒山は浅く腰を落とし、集中力を高め……。
真悠の攻撃を見切って、禍々しい手で真悠の両手首を掴んだ。
当然、それで真悠がおとなしくなるわけもなく、暴れる。
「っ!? ちょっと、何!? 離してよ!!!」
「…………」
黒山は声に出さないが、真悠の力が予想以上に強いらしく表情がかなり強張っていた。
詩織は黒山が真悠の両手首を掴んで動きを制限しているのを確認すると、危険を顧みずに黒山と真悠の間に入った。
詩織と真悠の距離「ほぼ」ゼロ。
そして真悠を力強く、一生懸命に抱きしめた。
「真悠」
「しーちゃん、退いて! 私がこの男を……」
「真悠、私を見て!」
「えっ……?」
「私は今ここにいる。今あなたを抱き締めてる。側にいる。そうでしょ?」
「う、うん……だけどっ!」
「真悠、前に言ってたよね? 私といられる今を大切にしたいって」
「うん……言った」
「それは私も一緒。……確かに、黒山君が転校してきてから真悠と一緒にいられる時間が前よりも減ったかもしれない。だけどね、それでも私は真悠を第一に考えてるんだよ」
「…………」
「だってさ、小さい頃からの付き合いじゃない? 今も……きっとこれからも、私は誰よりもあなたを大切にするわ」
「うん……。ありがとう、しーちゃん……。そっか、私は……」
真悠はその時ようやく悟った。自分が大きな思い違いをしていたということに。
黒山が手を離すと、真悠も手の力が抜けた。持っていた刃を地面に落とし、その両手で詩織を抱き締めた。
落とされた刃はすぐに消失した。真悠が能力を解いたからだ。
そして、現に重度の中二病患者で能力を持っている彼らでさえ驚くべき現象が起こった。
詩織から温かな光が溢れ出したのだ。
その光は真悠を包み、彼女に刺さっていた紫色の針が徐々にヒビが入り、音を立てて「パキンッ!」と割れたのだ。
本来なら「割れた」のではなく「折れた」の方が針としては正しいのかもしれないが、ガラスのように砕け散るその消失は「割れた」と表現せざるを得ないものだった。
黒山の元へ向かっていた奈月・沙希・奏太は信じられないものを見た顔をしており、重度の中二病患者歴が短い鎌田は「こんなこともあるんだな」と感心した顔で見ている。
しかし、この場で1番驚いていたのは黒山だった。彼はその現象を過去に見たことがあった為、現象自体に驚くことは無かったが、詩織がそれを発動させたことに驚いたのだ。
やがて詩織が発生させた温かな光は消え、花梨の能力から解放された真悠はそのまま安らかな顔で眠りについた。
発動させた張本人である詩織は真悠を抱いたまま、何事も無かったかのような顔で黒山に話しかけた。
「黒山君」
「……どうした?」
「ごめん。私が直接、鈴木花梨に一発お灸を据えてやりたかったんだけど、ちょっと疲れちゃった……。後は任せてもいい?」
「ああ。後は俺に任せて、梶谷はゆっくり休むといい」
「……ありがと」
詩織は黒山にそう言ったが、そのまま気を失うことはせず、黒山の助けを借りながら昇降口内で壁にもたれかかることのできる場所まで移動して、そのまま真悠と並んで眠りについた。
黒山は2人の寝顔を少しだけ見て、沙希と奈月に「2人を頼む」と言って任せ、武装型のバリエーションの1つである「漆黒の翼」を背中に生えさせ、屋上まで一気に飛んだ。
そんな黒山を見届けて、沙希は詩織と真悠のそばに着き、奈月は鎌田や初めて顔を合わせた上杉と共に、残りの下僕を無力化する為に戦闘を続行した。
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この街へ紫色の針を降り注がせるだけの準備が整いつつあることで花梨は気持ち的に余裕が出来ていた。
黒山が校庭から能力を使って飛んできて、自分の後ろに立っていることがわかっていても、気持ちを乱すことなく振り返らずに黒山へ話しかけた。
「もうじき、人々は私の理想通りに変わり始める。もう少しなんだ。……邪魔しないでもらえるかな?」
「前にも言ったが、あんたの気持ちもわからなくはない」
「そう……だったら」
「だが」
黒山は花梨から20メートルほど離れた場所からゆっくりと近付きつつ言葉を続けた。
「その能力で彼らを操り、俺たちにけしかけ、そして栗川までも利用した」
「だからなんだい?」
「誰かを利用してまで描く世界ができたところで、それは所詮あんたの自己満足に過ぎないということだ。誰もそんな世界を望みはしないだろう」
「……確かに彼らを利用したのは事実だ。しかし、栗川真悠さんに関して言えば、君に攻撃したのは自分が持つ意思そのものに彼女が従ったからなんだけどね」
「なんだと?」
真悠が自分を攻撃してきたのは「花梨に命令されていたからだ」と思っていた黒山は、花梨の否定に驚き立ち止まった。
花梨の言葉は続く。
「彼女は本気で君のことを妬んでいたよ? 梶谷詩織さんが君に奪われてしまうと思ったんだろうね。……もっとも、私にとっては梶谷詩織さんの方が妬ましかったけど」
「……だが、あんたはそんな栗川の気持ちに漬け込んだ。そうだろ?」
黒山にとって「真悠が自分に詩織を取られる」と妬んでいたことと「花梨にとっては詩織の方が妬ましかった」ことに正直「くだらないな」と思った。
黒山は、花梨が「真悠に愛されている詩織に対して妬ましく思っていた」と解釈したが、実際花梨は「黒山に助けてもらえる詩織」が妬ましかった。
とはいえ、黒山からすればどちらも「くだらない」と感じることだろう。
しかし「くだらない」と実際に発言したのは黒山ではなく花梨だった。
「そうだね。でも実にくだらないと思わないか? 梶谷詩織さんにとっての栗川真悠さんは『大切な幼なじみ』なのに、栗川真悠さんにとっての梶谷詩織さんはまるで『恋愛対象』だ。栗川真悠さんが男子からモテることは知っていたが、まさか百合だったとはね」
「…………」
黒山は真悠が「百合」だということにコメントしなかった。
もちろん、花梨の言ったことに同感だという意味ではない。黒山が真悠の考えていることを詳しく知っているわけではないが、真悠が詩織に抱いていた感情は「恋愛感情」ではないと思っている。
実際、真悠は詩織に恋愛感情を抱いているわけではなく、今までずっと一緒にいた、家族に近い存在である詩織を「独占」したかったというだけなのだ。
『大切な幼なじみ』にもっと相手して欲しく、自分を差し置いて他の人と仲良くされるのが「幼なじみ」として耐え難かった。
ここ最近の詩織に執着し過ぎている真悠は、重度の中二病患者として能力を使うことで起こる「代償」によるものだと黒山は考えている。
そして、その能力に目覚めさせ、使用させたのは紛れもなく鈴木花梨本人。彼にとって花梨は明確な「敵」として認識された。
「俺と梶谷の繋がりを切られる分には大したことない。だがその結果、梶谷と栗川の仲さえも裂けていたさもしれないんだ。……あんたにその認識はあったのか?」
「ふふっ、無いね。あるわけないだろう? 生憎、私に百合属性は無いから栗川真悠さんに同情できるわけないし、2人の仲が裂かれようとも私は目的さえ果たせられればそれで良いのだから」
「そうか……ならば」
普段、無感情に近い黒山は怒りを露わにした。
他人の友情を引き裂く可能性があったところで、何とも思わない花梨に黒山は激しく不快感を抱いた。
かつて自らが暴走したきっかけとなった、黒山にとって最も悲しい過去である事件を想起させる発言をした花梨が許せないのだ。
全力で鈴木花梨という人間を『拒絶』する黒山の心を反映させるかのように、彼の体から黒い煙のようなものが溢れ漏れて……。
「鈴木花梨。俺はお前を全力で『拒絶』する!」
「……っ!」
言葉とともに、溢れ出た黒い煙のようなものは『拒絶』の波動となって鈴木花梨に伝わった。
その波動に、意識せず花梨は体を震わせた。
しかし、だからといってここで折れる花梨ではない。彼女は再び余裕そうな顔で能力を全開で発動した。
黒山を囲むように、紫色の渦が一瞬で無数に展開された。
「ここまで来たんだ……。何人たりとも私の理想を邪魔させない!!」
「…………」
黒山は言葉を返さず、武装型で両手を禍々しい魔人の手に変え、ソフトボールくらいの大きさをした黒い球を両手から紫色の渦へ放った。
紫色の渦は拒絶により吹き飛ばされる。
しかし、無数にある紫色の渦を全て消し飛ばすには非効率過ぎたようで、結局拒絶しきれず、紫色の渦1つひとつから紫色の針が無数に発射された。
相手を機関銃などで連射して倒すことを「蜂の巣にする」と表現されるなら、花梨のそれは黒山を「サボテンにする」と表現させるものだろう。
言葉通り、黒山がサボテンになる。
……なんてことは当然無く、黒山を包んだ黒いオーラが全ての針に対して存在を拒絶し消滅させた。
それでもなお、花梨は黒山の周囲に紫色の渦を展開させる。
一方黒山の行動はというと……。
「うおおおおおおおおおっ!!!」
「っ!?」
急に雄叫びを上げ、身体から溢れ出る拒絶の煙のようなものを黒山を中心に360°隙間なく噴射させた。
すると、花梨が展開させた紫色の渦は全て跡形もなく拒絶により爆ぜた。
黒山の雄叫びと、そのタイミングで起こった拒絶の噴射に怯んだ花梨の隙を突いて、黒山は自身の限界を拒絶した速さで彼女の左右後方3箇所に拒絶が発動するポイントを設置し、目の前で停止する。
「…………」
黒山は何も言わず、右手を大きく振りかぶって禍々しい右手で花梨を殴る動作に入った。
咄嗟に「殴られる……!」と判断した花梨は反射に従い目を瞑るが、黒山の拳が当たることは無かった。
恐る恐る目を開けてみると、黒山の拳はほんの少し膨らんだ胸部の直前で止まっており……。
状況を理解して、触られていないが声を上げようとしたその時、黒山の拳から放たれる拒絶に後方へ押し飛ばされた。
黒山が胸部の直前で拳を止めたのは、拳から放たれる拒絶による衝撃を胸部の脂肪で柔らげる為であり、そして事前に花梨の左右後方3箇所に拒絶が起こるポイントを設置したのは、押し飛ばされた先でまた押し飛ばされるようにする為だ。
狙い通り、後方からも押し飛ばされた花梨は再び黒山の拳から拒絶され押し飛ばされた。
しかし、今度は先程と角度をずらしており、花梨の右に設置されたポイントに押し飛ばされ、また黒山の拳から放たれる拒絶に押し飛ばされ、今度は左側に設置されたポイントに押し飛ばされた。
黒山はステップを踏みつつ、押し飛ばされてくる花梨を90°角度を変えた方向へ押し飛ばし、彼女を追い越すように左手から放たれた黒い球により、壁に拒絶のポイントを設置。花梨はそのポイントからも押し飛ばされ、壁に向かって全身する黒山の拳にまたまた拒絶され、再び左手で同じ場所に設置されたポイントに拒絶されて、やがて拒絶と拒絶の板挟みとなった。
前後から来る拒絶に花梨が圧迫される。
「うっぐ……ご、ごめ……」
「…………」
花梨はこの苦しい状態からどうにか解放されようと必死に黒山へ謝罪する……が、圧迫される苦しさ故、謝罪の言葉が黒山に伝わることはない。
(私は……このまま彼に殺されてしまうのだろうか……)
花梨は自分の行いを反省することは無かったが、黒山を敵にしたことを後悔している。
死の覚悟も仕掛けた。……しかし、すぐにその覚悟は必要の無いものとなった。
「はーい、そこまで」
聞いたことのないその声が耳に届いたのと同時に、拒絶による圧迫から解放されたのだ。
身体・脳と共にダメージを受けた花梨は、その場で気絶した。
黒山は、神の使いと思えるほど神々しく舞い降りた者を睨みつけ、怒りをある程度抑える為深く息を吸ってから問う。
「白……何故止めた」
「やあ、黒。久しぶりだね。……黒は『こういうこと』に関して敏感に怒るから無理はないと思うけど、流石にやり過ぎだと僕は思う」
「黙れ! お前に何がわかる!?」
「わからないさ。……だけど僕は君が『黒』であるように『白』であるだけ」
初めは面白そうだと思って見ていたが、黒山の怒りが頂点に達していることに気付き、彼は黒山の『拒絶』を『帳消し』した。
その男は常にどんな時でも『白』であろうとする者、黒山と因縁深い相手、白河現輝だった。
読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。
黒山の酷い部分が出てきました。
黒山はこの作品において中心人物……主人公と言ってもいいかもしれませんが、だからと言って彼はれっきとした「善」ではありません。
それは登場2回目となった白河にも同じことが言えます。彼は黒山と因縁深い相手ではありますが、完全に「悪」というわけでは無いのです。
ですから、どちらが善で悪なのか。それは彼らのそばにいる人たちや、読んでくださる皆様の捉え方で決まると私は思っています。
話は変わりますが、鈴木花梨が展開した紫色の渦を拒絶で消し去る場面。
最初は黒山の両手を鉄砲の型にさせて、紫色の渦を撃ち落とすシーンにしようとしたのですが、その状態をイメージしてみると「某お兄様が活躍しているシーンみたいになってしまうな……」と思ったので変更しました(苦笑)
更に話が変わりますが、ユニークアクセス数が1000人を突破しました! ありがとうございます!!
1000人もの方に読んでいただいた……とは限らないかもしれませんが、アクセス頂けただけでも御の字です!
今後とも「隣の転校生は重度の中二病患者でした。」をよろしくお願いいたします!




