嫉妬と強奪の女王 part16
遡ること30分前。
代表者一行+詩織が学校に入っていくのを目撃した男がいた。
厳密に言えば、彼以外にも目撃者はいたのだが、彼ほどしっかりは見ていない。
彼は、こそこそと学校の前で集まっているその集団の中に黒山がいることに驚いた。
そして「黒山が一体何のようでここへ来たのか」を自らの目で確認する為、代表者一行+詩織の後を追うことにした。
追った先には、昇降口から入ろうとしている鈴木花梨と、他にも他校の制服を着た男子が沢山。そして黒山達がいた。
彼の目にも、黒山達が鈴木花梨とその取り巻きの男子が(取り巻きと言うには多すぎるが)対立していることがわかった。鈴木花梨側についている男子達の目がどこか虚ろだったことも気になった。
やがて、鈴木花梨側についていた男達が黒山達に向かって走り出し、黒山達が「異能な力」を使って戦っている姿が見られた。
元・3組に所属していた鎌田と、竹刀を輝かせた活発な女子の圧倒的な力で、どんどん敵は倒されていく。
しかし、黒山は詩織を守りながら敵と戦っている為、かなり苦戦しているようだった。
その時からすぐに飛び出して黒山を援護しようと思ったが、黒山は戦い方を変えて戦況を覆したので、飛び出さずその場に留まった。
その後も様子を見ていたが、黒山と何故か鈴木花梨側にいた真悠が戦闘を始めたではないか。
詩織といつもセットでいる真悠が、詩織を守って戦っている黒山の敵となっているのは正直理解に苦しかった。
だが、最近の3人がどうだったかをよくよく考えてみれば自ずとわかってくることだ。そして彼は予想した。
真悠が黒山と敵対しているのは「詩織と仲良くする黒山に嫉妬している」からなのだと。
黒山は真悠の攻撃を受けるのに精一杯。その隙を突かれた詩織の危機に彼は今度こそ飛び出して行った。
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「お、お前は……!」
「黒山氏! 後ろは我に任せい! 我が名にかけて、必ずや彼女を守り通さんと誓おう!」
迫る下僕から詩織を守ったその男は、黒山と相棒関係を結ばんとする者・上杉信弦だった。
「何故、お前がここにいる!?」
「ふむ。何やら邪悪な気配を感じた故、我はここに来た。やはり貴殿も邪悪な者と戦っていたのだな」
「なっ、まさかお前もだったのか!?」
間で聞いている詩織にはわかっていることだが、黒山は勘違いをしている。
上杉が「邪悪な存在と戦っている」と言うのは入学して間もない頃からずっと変わらないので、黒山達の戦いとは全く以って無関係なのだ。
本来、常識的に考えればわかることなはずなのだが「重度の中二病患者」関係のことに携わる黒山にとって無視できない発言だった。
それは、自分以外にも瑠璃ヶ丘で戦う重度の中二病患者がいる可能性が十分に考えられるということの表れでもあった。
もちろん実際は黒山だけで他にはいないのだが、針岡より上の存在から「隠し事」をされているという点を踏まえて言えば黒山の意識の仕方は間違いではないと言えるだろう。
しかし、上杉の「邪悪な気配を感じた」というのは実際のところ嘘ではなかった。黒山達のように何か能力を持っているわけではないのだが、説明のつかない感覚上で本当に感じていたのだ。
それは単なる「類は友を呼ぶ」という言葉通りのことが起きた結果に過ぎないのだが。
どうあれ、黒山にとってはなかなか心強い味方の参上だった。
能力を使えるのか、もしくは使えたとしてどんな能力を使うのかは、黒山のセンサーに引っかからないので未知数だが、先程見せた下僕への対処である程度信用できる。
結論、黒山は上杉を頼ることにした。
「わかった。そっちは頼む!」
「合点承知! ここは何人たりとも通しはせぬ!」
結局、上杉は何も能力を使わず(使えず)、動きも素人同然の身のこなしだが、割と太めである上杉の体重を生かしたパワーは凄まじいものだった。
「理由はわからぬが、女子に手をあげようなど男としてあってはならぬこと! 我は1人の男としてそなたらを許さぬ!!」
上杉は迫り来る下僕達に容赦なく、殴る蹴る張り倒すをしているが、誰も気にしなかった。
むしろ鎌田は「こんなつえーやつが、うちの学校にいたのかよ……」と驚いている。
相手を容赦なく無力化させる上杉の力は、黒山にとって評価に値した。そして彼に任せられることを確信すると、再び目の前の真悠に集中した。
「なんでよ……みんなしてそうやって、わたしの邪魔をしないでよぉぉぉっ!!!」
真悠は合わせていたはさみを分離させ、二刀流の乱舞を黒山に喰らわせる。
目の前に集中した状態の黒山は無言で、その刃を拒絶する。
武装型で禍々しくなった両手を駆使して、真悠の攻撃を弾く。
このはさみは、存在そのものが真悠の能力によって生み出されたものであるため、拒絶すれば何のダメージを負うことはない。奈月のように元から実体として存在していたものに能力を使って使用された場合は、実体として存在していたもののダメージを腕に負うこととなる。
真悠の刃が非実体的なものだったのは黒山にとって幸いだった。
なおも攻撃を続ける真悠に、詩織は叫び問いかける。
「真悠! どうしてそこまで私の交友関係を断ち切ることに拘るの!?」
「わからないの!? しーちゃんが私以外の人と仲良くする姿を見るとイライラするからなんだよ!?」
「真悠だって他のクラスにいる女子だったり、私以外にも仲良い存在がいるじゃない!」
「違うの! しーちゃん以外の人には仲良くしているように見せているだけなの! 私にはしーちゃんがいればいい……だから、しーちゃんにも私だけがいればいいの!!」
「それでは駄目よ、真悠! 確かに私もずっと真悠と一緒にいたいけれど、いつかそれだって難しくなるかもしれない……。だから、私もあなたももっと色んな人と関わって、友達の輪を広げられる人間になるべきよ!」
「そんなわけない! そんなわけないそんなわけないそんなわけないそんなわけない!! 私のしーちゃんはそんなことを言ったりしない!! ……全部あなたのせい! 黒山透夜ぁ!!」
真悠は、丸くなっている柄に手を手首まで通して刃を回す。回転した刃は物凄いスピードで黒山を切りつける。
黒山は少しずつ後ろに下がりながら真悠の攻撃をガードした。
この回転による遠心力を利用した斬撃に対してダメージを受けないように拒絶するくらいしか出来なかった。……というより、拒絶してもその拒絶で跳ね返された力を利用されてかえって回転のスピードを上げてしまうだけなのだ。
「お前さえ……お前さえいなければぁっ!!!」
「くっ……!」
相手が真悠である以上、実力行使は望ましくない。どうしたらいいのか、黒山は防御しつつ真剣に考えていた。
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「やぁっ! ていっ! はぁっ!!」
「…………」
女剣士と棒術使いの激しい攻防はまだ続いていた。
奈月にとってここまで対等に渡り合える相手はそうそう出会えない。
それ故にこの戦いを剣士として心から楽しんでいた奈月だが、沙希はそれを良しとしなかった。
「奈月! アレをやるわよ!」
「えーっ!? アレ使っちゃったら終わっちゃうじゃん!?」
話し方こそ奈月だが、考え方が奈月らしくない。女の子というより剣士……いや、ただの戦闘狂とも捉えられる思考回路となっている。
普段の戦闘で、黒山が関わっていないものなら後でどうにでも出来るが、この姿を見せるのは女の子としての奈月があまりに可哀想だ。
そう思った沙希はアレ……つまり、奥の手を使うことにした。
奈月が苦戦している時に使う奥の手を。
「行くわよ、奈月!」
「はーい、わかった!」
彼女らの奥の手……それは、沙希の能力で沙希と奈月の意識をリンクし、相手の思考を読み取ることで攻撃を先読みして、有効な手段で敵を仕留めるというリンク技。
リンク技とは、互いに信頼し合っている重度の中二病患者同士が使える技だ。
リンク技はそれぞれ違うものであり、黒山印の御守りも黒山と梨々香のリンク技によって出来ていると言える。
奈月とリンクした沙希は視覚・聴覚を奈月視点に設定し、脳内で相手から読み取った情報を共有する。
(綾振り……上段打ち……中段打ち……中段突き)
技名を聞いてもどんな技かは2人ともわからないが、相手のイメージがそのままビジョンとして2人の脳内に流れる。
敵の綾ぶりからの上段打ちを受け止め、中段打ちを後ろに下がって回避。追撃でくる中段突きで剣を横に倒し、鉄パイプのギリギリ上を通過させて相手の両手を斬った。
もちろん、肉が千切れることも無ければ血が出ることもないが、斬られた痛みに両手の自由を奪われて敵は転がる。
「アアアアアアアアッ!」
「…………」
断末魔を上げる敵を、2人は無言で見ることしか出来なかった。
沙希はリンクを解除し「ふぅ……」と息を吐くと、足の力が抜けて座り込む。
その様子を見た奈月は沙希に駆け寄った。
「沙希ちゃん! 大丈夫!?」
「え、ええ……。私のことより、敵を……」
「うん、わかった!」
未だ立っている敵を斬り倒し、沙希の安全を確保した後、沙希に肩を貸して黒山の元へ歩き出した。
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「うっらぁぁっ!!」
「…………」
怒りの炎を纏った鎌田もボクシンググローブを装着した敵と決着がついていなかった。
敵のスピードは驚異的なものだが、鎌田も捨て身の覚悟で敵と対峙している。捨て身故に、鎌田は敵からダメージを受けているが、着実に相手にもダメージを与えていた。
奈月と沙希のコンビとは違って、鎌田と奏太は出会ってからまだ日が浅いので、当然リンク技など使えない。
しかし彼らにはそれを埋め合わせるほどのものを既に持っていた。
奏太は鎌田に冷静な声でこう告げた。
「浩二。プランCでいくぞ」
「ああ!? プランCか!? ……おっし、任せろ!」
奏太の能力『集められる為の硝子棚』は相手が憶えている範囲のみで過去を読み取り、情報として蓄積できるものだ。
能力はそこまでのものでしかなく、基本的に報告でしか使えない能力ではあったが、鎌田が琥珀ヶ関工業高等学校の代表者として就任することで使い方の幅が広まった。
それがプラン方式。基本的にスタート時は「プランA」奏太曰く「プラン・オート」の略で、情報を提供するのみに留めて、敵を倒すための戦い方は鎌田に一任するものだ。
これから行う「プランC」とは「プラン・コマンド」の略で、奏太が能力を使って集めた情報を元に、敵を倒すための攻略を組み上げて鎌田に指示を出すことで戦うという戦術。
今まで他者に反発する生き方をしてした鎌田が、奏太の指示を素直に受けられるようになったのは、詩織や真悠が自分を信じてくれた過去があったからだ。
鎌田は「プランC」という言葉を聞くと、一度敵との距離を取り、詩織や真悠に信じてもらえた時に感じた「自分を信じてくれる相手がいる心地よさ」を思い出して深呼吸をした後、横目で睨むように奏太を見る。
奏太はそれを「拒否」と受け取らなかった。むしろ「お前を信じる」と目で訴えているように感じた。
首を縦に軽く振ると、鎌田も首を縦に振った。
「いくぞ、浩二!」
「ああ、いくぜ!」
鎌田は能力を解除せず、自分が纏っていた炎を消してファイティングポーズを取った。
律儀に鎌田がファイティングポーズを取るまで待っていた(ように見える)敵は鎌田に向かって全力で距離を詰めてきた。
「回避。からの回し蹴り」
「おうよ!」
鎌田は持ち前の反射神経を使って敵の右ジャブを体を回して回避し、その勢いを利用して後ろ回し蹴りを放った。
しかし、後ろに下がることで回避される。
すぐさま奏太は指示を出す。
「火の玉で追撃。左手に次弾装填」
「はいよ!」
「距離を詰めて右手で一発。そこから左手の火の玉」
「あらよっ!」
敵は鎌田の攻撃に対し、火の玉を上体を逸らすことで回避。その後鎌田の右手から放たれたパンチをガードし、左手から放たれた火の玉を腹に打ち込まれ後方へ吹っ飛んだ。
「…………っ!」
「おっしゃっ!」
「次行くぞ! 浩二、纏火からの陽炎」
「おうよ!」
鎌田は全身に炎を纏い、敵の攻撃を待った。
狙い通り、敵は腹を少し撫でてから素早く距離を詰めて右ストレートを放ってきた。
その右ストレートはガードや回避もされず、鎌田に当たった。……しかし、手応えはない。
鎌田の「陽炎」とは自分を揺らがせることで、一瞬だけ残像を残す技。使うにはかなりのタイミングを要されるが、自分の攻撃に自信を持っている相手に対して混乱を誘うことができる。
「浩二! ここで決めろ、炎拳剛波!!」
「うぉぉりゃぁぁっ!!!」
狙い通りに混乱した敵の隙を突いて背中へ回った鎌田は、相手のダメージを受けた痛みからくる怒りを火種に変え、全力攻撃「炎拳剛波」を放った。
炎が燃え移ることはないものの、敵は炎拳剛波の火力に吹き飛ばされ、背中に走る焼け付く痛みに失神した。
放った本人の鎌田的にも、冷静に分析した奏太的にも、相手が痛みに耐えられず失禁してもおかしくないと思っていたが、しなかった。
そのことに2人は感心せざるを得なかった。そしてこの勝利に右手でハイタッチをした。
「さて、透夜達の方へ向かうぞ」
「おうよ!」
倒れた敵に背を向けて、鎌田と奏太は黒山達の方へ向かった。
読んで下さり、ありがとうございます! 夏風陽向です。
予想に反して長くなっています……!
事件勃発から決戦までの出来事を書くのは大事ですが、やはり戦闘中が1番楽しいですね!
特に鎌田は設定上、技名を決めて脳内で叫んで攻撃しているので楽しいです。
それでは、次回もお楽しみに!!




