嫉妬と強奪の女王 part15
「やあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
奈月の気迫がこもった声と共に、輝く剣が彗星の如く線を引いた。
剣により身体が斬られる心配はないが「斬られた痛み」は発生する。それによって、線上にいた下僕達は痛みに転がった。
以前、鈴木花梨が詩織に言った通り、いくら能力で操り下僕にしようとも、本能まではコントロールが出来ない。
身体に走る痛みは、本能が出している警告そのもの。下僕達は痛みに打ち勝ってまで戦い続けることは無かった。
「奈月! あなたから見て右斜め前の男! 重度の中二病患者だから油断しないで!」
下僕達の心を乗り移り続けつつ、敵の情報を得ている沙希が奈月に注意を促した。
「りょーかい!」
奈月は先程のような気迫を込めず、沙希に軽い返事をした。
そして輝く剣に斬られ、その痛みに倒れこむ下僕は更に増えていった。
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痛みに転がる下僕は、奈月によって斬られた者ばかりではない。「焼かれる痛み」に転がる者もいる。
鎌田の『抗う為の猛き炎』は、校舎のいたる所に燃え移ることのない炎で下僕達に痛みを与えた。
「燃え盛りやがれ、怒りの炎!!」
無数にいる下僕達に相手に、素手での近距離戦闘はあまり好ましくない。いかに鎌田達に比べて力が劣っていようと、数で来られては勝ち目が無いのだ。
鎌田はそれを理論的ではなく、直感的に悟った。
そんな鎌田が取った攻撃方法は、黒山達の仲間となってから編み出した技「炎拳剛波」。
炎拳剛波とは、怒りの炎を右手に集中させ、前方へ勢いよく拳を突きつけることで、巨大な炎の拳を敵にぶつける技。
本来この技は、対集団戦の為に編み出した技ではないのだが、攻撃範囲がそれなりに広いため、こういった場面でも使い勝手がいい。……と今さっき本人が気付いた。
ちなみに、鎌田は技名をわざわざ叫んだりはしない。「自分の中で名前を付けることで、使用時に頭の中で技名を叫びイメージしやすくする」という一種の工夫だ。
初めて見るその攻撃範囲に、戦闘中といえど鎌田以外のメンバーは驚いた。
「浩二! 奥にいる奴は重度の中二病患者だ」
すぐに自分の仕事へと意識を戻した奏太は、鎌田と交戦する可能性がある敵の情報を集めて伝えていた。
「上等だぁっ! 雑魚ばっかりでいい加減怒りが爆発しそうだぜ!」
「そいつは勘弁」
敵の中二病患者は、ボクシングの構えをして鎌田と対峙した。
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黒山は詩織を守りつつ、武装型で禍々しくなった両手で敵を弾き返している。
黒山の両手に纏っている禍々しさの正体は『孤高となる為の拒絶』そのもの。
つまり、両手を介して接触した相手を物理的に近付くことを『拒絶』しているのだ。
しかし攻撃的に使用していない分、奈月や鎌田に比べて威力が足りていない。確実に敵の意識を刈り取るまでには至っておらず、弾き返された下僕達は何度も立ち上がり、向かってくる。
(ちっ……)
黒山は心の中で舌打ちをした。
それは、詩織を守り続けなければならない状況に……ではなく、こういった場面において力を発揮しきれない自分の能力に対してだ。
奈月と鎌田が相手に対して圧倒的な力を見せつけているとはいえ、数が数。こちらの援護をしていられるだけの余力はない。
黒山は仕方なく全身武装型の一歩手前、両手に加え両足にも武装型を発動させた。
多少の苦痛を覚悟し、詩織に近付く下僕達を弾き返しつつ、その次に接近してくる下僕との距離を一瞬で縮めて殴り飛ばし、殴り飛ばした先にある物に『拒絶』を発動させて殴り飛ばされた勢いと、拒絶による急停止によって体全体を揺らす。
結果、相手はその衝撃に耐えきれず意識を失った。
黒山はその効果を確認することなく詩織の元へ戻り、近付いてきた下僕を弾き返す。
これを上手く繰り返し出来れば、手間はかなりかかるものの確実に敵を倒せる。しかし、この手段には欠点があって、全身武装型とは違い頭部や腹部が守られていないため、一瞬で移動する時にかかる力による痛みが伴うことだ。
実際にやってみて黒山は思った。この使い方は失敗だと。
そんな中、守られている立場である詩織もこの状態を良しとしなかった。
「黒山君!」
「どうした、梶谷!」
「私は私でどうにか逃げるから、敵を倒すことに集中して!」
「危険だ!」
「でも……このままじゃ」
詩織は俯く。最初から自分が足手纏いになることを覚悟してここへやってきたものの、実際に足手纏いになってみると、かなり辛いのだ。
(手段を選んでられないか……)
この中で1番、重度の中二病患者歴が長い黒山だが、実はずっと能力の威力を細かく調整するのが苦手だ。
黒山は意を決し、右手の武装型を人差し指に集中させ「鉄砲」のポーズを取った。
「梶谷」
「なに?」
「敵が近付いてきたら即座に教えてくれ。……頼むぞ」
「え? ああ、うん! わかった!」
人差し指の先を、1番近い下僕の頭に向ける。
深呼吸して、ぐっと集中力を高めた。
「……拒絶しろ。意識を保ち続けている自分を」
黒山の人差し指の先から、黒い邪悪な弾が打ち出され、相手の頭に直撃した。
直後、相手はこけるように倒れこんだ。
「黒山君、左!」
「わかった」
詩織の声に従い、左を向くと下僕が近付いていた。
黒山は焦らず、禍々しい左手を相手に向け、弾き返した。
「なるほどね。確かにこれなら……!」
「ああ、しかし……」
黒山がその続きを詩織に話すことは無かったが、直接相手の意識を『拒絶』するのは、はっきり言ってよろしくない。
黒山側の負担はあまり無いが、効果時間の調整が甘いとすぐ目覚めてきたり、逆に一生目覚めなくなる可能性もあるのだ。
今までこの手段を使ってこなかったのは、そういった背景があってのことだった。
しかし、この状況下では手段を選んでられない。仮に目覚めない者が現れようと、黒山に責任が問われることはないだろう。
その時はきっと、黒山が望む望まないに関わらず梨々香が後始末(奇跡を起こして目覚めさせることを考えれば適切な表現ではないかもしれないが)をする流れになるに違いなかった。
黒山にとってはどちらかと言えば「望まない」ことなので、加減に細心の注意を払う。
詩織に周囲の警戒を任せ、右手の指先から「意識を保つことを拒絶させる弾」を撃ち続けていると、奈月や鎌田の活躍により敵の数が圧倒的に少なくなってきてきた。
しかし、まだ真悠までは遠い。
真悠は自ら攻撃することはなく、立ち続けている。鈴木花梨からそうするよう指示を受けているのだろう……と黒山は思った。
「梶谷! 栗川に向かって歩き出すぞ!」
「わ、わかった!」
詩織は黒山の背中に手を当て、警戒しつつゆっくり歩き出した。
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「せぇぇぇぇぇいっ!!」
「……」
奈月の輝く剣と相手の鉄パイプがぶつかり合った。
奈月の持つ剣は普段こそ竹刀だが、輝きだせば「斬った時に、剣が汚れてしまうもの」以外は何でも斬ることの出来る剣となる。
つまり、鉄パイプが相手だろうと豆腐のように……とまでは無理でも、斬ること自体は可能だということだ。
しかし、その鉄パイプは斬れなかった。
奈月はそのことに驚愕したが、すぐに意識を切り替えて次の攻撃を仕掛ける。
「やあああっ!」
奈月が繰り出す連続攻撃。基本は一緒でも、斬り方が剣道とは全く違う自己流の剣技だ。
それは、初撃が止められることを前提としたもので、相手が止めた瞬間すぐに対応できない角度から斬撃を入れる動きを繰り返す技。
だが、相手はその連続攻撃を見事に避けきった。
というのも、相手は鉄パイプを剣やバットのように使うのではなく、棒術の要領で使用しているからだ。
死角を突いているはずの斬撃は、次々と弾かれていった。
「や、やるねぇ……!」
「…………」
相手はすぐに反撃へと移り、奈月よりも速いスピードで上下左右と攻撃を繰り出してきた。
奈月はどうにか持ち前の反射神経で攻撃を受け止め、隙を見て距離を開けた。
「沙希ちゃん! 相手、なかなか手強いよ!」
「……という割に、随分嬉しそうじゃない」
「うん! こんなに燃える戦いはそうそう無いよ!」
「奈月が敵との戦いを楽しんでいる」と悟った沙希は焦りを覚えた。
これは間違いなく、能力に対する代償が出ている証拠だ。現在の奈月は1人の女剣士として輝いている。
沙希が「奥の手を使うかどうか」を悩んでいる間に、奈月と敵の攻防が再び始まった。
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「うおりゃあぁぁっ!!」
奈月・沙希のペアから少し離れた位置では、鎌田の炎拳とグローブを着けた相手の拳がぶつかりあっていた。
奏太が得た情報によると、相手の能力は『見失わせる為の高速技』というもので、その名の通り、姿を捉えられないほどの素早さで技を繰り出してくるという。
普通に戦えば相手の能力はかなり厄介なものだが、その点鎌田は上手く立ち回っていた。
敵が自由に動き回れないよう、お互いの拳をぶつけ合わせて押し合っているのだ。
もし、相手が操られていない状態ならこの手が使えなかっただろうが、実際は単純な思考でぶつかってくる相手だった。
基本的なスピードで勝る相手でも、こうして力勝負に持ち込めば鎌田の敵ではなかった。
鎌田は敵を相手の拳ごと殴り飛ばすついでに、超至近距離で「炎拳剛波」を全力で放つ。
「どうだ!!」
「…………」
残念ながら、勝敗は決しなかった。
拳ごと殴り飛ばされ、一度はバランスを崩した相手だが、即座に体感を生かしてバランスを取り直し、持ち前のスピードで「炎拳剛波」の直撃を避けたのだ。
しかし相手も無傷とはいかず、焼ける痛みが走る左腕をおさえていた。
それでもまだ相手は戦うつもりだ。
操られているとはいえ、鎌田は敵の立ち上がる姿に感服し、奏太はむしろ哀れさを覚えた。
「浩二、なんだかちょっとアレだな……」
「ああ。次の一発で勝負をつけてやらぁ……!」
相手は全速力で鎌田へ向かって走りだし、鎌田は両手から炎を噴射して飛び出した。
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少しずつ真悠と距離を詰めていった黒山と詩織は、敵の意識を奪いつつ、ようやくまともに真悠と対峙できる距離まで来た。
「真悠!!!」
詩織はとっさに叫んだ。真悠も操られている以上、その言葉が届くことはない。
……はずだった。
「ああ、しーちゃん……。ようやくここまで来てくれたんだね」
「ええ、真悠。あんたを取り戻すために彼等と協力してここまで来たの!」
「そうなんだぁ……! じゃあ、さっそくその『繋がり』を切ろっか!」
「え?」
真悠は両手を広げ、空中に紺桔梗の色をした穴を発生させ、その中から真悠の体格に合わない大きさをしたククリナイフに似た大きな刃物をそれぞれ片手に1つずつ取り出した。
「ま、真悠。それは……?」
「うん? これ? これはねぇ、私としーちゃんの仲を邪魔する全ての縁を切る為の……」
真悠の持っている刃物はクロスして固定されると、その形は普段からテコの原理を使って切る道具の形となった。
そして真悠は不気味な笑みと共に続きを答えた。
「はさみだよ? まずは、黒山くんとの縁から切ろっかぁ!?」
真悠はその大きなはさみを、私に向けて走り始めた。
咄嗟に黒山は詩織と真悠の間へ入り、両手を武装型に切り替えて『拒絶』を纏った禍々しい両腕で、はさみの両刃を抑えた。
「邪魔……しないでよっ! ねぇ!?」
「そうはいかない。栗川、そんなことをしてお前達はこれまで通り大親友でいられると思うのか?」
「黙ってよぉ! 黒山くんに……お前なんかに私たちの何がわかるって言うの!?」
「くっ……!」
真悠の押す力と挟む力が強くなる。とても女の子が出せるとは思えない力で。
実のところ、この日の真悠は最初から操られていなかった。
黒山と詩織が下僕達と戦っているのを傍観していた理由は実に単純で、恐らく倒さなければならないであろう黒山の消耗を狙ってのことだ。
もしも詩織に何かあったとしても、それはその時の辛抱だと自分に言い聞かせていた。
だからこうして黒山と衝突している間にも、下僕達が詩織を狙っていることを見て見ぬ振りをしていた。
「しまっ……!!」
黒山は真悠を押さえるのに必死で、詩織を守ることが出来ない。まだ意識が残っている下僕達は詩織に危害を加えようと走り寄ってくる。
その時、一種の悪夢を見た。操られた下僕達に詩織が傷付けられるという悪夢を。
しかしその悪夢が現実となることは無かった。
詩織に向かって走って来た下僕達は張り倒されていたのだ。
意外な乱入者によって。
読んでくださり、ありがとうございます! 夏風陽向です。
「しまった!」と思ってます。
毎回、約5000文字のペースで書かせていただいてますが、最低でもあと2,3部分が入ってしまう戦闘になってしまいました……。
さて、詩織にはびこる下僕達を張り倒した意外な乱入者とは一体誰なのか!?
次回もお楽しみに!




