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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「嫉妬と強奪の女王」
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嫉妬と強奪の女王 part14

「安心して。私は操られた彼らを覗いたのではなく、鈴木花梨本人を覗いたの」



沙希の「繋がられる為の類似点」の発動範囲は無制限だ。能力をかける対象の顔さえ見たことがあれば発動できる。


しかし「沙希はいつ鈴木花梨の顔を把握したのか?」それが黒山にとって疑問だった。


黒山は、白河現輝が近くにいたことを気にしていたばかりに忘れていた。休日、沙希と見廻りをした時に鈴木花梨と操られた男の元彼女が言い争っていたことを。



「この前、透夜と見廻りをした時に顔を見たわ。正直、まさかとは思ったけど彼女が犯人だったとはね」


「そうか、あの時」



沙希は黒山が思い出したことに頷いて話を続けた。



「鈴木花梨の目的自体は至って単純。自分の力を過大評価するあまりに世界征服みたいなのを企んでいるわ。……それだけ広すぎる範囲で能力を発動できるとは考えにくいけど、瑠璃ヶ丘周辺で言えば不可能ではない感じがする」


「鈴木花梨が行動を起こすのが明後日だとして、時間と場所は?」



詳細を質問したのは黒山ではなく詩織だった。


沙希と奈月以外は、詩織が質問したのに意外そうな顔をしていたが、沙希はそんなことに構わず質問に答えた。



「時間は午後の4時頃。買い物とかで1番人通りがある時間帯よ。場所は瑠璃ヶ丘高等学校の屋上。丘の上にある学校の天辺から見下す形で能力を発動させるつもりのようね」


「そうなんだ……ありがとう」


「それから真悠の能力についてなんだけど……」



詩織にとってはここも重要な点だと言える。実質、真悠と戦うのは黒山かもしれないが、自分も出来ることがあるのなら精一杯やりたいからだ。



「ここ最近、失恋して泣く子がいなくなったと思ったら、鈴木花梨は真悠の能力を使って男女の縁を切っていたようね」


「それが真悠の能力……?」


「そう。だから真悠と戦うことがあれば気を付けないと、誰かとの縁を切られ兼ねないから注意が必要ということ」


「真悠……」


「私からの報告は以上です」



沙希は素早い動きで椅子に座った。それと同時に針岡は「さて……」と議題を次へ進めた。



「この感じだと、明後日にケリをつけるのが1番手っ取り早い感じがするなー。……透夜、お前だけで行くつもりかー?」


「そうしたいのは山々だが……」


「待って!」



質問に答える黒山を止めたのは詩織だ。


詩織にもわかっていた。黒山1人で敵わない敵ではない。でも、真悠を救うことができる程の余裕は無いことを。


そして真悠を救って欲しいという願いは、元を辿れば自分の願い。沙希、奈月、鎌田、奏太の4人に協力を求めるのならば自分が頭を下げるのが筋だと詩織は思ったのだ。


だから立ち上がり、皆んなの目を見て言葉を発する。



「私……真悠とは幼馴染で、いつも一緒にいたからそれが当たり前だと思ってた」



沙希は慈しみの顔で詩織を見ている。



「でも、今回離れることになってわかった。真悠がそばに居てくれるのは当たり前なことではなく、本当は感謝しないといけないことなんだって」



奈月は今にも泣きそうな顔で詩織を見ている。



「真悠が操られて、人と人の縁を切るような能力を得てしまったのは、きっと私がもっとちゃんと真悠の心と向き合えてなかったから……だと思う」



鎌田は悔しそうな顔で詩織を見ている。



「これからは真悠と向き合えるように……なんとなくではなく、ちゃんと本音で話し合えてお互いを理解できる幼馴染になりたい。だから」



奏太は複雑そうな顔で詩織から顔だけ逸らし、横目で見ている。



「真悠を救う為に、もう一度ちゃんとやり直したい私自身を救う為に、力を貸してください!」



詩織は机と頭がぶつかるすれすれの位置まで勢いよく頭を下げた。


すると、隣に座っていた黒山が立ち上がり「俺からも」と言ってほぼ同じ位置まで頭を下げた。


2人の行動を見て最初に反応したのは奈月だった。



「もっちろんだよ! ボクは協力を惜しまない! 一緒に真悠ちゃんを助けよっ?」


「まあ、手伝うのは当然よね。だって私達、友達だもの」



奈月に続いて反応したのは沙希。そして鎌田も指の関節を鳴らしながら詩織に言葉をかけた。



「2人には恩があるからなぁ! 協力しねぇわけにゃぁいかねぇだろうよ!? てめぇはどうなんだ、奏太?」


「お、俺は……」



奏太はどこまでも「自分には関係ない」と言いたかった。実際、喉まで出かかっていたのだが、沙希と奈月からの鋭い視線でむせ返り、大きく溜息を吐いて「……わかったよ!」と協力することに承諾した。



「ありがとう……ありがとう、みんな!!」



詩織は協力してくれる4人に感謝を述べた。


それを見た針岡は目頭を押さえて「青春だなー」とおっさんくさいことを棒読みで言った。



「それじゃー、鈴木花梨の動きに合わせてこちらも解決に向けて動き出す。……んなところで、作戦はー……」


「正面から叩く」



黒山は即答。顔を上げて針岡の方を見て言った。


それに合わせて全員も頷き、針岡は「まじかよー……」とだけ言った後、臨時報告会の終了を宣言した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


季節的に冬となっているだけあって、午後6時にもなれば空は真っ暗だった。


沙希と奈月は針岡が責任を持って車で家まで送り、鎌田と奏太。黒山と詩織の組み合わせで帰宅することとなった。


去り際、沙希と奈月が針岡の運転する車の後部座席の窓を開けて「また明後日ね」「ばいばーい!」と詩織に向かって言った。


詩織も「ありがとう! じゃあね!」と言って手を振った。詩織にとってこのやり取りは気持ち的な面でかなり救われるものとなったことは間違いないだろう。


鎌田や奏太とは「気をつけて」くらいで別れた。


最終的に旧・虹園塾の前に残った黒山と詩織の2人も梶谷家に向かって歩き始めた。


黒山から特に話題を振られる気配はない。だから詩織から話し掛ける形でやり取りが始まった。



「真悠、ちゃんと取り戻せるかな……」


「大丈夫だ。あいつらは強い」


「黒山君がそこまで言うなら問題ないよね!」


「ああ。鈴木花梨達を倒すくらいなら俺1人でも問題はない。そこにプラスしてあいつらが加わるんだ、必ず成功する」


「そっか! それなら安心だ!」



黒山の強さはよく知っている。だからそんな彼が強さを認めている頼もしい援軍が4人もいるということは、6割申し訳なさを感じるものの、4割は心強く感じる。


しかし、事を構えることに対して安心は出来ても実際、詩織自身の気持ちの整理がついていないことは鈍感野郎である黒山にもわかった。


黒山から言わせれば「いつもの梶谷らしくない」というものだからだ。



「梶谷」


「うん?」


「栗川を取り戻すためには梶谷の想いが必要だと言ったのは覚えているか?」


「うん」


「だが特別なにかを感じる必要はない。君はいつも通りでいいんだ。……なんと言えば良いのかよくわからないが、その」


「ふふっ、ありがとう!」



黒山的には慰めるというよりかは、明後日に差し支えないようリラックスさせる狙いがあったのだが、詩織は黒山が「自分を慰めるために無理している」と感じた。


すごく不器用で、毛穴ほどもときめきはしないが、それでも気持ちは伝わってきたようだ。


結果としてリラックスさせる効果はあったので、結果オーライというものだろう。


そんな中、詩織はふと思ったことがあったので大して深く考えず、言葉にした。



「黒山君ってなんか変わったよね」


「どういう意味だ?」


「いやだってほら、転校してきて最初の方なんて寄ってくる人全てに威嚇してたでしょ?」


「ああ、まあな」


「それが今、私に優しい言葉をかけてくれるだなんてね! なんだか面白おかしい」



詩織が「クスクス」と笑っているのに対し、黒山は溜息を吐いて答えた。



「今までずっとそうしてきた。誰を助けようが針岡によって記憶が消されるからな。仲良くなったところで何の意味も無い」


「でも、私相手には意味があったんだ?」



黒山はたまたまちょうど車が隣を通った瞬間に「そうだな」と答えた。


しかし、これが詩織の耳に届くことは無かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


各々覚悟を決めた土曜日が過ぎ(この日の見回りは諸事情により中止)来るべき決戦の日曜日がやってきた。


もしも本当に神様が存在していたとして、天から世界を見守っているのだとしたら、きっとこの日の出来事を「昼ドラ」感覚で見ていることだろう。


世界を自分の描く理想郷とする為の第一歩を踏み出そうとしている鈴木花梨。


それを阻止し、操られた人の解放と真悠を助ける為に立ち上がった3校の代表達。


彼らの激闘に無関係の人間を巻き込まないようにする為、一時的に「屋上以外の」瑠璃ヶ丘高等学校という空間を切り取り、ダミーを置く大人。


そして、直感的に「何かありそうだなぁ」とこっそり見に来ている白いアイツ。


様々な人間の意思がぶつかり合うこの空間は「日曜日の夕方」と簡単に表現できるほど淡白なものではなくなっていた。


そんな中、3校の代表達+詩織は、鈴木花梨が行動を起こす30分前。つまり、午後の3時半には集合していた。


単純な話、あくまで鈴木花梨が行動を開始しようと決めた4時に集まるのでは既に手遅れだからだ。


準備段階に入っているうちに鈴木花梨と決着を付ける必要性がある。


そして待つ事おおよそ10分。


鈴木花梨が校門から中に入っていくのを確認した一行は、昇降口前で彼女と接触した。



「待て」



最初に声を発したのは黒山だった。その声に鈴木花梨は即座に反応した。



「おや、黒山透夜君。こんなところで奇遇だね。……詩織さんの他にも一緒にいる彼らは君の友達かな? 見たところ、別の学校の生徒のようだけれど」


「そんな話はどうでもいい。こんなところで何をしている?」


「何を……って、ここは私も通っている学校だ。何か用事があってもおかしくはないだろう?」


「…………」



黒山を含め、鈴木花梨はこのまま誤魔化し通すだろうと思っていた。かと言って、誤魔化されてこの場を去るという選択はもちろんない。


しかし、予想に反して鈴木花梨は黒山達一行にとって驚きの行動をとった。……というより「発言をした」の方が適切だろう。


それは沈黙の睨み合い(見つめ合い?)が続く中、鈴木花梨が「まあ……」と言い出したところからだ。



「何て言おうと君が誤魔化されることは無いだろうから素直に言わせてもらうと、私は自分の理想郷を実現させる為にここへ来た」


「なるほどな。だが、俺たちはそんなお前を止めに来た」



鈴木花梨の理想郷を知っているのは、本人と本人から聞かされた黒山と詩織。そして彼女を覗いた沙希の4人だけだ。


だがしかし、他のメンバーは内容を知らなくとも、鈴木花梨が描く理想郷などどうでもよかった。それはきっと「鈴木花梨を敵として見ているから」というよりは「人を操って不幸に陥れたその先にある理想郷なんて、どうせロクなものではない」という決めつけの方が大きかった。


もちろん、鈴木花梨を敵とみなしていることに変わりはないのだから、6人で鈴木花梨に敵対の目線を送る。


特に鎌田の視線なんかは大抵の人を怯えさせるだけの威力はあると思うが、鈴木花梨は全く動じなかった。それどころか、相変わらず余裕そうな顔をしている。


そして彼女は高らかに笑った。お世辞にも上品とは言えない、どちらかといえば舞台役者の台詞に近い笑い声で。


皆一様にその笑い声を不快に感じたが、最も不快に感じたのは詩織のようだ。



「どうして!? 何がおかしいの!?」


「ハハッ……いや失敬。だって君達はすでに私の下僕達に囲まれていながら、そんな勝気な目をしているのが可笑しくってね」


「…………」




鈴木花梨は、最初から下僕を学校に集結させていた。


そして、黒山に呼び止められた時点で荒事になることは予想しており、待機させている下僕に脳内で「一斉集合」の命令を出したのだ。


先程、黒山には「別の学校の生徒のようだけれど」と指摘していながら、下僕の中は他校の生徒もかなりの数おり、琥珀ヶ関工業高等学校はもちろん、更に別地区の生徒まで混ざっていた。



「真悠は!?」


「やだな、詩織さん。そんなに慌てなくても彼女はちゃんといるよ?」



気付けば、鈴木花梨と接触するまで部活動に来ている生徒の姿や音があったはずなのに無くなっていた。


もっとも、それに気付いたのはこの事象の原因をある程度知っている黒山だけだったが、お陰で圧倒的に男率が多いこの中で真悠を見つけるのが苦ではなかった。


今から校内へ入っていこうとしている鈴木花梨に対して「ここは通さない」と言うかのように、入り口前で立っていた。


真悠の元へ辿り着くにはまだ距離がある。



「……行くぞ」


「うん!」


「おうよ!」



黒山は両手を武装型で禍々しく黒い形に変え、返事と同時に奈月は竹刀袋から竹刀を取り出して輝きを宿し、鎌田は両手で燃え盛る炎を生み出し、握った。


沙希は敵の心に深く入り込まず乗り移り、奏太は過去の情報を収集することで「重度の中二病患者」かどうかを判断するサポート役に徹している。


鈴木花梨の「さあ、行け」という言葉を引き金に、彼女に操られた下僕達は一斉に黒山達一行へ目掛けて走り出した。


これを黒山、奈月、鎌田の3人が迎撃する形で今回の戦いが始まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


鈴木花梨は下僕達の戦いぶりに目もくれず、自らの目的を最優先とする為、丁寧に上履きへ履き替えて屋上へ向かう。


彼女が集めた下僕の一人ひとりの能力は、黒山達に比べれば非常に劣るものであるが、数だけには自信がある。


人に対して使っていい言葉ではないかもしれないが、彼女にとっては「塵も積もれば山となる」という状態だ。


下僕の中には、かつて好きで告白した者もいる。


彼らは鈴木花梨の告白に対して即座に答えを出し、決まってその答えは「NO」だった。


単に自分自身に魅力が無く振られるだけならまだマシだったかもしれない。しかし彼らの中には「鈴木花梨に告白されたがマジ無いわぁ」と仲間内に笑い話のネタとして提供した者もいた。


そんな奴でも、時間が経てば恋人が出来ており、その恋人の前では「いい男、かっこいい男」で居続けようとする。


矛盾にまみれた男にも憎しみはあるが、それに気付かない女にも憎しみが溢れる。


鈴木花梨の憎しみの対象はそんな「クズ達」だけではない。


誰に対しても優しくする男も、必ずや恋人ができる。


その恋人が自分よりも魅力的だと認められればともかく、どう見ても「自分の方が女性としての魅力があるだろう」と思えてしまう相手には憎しみを抱く。


最初は、何かしら自分と接点があった男に関する人々に憎しみの矛先が向かっていたが、鈴木花梨本人が気付かないうちに、校内や街にいるカップル全てが憎しみの対象となっていた。


女子の中でもある程度付き合いがあれば、恋人との「そういう」経験の話を聞くこともある。


馬鹿な男は「そういう」経験を誇らしげに語る。


それらに対して、鈴木花梨はどれだけ殺意に似た感覚を味わったことだろう。


思い出すだけでもイラついて来る彼女だが、今日を境にそんな世の中とも「おさらばだ」と考えれば自然と怒りが治る……わけがない。


「現代人の管理者」となるべく、彼女は屋上へと向かう足を早めた。

読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。


久々に結構力の入った更新になったかと思います。


黒山達一行にとって初めての共同戦線(?)になったわけですが、実のところ戦闘要員は3人しかいないんですよね。


黒山達の前の世代……つまり、雪消涼達の世代は各校1人ずつで2年間やっているわけですから、2人ずつ代表として選ばれている奈月、沙希、奏太、鎌田も個々の能力は優秀ですが、雪消達は常に1人。時には3人でやってきたと考えると「あの人たち、やばいな」って後輩達には思われています。


奈月同様、沙希を中心とした短編を少しずつ書いている最中ですが、雪消達の様子もどこかで書ければなと今思いました。


それではまた来週もお楽しみに!

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