嫉妬と強奪の女王 part9
あまり人に聞かれたくない話。例えば「愛の告白」等をする時、屋上が選ばれるシチュエーションをよく見る。
しかし、どこの学校にも該当することだと思うが、瑠璃ヶ丘高校は屋上を開放していない。
その理由は色々と考えられるだろうが、やはり1番に言えることは「危険」なのだろう。
もし仮にこの学校で屋上が開放されていても誰かしら人がいて、とても秘密の話が出来ないであろうことは少し冷静になって考えれば予想できる。
2年生である鈴木花梨は屋上が使えないことをもちろん知っている。そこで、真悠と秘密の話をする場所として講堂の舞台裏を選んだ。
講堂の入り口は常時鍵がかけられていない。とはいえ当然の話だが、用もないのに入れば怒られる。
鈴木は予め「下僕」に見張りと近付いてくる先生と生徒の足止めを命令し、誰も自分たちを見ていないことを確認すると、こっそり素早く講堂の中へ入っていった。
一方で真悠は、鈴木がそこまで用意周到なことをしていたのを知らず「大丈夫なのかなー?」と他人事のように考えながら、黙って鈴木の後をついて行く。
朝のホームルームまであと15分。教室に戻るまでに5分かかると想定して、鈴木が勝負できるのは残りの10分だ。しかし、鈴木には3分で終わらせられる自信があった。
講堂の舞台裏は暗いので、暗いままで話をすれば真悠に警戒されると鈴木は思い、照明を付ける。
舞台裏の電気を付けたところで、講堂の外からでは舞台裏が見えない仕組みとなっているので外にいる生徒や先生に感知されることはない。
講堂の中から注意深く舞台の方を見るか、校内の電気を管理している場所で照明に電気が使用されていることを確認するしか、講堂の舞台裏に人がいることを察知できない造りとなっている。
前回は部活棟の女子トイレを選び、途中で邪魔が入ってしまって失敗した鈴木だが、今回は邪魔が入ることなく真悠を引き込むことが出来ると確信している。
「こんなところまで付いてきて貰っちゃってごめんね?」
「い、いえ! それで、相談したいことって何ですか?」
「実はね。あなたのクラスに黒山透夜君っているでしょ?」
「あ、はい」
「私、彼のことが気になっているから告白したいと思っているんだけど、手伝ってくれないかな?」
真悠はその言葉を聞いて驚きを隠せなかった。
鈴木が黒山を知っていたことにも驚いたが、気になるに至るまで接点が無かったはずなのに好意を抱いたことが衝撃だった。
それに、鈴木には取り巻きとも言える男子が何人もいるにもかかわらず、その人たちに自分の気持ちを伝えないまま、全く別の男子に告白しようなど人として全く筋が通っていない。
だが、先輩相手にそれを指摘するだけの勇気が真悠には無かった。
そうこう考えているうちに、鈴木は待ちきれないのか答えを要求してきた。
「どうかな、栗川さん?」
答えを急かされたところで、真悠はまだ答えを決められていない。結局、質問に質問で返すしか出来なかった。
「……先輩、いくつか質問があります」
真悠に答えを急かした鈴木だが、まだ心に余裕があったのか真悠の質問に答えることにした。
「何?」
「どうして黒山くんなんですか? 確かに黒山くんは転校生だから珍しく感じるかもしれないですけど……」
「そうだねぇ。それは、彼が強いから……かな? 彼には他の人が持っていない強さがあるような気がするんだ」
この答えについて真悠は驚かなかった。なぜならこういった評価は「人を見る目」があるか無いかによるものだと思ったからだ。
実際、彼に助けて貰ったことがある身として彼の強さを知っているから余計に意外感を感じない答えだった。
そして何より、真悠にとって大事なのは次の質問だ。
「なんで、私に相談してきたんですか?」
「利害が一致すると思ったから」
「利害?」
「そう。だって、私が黒山透夜君に告白して成功すれば嬉しいし、あなたも大好きな梶谷さんから黒山君を離すことができるでしょう?」
「待ってください! 別に私はしーちゃんと黒山くんを離したいだなんて考えていません!」
真悠の発言は本心からのものだ。
詩織が黒山に対して特別な感情を抱いていることは、なんとなくだが気付いていた。
友達として、幼馴染として、なかなか自分の気持ちに素直になれない詩織を応援してあげたい。
だから鈴木の告白を手伝うことなどできない。
真悠は鈴木にお断りの返事をしようとするが、口を開くタイミングがほんの少しだけ鈴木の方が早かった。
「確かに今の栗川さんはそれを望んでいないかもしれない。だけどその先はどうなの? もし、梶谷さんと黒山君が本当にくっついたとして、そこに栗川の居場所はあるの?」
「そ、それは……」
「栗川さんが梶谷さんを大事にしている一方で、梶谷さんは黒山君のことしか見えなくなってしまうんじゃないの?」
「そ、そんなこと」
「あると思うよ? だって、相手に自分だけ見て欲しいなら自分も相手だけを見るのが道理じゃない?」
「…………」
「きっと、栗川さんの居場所は無くなっている。それを防ぐためにも私に協力してほしいな」
真悠は鈴木の言う通りだと思った。
詩織を応援したいという気持ちはあっても、2人が付き合った後、自分がどうするかまで考えていなかった。
以前、下崎の一件があった時に真悠は詩織に「一緒にいられる時間が好きだから今は誰とも付き合う気は無い」と伝えた。
それに対して詩織の方も「これからも一緒に楽しい時間を過ごそう」と約束してくれた。
そんな詩織が黒山と付き合うことになれば、自分と一緒に楽しい時間を過ごさなくなるかもしれない。
大切だからこそ、信じたいからこそ、失いたくないからこそ、大好きだからこそ、真悠は自分にとって「最悪な状況」を考えられずにいられなかった。
詩織が黒山と付き合う。それすなわち、これからも一緒に過ごそうと約束した自分に対しての裏切り。
ならば、裏切られる前に手を打たなければならない。
真悠がそう考えた時、鈴木は真悠を抱き締めて言った。
「大丈夫。私と栗川さんなら、幸せな未来を手にすることができるよ」
「はい……はい!」
そして鈴木は表情を隠し、そのまま真悠のうなじに紫色の針を刺した。
「いい? 栗川さん。あなたは今夜、愛する者を取り返すために力を手に入れるの。大丈夫、取り返すことだけを考えれば、神様はあなたに力を与えてくれる」
「…………」
真悠は無言で頷き、講堂を後にする。
「私もまだまだ。3分でやれると思ったけど、思ったより時間がかかってしまったな」
鈴木も講堂から出ると、見張りと足止めを命令した下僕達に撤退を命じ、最近使えるようになった「一時的解除」を使用して下僕達の日常生活に違和感を出さないようにする。
朝のショートホームルームまであと2分。鈴木は遅刻扱い覚悟でゆったり歩き出した。
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真悠が教室へ戻ってきたのはショートホームルームが始まる1分前。既に針岡先生は教室にいた。
チャイムが鳴る前にショートホームルームを始めることも出来るかもしれないが、高校生にもなるとチャイムが鳴ってからでないと着席しない。
もっとも、この教室にいる中で1番やる気がないのは誰なのか今更問うまでもない。
本来ならば担任の先生、もしくはクラス長が着席を呼びかけるのかもしれないし、実際ついこの前まで着席を呼びかけていたのに、最近は針岡先生も私もチャイムが鳴ったからといって声を掛けない。
よってクラスメイトは皆「そろそろやばいんじゃね?」と自主的に座るようになった。
さて、今日もいつも通りにグダグダと朝のショートホームルームが終わっていったところで、私は真悠の元へ行こうとする。
朝は黒山としっかり話したのだし、いつも通り真悠と授業までゆったりと話そうと思った。
……のだが。
「おい、梶谷」
すぐ隣で黒山が私を呼んだ。「何ー?」とほんの少し無愛想な返事を返すと、黒山は今朝とは全く違う真剣さで私……の向こうにいる真悠を見て言った。
「兆候が見える」
「え?」
ちょーこー……? なんのこっちゃ。
私は黒山の言い出したことの意味が全くわからなかった。
「いいかよく聞いてくれ。俺たちの病気には必ず兆候がある。俺には病気に罹った人間を見ることはもちろん、罹りそうな人間も見て判断できるんだ」
そこで私はようやく黒山が「兆候」と言っていたのがわかった。
「あ、兆候ね! にしても、なんで真悠?」
「そこまではわからない。だが、兆候が見えても罹らないこともある。危険なことに巻き込まれていないといいが……」
私は黒山が真悠を心配しているのに意外性を感じた。
こう言ってはなんだが、仲間も友達も必要ないと思っている人間が発する言葉ではないと思う。
黒山が私たちと出会ったことで少しだけ優しくなったのか、それとも……。
(それとも下崎や清村みたいに黒山も真悠のことを……?)
無意識に少し俯く私を見て、黒山は「どうした、大丈夫か?」と声を掛けてきた。
私は頭の中に浮かび掛けてきた推測を振り払い、黒山の目を見て「大丈夫」と頷く。
少しの優しさを見せてくれた黒山に私が微笑むと、後ろから幼馴染の声が聞こえてきた。
とてもいつもの真悠とは思えない声のトーンで。
「黒山くーん? あんまり『私の』しーちゃんを独り占めしないで欲しいなー?」
「…………」
「なーんか言ってくれないかなー、黒山くーん?」
「ちょっ、真悠! あんたどうしたの? なんかちょっと変じゃない?」
「ん? どうもしてないよー? ちょーっと、黒山くんが調子に乗りすぎてる気がしたから釘を刺しに来ただけだよー?」
「そうか。悪かったな、栗川」
「うん! わかってくれればいいよー! さっ、しーちゃん。1時間目が始まるよ!」
「え、あ、うん」
真悠はそのまま席へ戻っていつも通りに1時間目の準備を始めた。
真悠の真悠らしくない言葉を聞いたクラスメイトは衝撃を受けたらしく、コソコソと話していた。
真悠がそれを気にする様子はなかった。
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午前の授業が終わり、お昼休みになった。
普段は自分の席で昼食を食べている黒山は、ショートホームルームの一件を気にしているのか居なかった。
一方で、私の幼馴染こと栗川真悠はいつもより楽しそうにお弁当を食べている。
「ねぇ、真悠」
「なーに、しーちゃん?」
「あんた、いつもより楽しそうにお弁当を食べているけど、何か良いことでもあった?」
「うん!! だって今日のお昼は邪魔者が1人もいないからねー! こんなに安心して大好きな人とお昼ご飯を食べられるんだから嬉しいに決まってるじゃん!」
「あっ、そう」
正直、真悠の発言に私はドン引きしていた。
台詞自体は真悠らしいといえば真悠らしいかもしれないが、なんというかとにかく重い。
俯いて軽く溜息を吐いた後、ふと真悠の方は顔を向けると真悠の顔が文字通り「目と鼻の先」にあった。
真悠は可愛い。同学年男子多数はもちろん、同じ女子である私でさえもそう思ってしまう程整った顔立ちをしている。
だからそこまで近付かれても普段なら嫌な気がしないのだが、今日この場に限って言えば怖かった。
「しーちゃんはさー、楽しくないの?」
「な、何が?」
「何が? 私とお昼ご飯を食べることに決まってるじゃーん?」
「えっ、普通に楽しいよ?」
「そっか! 普通にってとこがちょっとアレだけどー、まぁいいか!」
(っていうか近い近い! 早く離れてよ……)
なかなか真悠が離れてくれないのに困っている中、締め切った教室の出入り口を勢いよく開けて入ってきた存在に、私と真悠を含めた教室にいる全員が注目した。
「黒山氏はおるかー!!」
上杉だ。クラスメイト達は突如勢いよく入ってきた存在が上杉だと理解するや「なんだよ……」という顔でそれぞれ会話に戻る。
上杉は教室内をぐるりと見渡した後、黒山がいないことに気付き、私と真悠の元へやって来た。
「そこのお二人、黒山氏を知らぬか?」
その質問に真悠は即答した。
「わかんなーい! 黒山くんはお昼休みになってすぐ教室を出て行ったよ?」
「む、左様か。……ところで、余計なお世話と承知の上で言わせてもらうが」
「ん? なにかな?」
「その……愛の形とは様々だとは思うが、時と場所は弁えたほうが良いと我は思う。お二人は物理的な意味で少々近すぎる」
「う、上杉くん、私たちそんな関係じゃないよー!」
真悠は素で照れる様子を見せて、椅子に座り元の距離に戻る。
私からすれば照れる要素は全く無かったし、上杉の勘違いも甚だしい。
だが、私は心の中で上杉に親指を立てていた。
(グッジョブ、上杉!!)
「うむ! 黒山氏もいないようだし、我はこれにて御免!」
皆を脅かさないように、上杉は優しく静かに出て行った。
(初めからそうしてよね……)
出来れば本人に言いたいところだが、今回は働きに免じて心の中で思うだけにした。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
書き始めた時、時間割をある程度決めていたような気がしていたので振り返ってみましたが、ぶっちゃけわかりませんでした!
しかし「書き始めた当初と書き方が変わった」と読み返して思いました。
というのも、書き始めるまでラノベは谷川流先生の「涼宮ハルヒ」と川原礫先生の「ソードアートオンライン」と長月達平先生の「Re:ゼロから始める異世界生活」しか読んだことが無かったのに対して、このサイトに投稿されている方の作品や、アニメから入った作品の原作を読むことを始めたので影響されているのでしょう。
書き方はすごく勉強になりますが、私自身知っている言葉の数が圧倒的に少ないので「キャラクターの感情をどんな言葉で表現すれば、読んでくださる方に伝わるのか?」と悩むことが最近は多くなりました。
……それで寝落ちするという(笑)
今回は結構余裕を持って更新できたので、次回もこの調子で出来るといいなと思います!
次回の更新予定日は12月13日(水)午前2時です。お楽しみに!!




