嫉妬と強奪の女王 part8
「ねぇ、しーちゃん聞いてる!?」
「あ、ごめん。何の話だっけ?」
「もぉー!!」
日曜が終わり、また新たな1週間が始まった。
いつも通り真悠と一緒に登校していると、学校へ向かう途中で必ず誰もが通る坂道で「あの女」を発見してしまった。
彼女は相変わらず取り巻きを連れ歩いている。
今まで気になったことが無かったが、改めて見てみると実に不自然だ。
この際、取り巻きがいることは別にしても、取り巻きと彼女は一切話している様子が見えない。
……と言うわけで、月曜からいきなり前に現れた「あの女」の方に意識がいってしまって真悠の話が全く入ってこなかった。
「……しーちゃん、あの人の事気になるの?」
「ん? まーね。だって変じゃない? 取り巻きがいることもそうなんだけど、あの人達と全く話している感じがしないしさ?」
「うーん。確かに鈴木先輩って不思議だよねー! ミステリアス的な意味で?」
「そうなんだよねぇ……って真悠! あんたあの人の名前知ってるの!?」
「うん、知ってるよ! 鈴木花梨先輩、2年生だね」
「よく知ってるじゃん! 同学年ならともかく、上級生の名前なんて誰に聞いたんだってのー!」
「え、えーっと、他のクラスいる友達……かな」
「へー! あんたやっぱすごいじゃん! 真悠のそういうとこ素直に尊敬しちゃうわ」
「そ、そう?」
実際のところ、私は真悠の交友関係が広いことを尊敬している。
人間同士で合う・合わないは実際あると思う。真悠に比べて私はそういった点が顕著だから、とても真悠のように交友関係を広げることは難しい。
もちろん、それは真悠にもわかっているだろうけど。
「しーちゃん、また何か危ないことに首突っ込もうとしてなーい?」
こういうのを「ジト目」と呼んでいいのだろうか。
真悠は横からそんな目で私を見ながら質問してきた。
「いや? 全く全然」
「本当にー?」
「本当、本当!」
私は嘘でもそう答えた。
鎌田の時は私も真悠も「どうにかしてあげたい」の一心で自ら関わった。それは鎌田が同じクラスの男子だったこともあるし、私と真悠が事件に関して全く無関係とは言い切れなかったからだ。
しかし、今回に至っては私と真悠が自分から首を突っ込む理由などない。仮にあの女……鈴木花梨がここ最近頻繁に起こっている失恋の原因となっていたとしても、私と真悠には恋人がいないから被害を受けることはない。
……胸を張って言えるようなことでもないけれど!
自分で言っていて何とも悲しくなる話ではあるが、それでも直接関係してこない分、関わる必要はないのだから、奈月と沙希に言われた通り「第3者として見るだけ」にするつもりだ。
とはいえ、現段階において「被害を受けない」と言えたとしても、男を強奪することだけが相手の能力ではないかもしれないので、そういった点を考慮して真悠には黙っておく。
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「相棒! ……いや、早計であったか。黒山氏よ! 答えを聞かせてもらおうか!!」
黒山は詩織と真悠の2人より先に登校して席に座っていた。
いつも通り窓の外を眺めていると、4組の上杉信弦が急にやってきて前回と同様、座っている黒山の前で仁王立ちをして、先日の「相棒関係」について答えを要求してきたのだ。
そして、それに対する黒山の答えは1つ。迷う時間も必要無かった。
「断る」
「よし! ではこれから……って、今何と?」
「断ると言った」
「な、な、な、なぬぅー!?」
上杉は「同じ志を持つ者として、断られることはまず無いだろう」と思っていた。
ちなみに「同じ志」というのは、自分の力を以って悪と戦うことなのだが、実際は……というか、常識的に言って上杉は悪と戦ったことなどない。
上杉にとっての悪とはなんなのか? それは黒山は言わずもがな、上杉本人にもわからないことだ。
しかし、黒山には上杉にとっての悪が何であろうと、上杉が『重度の中二病患者』であろうとなかろうと、相棒関係の提案に対する答えは変わらない。
黒山は答えが元より決まっていたので冷静だったが、上杉は予想外の返答だったのでかなり動揺している。
「さ、参考までに理由を教えてもらって良いだろうか!?」
「俺が俺である限り、他者からの思いを『拒絶』し続けなきゃならないだけのことだ」
黒山透夜という男を知る人間にはわかる内容だと思うが、比較的一般人である(比較的というところが大事)上杉には理解できなかった。
……のだが。
「格好いい……」
「は?」
「いや、失敬。あっぱれだ、黒山氏。だが我は諦めぬ! 必ずや相棒にしてみせよう!!」
「…………」
今度は黒山が「理解不能」と感じる番となった。
今まで数えきれない程の人を『拒絶』してきたが、こんな反応をされたの初めてだった。
詩織・真悠・沙希・奈月・梨々香の5人は、能力を見せた上で何かしら助け合った部分があったのでともかくとして、まだ2回しか話していない人間にこんな反応をされるとは思ってもいなかった。
そして何より「上杉とはこれ以上関わることが無くなる」という黒山の予定が狂ってしまった。
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私と真悠が丁度教室に入った時、黒山と話していたと思われる上杉が満足そうな顔をして教室を出て行った。
私は「まさか?」と思って、机の上に鞄を置いてすぐ黒山に話し掛ける。
「さっきのって上杉よね? すっごく満足そうな顔をして出て行ったけどあんた、もしかして……」
「相棒関係についてなら断った」
「ほんとに? その割にはなんだか嬉しそうだったけど?」
「俺にはそこがわからない。細かく自己紹介をしたわけでも無いが、俺が『拒絶』し続ける大まかな理由を話しただけで妙に嬉しそうにしている」
細かく……というのは、黒山が『重度の中二病患者』であり、能力を使えることについてのことだろう。
「相棒関係」だなんてよく言ったものだと私は思う。お互いのことをよく知らずに相棒になれるわけがない。
つまり私の予想では、上杉は単純に「友達」が欲しいだけなのだろう。本人は否定するだろうけど。
とはいえ、我がクラスメイト達と同様に『拒絶』されても寄っていくのだから、よほど黒山が気に入ったのだろう。
「どっちもある意味頑固ね。案外気が合うんじゃない?」
私のちょっとしたからかいに、黒山は素っ気なく「勘弁してくれ」とだけ答えた。
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黒山と詩織は「はっきり」友達と言える仲ではない。誰かにお互いのことを紹介するなら、関係性は「クラスメイトで席が隣」くらいだろう。
しかし、黒山は詩織のことが嫌いというわけではなく、むしろどちらかといえば好きな方だ。
では、一方で詩織はどうかというと、かなり複雑だと言える。
もちろん嫌いではない。だからといって「友達として好き」とも言い難く、詩織本人は否定するだろうが「友達と恋人の間」が1番妥当だ。
今も詩織は夢中で黒山と話しているわけだが、詩織の脳内は「黒山との会話」でいっぱいになっており、自分が黒山と話している間、真悠がどうしているか気が回っていなかった。
真悠自身は、黒山と詩織が話しているところを見て複雑な心境を抱いていた。
もしも、詩織が黒山に好意を抱いているのであれば、友達として応援してあげたいとは思っている。しかしその一方で、詩織が自分にあまり構ってくれなくなるのではないか? と不安を覚えていた。
自分の大親友が隣の席に座っている男子と話している様子を見ていると、背後から突然話しかけられた。
「おはよう、栗川さん」
「あ、おはようございます」
相手は鈴木花梨。どうやら、朝連れてきた取り巻きは置いてきたようだ。
この学校では、他クラスの教室に入ってはいけないというルールが無いので、自分が所属している教室に別学年・別クラスの生徒がいてもあまり目立つことはない。
もちろんそれは「そのクラスの誰かに用があって、その人と一緒にいる」というのが前提の話だ。
他に登校しているクラスメイトも「この2年生は栗川さんに用があるのか」ぐらいにしか思っていなかった。
「あなたの大親友。彼と楽しそうに話をしているね」
「こ、今回はどのような……?」
「そんなに畏まらなくてもいいよ。私は栗川さんに相談したいことがあって来たの」
「相談……?」
「うん、相談。でもあまり人に聞かれたくない内容だから、場所を移してもいい?」
いつもの真悠なら何かしらうまく理由をつけて断るだろう。もしくは、詩織が近くにいたなら助けてくれたかもしれない。
しかし、前回と同様に黒山との話に夢中だった。
「わ、わかりました。場所を移しましょう……」
「ありがとう。栗川さん」
真悠が鈴木についていったのは、勇気や好奇心があったからというわけではない。
真悠自身はまだ理解できない感情だが、鈴木から見れば十分な「嫉妬」によるもの。
鈴木は真悠が嫉妬していることをわかっていて相談を持ちかけたのだ。
ショートホームルームが始まるまでまだ時間がある。2人は場所を移した。
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一方その頃、紅ヶ原女子高等学校では。
「1人の女子生徒が大声で泣いている」という情報を聞きつけ、奈月と沙希の2人はその現場へ急行した。
幸い、廊下や通学路の途中といった人目がつくところではなく、所属しているクラスの教室で泣いているようで、2人にとって動きやすかった。
ちなみにこの情報は、広まる速さは底知れずの女子高内で流れた噂から聞きつけたものだ。
2人がその教室に着くと、女子生徒の泣き声は大声から嗚咽に変わっていた。
彼女をどうにか落ち着かせてくれたと思われる女子生徒3人に、何も言わず目配せだけをする。
いくら相手が同じ1年生で遠慮は要らないとはいえど、せっかく嗚咽まで落ち着いたところに「何があったの?」と聞いて思い出させてしまっては、慰めていた3人の行動が徒労になってしまう。
それに沙希がいれば聞く必要などない。
沙希が能力を使って女子生徒と意識を同化させる。その時間は僅か1秒程度。だが、その1秒で情報を一気に取得する為、整理するのに少し時間がかかる。
そして沙希が能力を解いた直後、奈月が女性を元気付ける。
ただ、いくら人当たりの良すぎる奈月といえど、教室で大泣きする程の傷を心に受けた人を完全に回復させることは出来ないに等しい。
場合によっては「専門家」にお願いすることになることもあるのだ。
むしろ、奈月は「専門家」にお願いすることになると予想していたが、今回は運良くどうにか授業を受けれるくらいには回復したようだ。
このように、2人が何かしら人の為に走っていることが多いので、校内では「なんでも解決してくれる2人」として有名になっている。
元を辿れば、奈月と沙希の先代に当たる人が面倒見の良い人だったこともあり、引き継ぎと同時にこうした相談と解決を受け持つようになった。
ひと段落したところで、2人は教室に戻る為廊下を歩き始めた。その道中で、奈月は沙希に「あの女子生徒に何があったか」を聞く。
「いつも通り失恋なんだけど、よっぽど彼氏のことが大好きだったようね……。こんなこと言うのもなんだけど、あれは少々重すぎる気がするわ」
「あ、そうなんだ! それにましてや、多分今回も『新しく好きな人が出来た』ってパターンでしょ?」
「その通り。だけど、別れる・別れないを慎重に話し合いで決めることができないんだもの。最悪、人間不信なんて出てくる可能性もあるわね」
「ちょっと……いや、考えてみるとかなりやばいね」
奈月はもちろん、最悪の可能性を言った沙希も「早く解決しなくては」と思わされる出来事だった。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
書き始めた当初は、割と余裕持って投稿できていたのですが、現在では結構ギリギリとなってしまってます……。
兼業作家さんはどうやって書く時間をうまく使っているんでしょう? ぜひ聞いてみたい……!!
次回の更新予定日は12月6日(水)です。お楽しみに!




