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再びの脱出(1)

 自室へ戻ったけれど、すぐにマリアンネを探しに行くことは出来なかった。

 アタシはロウソクの灯りに照らされた暗い部屋で、一人腕を組む。

「部屋の前に見張りとは徹底しているわね」

 部屋まで付いて来たメイドたちは、扉の外に立っている。

 アタシが仕事に戻るよう言ったら、パーティーが終わるまでここにいますと答えられた。

 父に命令されているのね。

「これじゃあ扉からは出て行けないわ」

 急ぎたいのに、とことん邪魔をしてくる父に苛立ちを感じる。

「でも、大丈夫。出口は扉だけじゃないもの」

 アタシは不敵に笑う。

「抜け出す前に、変装しなきゃ」

 抜け出せても、その先で捕まってしまっては意味がない。

 寝室に入って、クローゼットを開く。

 そこから、深緑色のドレスとウイッグを取り出した。

 女装、再び。

 アタシは薄暗い中、手早くドレスに着替える。

 このドレスは襲撃に巻き込んだお詫びとして、リーゼロッテがこっそり贈ってくれたものだった。

 この姿なら招待客はもちろん、顔さえ見られなければ屋敷のものたちも、アタシだとは気付かないはず。

 アタシは脱走準備を整え、窓の前に立った。

 先日、アタシが脱走して以来、アタシの部屋の窓にはカーテンがかかっていない。

 脱走にカーテンを使ったせいで、脱走出来ないようにカーテンは回収されてしまった。

 アタシの部屋の全ての窓は、鎧戸で閉じられるだけとなっている。

「考えが甘いのよね」

 アタシは目の前の窓を開け放つ。

 夕陽はすでに落ち、外は暗くなっていた。

 清涼な風が窓から入り込んで来て、アタシの髪をふわりと揺らす。

 心地の良い風だけど、今はそれに浸っている場合じゃないわ

 この暗さは脱走するのにちょうどいい。

 アタシは窓枠を掴み、それをひょいとのり越えた。

 実は窓からの脱走に、カーテンやロープは必要ない。

 この前の脱走は、雰囲気を楽しむためにカーテンを使っただけだった。

 アタシは壁の凹凸に指を引っ掛け、スイスイと下りていく。

 久しぶりだけれど、大丈夫なようね。

 まさか前世でのフリークライミングの経験が、こんなところで活かされるとは思わなかったわ。

 前世のアタシは、身体を動かすことが大好きだった。

 健全なものから不健全なものまで。

 その影響で、身体が大きく育ってしまったのは、誤算だったけれどね。

 地面に辿り着くと、アタシは裏門に向けて走り出す。

 今日の死亡フラグを避けるために、分かっていることは少ない。

 今日起きることが『最弱種族の竜槍者』の通りに進むのなら、この屋敷は魔族の襲撃に合う。

 その襲撃でジークベルトの大切な誰かが攫われ、次の日、屋敷の門に無残な姿でくくりつけられているのが発見される。

 そして、その日から、『最弱種族の竜槍者』のジークベルトは狂い始め、復讐のために魔族絶滅へと突き進む。

 これが、アタシの知っている全て。

 大切な誰かの名前は『最弱種族の竜槍者』には載っていなかったけれど、ジークベルトが、“俺”が狂うほど思っている相手なんて一人しかいない。

 たとえ、前世の記憶のせいで色々と変わってしまっているとしても、これだけは分かる。

 前世を思い出す前の“俺”と前世を思い出した“アタシ”が一番大切に思っている相手。

 それは、マリアンネよ。

 家族を殺されたって“貴族”のジークベルトは狂ったりしないわ。

 家族よりも家族としてそばにいたマリアンネだからこそ、『最弱種族の竜槍者』のジークベルトは狂ったのよ。

 幼い“俺”に家族愛を教えてくれたマリアンネだからこそ。

 心臓が痛い。

 走っているせいで呼吸が乱れているけれど、動悸が激しくなる原因がそれだけじゃないことをアタシは感じていた。

 早く裏門へ行かなきゃ。


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