再びの脱出(2)
アタシは屋敷の表を全速力で走る。
もう!
何でこの屋敷はこうも無駄にバカデカいのよ!
ようやく屋敷の端に辿り着き、アタシは壁沿いに屋敷を回り込む。
屋敷の中を突っ切ってしまった方が早いけれど、屋敷の中は誰かと遭遇する可能性が高いからそれは出来ない。
心が急いても、この距離が縮むことはないというのに……。
呼吸をするたびに、心臓が締め付けられるようだった。
早く。
早く行かなきゃ。
嫌よ。
絶対に嫌。
マリアンネを失うなんて。
せっかく未来の記憶を手に入れたのに。
マリアンネの死を避けるチャンスなのに。
台無しになんてさせないんだから!
やっと屋敷の裏側に入ったアタシは、裏門を目指して芝生が敷かれている庭を突っ切る。
庭は屋敷に面した部屋の灯りが漏れていて、暗闇の中でも行く先を照らしてくれている。
もう!
庭も無駄に広い!
屋敷は塀で囲まれているものの、土地だけは余りまくっているから、我が家の庭は広い。
庭でパーティーが出来るように芝生が広がり、芝生の奥は花垣が線対称に配置され、その中央では花のアーチと噴水が目を楽しませる。
裏門はそのさらに奥にあった。
この庭を眺めるために、庭へ出て来る招待客もいるけれど、今はまだ貴族同士の挨拶をしていて庭を見る余裕なんてないから、庭を走っていても見られる心配はないはず。
たまたま窓の外を見たとしても、明るい会場から暗い庭を見ても視界が悪く、動く何かをとらえたとしても、よく見ようとしているうちにアタシは視界から消えてしまっているだろう。
アタシは庭の中央へと突き進み、花のアーチをくぐる。
花垣の間を走り、噴水の脇を通る。
そして、花垣の終わりを示す、入口と同じ花のアーチが見えた時、鋭い剣戟の音が微かに聞こえてきた。
誰かが戦っている……!
マリアンネ!
現在、屋敷には魔法を封じる結界がはられていて、その範囲は屋敷の外にまでおよんでいる。
警備のための結界だけど、今日、襲撃に来る魔族相手では、不利になる可能性が高い。
基本的にスペックの高い悪魔族だけど、魔族の肉体強化型には肉弾戦において遅れをとることがある。
マリアンネは強い。
強いけれど、魔法を封じられ、肉体強化型の魔族に襲われたとしたらどうなるかわからない。
もしかしたら、それが『最弱種族の竜槍者』のマリアンネが攫われた原因かもしれない。
嫌な汗が頬を伝う。
アタシはそれを拭うこともせずに、花のアーチをくぐって、見えた裏門にひた走った。
裏門と言っても基本的には使用人しか使わないので、大人一人が通れるだけの簡素な木戸が塀に取り付けられているだけとなっている。
いっきに攻め込まれることはないけれど、侵入するには容易い。
剣のぶつかり合う音が、しだいに大きくなってくる。
音は塀の外側から聞こえてきていた。
きっと塀の外側で、マリアンネが戦っているのだ。
無事でいてマリアンネ!
祈るような気持ちで、アタシはマリアンネの名前を心の中で唱え続けた。
走るスピードを緩めるのがおしくて、アタシは体当たりするように裏門へとたどり着く。
そして、その勢いのまま、アタシは鍵のかかっていない裏門を開き、塀の外へと出た。
塀の外では、最悪の光景が広がっていた。




