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この大切な時間

 ついに誕生日パーティー当日となった。

 アタシは自室の鏡の前に立ち、今日のために縫われた正装を着て、立ち姿を確認する。

 新緑を思わせるような正装は、とても素晴らしいものだった。

 でも、鏡に映るアタシの顔は、血の気がなく青白く、せっかくの衣装も顔色の悪さでだいなしになっていた。

 暖色系の正装にするべきだったかしら?

 暖かな色合いの正装なら、この顔色の悪さをもう少しカバー出来たはず。

 まあ、今さらそんなことを考えてもしかたないわよね。

 ケガをするなんて思わなかったし、これはしょうがないわ。

 アタシはフゥと軽くため息を吐いた。

「まだかなり痛みますか?」

 後ろから聞かれ、鏡ごしにマリアンネと目が合う。

「大丈夫よ」

 アタシはマリアンネに向けてにっこりと笑った。

 背中の傷の具合はだいぶ良くなった。

 回復魔法を途中でやめたせいで、傷口が完全には塞がっていなかったものの、クラウスの父親の回復魔法はだいぶ効いていたようで、剣で深く斬られたわりには、早めにベッドから離れることが出来た。

 ただ血が止まるまでに流れた血の量が多く、貧血気味だった。

 顔色の悪さもそれが原因で、急に動いたりするとクラクラする。

 アタシはもう一度、鏡の中の自分を見た。

 寝込んでいる間ろくに食べられなかったので、元々細めのすっきりとしたアゴが、さらに鋭くなっていた。

 顔色はもちろん最悪。

 色をなくした頬は、少しこけている。

 目の辺りも窪んだかしら?

 今のアタシは病弱と言っても差し支えないぐらいには、衰えた顔をしていた。

 アタシは鏡の中のそんな自分を見ながら苦笑する。

「酷いわねえ」

 アタシは自分の頬を指でツイと撫でた。

「ジークベルト様」

「なあに?」

「どんな状況になろうとも、私はジークベルト様のお側にあり続けます」

 マリアンネのいつになく真面目な声に驚き、アタシは振り向いてマリアンネを見た。

「急にどうしたの?」

「いえ。思っていたことをお伝えしただけです」

 アタシはマリアンネの真意を探ろうと、マリアンネをじっと見つめた。

 マリアンネは揺らぐことなく、アタシを真っ直ぐに見返している。

 そのマリアンネの瞳から、言った理由は分からないものの、ウソ偽りない気持ちだということが分かった。

 表情が読みにくいマリアンネだけど、アタシに向けてくれるその優しい気持ちは、アタシが物心付いた時からずっと感じていた。

 この冷めた家において、マリアンネだけがアタシを暖かくしてくれた。

 両親は良くも悪くも貴族で、ボルネフェルド家のために生きていた。

 もちろんアタシもボルネフェルド家のために生きることを求められた。

 それが当然だと思いつつも、今世の“俺”は心のどこかで暖かさを欲していた。

 そして、マリアンネはそれを与えてくれた。

「ありがとう」

 アタシは“俺”と“アタシ”の気持ちを込めて、マリアンネに感謝を告げる。

「アナタのおかげで、アタシは幸せな子供時代を過ごすことが出来たのよ。父様よりも、母様よりも、アタシを思ってくれて、とても感謝しているわ。マリアンネがこれからもずっと側にいてくれたら、アタシも凄く嬉しい」

 アタシが微笑むと、マリアンネの顔も笑ったように見えた。

 アタシはマリアンネの笑顔に、さらなる決意を固める。

 この大切な時間を守るために、アタシは今日の死亡フラグを絶対にクリアするわ。

 転生して手に入れたこのチャンスを、絶対に逃すものですか。

 そのために、アタシは思い出した転生前の記憶を、すんなり受け入れたのだから。


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