新章・第二部『ルミナス令嬢の刻印と、崩壊する多元世界の輪舞曲』。第58話。電脳の路地裏と、母の遺志を継ぐハッカー。
第57話で右腕の「紫の刻印」の力を覚醒させ、多元世界の防衛システムを完全に粉砕したアサヒ。
激戦の硝煙が冷めやらぬ近未来都市『ネオ・アルカディア』の路地裏を進む一行の前に、母ユウコがこの世界に遺したという「サイバー地下組織のリーダー」を名乗る謎の新キャラクターが姿を現します――!
もし、良ければ読んでもらえると嬉しいです…
新章・第二部『ルミナス令嬢の刻印と、崩壊する多元世界の輪舞曲』。
第58話。電脳の路地裏と、母の遺志を継ぐハッカー。
前代未聞の紫電の魔法能力で機械の軍勢を消し去った後、私たちは追手を撒くように、ホログラムのネオンが怪しく明滅する路地裏へと滑り込んでいた。
「アサヒ、右腕の具合はどうだい? まだ熱いかい?」
アレンが私の右腕をそっと取り、自分の唇に触れそうなほど近づけて、冷たい闇の魔力で優しく冷やしてくれる。
その琥珀色の瞳は、過保護なまでの心配と、私を独占したいという狂おしい愛で濡れていた。
「アレン、僕だってアサヒの看病がしたいのに! ……あ、アサヒ、僕の服の袖、冷たくて気持ちいいから使って!」
ソルが私の左手をギュッと握りしめながら、黄金の髪を揺らしてアレンを牽制する。
「それにしても、この街……お母さんはここで何をしようとしてたんだろう」
「ふふ、お母さんのことはどうでもいいけど、アサヒちゃんをこんな汚い路地裏に入らせた世界のシステムは、やっぱり夕日がいっぱい切り刻んであげるね……?」
背後から、夕闇の髪を揺らした夕日が私の腰に細い腕を回し、完全にハイライトの消えた瞳でストリートの闇を睨みつけていた。
「おい、お前らイチャつくのはそこまでだ。……誰か来るぞ」
漆黒のコートを翻し、黒い歯車を構えたクロノが鋭い声を上げる。
パチ、パチ、パチ、と。
濡れたアスファルトを叩く足音と共に、ホログラムの光を遮って一人の男が影から歩み出てきた。
サイバー感のある発光するゴーグルを額にかけ、緩く着崩した白いジャケットを纏った青年。
その周囲には、無数の半透明なキーボードやコードが不気味に浮遊している。
「ハハッ、数万の防衛兵器を力づくでハッキング(書き換え)しちまうなんてな。さすが、ユウコさんが命を賭けて遺した『最高機密』だ」
「お前……何者だ」
アレンの周囲に常夜の闇の魔力球が展開され、ソルの全身から黄金の闘気が噴出する。
夕日の双剣がキィィンと鳴り、クロノが時間の針を止める構えを取った。
4人の「アサヒに近づく男は絶対に許さない」という殺気が、路地裏を一瞬で極寒の空間へと変える。
しかし、青年は両手を上げて不敵に笑った。
「おっと、待ってくれよ猛犬共。俺は敵じゃない。ユウコさんに命じられて、このネオ・アルカディアの最下層で世界のバグを回収しているサイバー地下組織『刻の抵抗者』のリーダー――シオンだ」
「シオン……。お母さまを知っているの?」
私が一歩前に出ると、アレンとソルが同時に私の服の裾を引いて引き留める。
「アサヒ、騙されてはいけない。この男、胡散臭すぎるよ」
「そうだよ、アサヒ! お母さんの知り合いだからって、僕たち以外の男を信用しちゃダメだ!」
男たちの凄まじい嫉妬の視線を浴びながらも、シオンはゴーグルを指先でクイと上げ、私を真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、確かな知性と、母への深い敬意が宿っている。
「ユウコさんは、この多元世界の時間が崩壊することを見越していた。だから、君の右腕に『紫の刻印』という名の、世界を再起動するためのプログラムを仕込んだんだ。だが――」
シオンは浮遊する電子キーボードを叩き、私に見せるように一つのデータを空中に投影した。
そこにあったのは、私の時計の形をした、不気味に歪んだ因果の数式。
「この街の支配者『中央電脳・ゴッドアイ』は、君の刻印を奪って、すべての並行世界を自分の管理下に置こうとしている。ユウコさんの遺志を継ぎ、その刻印の真の力を解放したければ、俺たちの隠れ家に来てくれ。君を護るためなら、この世界の全システムをハッキングしてでも協力するよ、令嬢」
シオンが紳士的に私へ右手を差し伸べる。
その瞬間――。
バチバチバチッ!!!
アレンの闇の雷が、ソルの黄金の光線が、そして夕日の漆黒の刃が、シオンの差し伸べた手の数センチ横の地面を容赦なく爆砕した。
「誰の許可を得てアサヒに手を伸ばしているんだい? 死にたいのかな」
「アサヒを『レディ』なんて呼ぶな! ぶっ飛ばすぞ!」
「ふふ……アサヒちゃんに触ろうとする手は、夕日がいっぱい微塵切りにしてあげるね……?」
「おいシオン、俺の調律の邪魔をするな。アサヒを連れていくなら、まず俺たちを納得させてみろ」
クロノまでが冷酷な視線をシオンに突き刺す。
「ひぇ……ユウコさんの言ってた通り、お嬢さんの周りはヤバい男の巣窟だな……」
シオンは冷や汗を流しながらも、楽しそうに肩をすくめた。
新たな仲間か、それとも新たな波乱の幕開けか。
母ユウコが遺した、サイバー世界の謎。
私たちは、相変わらず愛の重すぎる4人の男たちにガッチリと四方を護られながら、シオンに導かれ、電脳世界のさらなる深淵へと足を踏み入れる――。
(第59話へ続く)




