第6章。神話 of 古代領域と、紡がれる因果。第53話。硝煙の告白と、歪み始める世界の調律。
『ルミナス令嬢の失われた記憶 〜二つの世界を繋ぐ時計仕掛けの神話〜』
第6章:神話 of 古代領域と、紡がれる因果。
第53話。硝煙の告白と、歪み始める世界の調律
ドゴォォォォォン……ッ!!!
空間を揺るがす大爆発の光が、刻の回廊の虚無を白く染め上げた。
時空の防衛システム
『因果の番人』
は、アレンの闇、ソルの光、そして夕日の断絶の刃をまともに喰らい、無数の歯車の破片となって完全に霧散していく。
「はぁ、はぁ……。やった、の……?」
限界を超えた『絶対時間停止』の反動で、私の視界がぐらりと揺れた。
膝から崩れ落ちそうになった私の身体を、3つの強い力が同時に支える。
「アサヒ! 無茶をするな、俺の腕の中にいればいいんだ」
「アサヒ、よく頑張ったね……! ほら、僕の胸に寄りかかって!」
「アサヒちゃん、大丈夫? 変な男たちに触られて汚れたところは、後で夕日がいっぱい舐めて綺麗にしてあげるからね……」
アレンが私の腰を抱き、ソルが私の手を引き、夕日が私の首筋に顔を埋めてくる。
バトルの直後だというのに、相変わらず私への独占欲が全開な3人に苦笑いするしかなかった。
だが、緊迫した空気はまだ終わっていなかった。
パチ、パチ、パチ、と。
激しい戦闘の硝煙が漂う回廊に、不気味に響く乾いた拍手の音。
「――実に見事な連携だ。世界の防衛システムを力づくで書き換えるとはな」
「ッ!?」
3人が一斉に私を庇うようにして武器を構え、爆煙の向こうを睨みつける。
そこからゆっくりと歩み出てきたのは、あの漆黒のコートを纏った青年だった。
彼の琥珀色の瞳は、相変わらず冷徹で、けれどどこか寂しげに私を見つめている。
「お前……! しぶとい奴だな。アサヒを諦めて消え失せろ!」
ソルが今にも飛びかからんばかりに闘気を滾らせるが、青年は動じず、ただ静かに私に視線を固定した。
「アサヒ。君がさっき使った力……世界そのものを止める力は、君の母、ユウコが遺した『最大の伏線』だ。だが、それを使ったということは、世界の時間が完全に『未確定』になったことを意味する」
青年は自身の懐から、あの鈍く光る「黒い歯車」を取り出し、世界の心臓部である『螺子巻く心臓』へと視線を向けた。
「説明しろ。お前は一体何者だ。なぜアサヒの過去と、あの御方の名前を知っている」
アレンの冷徹な魔力が青年の足元を縛ろうとするが、青年はただ自嘲気味に笑うだけだった。
「俺の名前はクロノ。この世界の時間を正しく刻むために配置された、ただの『調律者』さ。……いや、君たちの言葉で言うなら、こう言った方が伝わるか?」
青年――クロノは、コートの襟元を少し緩め、信じられない言葉を口にした。
「俺は、地球でユウコが創り上げた、最初の『時空超えのプロトタイプ(試作体)』だよ」
「え……?」
私の思考が一瞬、真っ白になった。
お母さまが創った、試作体……?
「ユウコは君を救うために世界そのものになった。だが、その完璧な因果の辻褄を合わせるために、この世界に『異物』として転生した君たちの存在を監視し、引き剥がす役割が必要だった。それが俺だ」
クロノの瞳に、かすかな熱が宿る。
「アサヒ。君がすべてを思い出し、母の伏線を完全に回収すれば、この世界は救われる。だが引き換えに――君を愛し、君に執着するこの3人の『前世の因果』は消滅し、君の記憶から彼らは完全に消え去る」
「そんな……っ!」
衝撃の事実に、私の息が止まる。
私を深く溺愛してくれるアレン。
地球からの絆を魂に刻み込んだソル。
歪んだ愛で私を全肯定してくれる夕日。
私が真実に辿り着くことは、彼らとの絆を失うこと――。
「フッ……なんだ、そんなことか」
絶望に震える私を安心させるように、アレンが私の髪を優しく撫でた。
彼の微笑みには、一片の迷いもない。
「アサヒ。俺が君を愛したのは、前世の因果などという安い理由じゃない。今、目の前にいる君を愛しているんだ。記憶が消えるなら、何度でも君に恋をして、何度でも君を奪いに行くだけさ」
「そうだよ、アサヒ!」
ソルが私の手をさらに強く握りしめる。
「僕の魂はアサヒの奴隷なんだ。歴史が変わろうが記憶が消えようが、僕の細胞が、本能が、アサヒを絶対に見つけ出すから!」
「ふふ……アサヒちゃん。もし夕日のことを忘れちゃったら、今度はアサヒちゃんを監禁して、夕日だけを愛するように調教してあげるからね?」
夕日のハイライトのない瞳が、狂気的なまでの純愛で爛々と輝く。
3人の、狂おしいほどの愛の告白。
クロノはその光景を呆れたように見つめ、ため息をついた。
「狂っているな……君たちも、君にそこまで狂わされたこの世界も。……だが、嫌いじゃない。来い、アサヒ。因果の最終確定地――『神話の終極』への扉を開けてやる」
クロノが黒い歯車を掲げると、世界の心臓部が激しく鳴り響き、真実へと続く最後の扉が姿を現した。
(第54話へ続く)




