第6章。神話 of 古代領域と、紡がれる因果。第52話。咆哮する因果と、絶対停止の覚醒。
『ルミナス令嬢の失われた記憶 〜二つの世界を繋ぐ時計仕掛けの神話〜』
第6章:神話 of 古代領域と、紡がれる因果
第52話。咆哮する因果と、絶対停止の覚醒
底知れぬ光の濁流が引いた時、私たちが立っていたのは、天地の概念すら存在しない虚無の空間だった。
周囲を囲むのは、星々のように瞬く無数の巨大な歯車。
それらがギチギチと音を立てて噛み合い、世界の時間という血流を巡らせている。
ここが世界の心臓部――
『刻の回廊』。
「アサヒ、大丈夫かい!?」
「絶対に離さないからね、アサヒ!」
「アサヒちゃんに変な虫がつかないように、夕日がずっとくっついててあげる……」
私の身体を抱きしめるアレンの強い腕。
私の右手を恋人繋ぎで固く握りしめるソルの熱い手。
そして、私の背中にぴったりと張り付いて離れない夕日の甘い吐息。
相変わらず尋常ではない3人の愛と執着に包まれながら、私は前方を睨みつけた。
空間の中心にある最も巨大な歯車――
『螺子巻く心臓』
の前に、それは現れた。
グオオオオオオオオオオオオンッ!!!
空間を物理的に噛み砕くような、凄まじい咆哮。
現れたのは、巨大な時計の文字盤と、無数の鋭利な歯車の刃を全身に纏った異形の巨獣――時空の防衛システム
『因果の番人』
だった。
その巨獣が動くだけで、周囲の時空が歪み、私たちの身体に強烈な重圧がのしかかる。
「チッ……! 世界の時間そのものが、アサヒの侵入を拒絶しているというわけか!」
アレンが鋭く息を吐きながら、私の前に立ちはだかった。
天才魔導士である彼の周囲に、常夜の闇を凝縮したような膨大な魔力が膨れ上がる。
「我が愛しきアサヒを害するものは、世界の理であろうと叩き潰す……! 深淵の葬列!」
アレンの放った漆黒の魔力弾が、空間を引き裂きながら番人へと着弾する。
だが、巨獣の周囲を展開する「時間の結界」によって、その絶大な魔法の速度が極限まで遅らされ、消滅させられてしまった。
「魔法が……効かない!? 時間を遅延させて無効化しているのか!」
アレンの驚愕の声。
間髪入れずに、ソルの黄金の髪が激しく逆立った。
「アレンがダメなら、僕が力技でぶち抜く! アサヒに近づく奴は、僕がこの手で絶滅させるんだッ!」
地球での幼馴染「朝日くん」だった頃からは想像もつかない、圧倒的な本能の怒り。
ソルの太陽の瞳が黄金に輝き、彼の全身から神聖なる闘気が爆発した。
空間を跳んだソルが、光の速度で巨獣の結界へと突撃する。
しかし、巨獣が放った「時間停止の波動」がソルを捉えようと迫る。
「危ない、ソル!」私が叫んだ瞬間、夕闇の髪を揺らした夕日が、完全にハイライトの消えた瞳で私の背後から滑り出した。
「アサヒちゃんを困らせるゴミは……夕日が、千回死なせてあげる……!」
夕日は漆黒の双剣を交差させた。
彼女の影が回廊全体に広がり、巨獣の放った時間停止の波動を相殺するように激突する。
だが、世界の心臓部そのものの力を持つ番人の一撃は、3人の最強の連携すらじわじわと押し潰そうとしていた。
「アサヒ……君だけでも、逃げて……!」
アレンが魔力を絞り出しながら私を振り返る。
ソルの足元が止まりかけ、夕日の双剣に亀裂が入る。
大好きなみんなが、私を護るために消し飛ばされようとしている。
前世の地球で、私を遺して逝ってしまった大好きな母・ユウコ。
母が世界の時間の源流と同化し、私を生かすために遺してくれたこの世界で――。
「嫌……嫌よ! もう誰も、私の目の前で失わせたりしない!!」
私の叫びに呼応するように、胸元の銀の懐中時計が、かつてないほどの烈光を放った。
カチリ。
脳内で、何かのロックが外れる音がした。
母が遺した「完璧な伏線」が、私の魂と完全に融合する。
『――アサヒ。その時計の針を、今度はあなたの意志で進めなさい』
母の声が聞こえた。
私の瞳が、銀色の時計の文字盤と同じ輝きへと染まっていく。
「止まれぇぇぇッ!!!」
私が右手を突き出した瞬間、銀の時計から絶対的な波動が解き放たれた。
ドクン、と世界の心臓が跳ねる。
――静寂。
凄まじい咆哮を上げていた巨獣『因果の番人』の動きが、完全にピタリと停止した。
それだけではない。
回廊を巡っていた無数の巨大な歯車も、空間を舞う光の粒子も、全てが完全に凝固している。
母ユウコの力を継承した私自身の能力
――世界そのものの時間を停止させる
『絶対時間停止』
の覚醒だった。
「みんな……今よ! 私が時間を止めている間に、あいつを倒して!」
私の声に、時間が止まった空間の中で、アレン、ソル、夕日の3人だけが自由を取り戻して目を見開いた。
「素晴らしいよ、アサヒ……! 君は本当に、俺の最高の神話だ!」
アレンの漆黒の魔力が、番人の頭上に巨大なブラックホールを形成する。
「アサヒがくれたチャンスだ……! 跡形もなく消し飛べ!」
ソルの全身から、超新星爆発のごとき黄金の光線が放たれる。
「アサヒちゃんのために、最高に綺麗にバラバラにしてあげるね……?」
夕日の漆黒の刃が、巨獣の全身の隙間を無数に切り裂く。
「「「おおおおおおおッ!!!」」」
止まった時間の中で、3人の限界突破した最強の合体攻撃が、無防備な因果の番人へと叩き込まれた。
次の瞬間、私の時間停止が解除されると同時に、回廊全体を揺るがすほどの凄まじい大爆発が巻き起こった。
(第53話へ続く)




