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第2部・第65話。新しい今日と、四人の終わらない神話(第2部・完)。

◆第2部・第65話:新しい今日と、四人の終わらない神話(第2部・完)


ガガガガガ、カチ、カチ、カチカチカチ!!


私たちの絆の光に灼かれ、巨大な『時間の天秤』の歯車が正しく噛み合い、力強く未来へと回り始める。


灰色に変色しかけていた右側の皿――私の故郷である地球の幻影に、ゆっくりと鮮やかで美しい四季の色彩が戻っていくのが見えた。


止まっていた時間が再び力強く動き出し、そこに生きる人々の未来が、今、私たちの手によって完全に救われたのだ。


「お母さん、見て……! 私たち、今を変えられたよ……!」


涙を流しながら微笑む私を、天秤の中央に浮かぶお母さんの幻影は、まるで世界で一番幸せな母親の顔をして、茜色の光の中で優しく抱きしめてくれた。


実体はないはずなのに、私の背中に回されたお母さんの手からは、確かにお日様の匂いがする、あの懐かしいぬくもりが伝わってくる。


『ええ、本当に見事だったわ、アサヒ。過去の後悔を乗り越えて、自分の力で未来を掴み取った貴女は、私の自慢の娘よ』


お母さんは私からそっと身体を離すと、私の両脇を支えるソルと夕日ちゃん、そして私の肩を優しく抱きしめてくれているアレン様を、愛おしそうに見つめた。


『朝日くん、夕陽ちゃん。貴女たちがハイタッチをして繋いでくれた光の鎖は、もう二度と解けることはないわ。……そして、アレンさん。どうかこれからも、アサヒの紡ぐ新しい時間を、一番近くで支えてあげてくださいね』


「――ええ。俺の命が尽き果てるその一秒後まで、アサヒの隣は俺だけの特等席です、ユウコ様」


アレン様が黄金色の双眸を真摯に輝かせ、白銀の魔導衣の裾を正して深く一礼する。


その大人の包容力に満ちた絶対の誓いに、お母さんは心の底から安心したように、ふんわりと優しく微笑んだ。


お母さんの身体が、より純粋な茜色の光の粒子となって、少しずつ世界の時間の源流へと溶け込んでいく。これが、本当の、そして笑顔での別れの時。


『さあ、いきなさい、アサヒ。貴女たちが変えたその輝かしい未来で、大好きな人たちと一緒に、世界で一番幸せになりなさい――』


「うん……! ありがとう、お母さん! 私、絶対に、絶対に幸せになるからね――!!」


私が天に向けて叫んだ瞬間、空間全体がまばゆい純白の光に包まれた。


天秤の装置も、宇宙のような群青色の闇も、すべてが光の粒子となって優しく弾け、心地よい浮遊感が私たちの身体を包み込んでいく。


アレン様の温かい手のひらが、ソルの強く握り返してくる指先が、夕日ちゃんの優しい笑顔が、光の中で一つに溶け合っていった。


◇


カチ、コチ、カチ、コチ。


規則正しい、けれど最高に軽やかで温かい鉄の音が、アルカディア公爵邸の広大な食堂に響き渡っていた。

部屋の壁に掛けられた大きな時計の針は、もう二度と狂うこともなく、私たちの終わらない幸せを祝福するように一秒ずつを刻んでいる。


「――アサヒ様。冷めてしまいますから、どうぞスープをお召し上がりください」


すぐ隣から、鈴の音を転がしたような、世界で一番大好きな優しい声が私を現実に引き戻した。


「あ……ええ、ごめんなさい、ソル。少し、嬉しくてぼんやりしてしまって」


私は上品に仕立てられたレースのハンカチでそっと口元を拭い、目の前のスープ皿に視線を落とした。季節の野菜が美しく彩られた、温かなクリームスープ。ガラス窓から差し込む朝の光が、スープの表面をキラキラと黄金色に揺らしている。


未知の『境界の海』での大冒険を終え、カイくんとも笑顔でバイバイをして元のルミナス号で帰還した私たちは、ついにこの平和な日常へと還ってきたのだ。


「アサヒ様が幸せそうに笑ってくださるなら、僕は何度だってスープを温め直しますよ」


ソルがスープ皿を片付けながら、眩しい黄金の髪を揺らしてニッコリと微笑んだ。


その双眸は、昇り立ての太陽そのもののような輝きを宿している。


もう神々のプログラムに怯える必要なんてどこにもない。


今のソルの瞳には、私への確かな前世の記憶と、狂おしいほどの愛着が満ちていた。


「もう、ソル。朝からアサヒ様に甘えすぎだよ」


ソルの後ろから、夕闇の色をした長い髪をなびかせ、呆れたように口を開いたのは夕日ちゃんだった。


彼女はメイド服を可愛らしく着こなし、私の大好きなハーブティーをテーブルに置く。


「アサヒ様、今日の紅茶は『海の国』での思い出をブレンドした特製です。ソルみたいに暑苦しくなくて、心がとっても落ち着くんですよ」


「ちょっと、夕日! 誰が暑苦しい一途な太陽だって?」



「自分で一途って言っちゃうところが暑苦しいの!」


クスクスと笑いながら二人のやり取りを見つめる。


朝日と夕日がハイタッチをして、新しい明日を連れてくる。


お母さんが絵本に込めたその最高の伏線は、今この場所で、何気ない幸せな日常として完璧に叶っているのだ。


「二人とも、アサヒの前で騒ぎすぎるのは感心しないな」


その時、食堂の重厚な扉を開けて、白銀の魔導衣を優雅にまとったアレン様が入ってきた。

黄金色の双眸を優しく細め、真っ直ぐに私の元へと歩み寄ってくる。


「アレン様」


「おはよう、アサヒ。今日も一段と美しい。大冒険の疲れは残っていないかい?」


アレン様は私のすぐ隣に立つと、私の額にその大きな、温かい手をそっと添えた。


そしてそのまま、私の耳元にそっと顔を寄せ、大人の包容力全開で低く甘い声を囁いた。


「もし少しでも寂しいなら、俺の全魔力を使って君を一日中ベッドで抱きしめて溺愛する魔法を、今すぐここで発動してもいいんだよ?」


「ア、アレン様……っ!?」


顔がカッと一気に赤くなる。

すかさずソルが「ちょっとアレン、さりげなくお姉様を口説かないでください!」と間に割り込み、夕日ちゃんも「そうだよ、アレン様は本当に抜け駆けが多すぎ!」と怒り出す。


そんな大好きな三人を見つめながら、私は胸の奥が温かいお日様の光で満たされていくのを感じていた。


(お母さん、見てる? 私、今最高に幸せだよ――)


手元にある、今はもう白紙ではなくなったお母さんの預言書。


そこには、私たち四人が笑い合うこれからの新しい未来のストーリーが、静かに、けれど確かに紡がれ始めていた。


過去の後悔を乗り越え、前を向いて生きると決めた私の手には、みんなと創り出す無限の未来が広がっている。


「アサヒ、行こう。君が紡ぐ、新しい今日の始まりだ」

アレン様が優しく手を差し伸べる。


「うん! どこまでも一緒に行こうね、お姉様!」


「アサヒ様、大好き!」


「ええ……! 行きましょう、みんな!」


私はアレン様の手を取り、ソルの手を引き、夕日ちゃんの笑顔に応えながら、光の満ちる

未来へと力強く一歩を踏み出した。



時計仕掛けの神話はここに美しく完結し、私たちの、誰にも予測できない眩しい物語が、今ここから新しく始まっていく――。




(『ルミナス令嬢の失われた記憶 〜二つの世界を繋ぐ時計仕掛けの神話〜』第2部・完 / 大団円)

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