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第5章。時計仕掛けの神域と、始まりの部屋。第45話。至高神の降臨と、未来へ架かるオレンジの道。

『ルミナス令嬢の失われた記憶 〜二つの世界を繋ぐ時計仕掛けの神話〜』


第5章。時計仕掛けの神域と、始まりの部屋


第45話。至高神の降臨と、未来へ架かるオレンジの道


「――そこまでにせよ、時間の迷子たちよ。因果を狂わせる魂に、さらなる絶望を与えん」


神殿の最深部、お母様ユウコの遺言が遺されていたクリスタルの小部屋の天井が、バリバリとガラスが砕け散るような凄まじい轟音を立てて引きちぎれた。


その空間の裂け目の奥から、宇宙の深淵のような闇の目をまとった、世界の理を司る


【時空の至高神】


が、圧倒的な神威(しんい)のプレッシャーを放ちながら、ゆっくりと私たちの頭上へと降臨してきた。


至高神がその巨大な半透明の手をかざした瞬間、神殿全体を揺るがすほどの激しい暴風が吹き荒れ、重力が上下左右へと狂ったように反転し始めた。


「アサヒ、僕の後ろへ!!」


ソルが私の前に瞬時に飛び出し、黄金色の魔導剣を引き抜いて構えた。


彼の身体からあふれ出す『未来(明日)』の黄金の魔力が、神の威圧感に押しつぶされそうになっていた冷たい空気を、熱い『黄金の烈風』へと激しく塗り替えていく。


「アサヒ様、足元をしっかり固定するよ! 時空反転――『刻の錨(クロノ・アンカー)』!!」


アレン様も血を吐きながら杖を床に強く突きたて、私たちの足元に幾重にも重なる巨大な黄金色の時空魔法陣を展開してくれた。


お互いに私を巡って静かに意地を張り合い、じれったい恋の火花を散らしていた二人。


なのに、この絶望的な戦いの中では、一言交わすだけで完璧に呼吸を合わせ、無言の信頼で背中を預け合っている。


その最高にかっこいい男たちの友情の絆を、私は誇らしく思いながら、ソルに貰ったお菓子を左手で大切に胸へと抱きしめた。


『異界の魂アサヒよ。なぜお前が力を振るうたびに、世界が朝焼けのオレンジ色に染まるか知っているか?』


至高神の、すべての時間を震わせるような重低音の声が、天から降ってきた。


『この世界の理において、ソルは生まれ続ける【未来】。クレピュスクは過ぎ去った【過去】。 shadow(そして)お前――アサヒ・ルミナスよ。お前の魂は、世界にただ一つしか存在しない【現在(いま)】の時間そのものなのだ。お前が「いま」の命を燃やすからこそ、交われぬはずの【過去】と【未来】の歯車がガチリと噛み合い、世界で一番美しい朝焼けの奇跡が起きていたのだよ。だが、その強すぎる繋がりは、もう一方の異界(地球)との世界線を引きちぎる。大いなる消滅が来る前に、お前の魂を消去して世界の理を正そう』


至高神が冷酷に手を掲げると、天空の星空の奥から、山ほども巨大な『神の光の秒針の槍』が、空間そのものをドロドロに溶かしながら、私を目がけて真っ直ぐに突き降ろされてきた!


「アサヒの『いま』を、神様たちなんかに消させない!!」


ソルが猛烈な叫び声を上げて天空へと跳躍した。


オレンジの炎の衣を全身にまとったソルは、魔導剣から何千という光の矢を放ち、神の槍の風圧を真っ向から撃ち破っていく。


アレン様も最後の力を振り絞り、杖から放つ黄金の時空魔法でソルのスピードを何倍にも加速させる。


クレピュスクも茜色のドレスを翻し、アメジスト色の精霊魔法の矢を一斉に放ってソルの突撃を援護した。


4人の心が美しく重なり合い、まるで光の円舞曲(ワルツ)のように連動した最高のコンビネーション空中戦!


だが、至高神の力はあまりにも圧倒的だった。


傷を負っても瞬時に再生する神の槍の猛攻の前に、アレン様の結界が粉々に砕け散り、ソルも空中からはじき飛ばされて床へと激しく打ち付けられた。


「くっ……、あああぁぁぁっ!」


「ソル! アレン様!!」


二人の身体から魔力が消えかけ、神の二の槍、三の槍が、容赦なく私を押しつぶすために天から振り下ろされる。


(いやだ……! 誰も死なせない! 過去を呪って立ち止まるのは、もう終わりなんだ!)


私は恐怖を完全にかなぐり捨て、胸のポケットの懐中時計を強く強く握りしめながら、天の神々に向かって両手を真っ直ぐに突き出した。


私の魂の奥底からあふれ出したのは、あの生まれたての未来の熱――『朝焼けのオレンジ色』の魔力のすべてだった。


教えてくれてありがとう。


私の『いま』は、ただの1秒じゃない。


ソルと、アレン様と、クレピュスクと、お母様と出会えた、この最高の『いま』が、あなたたちが決めた最悪の未来を、全部ひっくり返してみせる!!」



私の叫びと同時に、私の手の中から放たれたオレンジ色の光の波動が、これまでにない眩しい火花を散らして爆発した。


アサヒの『いま』の覚醒によって、


新技『刻限の輝石(クロノ・ルミナス)』


の光が神殿全体へと波打って広がると、地球を水没させていた時空の嵐が、


ジジジ……


と音を立てて、一瞬にしてアメジスト色の美しい結晶へと次々に浄化されていった。


地球のビル群の崩壊がピタリと止まり、異世界のクリスタルの街並みも、本来の輝きを取り戻していく。


衝突しかけていた二つの世界線が、崩壊することなく、完璧に一本の「メビウスの輪」へと繋ぎ直されたのだ。


「すごい……! 世界の時間のネジが、新しく巻き直されていく……!」


ソルが、その黄金色の瞳に熱い感動の涙を浮かべながら、私を見つめた。


ソルは魔導剣を消し、私の右手をその細い手でぎゅっと包み込むようにして握りしめてくれた。


朝、記憶を失って目覚めたはずなのに、彼の手のひらから伝わってくる温もりは、本能で私を絶対に離したくないと熱く叫んでいた。


「私は絶対に、ソルも、クレピュスクも、地球も、この世界も、全部諦めない! さあ、私たちの新しい明日を始めよう!」


時計の秒針が、二つの世界の未来を救うための「本当のやり直し」へ向けて、滑らかに時を刻み始める。


まばゆい朝焼けのオレンジ色の光が神殿のすべてを優しく包み込み、私たちは激しいバトルの終わりを肌で感じていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……。見事な共鳴魔法だったね、アサヒ様」


私の左隣に立つアレン様が、白銀の魔導衣の裾を夕風に揺らしながら、穏やかな優しい笑みを私に向けてくれた。


でも、彼の黄金色の瞳は、ソルが強く繋いだ私たちの手元を一瞬だけ寂しげに見つめていた。


アレン様は私の前世の孤独に、いつも目線だけで一番深く寄り添ってくれる。


そのじれったくて切ない距離感に、私の胸はキュンと小さく高鳴った。


世界線の衝突は止まった。


けれど、アレン様が『始まりの時計』の文字盤を見つめながら、その表情を真剣なものへと引き締めた。


「アサヒ様。二つの世界は繋ぎ直されたけれど、世界のネジを『完全に巻き直す』ためには、まだここから先があるんだ。ほら、見てごらん。時計の奥に、新しい扉が現れたよ」


アレン様が指さした巨大な時計の文字盤の真ん中。


そこには、お母様ユウコとソル、アレンの先祖たちが数百年前の過去に神々と戦ったという、さらなる奥深くの【神話の古代領域】へと続く、光のゲートがカチリと音を立てて開かれていた。


過去は変えられない。


お母様が地球で亡くなってしまった悲しい過去も、ソルが毎日記憶を失ってしまう残酷な境遇も、変えることはできない。


けれど、私たちが手を取り合って『いま』を生きているこの強い絆だけは、何があっても絶対に変わらない本物の奇跡だ。


16歳の私の胸の奥で、新たなる覚醒の火花が小さく散った。


二人の男の子とのじれったい恋と友情を胸に秘め、お母様たちが遺してくれた本当の時間の謎を完全に解き明かすための、ハラハラドキドキの壮絶なる時計仕掛けのファンタジーは、この中央の神殿の奥から、さらなる未知の新章の大冒険へと、激しくその運命のネジを巻き直していこうとしていた。


(第5章・最終決戦編/第45話・おわり)

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