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第5章。時計仕掛けの神域と、始まりの部屋。第37話。預言の指し示す場所と、旅立ちの夜。

『ルミナス令嬢の失われた記憶 〜二つの世界を繋ぐ時計仕掛けの神話〜』


第5章。時計仕掛けの神域と、始まりの部屋


第37話。預言の指し示す場所と、旅立ちの夜


地下の禁忌書庫での激しい魔法戦を終え、ルミナス公爵邸の私の部屋に戻ってきた頃には、エルドラドの空はすっかり深い濃紺の夜に包まれていた。


「お嬢様、今夜は本当に早くお休みになってくださいませ。ミリーは心配で仕方がありませんわ」


ミリーが心配そうに私の寝支度を整え、部屋の明かりを落として静かに退室していった。


扉が閉まり、部屋に完全な静寂が訪れる。


大きな窓から差し込む青い月光が、床の大理石を冷たく照らしていた。


私はベッドから下りて、裸足のまま、部屋の真ん中へと歩み出た。


胸のポケットから、あの地下書庫で手に入れたお母様ユウコの『白紙の預言書』を取り出し、そっと両手で抱きしめる。


私の手が触れている部分から、じわり、じわりと、夕暮れの美しい茜色の光が滲み出し、そこには新たな『古代の神聖文字』が道標のように浮かび上がっていた。


「……西の谷の、古い遺跡……」


それが、お母様の本が指し示した、次なる試練の場所だった。


私はゆっくりと顔を上げ、ドレッサーの上にある大きなクリスタルの鏡を見た。


鏡に映る私は、確かに16歳のルミナス公爵令嬢だ。


だけど、その背後に一瞬だけ、激しい雨に打たれて水没していく『灰色の異界』の影が重なり合う。


そして、私の耳の奥に、あの不気味な【壊れた踏切の警報機】のカン、カン、カン……という音が、今も幻聴となって小さく響き渡っていた。


(お母様……。あなたは本当に、あの地球の踏切の向こう側から、この世界へやってきたの?)


胸の動悸が、破裂しそうなほど激しくなる。


この部屋にある引き出しも、大きな鏡も、壁の神様の絵も、白い扉も。


すべてはお母様が私を救うために遺してくれた時計の部品。


そして、今日、地下書庫で二人の男の子が私の両手を握ってくれたときの、あの温かい手のひらの温度が、今も私の両手に心地よい余韻となって残っていた。


記憶を失くしてしまう不器用な少年ソル。


過去をすべて背負って妖しく微笑む少年アレン様。


二人がアサヒを巡って、言葉には出さないけれど、静かに嫉妬し合い、意地を張り合っていたじれったい距離感…、


でも、戦いの中ではお互いを100%信頼して背中を預け合っていた、男たちの友情の絆に


(私は……二人のどちらの心にも、まだ応えることはできない。……でも、私は絶対に、二人を神様たちの冷たい秒針になんて渡さない!)


過去は変えられない。


お母様が地球で亡くなってしまった悲しい過去も、ソルが毎日記憶を失ってしまう残酷な境遇も、変えることはできない。


けれど、私たちが手を取り合って『いま』を生きているこの強い絆だけは、何があっても絶対に変わらない本物の奇跡だ。


私は白紙の預言書と懐中時計を胸に強く抱きしめ、暗い部屋の中でぽつりと呟いた。


「さあ、私たちの新しい明日を始めよう」


運命(昨日)に流されるだけの令嬢ではなく――私自身の『いま』で、お母様が遺してくれた優しさの謎を解き明かすために。


ソルとアレン様、二人の男の子とのじれったい恋と友情を胸に秘め、二つの世界の未来をその手で掴み取るための、新たなる壮絶なる時計仕掛けの戦いが、この静かな公爵邸の夜から、いよいよ本格的に幕を開けようとしていた。


(第37話・おわり)

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