第5章。時計仕掛けの神域と、始まりの部屋。第36話。書庫の迎撃戦と、三つの光の円舞曲(ワルツ)。
『ルミナス令嬢の失われた記憶 〜二つの世界を繋ぐ時計仕掛けの神話〜』
第5章。時計仕掛けの神域と、始まりの部屋
第36話。書庫の迎撃戦と、三つの光の円舞曲
「グァァァァァァッ!!」
『星刻の禁忌書庫』の天井の闇をバリバリと引きちぎり、現れたのは、全身が古びた青銅の歯車でできた巨大な『時間喰いの魔獣』たちだった。
彼らが巨大な爪を振り下ろすたびに、何万冊もの貴重な魔導書が収められた本棚が、凄まじい音を立てて粉砕されていく。
「アサヒ、僕の背中に隠れて! こいつらは僕が全部バラバラにしてやる!」
ソルが黄金色の魔導剣を引き抜き、その身体から『未来(明日)』の黄金の魔力を爆発させた。
彼は地面を強く蹴り上げると、浮遊の魔法で本棚の迷路をすり抜けるようにして空中へと舞い上がり、魔獣の群れに向かって真っ直ぐに突撃していった。
「ソル、一人で突っ込むなと言っただろう。……アサヒ様、僕の結界のなかにいて」
アレン様が私の前に一歩踏み出し、掲げた白い手から黄金色の『時空結界』を展開する。
「時空反転――『刻の障壁』!!」
ドゴォォォン!!!
魔獣が放った、時空を削り取る紫色の光の弾幕が、アレン様の創り出した障壁に激突し、激しい爆音と共に火花を散らして弾き返された。
衝撃の風圧で、私のドレスの裾とアレン様の白銀の魔導衣が激しくなびく。
「ソル! 右の棚の影からもう一体来ているわ!」
私が叫びながら、空中を飛ぶソルへと視線を送る。
「オッケー、アサヒ! アレン、そいつの動きを止めてくれ!」
ソルが空中で身を翻しながら、背後のアレン様へと鋭い声を飛ばした。
「やれやれ、人使いが荒いね」
アレン様は不敵に微笑むと、杖を強く床に突きたてた。
「『時間停止』――!!」
アレン様が放った黄金の光の波動が空間を駆け抜けると、ソルの死角を狙って突進してきた巨大な魔獣の動きが、本棚ごと完全に『ピタリと静止して』固まった。
「今だ、ソル!」
「ハァァァァァッ!!」
動きを止められた魔獣に向かって、ソルが空中から急降下し、魔導剣から何千という黄金の光の矢を放ちながら一刀両断にする。
まばゆい光の爆発と共に、魔獣はきらきらとした光の粒子となって消滅していった。
言葉を交わさずとも、お互いの強さを100%信頼し合っているからこそできる、ソルとアレン様の連携攻撃。
アサヒを巡って静かに意地を張り合う二人。
なのに、戦いの中では背中を預け合う本物の『絆』がそこにはあった。
熱い空気のなか、さらに三体の魔獣が、私を確実に消滅させるために一斉に襲いかかってきた。
「ソル、アレン様、私の『いま』を使って!!」
私は恐怖をかなぐり捨て、胸のポケットの懐中時計を強く握りしめながら、二人の背中に向かって両手を真っ直ぐに突き出した。
私の魂の底からあふれ出したのは、過去と未来を完璧に繋ぎ合わせる、あの温かい『朝焼けのオレンジ色』の魔力のすべてだった。
ドカァァァァァン!!!
私の放ったオレンジ色の光の波動が、ソルの黄金の剣、そしてアレン様の時空魔法と完全に一つに融合した。
三つの異なる光が混ざり合い、書庫の暗闇全体を包み込むほどの巨大な「朝焼けのオレンジ色の炎」へと膨れ上がる。
それは、まるで三人の心が美しく重なり合って踊る、光の円舞曲のようだった。
「これで、終わりだぁぁぁッ!!」
ソルがオレンジの炎をまとった巨大な光の刃を天空に向かって一閃し、アレン様がその軌道を魔術で加速させる。
凄まじい光の斬撃が、神々が遣わしたすべての魔獣を一瞬にして跡形もなく吹き飛ばし、完全に浄化していった。
崩壊しかけていた地下書庫の空間がゆっくりと修復され、元の静かな暗闇が戻ってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ソルが剣を消し、着地して私を見てにっこりと微笑んだ。
アレン様も、少し乱れた髪をかき上げながら、穏やかな優しい笑みを私に向けている。
お互いを意識し合う想いが合わさった時、私たちの魔力は神々の力を超える無敵の奇跡を起こしたのだ。
しかし、戦いが終わった静寂のなか、私の手の中の懐中時計が、カチリ……と重い音を立てて、文字盤の奥で新しい時空の波長を刻み始めた。
同時に、私の視界の半分に、
あの地球の
【壊れた踏切の警報機】の
カン、カン、カン……
という不気味な音が、よりハッキリとした音量で不穏に響き渡る。
「アサヒ様……。どうやら、お母様がこの本に遺した茜色の文字の続きが、次の目的地の座標を教えてくれているようだね」
アレン様が、机の上の『白紙の預言書』を見つめながら、その黄金色の瞳を妖しく光らせた。
お母様ユウコが遺した謎、そしてじれったい三角関係を胸に秘めたまま立ち向かう、新たなる世界の危機の兆候。
二つの世界の運命をかけた、ハラハラドキドキの壮絶なる時計仕掛けのファンタジーは、書庫の暗闇を抜けて、さらなる未知の深淵へと、激しくその運命のネジを巻き直していこうとしていた。
(第36話・おわり)




