↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
32/103

第5章。時計仕掛けの神域と、始まりの部屋。第33話。始まりの残影と、時計とうの決闘。

『ルミナス令嬢の失われた記憶 〜二つの世界を繋ぐ時計仕掛けの神話〜』


第5章。時計仕掛けの神域と、始まりの部屋


第33話。始まりの残影と、時計塔の決闘


翌日の放課後、


私たちは約束通り、学園の最奥にそびえ立つ


【始まりの時計塔】


の最上階へと足を運んでいた。


窓一面から差し込む燃えるような夕日の茜光せんこうが、床の白大理石を真っ赤に染め上げている。


周囲の壁でカチ、カチ、と静かに回り続ける無数の真鍮の歯車たちの音が、部屋の中に心地よい鼓動のような静寂を作っていた。


「アサヒ様、足元が少し滑りやすいから気をつけて。僕の少し後ろを歩くといいよ」


アレン様が白銀の魔導衣の裾を優しく揺らしながら、油断のない足取りで先頭を歩く。


彼がさりげなく私を気遣ってくれるたび、私はその大人の横顔に、少しだけ胸がキュンと切なくなるのを感じていた。


アレン様は、私が一人で抱え込んでいる前世の記憶の孤独を、誰よりも目線だけで優しく包み込んでくれる。


「おい、アレン。アサヒの手を引くのは僕の役目だろ」


すぐ後ろから、ソルが少しぶっきらぼうな声を上げて、私の右手をその細い手でギュッと強く握りしめた。



ソルの手は、相変わらず私の知っている、あの世界で一番愛おしい【魂の温度】を宿している。


今日の朝も記憶を神々に消されて目覚めたはずなのに、彼は私の隣に立つと、言葉ではなくその手の熱さだけで「君を絶対に離さない」と伝えてくるのだ。


「もーう……二人とも、私は子供じゃないわよ」


私は二人の不器用な優しさに頬をほんのり赤くしながらも、じれったくて温かいその絆に、深く自然な笑みがこぼれてしまった。


お互いに「こいつには負けない」と背中を預け合うソルとアレン様。


この二人がいてくれるからこそ、私はどんな過酷な運命にだって立ち向かえる。


「さあ、着いたよ。ここがこの塔の時間の心臓部――『刻限の祭壇』さ」


アレン様が立ち止まった部屋の中央には、巨大なクリスタルでできた日時計のような祭壇が鎮座していた。


アサヒが胸のポケットの懐中時計をそっと取り出し、その祭壇の真ん中に触れようとした、


その瞬間だった。


キィィィィィン――――!!


時計塔全体に、耳鳴りのような、でもどこか懐かしくて神聖な高い音色が響き渡った。


祭壇のクリスタルが眩しいオレンジ色に脈打ち、その光の膜の向こうから、じわじわと一人の女性の優しい『声の残影』が、幻聴のように直接、頭の中に響いてきたのだ。


『アサヒ……聞こえる? 過去(昨日)を変えることはできないけれど、あなたが仲間と紡いだその「いま」の温もりは、すべての未来を塗り替える本物の奇跡になるのよ……』


「お母様……ユウコの声……!」


私が涙を流してその温かい声を抱きしめようとした、まさにその刹那。


ガガガガガガガッ!!!


時計塔のすべての真鍮の歯車が耳を劈くような悲鳴を上げて急停止し、窓の外の茜色の空が、何の前触れもなく不気味などす黒い紫色へと一転した。


空間の裂け目から現れたのは、これまでの何倍も巨大な、全身に時計の文字盤をまとった神々の直属の『時間の守護巨獣』だった。


巨獣は冷酷な秒針の音を轟かせながら、異界の魂である私を消滅させるために一斉に突撃してきた!


「アサヒ、僕の後ろへ!!」


ソルが猛烈な叫び声を上げて私の前に飛び出した。


彼が右手を天空へと掲げると、まばゆい黄金色の魔導剣が空間から現れ、その身体から『未来(明日)』を司る圧倒的な魔力が爆発した!


ソルは重力を無視して時計塔の壁を垂直に走り抜け、巨大な氷と光のホーミングレーザーを何千と一斉に放ちながら、巨獣に向かって音速のスピードで突撃していく!


ドゴォォォン! ズガガガガァァァン!!


「僕だって、ただ守られているだけじゃないさ! 『刻限の反転結界』、展開!!」


アレン様も叫び、掲げた両手から巨大な黄金色の時空魔法の陣を前方に突き出した。


アレン様が放った魔法の波が、巨獣の放った時空を削り取る光の槍の軌道をグニャリとねじ曲げ、ソルの突撃のための最高の進路を作り出していく。


言葉はなくとも完璧に噛み合う、ソルとアレン様の最高にかっこいい共闘バトル。


「アサヒ、今だよ! 君のその温かい光を、僕たちの『いま』に貸して!」


空中でソルが私を振り返り、最高の魂の笑顔を向けた。


「ええ……! いって、二人とも!!」


私は胸の懐中時計を強く握りしめ、二人の魔法に向かって両手を真っ直ぐに突き出した。


私の魂の底からあふれ出したのは、過去と未来のレールをガチリと繋ぎ合わせる、世界で一番温かい『朝焼けのオレンジ色』の魔力のすべてだった。


黄金と茜色、


そして


オレンジ色


の三つの光が完全に一つに融合し、ソルの剣の輝きが世界のすべてを照らし出すほどの圧倒的な火力へと限界突破した!


「ハァァァァァッ!!!」


ソルの放った巨大な朝焼けの斬撃が、神々が遣わした巨獣を、そして歪んだ紫色の嵐を一瞬にして跡形もなく吹き飛ばし、完全に浄化していった。


割れていた空がゆっくりと修復され、世界に静かな夕暮れの茜色が戻ってくる。


「はぁ、はぁ、はぁ……。やったね、アサヒ」


ソルが剣を消し、着地して私を見てにっこりと微笑んだ。


アレン様も穏やかな笑みを浮かべて私を見つめている。


過去は変えられない。けれど、この二人と手を繋いで生きている『いま』の温もりは、何があっても絶対に変わらない本物の絆だ。


お母様ユウコが遺してくれた優しさの謎を解き明かし、お互いを意識し合うじれったい恋と友情を胸に秘めたまま、私たちの新たなる壮大なる時計仕掛けの神話が、この放課後の時計塔から、さらにハラハラドキドキの速度を上げて動き出そうとしていた。


(第33話・おわり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。