第5章。時計仕掛けの神域と、始まりの部屋。第30話。交差点のハイタッチと、繋がった明日。
『ルミナス令嬢の失われた記憶 〜二つの世界を繋ぐ時計仕掛けの神話〜』
第5章。時計仕掛けの神域と、始まりの部屋
第30話。交差点のハイタッチと、繋がった明日
キィィィィィン――――!!
私の放った『朝焼けのオレンジ色』の光の波動が、崩壊しかけていた【時計仕掛けの神域】のすべてを温かく包み込んだ。
至高神が放った巨大な光の槍も、世界を腐らせようとしていた黒いモヤも、その圧倒的な熱に触れた瞬間、きらきらとした光の粒子となって虚空へと溶けていく。
私の手の中にある懐中時計の文字盤の奥で、四つの歯車がガチリ、ガチリと音を立てて完璧な一つの形に噛み合い、最も美しい音色を響かせながら高速で回転を始めていた。
「すごい……! 世界の時間のネジが、新しく巻き直されていく……!」
床に膝をついていたアレン様が、驚愕にその黄金色の目を見開いて呟いた。
四角い窓の向こう側に映し出されていた【灰色の異界(地球)】の景色に、劇的な変化が起きる。
街を飲み込もうとしていた激しい濁流や竜巻が、私の放ったオレンジ色の熱を浴びた瞬間、シュワシュワと音を立てて、透き通るアメジスト色の美しい結晶へと次々に浄化されていったのだ。
ビル群の崩壊がピタリと止まり、地球の時空の歪みが、目に見えるほどの美しい光のレールとなって修復されていく。
衝突しかけていた二つの世界線が、壊れることなく、完璧に一本の「メビウスの輪」へと繋ぎ直されたのだ。
「アサヒ、今だよ! 二つの世界に、本物の明日を連れてこよう!」
ソルの叫び声に、私は力強くうなずいた。
気がつくと、私とソル、アレン様、そして私の胸に抱えられた精霊クレピュスクの4人は、神の領域の扉を通り抜け、すべての時間が十字に交わるあの【ひかりの交差点】の真ん中へと戻ってきていた。
空を見上げると、そこには夜の闇も氷の冷たさもどこへ消えたのか分からないくらい、燃えるような、息をのむほどに美しい朝焼けのオレンジ色の空が、どこまでも広がっていた。
「クレピュスク、行けるかい?」
ソルが黄金色の魔導剣を消し、隣に立つ茜色の精霊へと微笑みかけた。
私の光によって呪いを浄化されたクレピュスクは、まだ満身創痍でありながらも、その茜色の瞳に強い決意の光を宿してしっかりと立ち上がった。
「ええ……! 私たちの本当の役目を、いま果たす時ね、ソル!」
二人はしっかりと頷き合うと、修復されたメビウスのレールの上を、光の速度で同時に走り出した。
未来(明日)へと向かってレールの表側を走る、黄金の髪の少年ソル。
過去(昨日)の記憶を抱きしめてレールの裏側を走る、茜色のドレスの少女クレピュスク。
真逆の時間を走る二人は、この【ひかりの交差点】のちょうど真ん中、時間の反転する『ねじれの位置』へと、猛スピードで同時に差し掛かった。
二人がお互いに正面を向き、満面の笑顔で、その小さな右手を真っ直ぐに伸ばし合う。
パシィィィィン――――!!!
交差点の空間全体に、世界で一番美しくて力強い、光のハイタッチの音が響き渡った。
その瞬間、
二人の手のひらの間から、カッと視界のすべてを白く染めるほどの、凄まじいオレンジ色の光の津波が爆発した!
二つの異なる時間の魔力が完全に溶け合い、十字の道路の床から、遙か彼方の地平線に向かって、一本の長い黄金色の「光の道」が、地球へ、そして異世界へと向かってまっすぐに架けられていく。
「アサヒ、僕たちを信じてくれてありがとう!」
「また地上の窓の向こうで、新しい明日で会おうね!」
光の道の向こう側から、ソルとクレピュスクのまばゆい笑顔と声が聞こえた。
二人の放った光の波が世界中を駆け抜けると、止まっていた噴水の水が滑らかに流れ落ち、異世界のすべての街に、生命の通う温かい朝焼けの風が流れ込んでいった。
「終わったんだね……。二つの世界が、君の『いま』の力で救われたんだ」
アレン様が私の隣に立ち、穏やかな、でもどこか誇らしげな微笑みを私に向けた。
手の中の懐中時計は、もう二度と激しく逆回転することはないというように、静かに、現在の時間を刻みながら深い眠りについていた。
溢れる朝焼けのオレンジ色の光が私たちの身体を優しく包み込み、重力が消えていく。
お母様ユウコが遺してくれた優しさの謎を解き明かし、大切な仲間たちと共にすべての未来を繋ぎ止めた私。
壮大なる神話のバトルの余韻を残しながら、私たちの身体は、旅の始まりの場所である、あのミリーの待つルミナス公爵邸の部屋へと、ゆっくりと帰還していくのを感じていた。
(第30話・おわり)




