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第5章。時計仕掛けof神域と、始まりの部屋。第28話。開かずの扉の向こう側。

『ルミナス令嬢の失われた記憶 〜二つの世界を繋ぐ時計仕掛けの神話〜』


第5章。時計仕掛け of 神域と、始まりの部屋


第28話。開かずの扉の向こう側


「アサヒ、光のネジが全部巻かれたよ! 世界の歯車が、連動して動いているんだ!」


ソルの驚きに満ちた叫び声が、まばゆい純白の光の渦の中に響き渡った。


私の胸のポケットにある金色の懐中時計。


その奥で、これまで世界中を巡って集めてきた四つの鍵――


東の黄金


西のアメジスト


南の深緑


そして


北の純白


の歯車のすべてが、ガチリ、ガチリ、ガチリ……!と、恐ろしいほどの正確さで噛み合い、猛烈な速度で回転を始めていた。


時計の文字盤からあふれ出したのは、夜の闇も氷の冷たさもすべてを温かく包み込むような、あの圧倒的な『朝焼けのオレンジ色』の光の津波だった。


身体が強烈な時空の重力によって上へ、上へと音速のスピードで引き上げられていく。



どれほどの時間が経っただろう。



不意に激しい光の暴風が止み、私の足の裏に、ひどく懐かしい『冷たい大理石の床』の感触が戻ってきた。


「はぁ、はぁっ…… 。 ここは……?」


私が荒い息を吐きながらハッと目を開けると、そこは永久凍土の氷の城でも、あの透明な交差点でもなかった。


頭上には、宇宙の深淵のような果てしない星空が広がり、周囲には、世界のすべての時間線を監視するかのように、無数の巨大な時計の歯車が静かにカチ、カチ、と音を立てて回っている。


エルドラドの理の最上階――


世界の創造主たる神々が住まう領域


【時計仕掛けの神域】。


「すごい場所だね……。空気のなかに、時間の魔力がそのまま満ちているみたいだ」


ソルが黄金色の魔導剣を構えながら、油断なく周囲を警戒する。


アレン様も白銀の魔導衣を正し、緊迫した表情で神殿の奥を見つめていた。


「アサヒ様、あそこを見て。あそこに、この世界のすべての時間の中心点である『開かずの扉』がある」


アレン様が指さした神殿の最深部。


そこには、神々しい神聖な光を放つ、巨大な大理石の壁がそびえ立っていた。


そしてその壁の真ん中に、


ぽつんと、一つの


【重厚な木製の白い扉】


がはめ込まれていたのだ。


「あの扉は……!」


私は息を呑んだ。


それは、今日まで何度も私の視界にノイズとしてフラッシュバックしていた、


あのルミナス公爵邸にある


【私の部屋の入り口の扉】


と、全く同じ形をしていた。


「行きましょう。あの扉の向こうに、すべての答えがあるわ」


私は手の中の懐中時計を強く抱きしめ、ソルとアレン様と共に、その白い扉の前へと歩み進めた。


心臓が破裂しそうなほど激しく脈打つ。


私は意を決して両手を伸ばし、その冷たい真鍮のドアノブを回して、扉を思い切り内側へと押し開いた。


まばゆい光が扉の隙間からあふれ出し、私たちは吸い込まれるようにして中へと足を踏み込んだ。


光が収まり、私の視界に飛び込んできたその景色の全貌に、私はあまりの衝撃に言葉を失い、その場に立ち尽くした。


「嘘……でしょ……?」


そこに広がっていたのは、きらびやかな神の世界の宮殿でも、見たこともない神聖な祭壇でもなかった。


見上げるほどに高い天井。


薔薇パールの美しいアンティーク家具 。


壁に掛けられた古い太陽の神様の絵。


ドレッサーの上に置かれた、私の姿を静かに映し出す大きなクリスタルの鏡。


そして――


ついさっきまで開いていた、ネジの巻けない懐中時計が収められていた、古い宝箱の引き出し。


そこは、私が異世界に転生してから16年間、ずっと毎日を過ごしてきた


【ルミナス公爵邸にある、アサヒ・ルミナスの私室】


そのものだったのだ。


「お、お嬢様の部屋……? どうして、世界の中心に、君の部屋があるんだい……!?」


時間の番人であるアレン様でさえ、この世界のルールを完全に無視した異常な光景に、驚愕のあまり声を震わせていた。


ソルも、黄金色の目を丸くして部屋の調度品を見つめている。


その時だった。


部屋の大きなクリスタルの鏡の表面が、水面のようにジワァ……と波打ち、


そこから宇宙の深淵のような闇の目をまとった、


世界の理を司る


【時空の至高神】


の幻影が、静かに姿を現した。


『異界の魂、アサヒよ。ついに四つの歯車を集め、この始まりの部屋へと辿り着いたか』


「神様……。教えて、どうして私の部屋が、この世界の時間の中心になっているの? 私はただの公爵令嬢のはずでしょう……!?」


私が魂の底から叫ぶと、至高神の幻影は、哀れむような、でもどこか優しい目を私に向け、世界の真実を静かに語り始めた。


『ただの部屋であるはずがなかろう。アサヒ、お前が毎日使っていたその部屋の調度品は、すべてお前を救うために配置された「時空のネジ(部品)」なのだからな』


至高神が部屋の家具を一つずつ指さしていく。


『懐中時計の入っていたあの【引き出し】は、お前が死んだあの灰色の異界(地球)の事故現場と、このエルドラドを繋ぐための「入り口」。お前が毎日覗き込んでいたその【大きな鏡】は、二つの世界の時間の歪みを監視し、地球の崩壊を映し出すための「時空の窓」。壁に掛けられたあの【神様の絵】は、お前の魂にだけ次なる鍵の座標を教えるための「案内図」。そして、お前が今開けたその【木製の白い扉】は、すべての時間を元通りにし、お前が元いた世界へ還るための「最後のゲート」なのだ』


「私の部屋の家具が、全部……時計の部品……?」


凄まじい鳥肌が全身に立ち、頭の中のパズルがガチリ、ガチリと音を立てて完璧な一つの形に繋がっていく。


『なぜ、神々の心臓であるこの領域が、公爵邸のあなたの部屋になっていたと思う?』


至高神の言葉が、私の胸を激しく締め付ける。


『……それはね、お前の前世の母である初代聖女ユウコが、「いつか地球で不慮の事故に遭って死んでしまう愛しい我が子を、この世界へ確実に迎え入れて、その魂を救うため」に、自分のすべての魔力と時間を神々に捧げて作り上げた――世界で一番優しいワープゲートだったからだよ』


「お母様……が……私のために……?」


私は手の中の懐中時計をきつく抱きしめ、大粒の涙をポロポロと床へと溢れ落とした。


お母様――ユウコは、私が一人ぼっちになって迷子になっても、この部屋の部品を頼りにして、自分の力で「いま」を歩み出せるように、何百年も前の過去からずっと、この部屋を遺して待ち続けてくれていたのだ。


お母様が遺してくれた、世界のすべてを覆すほどの、あまりにも大きくて優しい愛の真実。


全ての謎が明かされたこの始まりの部屋で、アサヒとソル、アレン様の3人は、二つの世界の破滅を止めるための、本当の最後の戦いへと、今、最高の『いま』の覚醒を伴って身を投じようとしていた。


(第28話・おわり)

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