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第3章東の地平線と、四つの歯車。第22話。二つの歯車の悲鳴と、次なる座標。

『ルミナス令嬢の失われた記憶 〜二つの世界を繋ぐ時計仕掛けの神話〜』


第3章。東の地平線と、四つの歯車


第22話。二つの歯車の共鳴と、次なる座標


「アサヒ、僕に掴まって! ここから一気に離脱するよ!」


ソルの鋭い叫び声と同時に、彼の細い身体から放たれたまばゆい黄金色の魔力が、神殿の床全体を包み込んだ。


頭上の紫色の割れ目からは、時間の守護精霊たちが放つ無数の光の槍が、激しい雨のように私たちを目がけて降り注いでいる。


アレン様が展開した黄金の時空結界が、ピキピキと悲鳴を上げて砕け散る寸前、ソルが私の腰を強く抱き寄せ、再び重力から解き放たれるように天空へと舞い上がった。


「クレピュスク、アレン様! ゲートへ飛び込んで!」


私が叫ぶと、満身創痍の精霊クレピュスクを背負ったアレン様が、背後の茜色の光のゲートへと迷いなく飛び込んだ。


私とソルも、降り注ぐ光の槍をスレスレで躱しながら、その渦巻く時空の裂け目へと全力で身を投げ出した。


視界が激しい茜色とアメジスト色の光で埋め尽くされ、激しい突風が全身を吹き抜けていく。


(……チクタク、チクタク、チクタク……)


耳の奥で、先ほどよりもずっと力強く、規則正しい秒針の音が響いていた。


ハッと目を開けると、そこは再び、あの世界の真ん中にある、透明なクリスタルガラスの床が十字に交差する空間――【ひかりの交差点】だった。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ! なんとか、逃げ切れたね……」


ソルが床に膝をつき、荒い息を吐き出しながら笑顔を私に向けた。


彼の黄金色の瞳には、もう完全に「私を絶対に失いたくない」という強い家族のぬくもりが灯っている。


アレン様も、背負っていたクレピュスクをそっと床に寝かせ、安堵の溜息をついた。


「アサヒ様。神々を二度も退け、二つの鍵を手に入れた。君のその時計の様子を見てごらん」


アレン様に言われ、私は胸のポケットから、お母様の形見の金色の懐中時計をそっと取り出した。


「わあ……! すごい、綺麗……」


思わず、感嘆の声が漏れた。


時計の文字盤の奥で、朝日の国で手に入れた


【黄金色に輝く大きな歯車】と、


今、夕日の国の逆さ鏡から飛び出してきた


【透き通ったアメジスト色の歯車】の


ふたつが、まるで最初からそう作られていたかのように完璧に噛み合い、静かに、でも力強く回転を始めていたのだ。


ふたつの歯車が噛み合うたびに、時計の針がカチ、カチ、と音を立て、私の身体を包み込むような、圧倒的に綺麗な『朝焼けのオレンジ色』の光の波動が周囲へと優しく広がっていく。


しかし、そのまばゆい共鳴の光を見つめていた、まさにその瞬間だった。


ザザッ、ザザザザッ!!!


私の視界の半分に、あの強烈な『灰色の異界』のノイズが、これまでで一番不気味なほどの鮮烈さでフラッシュバックした。


激しい大雨に打たれ、地割れによって次々と崩壊し、濁流に水没していく地球の都市の姿。


そして、その壊れていく世界の真ん中に――ルミナス公爵邸にある【私の部屋の壁に掛けられた、古い太陽の神様の絵】のビジュアルが、完全に重なり合って視えたのだ。


絵に描かれていた、神様の持つ杖の先端。


その形が、なぜか頭の中でパズルのように変形し、一つの【歪んだ座標(地図)】の形となって、私の脳裏に直接、鋭い頭痛と共に焼き付けられた。


「うっ……! 頭が……っ!」


私は激しい眩暈に頭を抱え、床へと崩れ落ちそうになった。


「アサヒ! 大大丈夫かい!?」


ソルが慌てて私の身体を支えてくれる。


(どうして……? 異世界の二つの歯車が重なっただけなのに、どうして私は自分の部屋の『神様の絵』のことを思い出すの……? お母様は、あの絵の中に、次の目的地のヒントを隠していたっていうの……!?)


胸の動悸が、破裂しそうなほど激しくなる。


日常を過ごしていた私の部屋の調度品のすべてが、神々の世界を繋ぐ巨大なギミック(部品)であるという確信が、冷たい恐怖となって背筋を駆け巡る 。


「アサヒ様、その頭の中に浮かんだ座標は、おそらく初代聖女様からの次なるメッセージだ」


アレン様が、私の様子をじっと見つめながら、その黄金色の瞳を妖しく光らせた。


「その座標が指し示している場所は……この世界の南の果て。まだ誰も生きて戻った者はいないとされる、危険な磁場が渦巻く【南の終わりの谷】だ。三つ目のひかりの歯車は、間違いなくそこに眠っている」「南の、終わりの谷……」


私がその不気味な名前を繰り返すと、ソルが私の手をぎゅっと強く握りしめてくれた。


「どんなに危険な場所でも、僕が絶対にアサヒを守るよ。僕たちの『いま』を、神様たちになんて絶対に消させない!」


手の中で美しく共鳴し合う二つの歯車。


そして、私の部屋の神様の絵が指し示した、次なる過酷な座標。


二つの世界の崩壊を止め、お母様が遺してくれた優しさの謎を解き明かすための、ハラハラドキドキの本格的な冒険ファンタジーは、さらなる未知の深淵へと、激しくその運命の歯車を回し始めようとしていた。


(第22話・おわり)

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