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第3章。東の地平線と、四つの歯車。第18話。始まりの歯車と、神の警告。

『ルミナス令嬢の失われた記憶 〜二つの世界を繋ぐ時計仕掛けの神話〜』


第3章。東の地平線と、四つの歯車


第18話。始まりの歯車と、神の警告


キィィィィン、キィィィィン……。


静まり返った『白金の太陽神殿』の広間に、耳鳴りのような、でもどこか神聖で高い鐘の音のような響きが絶え間なく満ちていく。


天井の奥からゆっくりと舞い降りてくる眩しい光の塊は、ハラハラと落ちるアメジスト色の雪をかき分けるようにして、私たちの目の前でピタリと動きを止めた。


まばゆい光の膜が、水滴が弾けるようにしてハラハラと消え去る。


そこに浮かび上がったのは、大人の手のひらほどもある、透き通ったクリスタルで作られた【黄金色に輝く大きな歯車】だった。


歯車の中心には、この世界の誰も見たことがないような複雑な文様が刻まれており、それ自体が静かに「カチ、カチ」と時を刻むようにして微かに脈打っている。


「これが……初代聖女様が遺した、世界を支える『四つのひかりの歯車』……!」


私が息を呑んでその美しい歯車を見つめていると、歯車はまるで意思を持っているかのように、私の放つオレンジ色の魔力に引き寄せられ、私の目の前までふわりと滑るように近づいてきた。


「アサヒ様、その歯車に触れてみて。それが、君の旅の最初の鍵であり、世界のネジを巻き直すための道標さ」


アレン様に背中を押され、私は緊張でゴクリと小さく生唾を飲み込んだ。


胸のポケットに入っている、あの学園で手に入れた錆びた小さな歯車が、呼応するようにチリチリと熱を持っているのが分かる。


私はゆっくりと右手を伸ばした。


指先が、その透き通った黄金のクリスタルの歯車に、そっと触れた。その、刹那だった。


バチチチチッ!!!


指先から脳髄へ向けて、全身の骨がガタガタと震えるほどの、凄まじい静電気が走り抜けた。


それと同時に、私の視界全体に、あの強烈な『灰色の異界』のノイズが、これまでで一番鮮烈に、大音量の轟音と共にフラッシュバックしたのだ。


白金の神殿の景色が一瞬にして引きちぎれ、目の前にある黄金の歯車の形が、なぜか一瞬だけ――【ルミナス公爵邸の私の部屋にある、あの古い宝箱の引き出しの『真鍮の取っ手』の形】に、完全に重なり合って視えた。


(え……!? なんで……!? どうして異世界の歯車が、私の部屋の引き出しに見えるの!?)


驚愕とパニックで、心臓が破裂しそうなくらい激しく跳ね上がる。


それだけではない。


耳の奥から、嵐のようなノイズに混ざって、あの優しくて大好きな『お母様』の声が、どこか切なくて、恐ろしいほどの重大な警告の響きを伴って、頭の中に直接響いてきた。


『アサヒ……聞こえる? 引き出しの奥にあるあの時計はね、神様たちのいる世界へ通じる、たった一つの入り口なのよ。だからね、あなたが大きくなって、もしもあの部屋の「鏡」の向こう側へ行く日が来たら……決して、運命を諦めてはダメよ……』


「お母様……? 鏡の、向こう側……? 一体、何を言っているの……?」


私が混乱のあまり、無意識のうちにその疑問の言葉を小さく口から呟いた、


その瞬間。


手の中のクリスタルの歯車から、カッと視界を完全に白く染めるほどの、凄まじいオレンジ色の閃光が放たれた。


その眩しい光の奔流は、私の胸のポケットにある、お母様の形見の金色の懐中時計の中へと、吸い込まれるようにして一気に消えていった。


ガチリ。


時計の奥の、さらに奥の深い場所で、新しい大きな歯車が力強く噛み合うような、重い金属音が私の胸に響く。


「アサヒ、大丈夫かい!? しっかりして!」


ソルが私の肩を強く掴み、支えてくれた。


私は激しい目眩めまいと頭痛に耐えながら、自分の胸元を強く押さえて、荒い息を吐き出した。


冷たい冷や汗が、額を伝って床に落ちる。


(どうして、この世界のひかりの歯車に触れただけなのに、私は公爵邸の『自分の部屋』の引き出しや鏡のことを思い出すの……? お母様は、あの部屋に何を仕掛けていたの……?)


謎は解けるどころか、さらに深く、恐ろしいほどの神秘性を持って私の心を捉えて離さなかった。


あの日常を過ごしていた私の部屋こそが、すべての中心なのだという不気味な予感。


「アサヒ様、最初の歯車は無事に時計に吸収されたようだね」


アレン様が、私の異常な怯え方を「時空の乱れによる、一時的な記憶の混線バグ」だと解釈したように、冷静な声で言った。


「だけど、神様たちの秒針は止まらない。世界が地球と衝突して消滅する前に、次は世界の世界線を司るもう一方の極――クレピュスクの故郷である【夕日の国】へ向かおう。

二つ目の歯車は、あの茜色の街の最深部に眠っているはずさ」


学園の時計塔で拾った錆びた歯車、そして今手に入れた黄金の歯車。


二つの世界の運命をかけた壮大な神話の戦いは、私の「始まりの部屋」に隠された恐ろしいほどの伏線を残したまま、次なる【夕日の国】への大冒険へと、さらにハラハラドキドキの速度を上げて動き出そうとしていた。


(第18話・おわり)

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