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転生の向こう側 【The Other Side of Reincarnation / Beyond Reincarnation】  作者: ルーク
偽りの世界の始まり ( 偽りの現実 )

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第7話:道端の言葉

出発して二日目の朝を迎える頃には、ドランの腕の傷はね、腕を上げるたびに顔を引きつらせる(エラーを出す)必要がないくらいには順調に回復(リカバリー)していた。もっとも、あいつが「誰も見ていない」と思い込んでいる瞬間をスキャンしてみると、未だに負傷した腕を微かにかばうような不自然な動き(仕様)をしていたがな。


「……なぁ、ドラン。お前がそれやってんの、俺の索敵レーダーには丸見えなんだけどな」

俺はあいつが「何気なさ(カモフラージュ)」を装いながら、水皮袋を器用に左手へと持ち替えるムーブをじっとウォッチしながら言ってやった。


「……何をだ」


「腕をかばうムーブだよ。かばってないフリをしながら、完璧にかばってるだろ」


「古い習性(データ)だ」あいつはそう言った。ぶっちゃけ、自分の素性に関する質問の約四割を、すべてその一言(マニュアル)で煙に巻く(ハイドする)つもりなんじゃないかと、俺は本気で疑い始めていたところだわ。

いつかさ、あいつが今までに口にしてきたすべての『古い習性』をリストアップ(データベース化)して、その内のいくつが「違う服を着せられただけの全く同じ過去ログ(ストーリー)」なのか、一括バグチェックしてやろうじゃねえか。


◇


正午を少し過ぎた頃、俺たちは例の分岐点(フォーク)へとたどり着いた。――街道の真ん中に、ぽつんと斜めに傾いた木製のサインポスト(標識)が立っているだけの、至って平凡そのものの割れ目。

片方の矢印は、これまで歩いてきた道と何一つ変わらないありふれた通常ルート(通常街道)を示し、もう片方の矢印は、鬱蒼と生い茂る木々の奥――ただそれだけの未知の領域へと向かって伸びていた。


「……ここが、あの商人の言ってたフォークか?」フェンリックが、あまりの拍子抜けにがっかりしたような音声ログで呟いた。「大層なボスステージ(ヤバい場所)には見えないわね」


「地獄(トラブル)って生き物はね、親切に『ここから先は危険です』なんてサイン(看板)を出してはくれないものさ」

ドランは、その二股に分かれた街道をじっと睨みつけた。まるで、脳内プロセッサをフル回転させて、そのグリッドの奥に潜むエラー(真実)を一発で見抜こうとするかのように。


俺はサインポストの根元にスッとかがみ込んだ。ぶっちゃけ、半分はただの習性(サバイバル本能)だ。――自分の人生のシステムにおいてね、重大なジャッジを下す前に、まずは周囲のグリッド(状況)を入念にスキャンしておくというのは、それがチェス(盤面)の盤面を読む作業であれ、街道の状況をクリアにする作業であれ、至って真っ当な基本コマンド(ライフハック)だからな。


「――足跡(トラック)があるな」

メインルートから外れた未舗装路の土の表面を指先でなぞりながら、俺は言った。

「新しいログだ。片側のグリッドにだけ、過剰なまでの重量負荷(重み)がかかってる。……何らかの質量(重いもの)を引きずりながら移動した痕跡か。あるいは、規格外にデカいナニカが、隠密モード(慎重に)で間合いを動かした跡、だな」


ドランが俺の隣にスッとかがみ込み、その同じ土のパッチを興味深そうに凝視(ウォッチ)した。

「……てめえ、あの山の上(隔離された地)で一生を過ごしてきたガキにしては、随分と上等な観察眼(スペック)を持っていやがるな」


(――ククク。もしお前が、この俺の『眼(スペック)』の全貌が、前世の全く異なる人生から丸ごとインポート(継承)されてきたものだって事実を知ったら、一体どんな顔をするだろうな?)

不思議なものだな。前世のシステム(経験)ってのはね、想像以上にこの異世界でも完璧に完全同期(シンクロ)して機能するものなんだ。――室内の空気を読むスキル。目の前の状況が意図的に構築された『ハメ技(罠)』か否かを見抜く直感。辻褄の合わないエラーを検知する演算能力。

それらの本能(プログラム)はね、自分が今どこの世界(惑星)のサーバーにアクセスしていようとも、塵ほどの負荷(エラー)もなく100%のクオリティを発揮してくれるからな。


「ただの、観察(ウォッチ)だよ」俺は本物の真実(リアル)を少しだけぼかして(隠蔽して)言ってやった。「何かが『おかしい(バグってる)』と察知するのに、竜の血筋(チートスペック)なんて最初から一文字も必要ねえだろ」


◇


俺たちは短い小休止(休憩タイム)を挟みながら、その分岐点(フォーク)の攻略ルートについて、本格的な議論(ミーティング)を交わした。

三人が互いに膝が触れ合うほどの至近距離(間合い)で座り込み、その決断(ジャッジ)は、ただ声のデカい奴の一方的なオーダーではなく、パーティー全員で共有された absolute (絶対の意志)として、カチリと定着(セーブ)されたんだ。


「このままフォークの先を突破(クリア)するのが、一番マッハの速度(最速ルート)だ」ドランは言った。「迂回ルートを選択(迂回)した場合、どう見積もっても丸一週間以上のタイムロス(時間コスト)が発生する、イージーにな。もしこの先のフィールドの地形(スペック)が、俺の記憶データ以上に最悪なクソゲーと化していたら、それ以上の過負荷(デバフ)になるぞ」


「もし……あの商人の言ってた『焦げ跡』の怪物が、100%リアルな真実だったら?」フェンリックが尋ねた。


「その時は、細心の注意(サバイバルモード)を払って進むだけだ。木々の境界線(死角)を常に100%マークし、一切の死角を排したグリッド以外では絶対にキャンプを設営しない。そして――肉体のセンサーが『何かがおかしい(バグ)』と一発で検知したその瞬間、俺たちはマッハの速度でバックステップ(撤退)する。魔王としてのプライド(野心)だの、誰かに対して己の最強スペックを証明(クリア)するだの、そんな無駄なコマンド(見栄)は一切排して、な」


理不尽じゃない、至って現実的(リアリスト)。

よし、了解。俺のシステム的にもね、そういう真っ当なライフハックのほうが、圧倒的に付き合いやすくて助かるわ。


「一応、俺のポリシーとして言っておくとさ」俺は口を開いた。

「俺としてはね、何が潜んでいるのかも分からんバグ(正体不明の脅威)を前にして、わざわざ一週間も時間を浪費してその周囲をコソコソと回り道しながら、『次に向かうべきフィールド(あの先)』に何があったのかを一生悩み続ける(モヤモヤする)くらいならさ……今すぐその座標に突撃(エンカウント)して、真実を直接この目で確かめた(クリアした)ほうが、圧倒的に精神衛生上ポジティブなんだよね。――俺のこれまでの人生(キャリア)において、不確定要素(未確定の謎)ってのは、大抵の本物の脅威(モンスター)よりも性質の悪いデバフ(害悪)だからさ」


それを聞いた瞬間、ドランが面白そうに片方の眉を上げた。

「……ほう。それも、てめえの言う『前世の古い習性(データ)』ってやつか?」


(――ああん? なるほど。相変わらず、俺のスペックをこれ見よがしに再計算(アナライズ)してきやがるな、この親父)


「まぁ、そんな感じだ」俺はそう言って、それ以上のログの開示(クリア)をシャットダウンした。あいつの方もね、いつも通りそれ以上は深追い(マーク)してこなかったさ。


◇


決断(ルート)が確定した後の残りのタイムラインはね、ぶっちゃけ至ってのんきで lazy (だらけた)な日常へと収束していったさ。

フェンリックのやつが、一人の【獣人】と、一人の【エルフ】、そして完全に状況に置いてけぼりを食らった一人の哀れな【宿屋の主人】に関する、一から十まで完全につまらん(クオリティの低い)デタラメなジョークを披露しやがって。――そのあまりのクソゲーっぷり(スベり具合)に、ドランの親父のほうが、ジョークの面白さではなく「あいつ、ここまで完璧に大爆死(スベる)できるのか」という事実(リアル)に対して、ガハハと本気で大爆笑しやがったんだ。

気づけば俺自身も、声を上げて大爆笑していたさ。軽やかで、嘘偽りのない、自分の胸の奥底にあるあの重苦しい殺意(負債)のプログラムから、一瞬の許可(リセット)すら必要としないほどの、本物の笑声。


いいじゃん、これ。最高だわ。

明日からのフィールドで、一体どんな最悪なバグ(イレギュラー)に遭遇しようともね、俺は今この午後の、完璧な琥珀色の平穏な時間(セーブデータ)を、脳内のハードディスクに生涯消えない絶対のログとして記録しておきたい。

ドランの傷ついた右腕の回復。フェンリックの壊滅的なクオリティのトーク(爆死)。そして、この鬱蒼とした木々の隙間から降り注ぐ、何とも言えない心地よい午後の光のグラフィック。


あの夜、俺たちはフォーク(分岐点)のまさに目と鼻の先のグリッドに、キャンプを設営した。

互いの bedrolls (寝床)の間合いを狭く設定したフォーメーション。リッジバックとのバトルの夜以来、徹底して維持され続けている、火力を極限まで引き算した、あの入念な極小の焚き火。


「――明日、だな」

ドランはパーティーの誰に言うでもなく、ただパチパチと鳴る小さな炎を見つめながら、自らの中にだけ存在する仕様(覚悟)を確かめるようにボソリと呟いた。


「ああ、明日ね。いよいよ初陣(本番)よ」フェンリックも、ブレないトーンで同意した。


俺は一文字の音声データも返さなかった。

ただ、同じように琥珀色の炎(キャンプ)を静かに凝視し、あのサインポストのその先にある、未知のフィールドの奈落に潜むナニカが、公式に俺たちの前にその正体を現す(エンカウントする)その瞬間が訪れるまではね、この今夜という人生最後の【無垢なる日常(平穏)】を、ただ静かに心ゆくまで謳歌することにしたんだ。


(お前が一体どこのどいつであれ、俺の前に現れた以上は、力ずくで一発でへし折って(クリアして)やるだけだ。――三人で、な)


それこそが、この三人で一つの【パーティー(我が家)】をインポートした、最大のシステムメリット(意味)なんだからな。



-----------



鳥たちが、最初に鳴きやんだ。


それが何を意味するのかを脳内プロセッサが処理するよりも早く、俺の自衛システム(本能)が異常を察知していた。――あの分岐点(フォーク)の先にある街道はね、すべてが終わりを迎えたあの慘劇の夜の山と、完全に寸分違わず同じ『息を潜めたような静寂』に支配されていたんだ。

鳥のさえずりは一切なく、生い茂る木々の隙間を何かが動く微かな摩擦音(音)すら聞こえない。

ドランの親父も、そのバグ(異変)を同時にマークしていたさ。あいつが脳内でジャッジするよりも早く、その右手が自らの剣の柄へとスッと吸い寄せられていくのを、俺の索敵レーダーは確かに目撃していた。


「……静かすぎるな」ドランが低く声を潜めた。


「ああ」俺は言った。「俺さ、この種類の静けさ、過去のログに完璧に記憶(おぼ)えてるわ」


その思考データを、今は脳内の奥底へ大切にシャットダウン(隠蔽)しておく。今はこの感傷に割くメモリ(容量)は無い。


◇


一時間後、俺たちはあの商人の武勇伝(ログ)が正確に予告していた通りの場所に、例の『焦げ跡』を発見した。

――街道沿いの木々の境界線(グリッド)を丸ごと焼き尽くし、真っ黒に染め上げた巨大な傷跡。樹皮が綺麗さっぱり融解して水泡( blistered )のようになっているそのグラフィックはね、野火の類による自然発生(エラー)なんかじゃ決してなかった。あまりにも規則正しく、明確な殺意(インテント)を以て放たれた、絶対的な【指向性兵器(魔法・反魔力)】による理不尽な破壊痕だったんだ。


「……剣の物理攻撃(ブレード)じゃねえな」フェンリックが、あの商人のセリフをそのまま完璧にオウム返しするように、静かに呟いた。


「ああ」ドランが同意した。「そうだな」


俺はその焦げ跡の境界線の前にスッと屈み込み、その炭化した樹皮のわずか数センチ上空に、己の手のひらをそっと宛てがってみた。

(――へぇ。なるほど。これを仕組んだナニカはね、決して暴走(暴発)させてこれ(焦げ跡)を撒き散らしたわけじゃねえな。極めて高密度に、正確にコントロールされてやがるわ)

明確な意図を以て、これを実行した奴(何者か)がいる。それなりの戦闘訓練(特訓)を積んだ、本物の強者(カテゴリ)だ。


だが、俺の脳内プロセッサがその解析(アナライズ)を完了するよりも前に――。

ガシャァァンッ! と音を立てて、周囲の生い茂る木々(死角)が一斉に大爆発するように弾け飛んだ。

奇襲(エンカウント)、だ!


◇


奴らは、三つの死角(方向)から同時に間合いを詰めてきた。

数は――六、あるいは七。

その無駄のない洗練された連携(フォーメーション)を見るにね、あいつらにとってこれが最初の手慣れた奇襲(イベント)ではないことくらい、一発で看破できたさ。

捕獲用のネット、鉄の鎖。そこにあるのはね、これまでに特定の種族(ターゲット)を力ずくで蹂躙し、絶望させてきた奴らだけが保有する、完全にマニュアル化された冷酷な『捕食活動』の空気だった。


「……ほう、これはこれは」

先頭に立つリーダー格の男が口を開いた。奴の瞳はね、俺とドランのステータスなんて最初から塵ほどもマーク(視界にインポート)していなかった。ただ一直線に、フェンリックの姿へとロックオンし、じわじわと、獲物を査定する下卑た笑みを浮かべやがったんだ。

あいつがセリフを紡ぎ終える前にね、俺の胸の奥のプロセッサは激しい嫌悪(ヘイト)を記録していたさ。

「まさかこんな寂れた街道(ルート)で、これほどの『特級の極上品(プレミアムストック)』が手に入るとは思わなかったぜ。東の闇ルートじゃあ、獣人の奴隷ってのは最高値のクリア報酬(高値)で取引されるからな。――特にお前みたいに、肉体のスペックが五体満足で健康な個体は、なぁ!」


【商品】。

あいつ、フェンリックのことを、ただの物資(リソース)としてジャッジしやがった。


ドランの親父の反応は、コンマ一秒だった。

すでにブレードを天高く引き抜き、フェンリックの身体を力ずくで後ろへと突き飛ばすと、あいつに向かって放たれた最初の一撃を、己の肉体で真っ向から引き受けたんだ。

――それは、後方に控えていた痩せこけた男(魔導師)の手元から放たれた、あの周囲の木々を焼き尽くしたものと完璧に完全一致する、超高密度の【紫紅色の反魔力(焦げ跡の元凶)】の奔流だった。

その理不尽な超高熱の一撃が、ドランの脇腹のグリッドをクリーンヒットし――あいつの巨体が、地面へとドサリと激しく叩きつけられた。

男の喉の奥から、俺の人生のデータベースに二度と登録したくないほどの、悲痛なうめき声(エラー音)が引き裂かれるように漏れ聞こえた。


「ドランっ!」


「……っ、俺は、大丈夫だ……!」

いいや、嘘つけ! 全然大丈夫(セーフティ)じゃねえだろ!

あいつのシャツの表面が、あり得んマッハの速度で、鮮血の赤でみるみるうちに塗り潰されていく。その肉体の呼吸システム(肺の駆動)が完全に狂い、浅く、激しく、エラーを出し始めていやがった。

「フェンリックを……守れ……っ!」


だがすでに、二人の盗賊が鉄の鎖をジャラジャラと鳴らしながら、フェンリックの間合いへと肉薄していた。

リーダーの男の顔にはね、相変わらず「目の前にいる生命を、最初からただのモノ(リソース)だと完全に切り捨てている」奴特有の、あの傲慢な笑みが張り付いたままだった。


――そこから先に起きたイベント(バグ)についてはね。

ぶっちゃけ、俺自身のプロセッサでも、どうやって自分がコマンド(決断)を発行したのか、その記憶データが綺麗さっぱり消失しているんだ。


◇


覚えているのは、圧倒的な【超高熱】。

自分の足の裏に伝わる感触が、もはやただの地面(土)なんかじゃないような、世界のグリッドがグニャリと反転していくかのような、凄まじいシステムバグの感覚。

遥か遠くのバックグラウンド(知覚の彼方)で、何とも言えない、およそ自分の肉体から出力されたとは思えないような、低く、おぞましい、怪物の咆哮のような音声ログが響き渡っていたのを、どこか他人事のように記憶している。

――あの日、あの絶望の夜に、俺の声帯から引き裂かれるように放たれた、あの「ルルルゥゥゥゥ――」という真竜の咆哮に酷似した、絶対のバグ音。


どうやって自分が、あのリーダー格の男とのセンチ数(間合い)をマッハでゼロに圧縮したのか、その移動ログ(プロセス)が残っていない。

自分の両手が、奴の座標にエンカウントした瞬間に、一体どんな絶対無慈悲なコマンド(破壊)を実行したのか、その映像データも破損しているんだ。


俺の手元に残されているのはね、後から、すべてが終わったフィールドの跡地で、フェンリックがガタガタと膝を震わせながら俺に語ってくれた音声ログと、ドランの顔面に刻まれていたあの驚愕のスペック(表情)から、後日パーツ(断片)をかき集めて脳内で再構築した、ただの二次データ( secondhand )に過ぎない。

――あのリーダーの傲慢な笑みはね、自分が何故へし折られたのか(クリアされたのか)、その本当の理由(システム)を脳内で処理するよりも早く、一瞬で消滅(ロスト)していた、ということ。

鉄の鎖を握りしめていた二人の男はね、地面にひざまずいたまま、二度と立ち上がる(システム復帰する)ための起動コマンドを受け付ける状態には無かった、ということ。

そして、ドランの右腕を反魔力で焼き尽くしたあの痩せこけた男(魔導師)にいたっては――この世界のいかなる法(言葉)を以てしても、決して「優しく表現することの不可能な状態」に変貌し、その座標から跡形もなく完全消去(ロスト)されていた、ということ。


フェンリックはね、ずっと後になってから、俺に向かってこうボソリと呟いたんだ。

「……あんたさ、あのバトルの最中、これっぽっちも怒っている(ヘイトを溜めている)ようには見えなかったんだよ」

あいつのプロセッサに、最も深刻なエラー(トラウマ)として生涯残り続けることになったのは、まさにその部分だったそうだ。

「あんた、完全に『平然(クリア)』としてたんだ。いつものあの、のんきな愛想笑いを浮かべたまま……バトルの最初から最後まで、完璧にな」


◇


俺が自らのメインプロセッサ(意識)を取り戻した時、俺は、もはや元の原型(グラフィック)を留めていないほど無残に踏み荒らされた、その戦闘フィールドの真ん中に直立不動で立ち尽くしていた。

肩で激しく息を喘がせ、両手のひらはね、外気温(寒さ)とはまったく関係のない次元で、ガタガタと激しくエラーを出し続けていた(震えていた)。


ドランは未だに、地面に倒れ伏したままだった。

鮮血の流出(デバフ)は止まっていない。だが――生きてる。生存ログ、確認。

この最初のバラバラに砕け散ったタイムラインの中でね、俺にとって最も最重要視されるべき絶対の確定ステータス(現実)は、ただその一点のみだった。


「ドランっ……!」

俺の声は、もはや自分の音声データ(トーン)とは思えないほどに激しくブレていた。

俺はあいつの隣にガバッとひざまずき、自らの両手を猛烈な勢いで駆動させた。あいつの深い傷口の上へ、自分の手のひらを力ずくで押し当てる。

その手の動き(応急処置)のミリ単位の精密さはね、かつて母さんに叩き込まれたあの『たった一枚の葉っぱだけを正確に焼き尽くす』極限の制御特訓以外には、脳内マニュアルのどこを探しても見当たらない最高位のシステム(スペック)だった。

だけどな。今回俺の手のひらの下にあるのは、ただの葉っぱなんかじゃねえんだよ。

俺の指先の間から、ドランの本物の、温かい鮮血の粒子が、猛烈なマッハの速度でドクドクと溢れ出し、俺のテリトリー(両手)を真っ赤に染め上げているんだ。

(――嫌だ。絶対に嫌だ。こんな理不尽なバグ(ロスト)で、俺からまたしても、大切な仲間を丸ごと消去(ロスト)させてたまるかよッ!)


「……カイ」

あいつの声はね、限界まで出力が細く引き絞られていたが、それでも、戦士としての絶対の命令(オーダー)を保持していた。

「カイ……俺を見ろ。俺はここにいる。クリアされてねえ(生きてる)わ」


「お前……! 血が、血のリソース(流出)が尋常じゃねえんだよッ!」


「……これ以上の地獄(痛い目)なら、過去にいくらでも経験済みだわ」あいつは言った。ぶっちゃけ、今回は誰が見ても100%大嘘(捏造)なデータだったし、お互いにそれを百も承知だった。だけどな、俺もあいつ(親父)も、あえてその矛盾を突っ込むような野暮な真似はしなかったさ。


◇


フェンリックのやつが、ドランの流出デバフ(出血)を完璧に完全停止(クリア)してくれた。――その手の動きの正確さはね、俺の予想を遥かに超えていたさ。どうやら、過酷な放浪のタイムラインの中で、身を以て叩き込んできた本物の野戦医学(サバイバルスキル)の習性ログが、あいつの肉体にはしっかりと刻まれていたらしい。

応急処置のミッションが完了した後、俺は自らの踵の上にどさりと腰掛け、まるで「他人のものにしか見えない」自分の両手のひらを、ただただ呆然と凝視(ウォッチ)していた。


長い間、誰も一文字の音声ログ(言葉)すら発しなかった。

俺たちを取り巻くこの戦闘フィールドのグラフィックはね、わずか十分前とは、もう何から何まで原型を留めないほどに完全に変貌(クラッシュ)しちまってたんだ。

俺はね、その凄まじい残骸の座標に、あえて深く視線(スキャン)を向けないよう己の演算領域を制御していた。


「……カイ」フェンリックの声だった。極めて慎重に、まるで「未だに起爆のフラグを残している未知の危険物(バ物)」に恐る恐る語りかけるかのような、そんな張り詰めたトーン。

「あんた……大丈夫か?」


(――俺が、大丈夫、か?)


「さあな、分からん」俺は本物の真実(リアル)を、ただそのまま口にするしかなかった。それ以外のまともなセリフなんてね、今の俺のプロセッサからは1ミリも手繰り寄せられなかったからだ。

「俺さ……あのバトルの最中、実際に自分の肉体がどんなコマンド(破壊)を実行したのか、その全貌がさっぱり記憶に残ってないんだ。その、全部はな」


ドランのやつ、顔面は未だに完璧な死人(青ざめたグラフィック)のままで、スペックも限界まで低下していたくせに、それでも、ひとつの明確な眼光で俺の瞳を真っ直ぐにロックオンしやがった。

――そこにはね、恐怖の色なんて一文字も無かったぞ。

そこだけは公式のログに誠実(リアル)に記録しておかなければならない。何故なら、俺のシステム(本能)はね、あいつが恐怖に顔を引きつらせて自分を拒絶する最悪のバグ(ルート)を、心のどこかで想定して身構えていたからな。

だが、あいつの目に宿っていたのは、恐怖なんかじゃなかった。それはね、どちらかと言えば【絶対の確信(ジャッジ)】に近いものだった。

まるで――俺たち二人が、未だ言葉による約束(コミット)を交わすよりもずっと前の段階から、裏でカチリと結ばれていたあの絶対の【誓約(フラグ)】が、目の前で完璧に実行可能(クリア)されたのを、その特等席で見届けたかのような、そんな満足げな目だ。


「……今のが一体どんな理不尽なチート(異能)であれ」あいつは物静かに、だがブレないトーンで言い放った。

「あの牙(ヘイト)の出力先を、俺たちではなく、完璧にあいつら(敵)に向けて撃ち抜いてくれたこと……それだけは、感謝するぜ、坊主」


(物理的にエイム(照準)を合わせた記憶なんて、俺のプロセッサには一文字も残ってねえんだけどな……)


俺はその脳内の grumbling (愚痴)を、あえて口(音声データ)には出さなかった。

ただ静かに深くうなずき、自らの出せる最大限の精密制御(コントロール)を以て、あいつの巨体を慎重に抱え上げて引き起こした。そして、そのフィールドの座標から間合いを引き離す際、俺は二度と、あのへし折られた残骸(焦げ跡)の方を振り返ることはしなかった。


◇


俺たちは少し早めのタイムラインでキャンプ(野営)を設営した。

パーティー全員の精神システム(メンタル)がね、想像以上の過負荷(激しい動獄)を起こしていたからだ。いつもよりも、街道の索敵レーダーから遥かに遠く離れた、深い死角のグリッド。

ドランのやつはね、これ以上の無駄なコマンド(強がり)を発するリソースすら残されていなかったらしく、ベッドに入るなり、マッハの速度で深い睡眠モード(セーブ)に移行しやがった。

対するフェンリックは、パチパチと鳴る焚き火の向こう側で、長い間ただ無言で俺の姿をウォッチし続け――そして、ようやく重い口を開いたんだ。


「……なぁ、カイ。今のイベント(暴走)、てめえの人生において『初めて』のバグじゃねえだろ」あいつは静かに言った。

「あの、今てめえの肉体から解き放たれた、あの理不尽なナニカ(反魔力)だよ」


「ああ、そうだな」俺は答えた。「あの隔離された絶望の山。俺の実の親父と母さんがロストした、あの惨劇の夜だ。あの日もね、だいたい同じようなバグ(覚醒)が俺のシステムに勃発したんだわ。……まぁ、あの時のログも、俺のプロセッサには半分も残ってねえんだけどな」


フェンリックはしばしの間、静まり返った。

自らの中にだけ存在する評価の天秤で、目の前の変数の数値をじっくりと計り知る(アナライズする)ように。


「――俺はね、てめえのことを一ミリも恐れちゃいないぞ」やがて、その獣人の少年は、己のブレない絶対の仕様(ポリシー)を真っ直ぐに俺へと叩きつけてきた。

「それだけは、あらかじめてめえのプロセッサにインポートしておいてほしくてな。そのガキの皮の下に、一体どれほどおぞましい化物(イレギュラー)がハイドされていようともさ……あの日、その牙が真っ向から噛みつきにいったのは、俺たちを力ずくで蹂躙しようとしてきたクソ野郎(敵)だけだ。俺たちのことは、これっぽっちも傷つけなかった。それだけで、十分だろ」


(……ククク。その言葉がね、俺というシステムにとって、少しでも『善人(ポジティブ)』であるという絶対の証明(アンサー)になってくれればいいんだけどな。ぶっちゃけ、自分自身でも未だにその確証(クリア確率)なんて一ミリも算出できてねえわ)


「ありがとな、フェンリック」俺は言った。

何故なら、あの夜の俺の胸のプロセッサにはね、その感謝の真実(リアル)しか、もう手持ちのカードとして残されていなかったからだ。

「恐怖に顔を引きつらせずに、俺を真っ向からジャッジしてくれてさ。俺、これから先の世界の攻略(タイムライン)において……お前のそのブレないスペック(信頼)が、本気で必要不可欠になる気がするんだわ、マジで」


フェンリックは、それ以上の余計な音声ログ(セリフ)は返してこなかったさ。

ただ、パチパチと鳴る焚き火の向こう側で、俺の索敵知覚(耳)に奴の規則正しい呼吸音がはっきりとリンクするほどの、至近距離(間合い)で静かに寝床へと潜り込んだ。

そして――あの戦闘フィールドを離れて以来初めて、俺の胸のコア(深淵)の領域にあったあの強張ったデバフが、ほんの少しだけ、スッと軽やかに出力を緩めてリセットされたんだ。

心地よい、完全なるセーフティ。


明日からの街道に残される足跡は、三つのペア。

今夜も確かに、俺たちのパーティーはロスト(減算)することなく『三人のまま』ここに存在している。


だけどな。

俺の魂のシステム(仕様)はね、今回のイベントを経て、劇的な上書き(アップデート)を完了していた。

俺の肉体のセンサーが、それを的確に検知している。

そして、この魂の底で目覚めちまった絶対の【真名(化物)】はね――もう二度と、完全にスリープモード(眠り)につくことなんて、この先一生、天地がひっくり返っても有り得ないのだと、俺は全霊で理解させられていたんだからな。



------



あのへし折られた戦跡(クリア跡)の夜から数日間の間、パーティー(三人)の誰もがろくに言葉を発しようとはしなかった。


事件の深刻さを考えればね、それは決して珍しいバグ(反応)なんかじゃなかったさ。だがな、俺はその沈黙が単なる精神的動揺(ショック)を超えて、より重苦しいナニカへと定着していくのを感じていた。――取り返しのつかない絶対の真実(イレギュラーな化物としての俺)を目撃してしまった後、互いにどういう距離感(マニュアル)で接していいのか分からなくなっている奴ら特有の、あの独特の静寂だ。


ドランの怪我の回復速度(リカバリー)は、俺たちの予想を遥かに超えて遅かった。傷口のスペックは、最初に目測したよりも遥かに深層に達していたんだ。俺はその期間、自分に実行可能な唯一の有益なコマンドをただひたすらに処理し続けた。――あいつの隣に座り、包帯を交換し、ほとんど何も喋らない。何故なら、俺自身がまだ、自分の口から放たれる言葉のクオリティ(何が正解か)を100%信用しきれていなかったからだ。


俺はね、あのバトルの最中に自分が奴らに何を実行したのか、その移動ログ(記憶)が綺麗さっぱり抜け落ちている。覚えているのは、起爆する直前のあの凄まじい超高熱の感覚と、すべてが消滅した後のあの虚無感だけ。その間にあるミッシングリンクについては、脳内プロセッサのどこを探してもマッピング(言語化)できないんだ。ぶっちゃけ、今すぐ他人に開示(クリア)したいデータじゃ決してないしな。


対するフェンリックのやつはね、それ以上は二度と深く追及(サーチ)してこなかったさ。

あいつはただ、日常の些細なタスクを自主的にこなし始めやがった。――何も指示されていないのに薪を余分にかき集め、毎晩の最初の見張り当番(ファーストウォッチ)を一切の文句なしに引き受ける。それこそが、ね。「これはお前のための防衛(ケア)だ」なんて大層にアピールしない、奴特有の物静かな思いやりだったんだ。


俺たちは全員、ただ自分に実行可能な唯一のマニュアルで、この過酷な状況(デバフ)を処理しようとしていたんだろう。

脳内のメモリを絶え間なく占有し続けるあの最悪なバグ(記憶)について四の五の議論する代わりに、ただひたすらに自分の両手を動かすことで、余計な思考の駆動をハイドしていたんだ、マジで。


◇


それなりの普通の会話ログ(日常)が俺たちのパーティーに還ってきたのは、実を言えば丸二週間近くが経過してからのことだった。

しかも、その始まりはね、至って小さなシステム起動(世間話)だったさ。――ドランの自炊クオリティに対する軽い愚痴だとか、フィールドの天候(雨)に対する文句だとか、あの戦跡のイベントには1ミリも直接干渉しない、ただの他愛のないノイズ。

俺はそれを無理にこじ開けようとはしなかった。他の二人も同じだ。

物事(システム)によってはね、正常値へと復帰(リセット)するまでに、あえて果てしなく遠回りなルート(時間コスト)を選択しなければならない時だってあるからな。


ドランが再び、剣をまともなスペックで握り直せるようになった頃。

俺たちの間には、言葉による誓約(コミット)こそ無いものの、確かな一つの【絶対の了解】が定着(セーブ)されていた。

――あのフィールドで一体どんなバグ(化物としての覚醒)が勃発したにせよ、それが俺たち三人の関係性(アイデンティティ)を決定づけるメインプログラム(主役)になることは決してない、と。

その傷跡はね、確かに俺たちのタイムラインの傍らに居座り続ける。だが、このパーティーの主導権(コントロール)を握ることだけは、天地がひっくり返っても絶対に有り得ないのだ。


「てめえ、また防御(ガード)の時に余計な深読み(オーバーヒート)をしてやがるな」

怪我から復帰した最初のリアルな型特訓(スパーリング)の最中、ドランは剣の平(ブレード)で俺の脇腹をポンと軽く叩き、そのエラーを的確に指摘(ジャッジ)しやがった。

「いつもと、全く同じバグ(ミス)だぞ」


いいじゃん、これ。最高だわ。

これだよ、これ。これが俺の求めていた日常(ノーマル)。俺のシステムはね、その至っていつも通りの通常運転(ノーマル)を100%大歓迎していたさ。


「変わらない仕様(仕様)ってのも、世の中には存在するからな」俺は構え(スタンス)をリセットしながら言ってやった。


「てめえにとっては幸運だったな。じゃねえと、俺の修正(ダメ出し)するネタが尽きるところだったわ」


◇


そこから先の時間(スパン)の経過を、何か特定のイベントとして一言で説明(言語化)するのは極めて難しい。何故なら、それは単一のイベントなんかじゃなかったからだ。

結論から言えば、それはね、何年もの途方もない歳月の経過――【長期のタイムスキップ(時間経過)】だったんだ。

ここをね、ただの一つの季節(シーズン)の移り変わりであるかのようにのんきに説明するのは、本物の現実(リアル)に対してあまりにも不誠実だからな。

それは、ありふれた何気ない日常の積層(スタック)。俺がある日パッと顔を上げた時、自分がかつての初期座標(八歳のガキ)から、一体どれほど気の遠くなるような距離(タイムライン)を駆け抜けてきたのかを全霊で思い知らされるほど、何年もの途方もない年月がそこに積み重なっていたんだ。


俺たちはね、いつの間にか独自の巡回ルート(粗削りなサーキット)を構築し、この世界のフィールドを回るようになっていた。

いくつかの決まった集落や都市を緩やかなスパンで定期巡回(ローテーション)し、路銀(コイン)が必要になれば適当なギルドの依頼(仕事)をクリアし、リソースが足りている時はひたすらに特訓(ビルドアップ)に脳のメモリを割く。

フェンリックのやつはね、自らの器用な手先を活かせる雑多な仕事( odd jobs )を次々とインポートしてこなし、剣を握らせれば以前とは比較にならないほどの俊敏なアタッカー(スペック)へと成長していた。

対するドランの親父はね、俺への指導のトーンを、これまでの冷酷な訓練兵の鬼教官(スパルタ)から、徐々に、至って対等な本物の『相棒(フレンド)』が『相棒』のエラーを的確に修正してやるかのような、そんな心地よいシステムへと移行させていたんだ。


俺自身の【反魔力(アンチマナ)】の制御スペック(コントロール)も、確実に最適化されつつあった。

爆発的な速度(マッハ)ではない。――俺の成長ログにおいてね、チートの如き一撃クリア(急成長)を感じられる瞬間なんてただの一度だって無かったさ。だが、どこまでも着実に、恒久的に。

それはね、一年前の自分の初期スペックと、現在の自分の最新データを脳内で比較(アナライズ)した時に初めて、「あ、俺、めちゃくちゃ上書き(アップデート)されてるわ」と実感できる類の、そんな地道なビルドアップ(成長)だった。

俺は、より長時間の持続的な反魔力の術式(維持活動)を実行可能(クリア)になっていた。その形状を、よりミリ単位で、より精密に制御(コントロール)できるようになっていたんだ。

だがな。未だに俺自身の最大限界(ハードキャップ)が一体どこにあるのか、その確証(数値)だけはさっぱり算出できていなかった。おまけに……ある夜のセーブタイム(夜)にはね、その未確定の変数(謎)のせいで、脳内プロセッサが過剰駆動して眠れなくなることが、ザラにあるレベルで居座り続けていたんだ。


あの戦跡(クリア跡)でのバトルはね、ぶっちゃけ運が良かった(ポジティブ)だけだ。

あの瞬間に俺の肉体(深淵)から解き放たれたあの理不尽なバグは、幸いにも「俺たちを力ずくで蹂躙しようとしてきたクソ野郎(敵)」の座標だけを正確に消去(ロスト)してくれた。

だがな。次の一撃(暴走)の際にも、システムが常にそんな完璧なエイム(識別)をしてくれるかどうかなんて保証は、俺のデータベースのどこを探しても見当たらないんだわ。

もし俺が再びあの絶対の制御(スレッド)をロストしちまった時、そこに「俺たちの敵」と「ただの周囲の一般人(ギャラリー)」を隔てる明確なセーフティゲート(一線)が作動しなかったとしたら、一体どんな最悪な破滅(ゲームオーバー)が世界を襲うのか、俺にはさっぱり知る由もない。


その不確定要素(未確定のバグ)を抱えながら生きるというのはね、俺のポリシー的にも最高に胸糞悪いデバフ(害悪)だったんだ。

だからといって、それを安全にテスト(検証)する方法なんてものも、この世界のシステム内には実装されていなかったしな。


俺は、その脳内の grumbling (懸念)を、他の二人に開示(音声データとして出力)することは決してしなかった。

世の中にはね、他人の演算領域を汚さずに、自分一人だけの最高機密領域で、ただ物静かにハイド(隠蔽)して背負い続けなければならない『重要デバフ(心配事)』というものがあるのだからな。


その歳月の積み重ね(スタック)の中で、フェンリックの戦闘スタイル(戦闘スタイル)は目に見えて鋭く研ぎ澄まされていった。――泥臭いその場しのぎの生存本能(サバイバルスキル)が引き算され、より洗練された本物の戦闘技術(スキル)へと上書きされていったんだ。それもこれもね、ドランのあの地味で泥臭い、どこまでも辛抱強い型特訓(ドリル)のおかげさ。あいつ、俺の遅すぎる成長ログを完全にポーカーフェイス(真顔)でからかってくるようになったが、俺のスペックが最適化(アップデート)されていくのをウォッチする時のその瞳にはね、隠しきれない確かな誇らしさが宿っていたさ。


「……まぁ、マシになってるな」ある時、俺が周囲のグリッドを1ミリも焦がすことなく完璧に制御し終えた特訓画面を見て、フェンリックがボソリと言い放った。「相変わらず壊滅的(ヘタ)だけどさ。それでも、マシだわ」


「そりゃあ特級の称賛(ポジティブ)をありがとよ」


「俺の中にはね、無数の多面的なシステム(マルチ)が内包されてるんだよ」

あいつは完璧なデッドパン(真顔)のまま、かつて俺が吐いたあのセリフをそのまま完璧にオウム返ししやがった。俺はね、そのクオリティの低いジョークに対して、実際の面白さ以上にガハハと猛烈に大爆笑しちまったんだ。

いや、マジで最高の日常(リアル)だわ。

これだよ、これ。あの寂れた集落の宿屋で、シチューの二杯目をおかわりしながら俺が全霊で求めていたシステム(我が家)は、まさにこれなんだ。失っちまったあの絶望の山をリセットして元通りにしたいわけじゃない。ただ――この時間が欲しかったんだ。自分の成長(クリア)を本気で気にかけてくれているからこそ、遠慮なくからかってくれる、そんな大切な仲間たちがな。


◇


もちろん、その何年ものタイムラインの中にはね、誰に対しても報告(開示)する価値のないような、至って物静かな空白の章(エピソード)だって山ほど含まれていたさ。

ある時はね、丸一ヶ月もの長いスパンをかけて、とある小さな村の嵐による穀物倉庫の損壊(デバフ)を、ただひたすらに、泥臭く修理(クリア)してやるだけの虚無期間(イベント)を過ごしたりもした。報酬はね、温かいベッドの提供と、ここ数週間の旅路(デスマーチ)に比べれば遥かに上等なクオリティの料理(飯)。その期間のおかげでね、俺はドランの親父から「食材を真っ黒焦げの炭に破壊(クラッシュ)しない、正しい調理マニュアル(自炊)」を叩き込まれたし、フェンリックのやつにいたっては、地元の衛兵(ガード)どもとやらかしたケチな賭け事(ギャンブル)で、一発で大層な額のコインを稼ぎ出し――そして次の瞬間のダイス(エラー)で完璧に全財産をロストしやがった。

いや、マジで何やってんだよあいつ。


一風変わった言い方を許してもらえるならね、そんな数週間のタイムラインのどこを探したって、本編のメインシナリオ(プロット)を前進させるような重要フラグなんて一文字も登録されていなかったさ。

だけどな。ただ純粋に、良い時間だった。

俺はあれからずっと、思考のデータベースを更新(アップデート)するたびに、こうジャッジしているんだ。――人生においてね、こういう何気ない平穏なスパン(日常)は、世界をへし折るような過酷な死闘(イベント)と完全に同じくらい……いや、最終的にはそれ以上に、途方もなく重要なリソース(価値)を秘めているんだ、と。何故なら、それこそが、人が後から「本気で恋しく思う(ロストを惜しむ)」本物の世界の姿だからな。


やがて、俺の年齢が『十四歳』に達した頃。

ぶっちゃけ、そんな自分の最新のステータス(年齢)なんて、俺自身は脳内のメモリにこれっぽっちも登録しちゃいなかったんだがな。ある夜の焚き火(キャンプ)の席で、ドランが「そういやお前、今日で十四だな」と他人事のようにボソリと呟いたんだ。どうやらあいつ、俺の脳内プロセッサよりも遥かに優秀なカレンダー機能で、俺のタイムラインの日付を常時マーク(管理)してくれていたらしい。

その十四の段階を迎えた時、俺たち三人の関係性(システム)にはね、もはや既存のどんな常識の法(言葉)を以てしても、綺麗にカテゴリー分け(言語化)できないほどの絶対の絆が定着(セーブ)されていたんだ。

血の繋がった家族なんかじゃねえ。かと言って、そこらのありふれた気楽な友人(パーティー)なんていう、そんな薄っぺらいリソース(関係)でもない。

その二つの概念のさらに天上を行く、およそ何があってもブレない絶対の【確定ステータス】。


(――もしこの先、何かがこのシステム(我が家)を力ずくでへし折ろうとしてくるなら、俺は自分の最大スペックを全開にしてでも、絶対にこいつらを防衛(マーク)し抜いてみせる。過去に一度、あの惨劇の夜にそれをやらかした時のように、な)

俺の魂の深淵にあるプロセッサはね、すでに最初から百も承知でジャッジしていたんだ。もし再びその刻限(イベント)が訪れるようなことがあれば、俺は今度こそ一瞬の躊躇(エラー)もなしに、再び世界を蹂躙(クリア)してでも同じコマンドを実行するだろう、と。


この時の俺はね、未だまだ露ほども知る由はなかった。

その自分の脳内シミュレーション(決意)のスペックを試される、最悪の『強制戦闘イベント(テスト)』の時が、すぐ目の前の街道(タイムライン)までマッハの速度で急接近してきていることなど。


よし、これ(自覚しちまった絶対のフラグ)も、脳内の最重要隠蔽データベースへインポートしておくとしよう。

ぶっちゃけ、これ以上ブラックリストの一行を上書き更新(アップデート)しなきゃいけないなんて、めんどくさいことこの上ないんだけどな、マジで。




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俺たちの定期巡回ルート(ローテーション)の中には、【ミルヘイヴン】と呼ばれる小さな街があった。ぶっちゃけ、人生の大半をフィールドの移動(放浪)だけに費やしている俺のタイムラインにおいてね、ここが一番「第二の我が家(ホーム)」に近い場所なんじゃないかと、密かに脳内のデータベースに登録していたんだ。

ギルドの仕事の兼ね合い(進行度)が許す限り、数ヶ月に一度は必ずこの街を通過するようにしていた。そこの宿屋の女主人――三度目の訪問辺りから俺たちの素性を詮索する(マークする)のを完全にやめてくれた、セーラという名の恰幅のいい陽気な女なんだが――あいつね、最近じゃこちらがオーダー(注文)を出す前から、当然のようにいつもの部屋をハイド(キープ)して待っててくれるようになっていた。


「またあんたたちかい」セーラはいつも通りの音声ログ(セリフ)を吐いた。まるで、俺たちがこうして帰還するイベントが、一生飽きることのないお約束のローカルジョークであるかのように、嬉しそうに目を細めてな。

「てっきり、どこぞの大層な土地にでも居を構えて、あたしにそれを報告(クリア)するのを忘れてるんだと思ってたよ」


「まだね」俺は言ってやった。「ドランのやつ、同じ座標(場所)に長く留まりすぎると、肉体の軸がギシギシとエラー(禁断症状)を起こし始めるシステムだからさ。例の、古い習性(データ)ってやつでね」


エントランスのすぐ近くで旅の初期装備(荷物)を紐解いていたドランは、こちらを見ようともせずにボソリと呟いた。「……丸聞こえだぞ、ガキ」


「おう、そのつもりで喋ったからな」


あいつね、最近じゃこちらの軽い奇襲(ジャブ)に対していちいち顔を引きつらせたりせず、平然と受け流す(レジストする)スキルを習得していたんだ。小さな、本当に些細な仕様変更(変化)。だけどな、俺のプロセッサはそんな変化も見逃さずに常時ログに記録していた。


◇


おまけに、この【ミルヘイヴン】という街はね、俺の弾き出していた確率論(シミュレーション)を天地がひっくり返るレベルで置き去りにして、フェンリックのやつが、独自の『知名度(ステータス)』をビルドアップしちまっている場所でもあったんだ。


「お前さんかい! あのハーモン家の領地紛争を一発でクリア(調停)したっていう獣人(ビーストキン)の兄ちゃんは!」

街に到着した二日目の午後、一人の農民のオヤジがフェンリックの姿をスキャンするなり突撃(エンカウント)してきて、過剰なまでのリソース(熱意)を込めて奴の手をブンブンと揺らしやがった。

「うちの従兄がさ、その時のあんたの神ムーブ(武勇伝)をもう何週間も延々と語り草にしてるんだよ!」


フェンリックのやつ、周囲の有象無象からの過剰な注目(ヘイト)に対して、本気で顔面を真っ赤にして苦悶(悶絶)していやがった。ぶっちゃけ、そのグラフィックを特等席でウォッチするのはね、最高に面白いエンタメ(傑作)だったさ。

「……いや、別にそんな大層な(複雑な)イベントじゃない。ただ二つの家族が、境界線のフェンスの位置について四の五の揉めて(ループして)ただけだ。俺はただ、誰も過去十年間掘り起こそうとしなかった、古い【境界石(ランドマーク)】の座標をパッと指し示してやっただけだよ」


「おかげでお堅い裁判のコスト(手数料)も、血で血を洗う血讐(泥沼のイベント)も、一発で完全回避(クリア)できたって聞いてるぜ?」


「それは、その――」フェンリックはスッと俺の方に視線を向け、目で「頼む、今すぐ俺をここから救出(マーククリア)してくれ」と全霊のサイン(無線)を送ってきた。

もちろん、俺はそれを完全スルー(不干渉)してやったがな。

「……それは、ただの誇張(盛りすぎのログ)だわ」


いやいや、仕様的にはね、これっぽっちも誇張(盛りすぎ)なんかじゃなかったぞ。現に俺もその現場に直立不動で居合わせていたからな。あいつのあの時の対人交渉スペック、ぶっちゃけ俺のプロセッサで演算するよりも、遥かに洗練された神ムーブだったからな。


やがて、その満足げな農民のオヤジが街道の彼方へと去っていった後、俺は口元のニヤニヤ(からかい)を抑えきれずに言ってやった。

「やるじゃん、街のヒーロー( local hero )」


「……黙れ」


「いや、俺は大真面目(リアル)に言ってんだぞ。お前、その手の対人交渉(トーク)、マジで天性のスペック持ってるって。言葉の術式で刃を収めさせる(話し合いで解決する)そのムーブ……ぶっちゃけ、俺より遥かにクオリティ高い日があるからな」


その言葉を聞いた瞬間、あいつは静まり返った。――ただの沈黙(カモフラージュ)じゃない、自分の知らない未知の領域(データ)を突つかれた時の、あの独特の静寂。

その狼の耳が、ペタンと、今まで一度としてそんな称賛(ポジティブな評価)を受け取ったことのない角度へと、不器用に向きを変えたんだ。


「……これまでの人生(過去ログ)じゃさ、自分がそんな能力(スペック)を持ってるなんて、確かめる機会すら一度も無かったからな」やがて、フェンリックは自らの一つのログ(過去)をボソリと零した。

「あの、過去のタイムラインじゃさ。俺の生まれ育った環境じゃ、諍いの調停(クリア)に呼ばれる(インポートされる)ようなステージには、最初から端から居させてもらえなかったからな」


よし、きた。

小さな、本当に些細なパズルの断片(ログ)。

だけどな、今回は力ずくでこじ開けて(サーチして)吐き出させたデータじゃないぞ。あいつが自らの意志で、自らスッと俺のデータベースへ提示(クリア開示)してくれた、本物の共有ログだ。

俺はそれを、大切にセーブしておいたさ。


「まぁね」俺は言った。「お前は今、新しいフィールド(日常)で、その隠された最大スペックをリアルタイムで開拓(アナライズ)してる最中なんだよ。一応、俺個人のジャッジとして言わせてもらうとさ……お前、自分が脳内で都合よく過小評価(ジャッジ)している以上に、遥かに多くのチート能力(有用な資質)を秘めてると思うぞ」


フェンリックはその言葉に直球の返答(アンサー)は返さなかったが、その夜の残りの時間、さっきほど居心地悪そうにするグラフィック(様子)を見せなかった。俺のシステム的にはね、それを以て今回の対人交渉は「完全勝利(クリア)」だとジャッジしたさ。


◇


一方、ドランの親父がこの【ミルヘイヴン】の街でビルドアップ(構築)した評価はね、予想通りというか、至って物静かなものだった。――ひたすらに「確実に仕事をこなす(圧倒的な実力)」という一点のみで築き上げられたステータス。自分の素性に関しては、文字通り一文字の音声ログ(過去)すら開示(クリア)しないままな。

地元の衛兵隊長であるヴォスというガタイのいいオヤジはね、戦闘絡みのややこしい問題(イベント)が勃発するたびに、決まってドランのプロセッサ(知恵)を頼るようになっていたんだ。ドランのほうもね、仕事(タスク)自体を嫌がってレジストすることはなかったが、それに伴う過剰な注目(ヘイト)には1ミリも興味が無いという、あいつ特有の絶対の忍耐(ポリシー)で付き合っていたさ。


「ヴォスがさ、お前を専属の顧問(リテイナー)として囲いたがってるぞ」

俺は夕食の席で、受け取ってきたスカウト条件(オファー)を伝えてやった。

「常駐のポジションだ。あいつの言い振り(含み)を見るに、リソース(報酬)のほうもかなり大層な額を提示してきてるぞ」


「興味は無いね」


「だろうなと思ったわ。一応、マニュアル(義理)として聞くだけ聞いておいてやるって伝えただけだ」


「わざわざ聞いてくれたこと、そして、聞く前から俺の解答(アンサー)を100%先読みしていたこと……その二点だけは、感謝するぜ、ガキ」


ぶっちゃけ、その一言にドランという男の全スペック(仕様)が凝縮されていたさ。

ブレない。どれほど大層なクリア報酬(安定した地位)を目の前のプレートに載せて差し出されようともね、同じ座標に永続的に居座るというシステムには、最初から端から興味が無いんだ。


俺はね、時折思考の演算領域(メモリ)を割いて、あいつのあの落ち着きの無さ(放浪癖)についてシミュレートすることがあった。――未だに俺たちに一切開示(クリア)してくれない、あの首筋の巨大な古傷(エラー)、あの扉を執拗に監視する古い習性、そのすべてのブラックボックスの根底にあるナニカと、その放浪癖がシステム的に繋がっているんじゃないか、と。

もう長いこと、過剰な詮索(マーク)を仕掛けるのはやめていたけれどな。だけどな、俺の知覚センサーはね、いつも通りすべての些細なバグ(変化)を的確にスキャンし、二人のために脳内に構築しているあの『査定台帳(ログ)』の中に、大切にデータを上書き更新(アップデート)し続けていたんだ。


◇


その日の夜、俺たち三人は宿屋の屋根(ルーフ)の上に登って佇んでいた。

その座標に陣取るのはね、すでに俺たちのパーティーの心地よい通常運転(ルーティン)になっていたんだ。何しろ、街のどのグリッドよりも圧倒的に満天の星空の視認スペック(パノラマ)が高かったし、何よりもドランがね、周囲の戦術的死角が少ないその sightlines (見晴らし)を最高に気に入っていたからだ。あいつは「これはただの審美的な好み(景色のよさ)だ」などと大層に着飾っていたが、ぶっちゃけ、ただの古い自衛本能(システム)の残渣(バグ)だけどな。


「……なぁ、お前ら。この旅の『その先(クリア後)』に何があるか、考えることってある?」

フェンリックが、東京の夜空(サーバー)からは天地がひっくり返っても視認不可能だったほどの、星の粒子で埋め尽くされた満天の星空を見上げながら、唐突に、何の脈絡(フラグ)もなしにボソリと問いかけてきた。


「その先、って何だよ?」


「これ(日常)だよ。この定期巡回(サーキット)。ただのんびりとフィールドを移動し、ギルドの仕事をクリアしていくこの生活さ。こんなシステムがさ、永遠にダラダラと続くわけねえだろ」


(――ああん? なるほど。至って真っ当な重要質問(サーチ)だな)

ぶっちゃけ、俺自身のプロセッサでもね、そこから先のタイムラインについては、あえて深くアナライズ(思考を巡らせる)のを避けていたからな。


「さあな、分からん」俺は本物の真実(リアル)を、そのまま開示(クリア)した。

「俺さ、ある日にはね、このまま永遠にこのパーティー(三人)で、だいたいこんな感じの日常(リズム)のまま、世界(フィールド)を回り続けられたら最高にハッピー(ポジティブ)なんじゃないかってジャッジしてる。だけど、また別の日には――」

俺は一呼吸置き、次に出力すべき言葉の組み合わせを、脳内で慎重に選択(ジャッジ)した。

「……別のタイムラインではさ、俺には、この世界で絶対に終わらせなきゃいけない『未解決の重要任務(復讐)』が残されてるのを、全霊で思い知らされるんだよ。俺に絶対に返済(クリア)しなきゃいけない莫大な負債(デッド)を遺していった奴らがいる。そのログ(現実)はね、このミルヘイヴンのシチューのクリティがどれほど最高(ポジティブ)であろうとも、絶対に煙のように消えて無くなったりはしないからな、マジで」


ドランはね、俺がその言葉の底(ブラックボックス)に一体どんな地獄をハイドしているのか、野暮な質問は一切してこなかったさ。

これまでの何年もの長いスパンの中でね、ただの一度だって、直球で詮索(マーク)してくるような真似はしなかった。――だけどな、あいつはパチパチと鳴る焚き火の向こう側から、いつも通りの物静かで、ブレない戦士の目を俺に向けていやがったんだ。

まるで、「てめえが一人で抱え込んでるその負債(デッド)のカウント、この俺も裏のバックグラウンドで同時常時マーク(管理)してやってるからな」と言わんばかりの、絶対の相棒の目。


「そのイベント(決戦)が一体何であれ」やがて、ドランは重く、静かに口を開いた。

「いざその刻限(タイムライン)が訪れた時……てめえが一人きりで、その地獄(クソゲー)の前に直立不動で立たされるような最悪なルート(展開)は、この俺が絶対に発生させねえよ。今更こんな当たり前のシステム(仕様)、わざわざ公式発表(宣言)するまでもねえと思ったんだがな。まぁ、一応てめえのプロセッサにインポートしておけ、坊主」


……おう。


ああ、そうだな。

ぶっちゃけ、あいつがそんなコマンドを実行する(ついてきてくれる)ことくらい、俺の脳内プロセッサは最初から100%先読みして分かっていたさ。

だけどな。それでも、あいつの生の口から直接その音声ログ(言葉)が出力されるのを聞くのはね、俺のシステム(ポリシー)にとって、最高に胸の奥が熱くなるクリア報酬(アンサー)だったんだ。


俺は再び、天上のきらめく星々(星空)へと視線を戻した。

それからしばらくの間、俺たちのパーティー(三人)は、ただの一文字の音声データ(言葉)も発しはしなかったさ。

もうね、そんなもの、この空間には最初から一文字も必要なかったんだ。

俺たちの【我が家(ギルド)】という絶対のシステムには、言葉による誓約(コミット)なんていう薄っぺらいリソース(データ)は、とっくに必要ない領域までアップデート(同期)されていたのだからな。


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