第76話: アステリアへの道 ( 第2部 )
重厚な大扉が、ゆっくりと左右に開き始める。
王の間のまばゆい光が、薄暗い回廊へと一気に溢れ出してきた。
カイは入り口で一瞬だけ足を止め、その向こう側に広がる空間をじっと見つめる。
謁見の間は、ぶっちゃけさっきまで待たされていた部屋とは比較にならないほど広大だった。
細やかな白金の装飾が施されたドーム状の天井。
それを支えるように、巨大な大理石の柱が何本もそびえ立っている。
柱の間にはアステリア王国の紋章が描かれた巨大な旗が掲げられ、微動だにせず静止していた。
――そして、その最奥。
一段高くなった玉座の間に、この国の絶対権力者である国王が鎮座していたのである。
言うまでもなく、室内には王以外にも多くの気配があった。
左右にずらりと並ぶのは、大臣や軍の幹部、そして貴族たちだ。
その表情は、純粋な好奇心から露骨な猜疑心まで様々である。
何人かはクロエの姿を凝視し、また別の者たちはユイの美貌に目を奪われていた。
だが、その大半の視線は――当然ながら、中央を歩くカイへと集中している。
カイは、内心で深いため息をついた。
「(……うわぁ、めっちゃ人いるじゃん)」
そんな彼の様子を察して、クロエがわずかに身を寄せてくる。
「何よ、もっと少ないと思ってたわけ?」
「ぶっちゃけ、そう」
「マジで?」
「うん。なんかこう、椅子にぽつんと座ったおじいちゃんが一人だけいる感じを期待してたんだけどね」
その言葉に、ユイが思わず口元を袖で隠す。
クロエも吹き出しそうになるのを必死に堪えながら、呆れたように囁き返してきた。
「あれが国王陛下よ?」
「分かってるって。……ただ、他のモブ(有象無象)は抜きにして、一対一でサクッと話したかったなーって意味さ」
クロエは「やれやれ」と首を振る。
「王族の謁見がそんな風に機能するわけないでしょ」
「世知辛い世の中だよね、まったく」
そんな内緒話を繰り広げている間に、先導していた案内人がピシッと足を止めた。
「国王陛下。アステリア王宮へ、カイ様のご到着にございます」
カイは正面の王へと視線を向けた。
アステリアの現国王、アルドレン。
年齢は四十代後半といったところだろうか。
こめかみの辺りには白髪が混じり始めているが、その背筋は驚くほど真っ直ぐに伸び、眼光は非常に鋭い。
お世辞にも暗君(よわい支配者)には見えなかった。
かと言って、こちらに対して最初から敵意を剥き出しにしている風でもない。
ただ、世界に突如として現れた『存在してはならないイレギュラー』を、どうにかして見極めようとしている――そんな風に見えた。
カイが数歩前へと進み出る。
途端に、広大な空間が水を打ったように静まり返った。
玉座の手前、数メートルの位置で足を止めると――カイはいかにも気さくに、片手をひょいと上げて見せた。
「――よっ。どうも」
「「「っ!?」」」
その瞬間、数人の役人たちが目に見えて硬直した。
年配の貴族にいたっては、まるで世界の終わりでも見たかのように顔を引き攣らせている。
クロエは「あちゃー」という顔で即座に目を逸らし、ユイは静かに諦めの笑みを浮かべて目を閉じた。
国王は、ただじっとカイを見つめている。
カイもまた、自然体でその視線を受け止める。
張り詰めた沈黙の中、数秒の時間が流れた。
――フッ。
やがて、国王アルドレンの唇から、小さな笑みが零れ落ちた。
「――よくぞ参った、カイ殿。アステリア王国へ歓迎しよう」
カイはホッとしたように頷く。
「どうも。呼んでくれてありがとね」
その一言で、室内のピリピリとした緊張感がわずかに和らいだ。
国王は、玉座の前にあらかじめ用意されていた上質な椅子を、手で差し示す。
「楽にしてくれ。まずはそこに掛けるといい」
「お、助かるわ」
カイは勧められるままに歩き、中央の椅子にどっかりと腰掛けた。
ユイとクロエもそれに続き、カイを挟むようにして左右の席へと着く。
当然ながら、周囲の重臣たちは全員立ったままだ。
カイは不思議そうに周囲を見回した。
「……あの、その人たちはそのまま(・・・・)なの?」
国王は面白そうに眉を上げた。
「ああ、彼らもこの場に同席する。何か問題でも?」
「あ、いや。別にないけど……」
カイはすかさず、隣のユイへと身を乗り出した。
「(ねえ、ユイ。なんか思ったより目撃者が多くない?)」
ユイが小さな声で耳打ちしてくる。
「(彼らはこの国の重臣であり、アドバイザーの役割を担う代表者たちですよ)」
「(うん、それは知ってる)」
「(では、なぜわざわざ尋ねたのですか?)」
「(いやぁ、ちょっとした世間話っていうかさ……)」
ユイはジト目で彼を凝視した。カイは「てへっ」と苦笑いする。
玉座の上で、国王アルドレンが背もたれに深く体を預けた。
「さて。私がなぜ貴殿をここに招いたのか、その本題に入る前に……一つ、はっきりとさせておきたいことがある」
カイは居住まいを正して頷く。
「ん、何?」
「貴殿を、罪人(囚人)として扱っているわけではない。そこは誤解しないでほしいのだ」
カイはパチクリと目を丸くした。
「え、そもそもそういう選択肢もあったわけ?」
その言葉に、周囲の役人たちが一斉に顔を見合わせ、引き攣った笑いを浮かべた。
国王もまた、苦笑混じりに首を横に振る。
「――いや。我が国には、魔王を捕縛するほどの戦力は存在しないのでな」
「だよね。良かったわ、俺も捕まるつもりはサラサラなかったし」
「だろうな」
アルドレンは手元で指を組み、声音を一段落とした。
「貴殿は『魔王』を名乗っている」
「うん、一応ね」
「その称号は通常、世界を滅ぼしかねないほどの『莫大な力』と同義だ」
「……たぶんね?」
「たぶん、だと?」
カイは、何でもなさそうに小さく肩をすくめて見せた。
「いや、だって自分の強さの基準なんて、普段から細かくカウント(数値化)してないし」
すると、並んでいた軍の幹部の一人が、たまらずといった様子で一歩前に出た。
その眉間には、深い皺が刻まれている。
「……貴殿は、己自身の力量すら把握していないと言うのか?」
カイは、その男へと視線を向けた。
「いや、自分の強さは百も承知(把握)してるよ?」
「ならば、なぜ『たぶん』などという曖昧な表現を使う!」
「それはさ……」
カイは人懐っこい笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「――君たちが、どの程度の力を『莫大』って呼ぶのか、俺には基準が分からないからだよ」
「っ……!」
軍の幹部は言葉を失い、そのまま口を噤んだ。
完全に格の違いを見せつけられた形である。
カイは「悪気はなかったんだけどね」と言いたげに、へらりと笑った。
「まあ、物事の見方は人それぞれってことで」
ユイが、そっと彼に視線を送る。
「――我が愛しき人」
「ん?」
「あまり最初から挑発して、騎士様方のアイデンティティを崩壊させないであげてください」
カイは慌てて幹部の男を見た。
「あ、ごめんね。悪気はなかったんだ」
幹部は顔を赤くしながらも、プライドを保つようにゆっくりと頷いた。
「……いや、気にするな。不躾な質問だった」
その一連のやり取りを見て、クロエが必死に笑いを堪えるように口元を両手で覆う。
もちろん、カイはそれを見逃さなかった。
「ちょっと、クロエ。また笑ってるでしょ」
「笑ってないわよ」
「いや、絶対に笑ってる。ほら、その顔!」
「本当に笑ってないってば」
カイは彼女をビシッと指さした。
「それ! その、今にも吹き出しそうなのを必死に我慢してる時の顔!」
クロエはぷいっと顔を逸らし、ユイは「はぁ……」と深いため息をついた。
――。
国王アルドレンは、目の前で繰り広げられるそのあまりにも緩い光景を、ただ呆然と見つめていた。
彼の表情には、今や困惑の色が隠しようもなく浮かんでいる。
(……おかしい。私は確かに『魔王』を招いたはずなのだが、一体これは何の喜劇なのだ……?)
彼が想定していた、冷酷非道で威圧的な魔王のイメージは――この瞬間、音を立てて粉々に砕け散ったのである。
国王は、小さく咳払いを一つした。
「――よろしい。ではまず、例の『塔』の話から始めようか」
その言葉に、カイの表情がわずかに引き締まる。
「ん、オッケー」
「あの巨大な建造物が我が国の領土のすぐ近くに出現したのは、今から四年前のことだ」
カイは頷く。
「うん、知ってるよ」
「それ以来、あの場所に関する不可解な報告が絶え間なく寄せられていてな」
カイは背もたれに体を預けた。
「それ、アルヴェンからも聞いたわ」
「我々が掴んでいる情報によれば、内部には信じられないほどの広大な空間が存在しているそうだが?」
「間違いないね」
「森林地帯。」
「あるよ」
「砂漠。」
「あるある」
「広大な湖。」
「うん」
「険しい山岳。」
「それもあるね」
「果ては、都市まで存在すると?」
そこで、カイの言葉がわずかに止まった。
「……まあ、いくつか(・・・・)はね」
国王が、鋭く目を細める。
「いくつか、だと?」
カイは何でもなさそうに、ひょいと肩をすくめて見せた。
「いや、だって階層によって環境が全然違うからさ」
その瞬間、周囲の役人たちの間に、ざわざわと不穏な囁き声が広がった。
たまらずといった様子で、一人の大臣が前に進み出る。
「……お聞きしたい。あの塔は、一体何階層(何フロア)あるのだ?」
カイが隣のユイへと視線を向けると、彼女は至って冷静に、凛とした声で答えた。
「――百階層(100フロア)です」
「「「な、何だと……っ!?」」」
謁見の間が、文字通り凍りついた。
質問した大臣は、あまりの衝撃にパチクリと目を丸くしている。
「ひ、百階層だと……? では、その全ての階に、先ほど言ったような環境が……」
ユイはクスリと、意味深な笑みを浮かべた。
「それは、状況によりますね」
「何によるというのだ!?」
「――私が、その階に何を配置しようと決めるか、です」
大臣は完全に気圧され、何も言えずにゆっくりと元の位置へと下がっていった。
それを見たカイが、苦笑しながらユイにヒソヒソと話しかける。
「(ねえ、ユイ。君、本当にそれ好きだよね)」
「(それ、とは何のことですか?)」
「(いや、そうやって相手を困惑させて楽しむやつさ)」
「(私はただ、質問に対して正確に事実を答えただけですよ?)」
「(まあ、そうなんだけどさ……)」
国王アルドレンは、しばらくの間じっとユイの様子を観察していた。
「……時に、そちらの御婦人は?」
ユイが国王へと視線を向ける。
「申し遅れました。私の名はユイと申します」
「役職は?」
ユイが少し言葉を詰まらせると、カイが横から助け舟を出すように口を開いた。
「ああ、彼女がその『塔』を作った(・・・)本人だから」
アルドレンの目が、驚愕に大きく見開かれた。
「貴女が、あの規格外の建造物を……作った(創造した)と?」
「はい、左様でございます」
国王は、今度はカイへと視線を戻す。
「……では、貴殿は?」
カイは気楽に肩をすくめた。
「俺? 俺はただの居候(住人)だよ」
アルドレンは交互に二人を見比べた。
「ということは……あの塔の所有権は、貴殿たちのどちらにあるのだ?」
カイは口を開きかけたが、そこで動きを止めた。
隣のユイを見る。ユイもまた、カイをじっと見つめ返してくる。
カイは少し気まずそうに、ポリポリと頬を掻いた。
「いや、それがさ……ぶっちゃけ結構、複雑なんだよね」
国王が先を促すように沈黙を守ると、カイは諦めたようにため息をついた。
「うーん、俺自身はあんまり『誰の所有物か』なんて気にしたことないんだわ」
すると、列に並んでいた一人の貴族が、不満そうに声を上げた。
「馬鹿な! ならば誰かしらが所有していなければおかしいでしょう!?」
カイは、その貴族の男へと視線を転じる。
「……なんで?」
貴族の男は一瞬で硬直した。
「それは――」
彼は必死に反論の言葉を探そうとするが、上手く言葉が出てこない。
「財産というものは、誰かに所有されて初めて存在するものでしょう……っ!」
カイは不思議そうに首を傾げた。
「本当にそうかな?」
貴族の男がカイを睨みつけ、カイもまた、自然体でその視線を見つめ返す。
どちらも一歩も引く様子はない。
――と、その時。静かにユイの声が響いた。
「カイ」
「ん?」
「そこまでに(・・・・)しなさい」
カイはパチクリと瞬きをした。
「いや、俺は別に何も始めてないよ?」
「いいえ、今にもお説教を始めそうな顔をしていました」
「ただ質問しただけだってば」
「相手にとっては、十分危険な質問です」
カイは「やれやれ」と肩を落とした。
「はいはい、分かりましたよ……」
国王アルドレンは、その一連のやり取りを恐ろしいほど冷徹な目で見つめていた。
彼の胸の内に、一つの違和感が芽生える。
それは、カイが不遜だからではない。
――むしろ、逆だ。
あの傲岸不遜な態度を見せていた魔王が、ユイという女性の言葉には『即座に』従ったのだ。
そこには何の文句も、反抗も、魔王としての威厳を見せつけようとする無駄な抵抗すら存在しなかった。
ただ、素直に行動を止めたのである。
(……一体、この『ユイ』という女は何者なのだ?)
アルドレンは内心で、底知れない恐怖を感じずにはいられなかった。
しかし、国王は表情を崩さず、さらに身を乗り出す。
「――では、もう一つ懸念がある」
カイは素直に頷いた。
「うん、続けて」
「あの塔の位置は、我が国のいくつかの重要街道に近すぎるのだ。その存在自体が、流通や軍事行動、果ては国境の安全保障にまで重大な影響を及ぼしかねん」
カイは黙って耳を傾けている。
「何より、我々は内部に『何が潜んでいるのか』を知らん」
「まあ、当然だよね」
「誰がそこに『住んでいるのか』すらも、だ」
すると、カイは自分を親指でビシッと指さした。
「俺」
アルドレンは思わず吹き出しそうになったが、どうにか理性を保った。
「……うむ」
続けて、カイは隣のクロエを指さす。
「あと、こいつ」
クロエはパチクリと目を丸くした。
「え、私?」
「それと、彼女ね」
ユイが至ってエレガントに、ちょこんと片手を上げて見せた。
「――ごきげんよう」
周囲の役人たちの困惑は、今や限界突破しかけていた。
カイは平然と言い放つ。
「うん、基本的にはこれだけ(・・・・)だよ」
アルドレンは、完全にフリーズした。
「……貴殿は、今、何と言った? あの森林や都市、山岳まで内包する百階層もの超巨大建造物に――たったの『三人』しか住んでいないと、そう言うのか?」
カイは少し考え込むように首を捻った。
「あー、ぶっちゃけ理論上はそうなるね」
国王の額に、ピキリと青筋が浮かぶ。
「理論上、だと?」
「いや、その……」
カイは慌ててユイの方を見た。
「ほら、他にも『それ以外のみんな(・・・・・・・・・)』がいるじゃん?」
「それ以外のみんな、だと……!?」
しまった、とカイは自分の失言に気づいた。
「あ、いや! 今のは忘れて! ナシ! ナシの方向で!」
謁見の間が、恐ろしいほどの静寂に包まれる。
ユイが、能面のような笑顔のまま、ゆっくりとカイの方を振り向いた。
「――あなた?」
思わず素の呼び方になりそうになり、彼女はコホンと咳払いをする。
「……我が愛しき人?」
「はい、なんでしょう」
「貴方、本当にこの手の対話が壊滅的に下手くそですね?」
「うん、自分でも分かってる……」
すると、クロエが横からボソッと小さな声で呟いた。
「(……まあ、嘘をつけない正直なところは、美点なんだけどねー)」
国王アルドレンは背もたれに深く体を預け、しばらくの間、沈黙を守った。
そして、声音を一段と落とし、真剣な眼差しでカイを見つめる。
「――貴殿には、我々の恐怖(懸念)を理解してほしいのだ」
カイは、今度は茶化すことなく、真っ直ぐに頷いた。
「うん。それはちゃんと分かってるよ」
その素直な返答に、国王は一瞬、意表を突かれたように目を見開いた。
「……理解してくれるのか?」
「ああ」
カイは広大な謁見の間を見回し、どこか遠くを見るような目で言葉を続けた。
「もし俺が王様で、自分の領土のすぐ隣に正体不明の巨大な塔がドカンと現れたらさ……ぶっちゃけ、警戒(猜疑心)MAXになるに決まってるしね」
王の表情から、わずかに険しさが抜けた。
「――まさに、それこそが問題の本質(核心)なのだ」
カイは素直に頷く。
「ま、そうだよね。だけど安心してよ、俺は君の国を奪うなんてことには、ぶっちゃけこれっぽっちも興味がないからさ」
アルドレンは、射すくめるような視線を真っ直ぐカイへと向けた。
「アステリアを支配するつもりは、微塵もないと?」
「ないよ」
「領土を拡大する気は?」
「ないない」
「周辺の土地を実効支配する気は?」
「ないって」
「我が国に、貢ぎ物(上納金)を要求するつもりも?」
そこまで言われて、カイはいかにも心外だと言わ言いたげに眉をひそめた。
「おいおい、なんで俺がそんな面倒なことしなきゃいけないんだよ?」
すると、一人の貴族が背後でボソリと不満げに呟いた。
「……何しろ、奴は『魔王』なのだからな」
当然、カイの耳はその呟きを正確にキャッチしていた。
「そこのおじさん、全部聞こえてるよ?」
「ひっ……!?」
貴族の男は慌てて口を両手で塞ぎ、完全に沈黙した。
カイは「やれやれ」と肩を落として、小さくため息をつく。
「いいかい?」
彼は少しだけ身を乗り出し、声音を落ち着かせた。
「俺はね、何かを侵略するためにあの塔を作ったわけじゃないんだよ」
その表情には、一切の敵意も嘘偽りもない。
「ただ、静かに暮らせる場所が欲しかった。……それだけさ」
謁見の間が、水を打ったように静まり返る。
カイはどこか遠くを見るような目で、言葉を紡いだ。
「――俺はもう、戦うのはお腹いっぱいなんだわ」
クロエが、そっと彼の横顔を見つめる。ユイは何も言わず、ただ静かに佇んでいた。
「これ以上、不毛な戦争なんて起こしたくないんだよね」
国王アルドレンは、目の前の青年を観察するようにじっと見つめ返した。
「……世界を震撼させるほどの『絶対的な力』を持ちながら、そう言うのか?」
カイの唇が、フッと皮肉めいた微かな笑みを象った。
「――持っているからこそ、だよ」
その一言には、これまでに彼が発したどんな言葉よりも、圧倒的な重みが込められていた。
言うまでもなく、真の強者だけが許される絶対的な余裕というやつである。
国王アルドレンは、ゆっくりと時間をかけて頷いた。
「……よろしい、貴殿の言葉を信じよう」
カイは意外そうに片方の眉を上げた。
「へえ、信じてくれるんだ?」
「ああ。少なくとも、貴殿自身が戦争を望んでいないという点についてはな」
カイはホッとしたように肩の力を抜いた。
「そいつは良かった」
「だが――だからと言って、我が国としてもあの塔の存在をただ黙って放置するわけにはいかんのだ」
カイの表情が、スッと平熱のニュートラルへと戻る。
「まあ、そうだろうね」
「この世界には、アステリア以外にも多くの強国が存在する」
「知ってる」
「いずれ他の支配者たちも、あの塔について嗅ぎ回るようになるだろう」
「だろうね」
「中には、勝手に調査を始める国も出てくるはずだ」
「あるだろうね」
「最悪の場合、あの塔を力ずくで我が物にしようとする愚か者が現れるかもしれん」
その言葉を聞いた瞬間、カイはクスクスと可笑しそうに笑った。
「――ハハッ、そいつは最高に頭の悪い選択(無理ゲー)だね」
アルドレンは思わず吹き出しそうになった。
「随分と、余裕の構え(カジュアルな物言い)だな?」
「だって、事実だし」
アルドレンは改めて彼を見つめる。
「……絶対の自信(根拠)がある、と?」
「いや、ただの現実論さ」
カイは背もたれに深く体を預けた。
「俺だって、誰かが自分の馬鹿な選択のせいで、無駄に命を落とす(自爆する)ところなんて見たくないからさ」
すると、軍の幹部が怒りを堪えるように眉をひそめた。
「……我々を脅迫しているのか?」
カイは彼へと視線を向け、人懐っこい笑みを浮かべた。
「まさか。これは脅迫じゃないよ」
一拍置いて、カイは告げた。
「――ただの『忠告』さ」
部屋の中が、再び張り詰めた静寂に支配される。
カイのトーンは至って穏やかだったが、だからこそ、その言葉の裏にある絶対的な断絶が際立っていた。
脅迫と忠告の間には、言うまでもなく天と地ほどの差があるのだから。
アルドレンが片手を軽く上げると、軍の幹部はそれ以上言葉を発することなく一歩下がった。
「カイ殿」
「ん、何?」
「我らとて、貴殿を無用に刺激するつもりはない」
「それは重畳」
「だが、私にはこの国家と国民を守る『最高責任者』としての義務があるのだ」
「うん、それは理解できるよ」
国王はそこで言葉を区切り、真剣そのものの眼差しで告げた。
「ゆえに――貴殿には、我が国の要求を受け入れてもらいたい」
カイは黙って先を促す。
「あの『塔』を、公式にアステリア王国の庇護下(管轄内)にある領土として認めさせてほしいのだ」
カイはただ、じっと王を見つめた。沈黙が流れる。
国王は言葉を重ねた。
「あの塔の内部に関しては、今後も貴殿の自由にしてくれて構わない」
カイは何も答えない。
「だが、塔の周囲を含めた全域は、名目上だけでも『アステリア王冠』の保護下、および司法権に服するものとする」
カイの表情は、完全に空白のままだった。
「居住するのも、内部の人間を統治するのも、塔の管理運営もすべて貴殿に一任しよう。しかし――最終的な『主権( sovereignty )』は、我がアステリア王国に帰属するものとする」
圧倒的な、静寂。
クロエが息を呑み、ゆっくりとカイの顔を覗き込んだ。ユイの視線もまた、静かに彼へと向けられる。
――その瞬間、カイの纏う空気が、劇的に変化した。
それは、派手な演出を伴うものではなかった。
莫大なオーラが爆発したわけでも、周囲を圧殺するような殺気が放たれたわけでもない。
もちろん、物理的な魔力障壁が展開されたわけでもない。
ただ――彼の表情から、一切の感情が消え失せ、冷徹極まりないものへと変貌したのだ。
その瞳から、先ほどまでの人懐っこい温かみが完全に消失していた。
彼はただ、冷え切った眼差しで玉座の王を凝視する。
「――君は、俺を誰だと思っているんだ?」
世界が、凍りついた。
並み居る重臣たちは指一本動かすことができず、近衛兵たちは本能的な恐怖から、無意識のうちに武器の柄を強く握りしめていた。
クロエの顔から完全に笑みが消え、壁際で見守っていたアルヴェンすら、肺の空気をすべて奪われたかのように息を詰まらせる。
カイは、冷酷な視線を王に向けたまま言葉を続けた。
「わざわざ呼び出されたから、俺はこうして平和的に足を運んだ。君たちの恐怖(懸念)にも、真面目に耳を傾けていたつもりだ。それなのに……君は今、俺が暮らしている場所を『自分のものにさせろ』と、そう言ったのか?」
その声は、驚くほど静かだった。
だが、その静けさこそが、かえって室内の恐怖を限界まで跳ね上げていた。
国王アルドレンは、全身の毛羽立つような戦慄を感じていた。
カイがこの部屋に入ってきて以来、彼は初めて『本質』を理解したのだ。
目の前にいるのは、気さくな少年でも、風変わりな旅人でもない。
ただの『魔王』という枠にすら収まらない――世界そのものを容易く蹂躙しかねない、絶対的な化物理なのだと。
カイの瞳は、完全に虚無(空っぽ)だった。怒りも、憎しみもない。
ただ、絶対的な『拒絶』の冷たさだけが、そこにあった。
――と、その時。静寂を破って、凛とした声が響いた。
「――カイ」
瞬間、室内の絶対零度の冷気が、嘘のように霧散した。
カイはパチクリと瞬きをする。
「……ん、なぁに? ユイ」
「落ち着きなさい」
言われた途端、カイは「おっと」と言わんばかりに肩の力を抜いた。
「あ、悪い悪い。ちょっと素が出ちゃったわ」
彼は何でもなさそうに周囲を見回す。
「いやー、すまんすまん。今のは俺のミスね!」
重臣たちは、未だに腰が抜けたように硬直したままだ。
カイはへらりと笑いながら、国王アルドレンに向き直った。
「まぁ、そんなわけだからさ。ちょっとお互いに勘違い(ボタンの掛け違い)があったみたいだね」
アルドレンは冷や汗を拭うことも忘れ、引き攣った顔でゆっくりと頷いた。
「……あ、あしからず。どうやら、そのようだな」
カイは親指で、隣のユイをひょいと指さした。
「というわけで! 君たちが要求したい条件とかルールについては、全部こっちのユイに言ってやってよ」
国王が呆気に取られたようにユイを見ると、カイは満面の笑みで告げた。
「何しろ、あの塔を作った(創造した)のは彼女だからね」
ユイはジト目で彼を睨みつける。
「……それで?」
「いや、クリエイター(創作者)なんだからさ!」
カイはこれ見よがしに両手を広げて見せた。
「責任者は俺じゃなくて、彼女ってことになるわけよ!」
国王アルドレンの表情が、驚愕で引き攣る。
「……貴殿の物ではない、と言うのか?」
カイは当然だと言わんばかりに、ぶんぶんと首を横に振った。
「理論上はそうなるね!」
アルドレンが恐る恐るユイへと視線を向けると、彼女は至ってエレガントに、完璧な淑女の微笑みを浮かべて見せた。
「ええ、あの『塔』は私が創造した私有物でございます」
国王はゴクリと、喉を鳴らした。
「……では、あの周囲の土地(領有権)については?」
ユイの微笑みは崩れない。
「それは、貴方の言う『領地』という言葉の定義によりますわね」
その瞬間、国王アルドレンは冷酷な事実を悟った。
自分は最初から――交渉する相手を、完全に間違えていたのだ。
謁見の間は、奇妙な静寂に包まれていた。
カイはすべての責任を放り投げたことで、再び退屈そうに背もたれに寄りかかり、至ってリラックスしている。
クロエが彼とユイを交互に見比べた後、呆れたようにボソッと耳打ちしてきた。
「(……貴方、本当に面倒な問題を全部ユイに丸投げしたわね?)」
カイはドヤ顔で頷く。
「(うん、任せた)」
「(最悪ね、それ)」
「(ノンノン。これを『効率的』って言うんだよ)」
すると、正面のユイが能面のような笑みを浮かべたまま告げた。
「カイ。貴方、あからさまに責任転嫁(職場放棄)をしていますね?」
「滅相もない! 全幅の信頼を寄せてるだけだって!」
ユイは深いため息をついた。
「――我が愛しき人?」
カイは無駄に無邪気な笑顔を浮かべる。
「はーい、なんでしょう?」
「貴方って人は、本当に救いようがありませんね」
「よく言われるわ!」
国王アルドレンは、目の前で繰り広げられる主従逆転のコメディを、ただ圧倒されながら見つめていた。
だが、彼の視線は――今や完全にユイへと固定されている。
彼女の纏う雰囲気には、底が知れない不気味さがあった。
攻撃的な気配(覇気)は見せず、圧倒的な魔圧を放っているわけでもない。
ただそこに、優雅に、完璧にリラックスして座っているだけなのだ。
それなのに――ほんの一瞬表情を変えただけで、国家最高峰の戦力を揃えた謁見の間を一瞬で恐怖のどん底に叩き落としたあの『魔王』が、彼女の一言には一切の抵抗なく『即座に』従ったのである。
本当の怪物は、一体どちらなのか。その答えは、言うまでもなく明白であった。
国王アルドレンの脳裏に、突如としてある疑問が浮かび上がっていた。
――あの『塔』を真に支配しているのは、一体どちらなのだ?
そして何より、あの『ユイ』という女性は、ぶっちゃけ何者なのだ……?
緊迫した静寂の中、壁際で見守っていたアルヴェン・ダールが静かに一歩前へと進み出た。
「――国王陛下」
アルドレンがそちらに視線を向けると、アルヴェンは恭しく頭を下げた。
「今回の件、互いに一度持ち帰り、事の重大性を熟考した上で改めて議論を再開されてはいかがでしょうか」
国王はしばらく沈黙を保っていたが、やがて重々しく頷いた。
「……うむ。それが賢明だな」
カイはホッとしたように満面の笑みを浮かべる。
「お、そいつは助かるわ」
アルドレンは彼を真っ直ぐに見据えた。
「勘違いしないでほしいが、この対話はまだ終わったわけではないぞ?」
「分かってるって」
「だが――貴殿の率直な物言い(ホンネ)には感謝しよう」
カイはひょいと肩をすくめて見せた。
「どういたしまして。ぶっちゃけ、嘘つくよりも正直に話す方が楽だしね」
アルドレンの唇に、微かな笑みが戻る。
「ならば次回は、アステリア王国と貴殿の『塔』、その双方が納得できる着地点(妥協案)を見つけ出すとしよう」
「うん、その方が断然いいわ」
カイはそう言うと、どっかりと腰掛けていた椅子から立ち上がった。
クロエもそれに続き、ユイは愛読書を至ってエレガントにパタンと閉じた。
カイは玉座の王に向けて、軽く右手を挙げて見せる。
「それじゃ、今日はありがとね」
「うむ。遠路はるばる足を運んでくれたことに感謝する」
カイは大扉の方へと足を向けた――が、そこでフッと何かを思い出したように足を止め、振り返った。
「ああ、最後に一つだけ」
国王が先を促す。
カイはニカッと悪戯っぽく笑った。
「俺さ、別に他の人間が『塔』に遊びに来る(立ち入る)分には、これっぽっちも気にしないから」
アルドレンは意外そうに片方の眉を上げた。
「……何だと? 拒まないと言うのか?」
「うん」
カイは隣のユイに視線を向ける。
「むしろさ、色んな奴が来た方が面白そうじゃん?」
ユイは冷ややかなジト目を彼に向けた。
「我が愛しき人、一体何を企んでいるのですか?」
カイは視線を逸らし、へらりと笑う。
「いやぁ、今はまだ何も?」
クロエが目を細めてジト目で睨みつける。
「出たわね。貴方がそういう顔をする時は、大抵ろくでもないこと(トラブル)を考えてる時よ」
カイは彼女のツッコミを華麗にスルー(黙殺)し、国王アルドレンに向き直った。
「ま、詳しい話はまた今度ってことで!」
アルドレンは内心の警戒を最大にしつつも、慎重に頷いた。
「……よかろう」
カイを先頭に、クロエ、そしてユイが後に続く。
謁見の間を後にし、長い回廊へと出た瞬間、カイはホッとしたようにボソッと耳打ちした。
「ふぅ……。いやぁ、なかなかの大成功(いい感じ)だったんじゃない?」
クロエは信じられないと言いたげに彼を凝視する。
「ちょっと!? 貴方、思いっきり国王を脅迫してたじゃない!」
「おいおい、人聞きが悪いな。俺はただ質問しただけだってば」
「あのねぇ! 『君は俺を誰だと思ってるんだ?』なんて、私が今までの人生で聞いた中で一番怖い声で言っておいて、ただの質問なわけないでしょ!?」
「えー……?」
カイが助けを求めるように視線を向けると、ユイが至って冷静にトドメを刺した。
「いいえ。客観的事実として、あれは完全に『脅迫』でしたね」
カイはガーンとショックを受けたように目を丸くする。
「マジで?」
「はい、大真面目です」
「へえ……」
彼はポリポリと頬を掻き、少しだけ反省したように呟いた。
「ま、言われてみればそうかも」
クロエは「はぁ……」と深い、深い、ため息をついた。
「貴方って、本当に救いようのない規格外ね」
カイは悪びれる様子もなく、ニヤリと笑った。
「そいつはどうも!」
彼らの背後で、王の間の重厚な大扉がバタンと静かに閉まったのだった。
室内に取り残された国王アルドレンは、未だに玉座に腰掛けたままだった。
広大な謁見の間には、未だに緊張の残滓が漂い、沈黙が支配している。
ようやく限界まで息を止めていた一人の貴族が、ハァーッと大きな吐息を漏らした。
「こ、国王陛下……」
アルドレンはその呼びかけには答えず、ただじっと、閉ざされた大扉を見つめ続けていた。
そして、ようやく絞り出すように声を上げた。
「――アルヴェン」
「はっ、ここに」
「お前は先ほど……あの『ユイ』という女が、あの塔を創造したと言ったな?」
「はい、間違いありません。本人の口からも、そのように」
「そして……あの暴虐極まりない力を秘めた魔王が、彼女が『落ち着け』と言った瞬間、一言の文句もなく即座に従った(従属した)な?」
「はい。一分の隙もなく、完全に」
アルドレンはゆっくりと背もたれに体を預け、額に冷や汗を浮かべた。
「……だとすれば、我々は恐ろしいほどの致命的誤認を犯していたのかもしれん」
アルヴェンもまた、閉ざされた大扉へと視線を向ける。
「……私も、全く同じことを考えておりました」
国王の目が、鋭く細められた。
「我々はあの塔において、カイという『魔王』こそが最大の脅威だと決めつけていた。だが……」
アルヴェンは何も言えず、ただ固唾を呑む。
アルドレンは、先ほどまでユイが座っていた誰もいない椅子を凝視し、戦慄と共に呟いたのだ。
「――真の怪物は、あの女の方だったのではないか……?」
王宮の外へと出たカイは、燦々と降り注ぐ午後の日差しを全身に浴びた。
ぐーっと大きく両腕を伸ばし、背筋をほぐす。
「――はぁー! マジで疲れたわ!」
隣を歩くクロエが、呆れたようにジト目を向ける。
「何言ってるのよ。貴方、ほとんど喋ってただけじゃない」
「いやいや、あのギャラリー(視線)に囲まれてるだけで、精神的エネルギー(MP)をごっそり持っていかれるんだって!」
「見てるだけの私の方が、胃が痛くて死にそうだったんだけど?」
「え、見るだけの方が辛いの?」
「当たり前でしょ!」
二人の後ろを、ユイが優しく微笑みながら歩いていた。
カイはくるりと彼女を振り返る。
「というわけで、ユイ」
ユイは面白そうに片方の眉を上げた。
「なんですか?」
「どうだった? 今回の初陣」
「何について、ですか?」
「いや、全体の流れ的なさ」
ユイはクスリと、どこか悪戯っぽく笑ってみせた。
「そうですね。貴方が危うく世界大戦(国際問題)を引き起こしかけたこと以外は、概ね順調だったのではないでしょうか」
カイは「うぐっ」と言葉を詰まらせ、大袈裟にため息をついた。
「だから、あれは不可抗力だって……」
「いいえ、確信犯(実力)です」
「はいはい、分かりましたよ」
カイは諦めて、眼下に広がる活気ある王都の街並みへと視線を転じた。
「で、これからどうするわけ?」
ユイは愛読書を愛おしそうに胸に抱え、静かに告げた。
「――そうですね。今はただ、『待つ』時間です」
カイは怪訝そうに眉をひそめる。
「待つって……何をさ?」
「決まっているでしょう? 貴方が撒き散らした種(行動)に対する――『結果』の到来を、ですよ」
カイは、そのあまりにも意味深な物言いに思わず身震いした。
「うわぁ、なんか不吉な予感しかしないんだけど」
「いいえ。至って正確な現状分析です」
カイは一度王宮を見上げ、それから遥か彼方の地平線へと視線を向けた。
そして、フッと不敵な笑みを浮かべる。
「ま、いっか!」
彼は軽快な足取りで歩き始めた。
「とりあえず今はさ、サクッと我が家に帰ろうぜ!」
クロエが「やれやれ」と肩をすくめてその後に続き、ユイは慈愛に満ちた完璧な女神の微笑みを浮かべた。
「――ええ。帰りましょう、我が愛しき人」
三人はアステリアの賑やかな街頭へと消えていった。
この時、彼らの誰も気づいていなかったのだ。
この王国を皮切りに、世界が静かに、だが確実に狂い始めていたということに。
『新世代の魔王』が降臨したという衝撃のニュース(情報)は、瞬く間に大陸全土を駆け巡ることになる。
あの正体不明の『百階層の塔』に関する噂は、尾ひれをつけて爆発的に膨れ上がっていくはずだ。
そして遠からず――世界に君臨する『他の魔王たち(トップランカー)』の耳にも、その名が届くことになるだろう。
――その名は、カイ。
突如として現れた、最凶の魔王。
正体不明の超巨大建造物『塔』の最高権力者(?)。
国家の最高戦力が集結する王宮へと平然と歩み入り、誰に頭を下げることもなく、ただ圧倒的な恐怖の爪痕だけを残して去っていった男。
当のカイ自身は、そんなことはぶっちゃけ一ミリも知る由もなかったわけだが。
――だが、彼がかつて望み、そして目を逸らし続けてきた『世界の注目』は、今まさに、最悪のタイミングで彼を目がけて収束しつつあったのである。




