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転生の向こう側 【The Other Side of Reincarnation / Beyond Reincarnation】  作者: ルーク
記憶の牢獄の外側(真なる現実)――『太陽の涙』編(外伝)

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第61話: 何も知らなかった少女

世界はただ、静かに回り続けていた。これまでそうであったように、かつてそこに存在したものの形など、ただの一ミリも気に留める様子もなく。


いくつかの王国が興り、いくつかの王国が滅びる。戦争は終わりを告げ、新しく生まれた世代は、自らの手で勝ち取ったわけでもない平和の恩恵を当たり前のように享受していくのだ。かつて別の物語の中で共に肩を並べて直立していたはずの人々は、今や完全に別々の、何の関係もない日常を消費していた。あいつらは笑い、仕事に励み、子供を育てて生きている。自らの記憶の底に、あるべきはずの名前が欠落し、不気味な空白が残されていることなど、ただの一度も疑うことすらなしに、だ。


だが、そんな世界の営みからはるか遠く離れた、未開の座標において。

――今、正真正銘の、本当の物語(ストーリー)が静かに幕を開けようとしていた。




---------------



ルナリス王立アカデミー


朝の柔らかな光が、ティアムーン王国を黄金色に染め上げていく。その光が家々の屋根に届く頃には、街はすでにいつもの活気を取り戻していた。商人がバタバタと店のシャッターを開け、石畳の上を馬車がけたたましく走り抜け、冒険者たちが二人、三人と連れ立ってギルドへと足を進める。カバンを背中で弾ませた子供たちが、学校を目指して最後の直線を猛ダッシュしていくのも、実に微笑ましい朝の光景なのだ。


この王国最大の都市を見下ろす高台に、どこの誰が見ても一目でそれと分かる、あまりにも壮大で美しい建造物がそびえ立っていた。頑強な防壁に、緻密な計算のもとに配置された美しい庭園。そしてその中央には、淡い三日月の紋章を戴く巨大な塔が君臨している。


――【ルナリス王立アカデミー】。

世界中から名門貴族の跡取りや、大商会の後継者、軍事の名門の血統、そしてごく稀に、その絶大なる魔力の才能を世界が無視しきれなかった、規格外の特待生たる平民たちがかき集められる、世界最高峰の学舎なのだ。その防壁の内部には、教室、大図書館、特設訓練場、研究所、寄宿舎、大浴場、医療病棟、さらには大規模な大会を開催できるほどの広大な闘技場までが備えられており、それ自体がまさに一つの独立した都市と化していた。


そして、この学び舎を生活の拠点とする何百人もの生徒の中に、一人の十一歳の少女がいた。


彼女の名は――『リン』。




「――リンッ!!」


彼女が自らの瞳を正常に開くよりも早く、一振りの枕がその顔面のど真ん中へと見事に直撃した。


「起きなさい!」


彼女はパチクリと目を叩き、まず天井を見つめ、次いで自分の隣に転がった枕を見つめ、最後に、腕を組んだままベッドの傍らに立っている少女の姿へと視線を向けた。


ソラ。彼女の最も近くにいる大切な親友であり、同時に、この日常において最も執拗にアラートを鳴らし散らす、人間の形をした目覚まし時計である。


「……今、何時よ?」リンは、未だに眠気が色濃く残る掠れた声で呟いた。


「遅刻よ」


「どれくらい遅いのよ?」


ソラはそれ以上の余計な言葉を省き、ただ指先で壁の時計を鋭く指し示した。


リンの瞳が一瞬にして限界まで大きく見開かれる。「嘘、完全に遅刻じゃない!」


「あんた、毎朝同じことを言ってるわよ」


「あんたが毎朝起こしに来るのが遅いからでしょ!」


「あんたが毎朝限界を超えて寝坊してるからでしょ!」


リンはすでに慌てふためきながら制服へと手を伸ばしていた。「後ろを向きなさい!」


「あんたの着替えなんて、これまでに何十回、何百回と見てるわよ」


「いいから後ろを向きなさい!」


ソラははぁと深いため息を漏らすと、その言葉に従って身を翻した。それから数分間の凄まじいドタバタの末、二人の少女はアカデミーの重厚な回廊を猛ダッシュで走り抜けていた。リンは走りながら、自らの乱れた髪の毛を何とかそれなりの形に整えようと必死になって手を動かす。


「あんた、夜更かしして本を読むのを今すぐやめたほうがいいわよ」ソラは、息一つ切らさぬ抜群の身体能力で並走しながら言った。


「夜更かしなんてしてないわよ」


「夜中の十二時まで血眼になって魔導書を貪り読んでたじゃない」


「十二時なんて、私の感覚じゃまだ夕方の範疇よ」


「朝の七時から授業が始まる生活の中じゃ、それを正真正銘の夜更かしって言うのよ」


リンは走りながら、その口元にクスリと楽しげな笑みを浮かべてみせた。「……かもね」




二人が滑り込むようにして自らの席へと着いたまさにその瞬間、担当の教授が教室へと入ってきた。近くに座る一人の男子生徒が、その様子を見て『チッ、また遅刻かよ』と極小の声で毒づいたが、リンはその雑音を完璧に無視。自らの教科書を引き出しから引き出すと、部屋全体が静まり返るのを見届けて、深く腰掛け直した。


「――諸君、おはよう」


「おはようございます、教授」


教授は、いくつかの重厚な魔導テキストの束をデスクへと配置した。「……今日の授業は、前回の『魔力循環理論』の続きから始める。


授業は、極めて手慣れた有能なリズムで紐解かれていった。黒板には、チョークによって緻密な幾何学魔方陣の構造図が描かれ、世界を構成する属性の数々が、一パーツずつ正確に解説されていく。火、水、風、地、雷、さらには光と闇。教室のあちこちから、質問の挙手が立ち上がった。


「――リン」


教授がその名を呼ぶ。彼女はパッと顔を上げた。「はい、何でしょうか?」


「個人の体内に蓄えられる魔力の総量を決める、最大の要因とは何だ?」


彼女はほんの一瞬だけ思考をフル稼働させ、理路整然と解答を弾き出した。

「個人の宿す【魔力核】の容量、およびその品質です」


「――正解だ」教授が嬉しそうに頷く。


「……それと同時に」リンは言葉を重ねる。「その魔力を、体内の魔力経路を通じて、どれほど完璧な効率で高速循環させられるか、その熟練度の数値にも拠ります」


教授は、自らの教師としてのプライドを最大級に満足させたような、本物の温かな笑みを浮かべた。「――素晴らしい! 最高の解答だ!」


すると、彼女の後方の座から、一人の女子生徒が『……ふん、ただの目立ちたがりのくせに』と、ギリギリ聞こえる音量で嫌味を吐き散らした。

だが、リンはその言葉に対して、眉一つ動かさずに完全に無視してみせた。彼女は人生の極めて早い段階において、『この世のすべての人間が、自分を好いてくれるわけではない』という世界の絶対の黄金律を完璧に理解していたし、そんな出来損ないの雑音のせいで、自らの睡眠という貴重なリソースを削る(悩む)ことほど非合理的なことはないと、とっくの昔に割り切っていたからだ。

いや、本当に。他人の評価を気にして一喜一憂するほど、無駄な時間はないわけだがね。


昼食の時間になると、大食堂は何百人もの生徒たちの放つ凄まじい喧騒に包まれていた。リンとソラの二人は、いつものお気に入りである窓際の席を確保していた。


ソラは、目の前の食事に対して持ち前の旺盛な食欲で猛然と食らいついていく。

リンはそれを、少し面白そうなジト目で眺めていた。

「あんた、本当に食べるのが早いわね」


「お腹が減ってるのよ!」


「あんた、いつだって同じことを言ってるじゃない」


「だって、私はいつでもお腹が減ってるんだから仕方ないでしょ!」


そこへ上級生の一団が通りかかり、そのうちの一人が彼女たちのテーブルの傍らでピタリと足を止めた。

「……あんたが、噂の『リン』だな?」


「そうだけど?」


「座学の成績は文句なしに優秀らしいじゃないか」その上級生はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ、からかうように付け加えた。「――もっとも、友達を作るのは最高に下手くそみたいだけどな?」


その言葉を耳にした瞬間、隣のソラが即座に怒髪天を衝いて激怒した。「――はあ!? 何だとてめぇ……ッ!」


「冗談さ」その上級生はそう言い残すと、すでに興味を失った風にそのまま立ち去っていった。


ソラはその背中を睨みつけながら、忌々しげに吐き捨てた。「何よあいつ、本当にデリカシーのない変な奴ね!」


「別に、普通の人でしょ」リンは平然と、自らの食事を進めながら言った。


「あんた、本当に他所の奴らからどれほど嫌われようとも、一ミリも気にしないわけ?」


「別にね。この世界にいるすべての人に、自分を好きにさせるなんて最初から不可能なのよ。だったら、そんなことに悩むだけ無駄じゃない」


ソラはパチクリと目を叩き、次いで、最高の親友としての笑みを浮かべた。「……へえ。なるほどね。あんた、十一歳のくせに、随分と大人びた解答を弾き出すじゃない」


「お褒めに預かり光栄よ」リンはクスリと笑うと、そのまま食事へと戻っていったのだった。




午後の重々しい太陽の光が、アカデミーで最も広い中央特設訓練場の全域へと降り注いでいた。

敷地のあちこちには、いくつかのグループが思い思いに直立しており、彼女たちの周囲では、すでに抜かれた武器の刃や、形を成しかけた魔法の光が妖しくきらめき始めていた。


「今日の授業は、対人戦闘の適応テストを行う!」教官の野太い声が響き渡った。「――まずは、リン」


「はい」


「お前が最初だ。前へ出ろ」


その瞬間、一人の男子生徒がこれ以上ないほどの自信満々な笑みを浮かべて、すっと前に躍り出た。

「教官、俺があいつの対戦相手をやりますよ」


教官はわずかに眉を上げた。「……お前が、かい?」


「ええ、そうです」


リンは特に文句を言うでもなく、ただ淡々と指定された模擬戦の舞台へと足を進めた。教官が、サッと片手を掲げる。「――始め!」


直後、男子生徒が猛然と突撃を仕掛けてきた。だが、リンはごく自然なステップで、あっさりとその一撃をかわしてみせる。あいつは悔しそうに何度も連続で剣を振るってきたわけだが、彼女の身体はすでに別の場所へと動いているのだ。何度も、何度も。無駄に終わる攻撃の数に応じて、男子生徒の焦りと苛立ちが目に見えて大きくなっていくのが分かった。

いや、本当に。空振りを繰り返すあいつを見ていると、我ながら少し同情してしまう。


「――ちょこまかと逃げ回るんじゃねえよ!」あいつが怒声を響かせる。


「逃げてなんかいないわよ」


その言葉が言い終わるよりも、ほんの一瞬早かった。

リンの身体はあいつの完全な死角へと移動しており、あいつが気配を察知するよりも前に、その右肩へと、ごく軽い手つきでトントンと触れていたのだ。


訓練場全体が、一瞬にして静まり返った。――クラスの連中の大半は、今の彼女の動きをただの一瞬すら捉えることができず、ただ『肩を叩かれた』という結果だけを唐突に突きつけられたからだ。まさに圧倒的、と言わざるを得ない。


「……チッ、ただの偶然だろ」あいつは顔を真っ赤に染め、本気で気まずそうにブツブツと毒づいた。


「かもね」

リンは平然と言い捨て、一歩下がって間合いを離した。


教官がそこで試合の終了を告げたわけだが、その視線は、必要とされる時間よりも遥かに長い間、じっとリンの姿に釘付けになったままだった。教官が戦慄していたのは、単なる彼女の移動速度なんかでは断じてない。――その驚異的な魔力制御、極限まで研ぎ澄まされた戦闘の本能、空間を滑るような無駄のない洗練された身のこなし。

お世辞にも、たったの十一歳の一介の少女が宿していい実力ではなかったからだ。


教官には、その本当の理由が一体何であるのか、一ミリも理解できなかった。

そしてそれは、他ならぬリン自身にとっても、まったく同じことだったわけだがね。




夕暮れの柔らかな光が、アカデミーの美しい庭園を綺麗なオレンジ色へと塗り替えていく。生徒たちがそれぞれの寄宿舎へと帰路に就く中、リンとソラの二人は、誰よりもゆっくりとした足取りで、夕焼け空を見上げながら歩いていた。


「ねえ、リン。あんた、自分が将来一体どんなふうに強くなるのか、想像してみることってある?」ソラがふと尋ねた。


「……さあ、どうかしら」


「私はね、世界中を飛び回って名前を轟かせる、最高の『S級冒険者』になるつもりなのだ!」


リンの口元に、クスリと楽しげな笑みが浮かんだ。「……いいんじゃない。あんたの性格には、それが一番お似合いの生き方よ」


「あんたは?」


リンはその問いを胸の奥へと送り、長い間、じっとその答えを考えていた。「……分からないわ。ただ、私は。――もっと、限界を超えて『強く』なりたいのよ」


「……なんで?」


彼女は平然と肩をすくめてみせた。自らの魂の深層から湧き上がってくるその激しい渇望を、今の言葉では、完璧に説明することができなかったからだ。それはただ、彼女がこの世界に生まれ落ちた最初の瞬間から、ずっと胸の中に永続的に居座り、ブレることなく機能し続けている、出所不明の確固たる意志。


「よし、決まりね!」ソラが最高の笑顔で拳を掲げた。「だったら、二人揃って世界を震わせるくらい強くなるわよ!」


リンは堪えきれずに、楽しそうに笑ってみせた。「――ええ、約束よ」


この日の夕暮れ、庭園を連れ立って歩いていた二人の少女は、未だにただの一ミリも気づいてはいなかった。

自らの歩んでいるこの何の変哲もない平穏な日常が、ここから先、一体どれほど常軌を逸した次元へと、根底からひっくり返されることになるのかを、この時の彼女たちはまだ、知る由もなかったのだ。


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