幕間 ― カイを忘れた世界
読者の皆様へ、新たなお知らせ
こんにちは、**転生の向こう側 【The Other Side of Reincarnation / Beyond Reincarnation】** の作者、Lukeです。
このシリーズについて、決定したことをお知らせします。
これまで分けていたシリーズを、**すべて一つの完全なシリーズとして統合することにしました。**
これは、それぞれが別々の物語であるように見えてしまうことを避けるためです。
これらはすべて同じ世界、同じ物語、そして一つの旅の一部です。
今回の変更により、混乱を招いてしまう可能性があることを心よりお詫び申し上げます。
これからも皆様に楽しんでいただける物語を届けられるよう、引き続き頑張っていきます。
いつも応援してくださっている皆様のご支援、そしてご理解に心から感謝いたします。
これからも、**転生の向こう側** をよろしくお願いいたします。
作者:LUKE
静寂。
完全な静寂だった。
メモリー・プリズンは消えた。
カイが長い間知っていた世界は、完全に消滅していた。
戦場はない。
シミズ帝国もない。
魔王たちもいない。
始原の悪魔たちもいない。
インフィニティ・ディメンションもない。
ウォー・ジェネシスもない。
何もない。
だが――崩壊した人工世界の残骸、その遥か彼方では……。
新たな世界が、存在し続けていた。
現実の世界。
カイがそこへ辿り着く遥か以前から、ずっと存在していた世界。
誰もがそれぞれの人生を生き続けている世界。
そして――誰一人として、彼のことを覚えていない世界。
---
# **アシュリーとダニエル**
穏やかな午後だった。
太陽が、山々に囲まれた美しい景色を照らしている。
この場所は、ホリゾンタル・ラインと呼ばれていた。
メモリー・プリズンの中で、カイはここを危険な場所として知っていた。
かつて彼が生まれた場所。
そして、家族を失った場所。
さらに、始原の悪魔ナンバー8が封印されていた場所でもあった。
しかし――それは、現実ではなかった。
現実の世界では……。
ホリゾンタル・ラインは、穏やかだった。
子供たちが草原を走り回り、鳥たちが澄み切った空を飛んでいる。
その中に、一人の十一歳の少女がいた。
少女は笑いながら草原を駆けていた。
だが――突然、足を止める。
笑顔が消えた。
少女は空を見上げる。
何かがおかしい。
それが何なのか、少女には説明できなかった。
まるで……。
誰かに見られているような。
あるいは……誰かが近くにいるような。
少女は、ゆっくりと振り返った。
何もない。
少女は小さく首を振った。
「ママ!」
そして、近くの家へと駆けていった。
家の中では、一人の美しい女性が料理をしていた。
長い髪を持つ女性。
その名は、アシュリー。
カオス・ドラゴンだった。
少女が中へ入ってくる。
「ママ、ちょっと聞いてもいい?」
アシュリーは微笑んだ。
「もちろんよ。どうしたの?」
少女は少し迷った。
「ママとパパには……私より前に子供がいたの?」
アシュリーの動きが止まった。
そして、柔らかく笑う。
「いいえ」
アシュリーは娘のところまで歩いていき、その頭に優しく手を置いた。
「あなたが私たちの最初で、そして唯一の子供よ」
少女は瞬きをした。
「そう……」
アシュリーは娘の表情に気づいた。
「どうしてそんなことを聞くの?」
少女は俯いた。
「分からない」
少しだけ間を置く。
「でも……」
少女は再び山々の方へ視線を向けた。
「私には、お兄ちゃんがいたような気がするの」
アシュリーは微笑んだ。
「お兄ちゃん?」
「うん」
少女は頷いた。
「どうしてか分からないけど……誰かがいなくなったような気がするの」
アシュリーは娘の頭を優しく撫でた。
「きっと、あなたの想像よ」
「そっか」
少女は笑った。
「分かった、ママ」
そして少女は、再び駆け出していった。
アシュリーは、その後ろ姿を見つめていた。
だが――ほんの一瞬。
その笑顔が消えた。
胸の奥に、奇妙な感覚が残っている。
彼女自身にも、それが何なのか分からなかった。
まるで……。
かつて、もう一人の子供がいたような。
しかし、その考えは浮かんだ瞬間に消えていった。
アシュリーは小さく首を振る。
「……なんて不思議な感覚なのかしら」
# **ニクサラの玉座**
その頃――。
巨大な玉座の間。
一人の女が、黒い玉座に腰掛けていた。
彼女を取り巻く空気は、重く沈んでいる。
やがて、女はゆっくりと目を開いた。
ニクサラ。
第三位の強さを誇る魔王。
彼女は、何もない空間をじっと見つめていた。
何かがおかしい。
そんな感覚があった。
「……おかしいわね」
ニクサラは胸元に手を当てる。
「どうして……何かを忘れているような気がするの?」
目を閉じる。
だが、何も浮かばない。
記憶も。
答えも。
ただ、理由の分からない空虚さだけが残っていた。
ニクサラは再び目を開く。
「……奇妙ね」
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# **ブラック**
扉が開いた。
一人の若い女性が玉座の間へ入ってくる。
彼女はすぐにニクサラの前へ跪いた。
「ニクサラ様」
ニクサラが彼女を見る。
「話しなさい」
女性は頭を下げた。
「もしよろしければ……一つ、お聞きしたいことがございます」
「許可する」
「ありがとうございます、ニクサラ様」
女性は一瞬ためらった。
「失礼なことを申し上げるつもりはないのですが……」
「いいから言いなさい」
女性は顔を上げた。
「私は……あなた様に仕える以前、別の主に仕えていたのでしょうか?」
ニクサラの目が細くなる。
「私より前に?」
女性は首を振った。
「分かりません。どうしてなのか、自分でも分からないのですが……」
彼女は胸に手を当てた。
「誰か別の方と契約しているような……そんな奇妙な感覚があるのです」
ニクサラは、じっと彼女を見つめた。
なぜだろう。
その言葉が、妙に懐かしく感じられた。
*……私だけではないのね。*
*この奇妙な感覚を抱いているのは。*
女性は、答えを待っていた。
やがて、ニクサラが口を開く。
「その質問に対する答えは、私にも分からない」
女性は頭を下げた。
「承知いたしました」
ニクサラは視線を逸らす。
そして――。
「これからあなたの名は、ブラックとする」
女性は深く頭を下げた。
「はい、ニクサラ様」
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# **始原の悪魔たち**
遠く離れた場所――。
魔界の奥深く。
そこには、いくつもの巨大な影が集まっていた。
彼らは――始原の悪魔たち。
だが、彼らの人生は、カイが覚えているものとは異なっていた。
No.2。
No.9。
No.8。
No.1。
彼らは、カイから与えられた名前を一度も受け取っていない。
No.2は、ラヴェシアではない。
No.9は、ヴァドスではない。
No.1は、セナではない。
そして――No.8。
彼は、決してネロにはならなかった。
彼は自由に立っていた。
封印されたこともない。
名前を与えられたこともない。
ただ、そこに存在していた。
その名は――。
No.8。
一方で――。
No.3とNo.7もまた、異なる運命を歩んでいた。
彼らは今も、カズヒコ・オノに仕えている。
そして今も、その名を持っていた。
フレデリカ。
フィン。
その名前だけは、現実世界の歴史の一部として残っていた。
そして、彼らの中で――。
ただ一人、魔王となった者がいた。
ニクサラ。
No.2、No.9、No.8、そしてNo.1は、現在も魔界に留まっている。
彼らの物語がカイと交わる日は――まだ来ていなかった。
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# **始原の精霊たち**
古代の森、その奥深く――。
霧がすべてを覆っていた。
木々を。
山々を。
大地を。
そして、空までも。
その森の中に、三つの影が立っていた。
三人の――始原の精霊。
だが、彼らを取り囲む霧は自然に発生したものではなかった。
それは牢獄だった。
彼らを閉じ込めるために施された、封印。
三人は、遠くの空を見上げる。
なぜなのか。
彼ら自身にも分からなかった。
だが――ほんの一瞬。
何かを感じた。
何かが、変わった。
そして次の瞬間。
霧が再び彼らを飲み込んだ。
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# **シミズ帝国**
シミズ帝国は、今も存在していた。
そして、その支配者もまた――ナオ・シミズ。
帝国は滅びていなかった。
彼女は今も、数え切れない年月をかけて蓄積してきた力を、その身に宿している。
そして――パーフェクト・コピーも健在だった。
そんな帝国の傍らには、二体の恐るべき存在が立っていた。
虚無竜――ヴォラス。
そして、氷竜――スコーン。
だが、現実世界の歴史は異なっていた。
カイが介入することはなかった。
ネロもいない。
ヴァドスもいない。
そして――ナオと戦うニクサラも存在しない。
だからこそ。
シミズ帝国は、ただひたすらにその領土を広げ続けていた。
# **カズヒコ・オノ**
陰陽寮の奥深く――。
一人の男が封印されたまま、そこにいた。
カズヒコ・オノ。
だが、メモリー・プリズンとは違う。
彼は――本当に封印されていた。
そして、その封印を施した人物は、ナオ・シミズだった。
フレデリカとフィンは、今も陰陽寮に残っている。
彼らは、主を解放する方法を探し続けていた。
世界は、変わらず回り続けている。
誰も知らない。
現実の彼方で――この世界の人々とは別の姿をした者たちが、まったく異なる物語を生きていたことなど。
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# **日本**
日本。
穏やかな午後だった。
車が通りを走り、人々が歩道を行き交っている。
何もおかしなことはない。
そんな、ごく普通の日常だった。
あるアパートの一室。
仕事を終えた橘ヒマリが帰宅する。
彼女は今も、警察官だった。
持っていた荷物をテーブルへ置き、椅子に腰を下ろす。
そして、ふと目に入ったのは――自分のスマートフォンだった。
待ち受け画面には、一枚の写真が表示されている。
ヒマリは、その写真をじっと見つめた。
何かがおかしい。
彼女はスマートフォンを手に取る。
「……ん?」
画像を見つめる。
「どうして……この写真、何かが足りないような気がするの?」
画面を拡大する。
何もない。
写真に写っている全員がそこにいる。
何もおかしくない。
それなのに――。
何かが、足りない。
ヒマリは眉をひそめた。
「……本当は、もう一人いたんじゃなかった?」
その瞬間。
スマートフォンの画面が、突然ちらついた。
画面が一瞬だけ乱れる。
ほんの一瞬――。
歪んだ画像が表示された。
そして、すぐに消える。
ヒマリは瞬きをした。
「……え?」
画面は、何事もなかったかのように元へ戻っている。
ヒマリはしばらく画面を見つめた。
そして、小さく息を吐く。
「……気のせいか」
スマートフォンをテーブルへ置いた。
「ちょっと考えすぎてるのかも」
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# **ケンジ**
日本の別の場所――。
ジロウは、今も生きていた。
だが、この世界での彼の名前は――今もケンジだった。
かつて、彼は投獄されていた。
しかし――誰も、その理由を覚えていない。
彼の投獄に関する記録は、もはや辻褄が合わなくなっていた。
やがて、彼は釈放された。
ケンジは、以前と変わらない日常へ戻っていった。
彼女と共に暮らしている。
そして、自分でも出所を説明できない金を使って生活していた。
時々、彼は疑問に思う。
「……この金、どこから来たんだ?」
だが、やがて――。
彼はその疑問を口にすることすらやめた。
世界そのものが――彼がなぜ投獄されていたのか、その理由を忘れてしまったのだから。
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# **時竜**
通常の時間という概念、その境界の彼方――。
一体の時竜が、ただ一人で立っていた。
他の者たちとは違う。
彼の存在は、消されていなかった。
なぜなら――。
彼は、カイ・ゼロ自身によって創造された存在だったからだ。
メモリー・プリズン内部の時間の流れを維持するために、彼は作られた。
彼は知っていた。
ずっと、知っていた。
時竜は、遠くの虚無を見つめる。
そして、微笑んだ。
「そうか……」
彼は目を閉じる。
「ようやく、自分自身の幻想から抜け出したんだな」
その笑みが、少しだけ深くなる。
「ようこそ、現実の世界へ――カイ」
そして、少し間を置いて。
「いや……こう言うべきかな」
「――時の終わりへ」
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# **エリス**
別の王国――。
一人の美しい女性が、庭園を歩いていた。
彼女には夫がいる。
貴族の男だった。
二人の間には、二人の子供もいる。
穏やかな人生だった。
だが――彼女は突然、足を止めた。
手が胸元へ伸びる。
また、あの奇妙な感覚が湧き上がった。
「どうして……」
彼女は空を見上げる。
「どうして私は……名前すら知らない誰かの名前を、思い出そうとしているの?」
目を閉じる。
何もない。
彼女は小さく息を吐いた。
「きっと、仕事が忙しくて疲れてるのね」
遠くから夫の声が聞こえた。
彼女は振り返る。
「今行くわ!」
そして――。
その奇妙な感覚は、消えていった。
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# **王国たち**
現実の世界は、変わらず続いていた。
ロシャン・シティ。
アシュフォード王国。
ミラース王国。
ティアムーン王国。
テオレマ王国。
シミズ帝国。
陰陽寮。
プリンシパリティ・ギルド。
そして――数え切れないほどの国々。
すべてが存在していた。
だが、その歴史は違っていた。
カイが覚えている出来事は、この世界では一度も起こっていない。
そして――。
エルフ帝国。
その国を治める者は、カイが知っている人物だった。
だが――カイの記憶にある彼女とは違っていた。
エレイン。
この世界では、彼女がエルフ帝国の女王だった。
そして同時に、西方評議会の長でもあった。
しかし――二人の姿だけは、どこにもなかった。
エンゾ。
エース。
彼らがどこにいるのかは――誰にも分からない。
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# **コリ・ヴァネッサ**
遠く離れた場所――。
広大な海の隣に、一つの王国が存在していた。
そして、その海の底には――何かが封印されている。
呪われた吸血鬼。
その名は――。
コリ・ヴァネッサ。
メモリー・プリズンの中で、カイは彼女をクロエと呼んでいた。
だが、この世界にその名前は存在しなかった。
彼女の本来の名前が残っている。
コリ・ヴァネッサ。
吸血鬼文明を滅ぼした、呪われた吸血鬼。
西の竜ではない。
彼女自身が――その災厄だった。
やがて、一人の英雄が彼女を打ち倒した。
そして――広大な海の底へと封印した。
その海は、こう呼ばれている。
――太陽の涙。
彼女は、そこにいる。
ただ静かに。
待ち続けている。
# **カイ**
遠く離れた山の上――。
カイは、一人で座っていた。
山は大きく損壊している。
巨大な地滑りが大地を引き裂き、景色そのものを変えていた。
カイは、その端に腰掛けている。
肩には刀が乗せられていた。
頭は俯いている。
その顔には、ほとんど感情がなかった。
まるで……壊れてしまったかのようだった。
その後ろには、ユイが立っている。
彼女の瞳には、無数の情報が流れていた。
そして、静かに口を開く。
「分析完了」
カイは答えなかった。
ユイは続ける。
「メモリー・プリズンであなたが出会った人物たちについて、収集できた情報を報告します」
カイが、ようやく顔を上げた。
「そうか……」
カイは一度、息を吸う。
「エレインは、エルフ帝国の支配者なのか?」
「はい」
「それから……エリスは……」
その声が弱くなる。
「結婚してるのか?」
「はい」
「子供は?」
「二人です」
カイは笑おうとした。
「……そうか」
声が震えた。
「それは……よかった」
涙が、カイの目から零れ落ち始める。
カイは慌てて顔を背けた。
ユイが彼へ近づく。
そして、後ろからそっと腕を回した。
「大丈夫です」
カイは何も言わない。
ユイは頭を彼の背中へ預ける。
「何があっても……」
「私は、ずっとあなたのそばにいます」
「だから……」
「もう泣かないでください」
カイは顔を拭った。
「……分かった」
ユイは微笑んだ。
「それでは……」
「最初の行動は、どうしましょうか?」
カイは彼女を見る。
「何か提案できるか?」
「もちろんです」
ユイの瞳が変化する。
無数の記号が、その瞳の中を走った。
情報が、彼女の意識へと次々に流れ込んでいく。
世界全体を解析する。
確認されているすべての人物。
利用可能なあらゆる可能性。
すべての潜在的な味方。
そして――すべての脅威。
やがて、ユイは停止した。
「分析完了」
ユイはカイを見る。
「仲間を集めることを推奨します」
カイは頷いた。
「それから?」
「そして、カイ・ゼロを引きずり出す方法を探します」
カイの表情が険しくなる。
「最初に誰を仲間にする?」
ユイは即座に答えた。
「コリ・ヴァネッサです」
カイは彼女を見る。
「呪われた吸血鬼か?」
「はい」
「かつて、俺がクロエと名付けた……」
ユイは頷いた。
カイは立ち上がる。
「どこにいるか分かるか?」
ユイの瞳が輝く。
「位置を特定しました」
そして、一拍置いて。
「現在、彼女は『太陽の涙』の海底に封印されています」
カイは地平線へ視線を向ける。
「なら――そこへ行こう」
---
# **新たなる進化**
カイはユイを見る。
「もう一つ」
「はい?」
「俺を魔王にすることはできるか?」
ユイは微笑んだ。
「はい」
カイは瞬きをする。
「できるのか?」
「もちろんです」
カイは少し考えた。
「……分かった」
ユイが手を掲げる。
次の瞬間――カイの足元に巨大な魔法陣が出現した。
「魔王進化種の生成を開始します」
周囲の空気が変化する。
「処理中……」
「進化種を生成……」
「完了」
「魔王進化種の生成に成功しました」
「進化を開始します」
エネルギーがカイを包み込む。
彼のオーラが、一気に噴き上がった。
その過程は、わずか数秒しか続かなかった。
そして――すべてが止まる。
「進化完了」
カイは自分の身体を見下ろした。
「……早かったな」
ユイは微笑んだ。
「あなたのためなら、何でもしますよ。私の愛しい人」
カイが固まった。
「……いつから俺がお前の恋人になった?」
ユイは首を傾げる。
「最初からです」
カイは彼女を見つめる。
ユイは続けた。
「あなたは、現実の世界で私を目覚めさせてくれました」
「そして、それ以来……」
「私は、カイ・ゼロがあなたを消去するのを防ぐために、できる限りのことをしてきました」
カイはかすかに笑った。
「……ありがとう」
彼はユイを見る。
「それから……」
「もっとお前のことを知りたい」
「話してくれるなら、だけど」
ユイは微笑んだ。
「あなたが私について知りたいことなら、何でもお話しします」
カイは頷いた。
「ありがとう」
そして、周囲を見回す。
「たぶん、俺たちはどこか拠点になる場所が必要だな」
ユイは微笑んだ。
「心配しないでください」
「私に任せてください」
## 新たなる居場所
ユイが手を掲げた。
次の瞬間――巨大な魔法陣が、山全体を覆うように展開された。
大地が震える。
山そのものが激しく揺れた。
そして――
**ドォォォンッ!!**
地面の奥底から、巨大な塔が姿を現した。
さらに高く。
さらに高く。
さらに高く――。
やがてそれは、山脈全体を見下ろす巨大な要塞のようにそびえ立った。
その規模は、オンミョウ・オーダーの巨大な塔にも匹敵するほどだった。
カイは呆然と塔を見上げた。
「これ……ユイが作ったのか?」
ユイは微笑んだ。
「もちろんです」
二人は塔の中へ入っていく。
その内部には、巨大な空間が広がっていた。
美しく整えられた大広間。
無数の本が収められた図書館。
戦闘訓練場。
居住区画。
研究室。
観測室。
その他にも、必要となるあらゆる設備が揃えられていた。
そのすべてを設計したのは、ユイだった。
カイは周囲を見渡す。
「これは……」
ユイは微笑んだ。
「あなたの新しい家です」
カイは何も答えなかった。
メモリー・プリズンを離れてから――
初めてだった。
もう一度、ここから始められる。
そう思える場所を見つけたのは。
---
## 太陽の涙
突然、カイのオーラが全身を包み込んだ。
衣服が変化していく。
同時に、ユイの衣服も変化した。
二人の姿が、新たなる世界で身に纏う姿へと変わっていく。
ユイがカイへ振り向いた。
「目的地は?」
カイは前方を見据えた。
「太陽の涙」
ユイが頷く。
「確認しました」
巨大な転移魔法陣が、二人の足元に展開された。
膨大なエネルギーが二人を包み込む。
そして――
世界が消えた。
次の瞬間――
カイとユイは、巨大な海の上空に現れた。
海はどこまでも広がり、水平線の彼方まで続いている。
太陽の光が水面に反射し、無数の輝きを生み出していた。
ユイが下を見下ろす。
「……あそこです」
カイは海を見つめた。
あの波の下には――
巨大な何かが封じられている。
危険な何か。
かつてカイが仲間と呼んだ存在。
かつて、クロエだった者。
しかし、この世界では――
彼女はコリ・ヴァネッサ。
カイはアマゲドンを握る手に力を込めた。
ユイがカイを見る。
「始めますか?」
カイは海を見つめたまま――
僅かに笑った。
「ああ」
一歩、前へ踏み出す。
「始めよう」
カメラはゆっくりと二人から離れていく。
海は、静かなままだった。
しかし――
その海の下で。
何かが動いた。
二人の到着を感じ取った何かが。
封印が、ゆっくりと震え始める。
そして――
太陽の涙、その深海の奥底で。
二つの瞳が――
ゆっくりと開いた。
つづく……




