第57話:二対一
その空間に満ちていたのは、息をひそめた刹那が自らを繋ぎ止めているかのような、完全なる沈黙(静寂)だった。それは決して平穏などという生温いものではなく、大破滅がすべてを解き放つ、ほんのコンマ数秒前の独特な静寂に他ならない。
カイは、完全に己の意志によって創り上げられた世界の中心に直立していた。
頭上には人工の天空が広がり、地平線には彼が実在を望んだからこそそこに聳え立つ山脈のインフラが刻まれ、その大地を、彼が【無】と確固たる意図だけでゼロから成形した広大な大海原が、美しく巻き付くようにうねっている。
(――ここにあるすべての事象は、俺に従う)
それなのに。今俺の目の前には、これほどデタラメな世界を、大した日常の努力もなしに一瞬で更地(消滅)にできるバケモノが、二頭も直立しているのだ。
真竜ヴォラス――【虚無竜】。そしてその隣で、冷徹に、かつ辛抱強く佇む真竜スコルン。どちらの瞳にも、カイが創り上げたこの至高の絶対領域に対する感心の数値など、ただの一ミクロンも浮かび高まってはいなかった。
カイが自らの魔剣の柄へとそっと手を当てた、まさにその刹那。背後のスロットに、あまりにも見慣れた絶対的なプレッシャーがカチリと同期して着根した。
彼は身を翻した。「……お袋?」
「ちょっと、見物しに来ちゃった」アシュリーは腕を組み、息子の明らかなパニック(驚愕)のアラートなどどこ吹く風で、平然と言い放った。
「ここにいちゃ駄目だって。マジで」
「分かってるわよ」彼女はテヘッと笑う。「でもね、どうしても好奇心の数値が抑えきれなくてさ」
「私の目が届いているからって、手加減(小テスト)なんかしたら承知しないからね?」
彼女の美貌に、すでに最高のお袋としての誇らしげな笑みがリロードされる。
「……するわけないだろ」
カイはそう呟くと、再び二頭のクソトカゲ連合軍へとその冷徹な視線をロックオンした。
ヴォラスが、パチパチと退屈そうに首を鳴らした。「……へえ。あんたが、俺たちをこのちっぽけなおもちゃ(固有結界)の中に引きずり込んだ張本人ってわけか」
「ああ、そうだ」
スコルンはその冷徹な瞳で周囲の地形をスキャンすると、おむろに片手をその大地へと触れさせた。
次の瞬間、あいつの足元の座標から、一瞬にしてすべてを白濁させる『絶対の凍結』が爆発的に奔流(侵食)し始めた。――それは、普通の氷なんかじゃない。カイのパッシブ能力は瞬時に言語化した。それは魔力エネルギーそのものを物理的に凍らせ、この次元空間の基礎インフラそのものをバキバキときしませ、強制崩壊させかねない致命的なバグ(凍結)。
《告知。対象個体『スコルン』の空間解析が完了しました。――宿す主要権能は【絶対零度の氷結】。物質、魔力エネルギー、環境大気、さらには時空の位相構造に至るまでを無条件で一斉凍結・解体する特性と識別されます》脳内のヌルが、冷徹に警告アラートを響かせる。
「……あんた、お世辞にも『手軽に片付く実務(相手)』とは言えないバケモノみたいだな」カイがジト目を向ける。
「まだあんたは、俺の本当の最大出力を一ミリも見ちゃいないよ」スコルンが冷淡に言い放った。
――その刹那、ヴォラスのデータが空間から消失した。
カイの戦闘知覚がその突撃の軌道をマークしたのは、ほんのコンマ数秒遅れてのことだった。次の瞬間、あいつの絶対の拳がカイの腹部へと完璧にクリーンヒットした。
ドゴォォォォォン!!!
あまりにもデタラメすぎる大質量の衝撃の前に、カイの肉体は音速を遥かに超越して背後に実在した三つの巨大な山脈を文字通り分子レベルで何枚もぶち抜き、天空の彼方で飛行モーションを制御して辛うじてリブート(停止)した。
吐血はない。本質的なダメージも、ゼロ。
彼は、不敵にニカッと笑ってみせた。「……速いな」
「あんたの速度が、ただの脆弱なだけさ」
次の瞬間、ヴォラスの声はカイの完全な真後ろの死角(背後)から音もなく響いた。
カイはあいつが繰り出した二発目の追撃をごく自然なスウェーで回避し、そのカウンターとして絶対のキックを最大解放。だがヴォラスはその一撃を、片手で完璧にガード(ブロック)してみせた。
激突した二つの絶対出力の余波だけで、カイの創り上げた人工の天空にバキバキとエラーの亀裂が走り、一瞬にして木っ端微塵に爆散した。
そこから先は、日常の知覚ではただの一フレームすら追跡不可能な、超高速の幾何学断裂(死闘)だった。
パンチ、ブロック、キック、カウンター。コンマ数秒の刹那に何百回という交錯の因果が繰り返され、大気そのものが恐怖に激しく悲鳴を上げる。
――だがその最中、突如としてカイの右足のデータに、不気味な白濁の凍結が強制上書きされ始めた。
「――ハメ殺した(捕まえた)ぞ」スコルンが冷淡に告げる。
「……させるかよ!」
カイはその凍結の侵食が自らの腰のスロットに到達するよりも前に、全身から生身の【無】の魔力を一気にフレア(爆発)させ、氷の概念ごと一瞬で根こそぎ強制消滅させた。
だが、その防衛モーションの一瞬の隙を突くようにして、ヴォラスが彼の完全な頭上の座標へと出現。あいつの手のひらには、すでに光を一切反射しない超巨大な暗黒球体が物質化していた。
――【虚無】。
その漆黒の球体は、カイの肉体を一瞬にして丸ごと貪り喰い、完全なる闇の閉鎖空間へと監禁した。そして次の瞬間、臨界点を突破したエネルギーが爆発的に大爆発。
吹き飛ばされたカイの移動座標の先には、すでにスコルンの放った次の波状攻撃のインフラが、完璧な段取りで待ち構えていた。――押し寄せる絶対零度の氷の津波。
カイは慌てて独自の絶対障壁を展開してそれを正面からガードしたものの、その障壁すらも触れた瞬間からメキメキと凍りつき、自らの衝撃の質量に耐えかねて粉々に粉砕された。
彼は魔剣を引き抜き、迫り来る氷の概念を力任せに一刀両断に切り裂いた。――だが、切り裂いたその切断面の奥にある空間そのものが、術式を跨いだ瞬間に一瞬にして完璧に氷結したのを、彼のパッシブ能力が敏感にマークした。
(……こいつ、空間そのものを物理的に凍らせてやがるのかよ!)
《肯定。事実です》脳内のヌルが即座にアナウンスを差し込む。《これより、主の熱量抵抗特性の数値を限界まで右肩上がりに書き換えます(修正完了)》
スコルンが一瞬にして間合いを詰め、魔剣を振り下ろす。カイはそれをガード。激突した二頭の衝撃波の質量だけで、双方が音速を超えて四方へと吹き飛ばされた。
だが、その二頭が引き離された中間の座標に、ヴォラスが当然のような顔で出現。あいつの全身から放たれた【虚無】の絶対魔力奔流が、一斉にこの世界の全域へとフルバースト(完全解放)された。――カイは両腕をクロスさせてその破滅的な質量を正面から受け止めたが、次の瞬間、彼がゼロから成形したはずの広大な世界、大地、海原、すべてのインフラ構造が、文字通り世界の常識から完全に『存在しなかったこと(消滅)』へと書き換えられ、ただの何もない完全な更地へと変貌した。
瓦礫すら残らぬ虚無の空間(更地)の中から、カイは衣服をボロボロに引き裂かれ、全身に幾多の打撲のデータを刻み、頬に一筋の鮮血を奔らせた状態で、のっそりと立ち上がった。
「……二対一、か」俺は顔の血を指で拭い去りながら呟いた。
「随分と贅沢な小テスト(お仕事)を用意してくれたじゃないか」
「……おや、今更そんな凡俗なルールに驚いて見せるのかい? 【竜魔王】カイ・コバヤシ」ヴォラスが下劣に嘲笑う。
「まさか」カイは、その口元に最高の、兇悪極まる不敵な笑みをリロード(復元)してみせた。
「……驚いてなんかねえよ。むしろ、これ以上ないくらい最高に『エンジョイ(退屈しのぎ)』させてもらってるさ」
スコルンの瞳から、すべての生温い感情が完全に消滅した。あいつの足元の座標から、今度は世界の限界値を完全にオーバーフローさせた、神話級の氷結波動が解放される。――次の瞬間、更地となった空間が、虚空が、はるか彼方の地平線のすべてが一瞬にして一分の曇りもない真っ白な絶対零度へと塗り替えられ、環境温度は物理法則が逆立ちしたって許容しない禁忌のマイナス(限界値突破)へと強制上書きされた。
大気が凍る。魔力マナが凍る。――空間の構造そのものが、カチカチに硬化してその動きを完全停止させられ始めたのだ。
アシュリーの瞳が、鋭く研ぎ澄まされる。
「……なるほど。これは、お世辞にも面白くないレベルの危険な天災ね」
ヴォラスが空間に巨大な【虚無】の穴を抉じ開け、カイの直立していた絶対座標を丸ごと貪り喰った。カイはパッシブ能力を駆動させ、数キロメートル離れた安全圏へと一瞬でタイムシフト(空間転移)を果たした――。
だが、転移したその物質化(出現)のコンマ数秒の刹那、あいつが放った正真正銘の『絶対零度の魔槍』の切っ先が、彼の右肩の肉体を正確に貫通した。
刻まれた致命的な凍結のエラーログが、一瞬にして彼の肉体組織を根こそぎ侵食し、右半身を凍らせにかかる。カイは一瞬の躊躇もなく、自らの魔剣を奔らせてその凍りついた己の右肩の肉体を【力任せに切り落として(デリートして)】、虚空へとパージ(放棄)した。そして、欠落した右腕のデータを、超高速の幾何学スペルと共に一瞬にして完全再生させ、傷一つない元の健康な状態へと強制上書きするのだった。
次の瞬間、ヴォラスの拳がカイの脇腹を容赦なくぶち抜き、その体内で【虚無】の魔力が高密度で大爆発した。カイの口から、どっと鮮血が噴き出す。
「――ハメ殺した(捕まえた)ぞ」ヴォラスが冷淡に言い放つ。
間一髪の猶予もなく、スコルンがカイの左腕をカチカチの絶対零度で凍結。直後、ヴォラスがその存在をシステムから完全に抹消した。さらに右腕もスコルンによって一瞬で凍らされ、ヴォラスがそれを最初からなかったことへと綺麗に喰らい尽くす。
ほんの数百万分の一秒の刹那。カイは、両肩から先を根こそぎ完全消滅させられた状態で、その更地の真ん中に直立していた。
「……あんたのその慢心こそが、自らの日常を完全終了(全滅)させる最大の原因さ」
スコルンが冷淡に言い捨てる。
「本物の『真竜』を二頭同時に相手取って、一介の生まれたての魔王風情が生存しきれると本気で思っていたのかな?」ヴォラスがそこに言葉を重ねる。
カイは、だらしなく、自らの両腕があるべきだった虚空の座標を見下ろした。
そして。
その口元に、最高の、兇悪極まる不敵な笑みをリロード(復元)してみせた。
フゥゥゥゥン!!!
幾何学的な術式の奔流が一瞬にして空間に咲き乱れ、パージ(消滅)されたはずの両腕は、コンマ数秒のフレームすら挟まずに完璧に完全再生。何のエラーのノイズもなく、傷一つない元の健康な状態へと強制上書きされたのだ。
二頭のクソトカゲの顔から、戦闘開始以来、初めて完璧に余裕の色彩(ドヤ顔)が消滅した。
カイはごく自然な手際で、新しく生えてきた自らの手首をパチパチと回してみせた。
「……なぁ、あんたたち。今の小テスト(おままごと)、もしかして俺を『痛がらせる』ための正しい手順のつもりだったわけ?」
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戦いはさらに熾烈を極め、脳内のヌル(虚無無意識)がカイの戦闘適応能力をリアルタイムで右肩上がりに更新し続けていた。交錯のたびに回避確率の数値が跳ね上がり、そのステップはより滑らかに、より速く、より正確に最適化されていく。無駄に終わる攻撃の数に、真竜ヴォラスの眉間の皺が日を追うごとに――いや、一秒ごとに深くなっていった。
「……こいつ、俺たちの出力に適応してやがるな」ヴォラスが低く唸る。
「ならば、そのプロセス(適応)が百パーセントに達する前に、今すぐ強制終了させるまでさ」スコルンが冷淡に言い放ち、二頭が同時に最大出力を解放して突撃。激突した絶対質量のプレッシャーの前に、隔離空間そのものがバキバキとエラーの悲鳴を上げて歪み始めた。
聳え立っていた山脈はとっくの昔に完全消滅していた。大海原は熱量オーバーで根こそぎ蒸発し、人工の天空はボロボロの残骸となって引き裂かれている。カイが己の意志で創り上げた世界は、その内部に招き入れた二頭の絶望的な格付け(パワー)の前に、辛うじて崩壊を耐えている状態だった。
そこへ、スコルンがまるで世間話でも残すかのように、至極平然と言い放った。
「……あんた、本気で俺たち二頭を、そんな不甲斐ないワンオペ(単独)で手揉みできると本気で思っていたのかな?」
カイの動きが、ピタリと停止した。
「あんたの処理(処刑)が終わったらさ」ヴォラスが、少し離れた場所に直立するアシュリーの方へ冷徹な視線を向け、下劣に口元を吊り上げた。「……次は当然、あそこのお袋さんのデータも根こそぎ消滅させてやるからな」
カイの表情から、一切の感情の数値が完全にデリートされた。
「……なぁ、あんたら。今、何て言った?」
二頭のクソトカゲからのシステム応答はない。
「……ちょっと、耳にノイズが入ってよく聞こえなかったんだわ」カイの声が、絶対零度の冷徹なトーンへと滑落していく。「お願いだからさ。もう一度、今の言葉を正確に言語化してくれないかい?」
「ハルト」
背後から、アシュリーが静かにその名を呼んだ。
カイが、そちらへと視線を転じる。
「ちょっと、お袋として一つ確認しておきたい案件があるんだけど」彼女は言い、その顔からだらしのない笑みが完全に消滅した。
「……あんた、まさかまだ、出し惜しみ(リミッター)なんかしてるわけじゃないわよね?」
「……出し惜しみなんかしてないよ、お袋」
「あら、本当に?」彼女の瞳に【混沌竜】の獰猛な絶対の光がリロードされる。「もしそんな不甲斐ない数値でその二頭のトカゲどもに負けるようなことがあったら――二度と、私のことを『お袋』なんて呼ぶんじゃないわよ。いいわね?」
沈黙。
カイは再び、ヴォラスとスコルンの二頭のほうへと向き直った。彼の内側にあるすべてのインフラが、決定的な、修復不可能な『処刑の段取り(覚醒)』へとカチリと同期を完了させていた。
「……あんたらさ、俺のお袋を本気で怒らせちゃった(地雷を踏んだ)みたいだわ」
カイは極小の声で、静かに呟いた。
「――もう、これ以上はどうでもいい出来事だ」
彼は、漆黒と鮮血の紅を湛える魔剣を完全に抜き放った。
「今この瞬間に、すべての実務(戦闘)を完全終了してやる」
「奇遇だな、俺たちも同じ段取り(計画)を考えていたところさ」ヴォラスが構える。
カイは、その【漆黒】の瞳を静かに閉じた。
(……ヌル。――システムのリミッターを、今すぐ全面解除しろ)
一瞬の、不気味な間。
《了解。――絶対の黄金律を承認。これより、個体名『カイ』の肉体出力を緊縛していたシステムリミッターを【全面強制解除】します》
――丸一秒の間、世界には何の爆発も起きなかった。
だが次の瞬間、この独自の隔離空間のインフラそのものが、恐怖に激しくのたうち回るように絶叫を上げた。
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!
解放された【無】の絶対魔力奔流が、一瞬にして人工の天空を真っ二つに引き裂き、大地の岩盤を分子レベルで木っ端微塵に爆散させ、空間のいたるところの境界線に、修復不可能なエラーの亀裂をバキバキと走らせた。世界の常識そのものが、その身をズタズタに引き裂かれて悲鳴を上げている。
真竜ヴォラスの目が、驚愕に大きく見開かれた。スコルンの絶対零度の冷静さも、その場にカチカチに硬直してフリーズし、今まさにこのチェス盤の上に這い寄ってきた『規格外の天災』の全容を、脳内データで処理しきれずに狼狽していた。
アシュリーはその絶望的なオーラの直撃を肌で感じ、自らの肉体に本物の寒気( chill )が奔るのをマークした。――だが、直後に最高の親バカの笑みを深くする。
「……ええ! そうよ! これこそが、この私が命を懸けて産み落とした、最高の愛息だわ!」
そこに直立していたカイ・コバヤシは、もはや先ほどまで二頭とだらしなく魔剣を交えていた、あの新米魔王なんかでは断じてなかった。それは、彼自身の創り上げた固有結界のインフラ(無限の容量)をもってしても、到底格納しきれぬほどの、正真正銘の『世界の終焉』そのものだった。
空間のあちこちで、次元の壁がバキバキと粉砕されていく。
この時、隔離空間の遥か圏外の荒野の座標に直立していたニュクサーラ、ネロ、ミレラ、ヴァドス、エンゾの全員が、その絶対的な胎動を一瞬にして肌で感知し、その場に激しく戦慄(氷結)していた。
「……なによ、この常識外れなオーラの格付け( tier )は……!?」
ニュクサーラの美貌から、いつも余裕の色彩が完全に消滅していた。
「これ……本当に、カイ様の宿す本当の出力なのですか……!?」
ミレラは、魂のインフラが完全停止しかけるほどの絶望のプレッシャーに、息をすることすら失念して呟いた。
ネロだけが、その漆黒の瞳を妖しくきらめかせ、最高の兇悪な笑みをその口元にリロードしていた。
「――ハハッ! ええ、そうですよ! 正真正銘、これ以上ないほどに最高でデタラメ(マニフィセント)な、我が主の真の姿さ!」
カイの右肩上がりに爆発していく絶対出力の前に、周囲の現実世界が文字通り完全崩壊を開始した。――その刹那、ニュクサーラ、ネロ、ミレラ、そしてアシュリーの四頭の持つ【独自の空間支配権(システム権限)】が、本能的な防衛反応として一斉に自動起動。四つの絶対領域は互いに衝突を起こすことなく、極めて精密な多次元レイヤーとなって【完全融合】を果たし、世界に前例のない、境界線をもたない超巨大な新次元を急造した。
――【無限星雲虚無世界】。
その世界は、荒野に実在した化け物たちのすべて――カイ、ヴォラス、スコルン、ニュクサーラ、ネロ、ヴァドス、エンゾ、ミレラ、アシュリーを、無条件で丸ごと一瞬にして呑み込んだ。ただの一頭、すでに完全昏睡(気絶)していたあのナオ・シミズの肉体だけが、何の手応え(ノイズ)もなく現実世界の更地へとパージ(置き去り)にされた。
「……ねえ、あんた。本当に、あれが自分の産んだ実の息子だって、システム的に動かぬ証拠はあるわけ?」ニュクサーラが呆然と天を見上げて尋ねた。
「当然でしょう?」アシュリーは、これ以上ないほど誇らしげに胸を張った(ドヤ顔をした)。「あれが、私の世界で一番可愛い愛息よ」
真竜ヴォラスとスコルンの二頭は、ここでようやく、自分たちが一体どれほど踏み抜いてはならない『世界の地雷』を力任せに踏み潰してしまったのかを、完璧に、そして手遅れの数値として理解した。
「……奴の格付け(ステータス)が、完全に別次元へと書き換えられてやがる」ヴォラスが顔を引きつらせる。
「ならば、俺たちもこれ以上の出し惜しみ(リミッター)はなしだ。――真の真竜の全容をインポートするぞ」スコルンが冷淡に言い放った。
二頭の全身から放たれた絶対オーラが、爆発的な質量となって大爆発した。
ヴォラスの肉体が漆黒へと染まり、両腕と胸元に不気味な竜鱗が猛烈にマッピングされ、その頭部からは二本の真竜の角が豪快に展開。その瞳は、触れるものすべてを存在ごと消滅させる完全なる【虚無】へと塗り替えられ、あいつの周囲の空間そのものが、ただそこに直立しているだけでメキメキと強制解体され始めた。
スコルンの完全覚醒もそれに続いた。全身を氷結の竜鱗が覆い尽くし、その髪の毛は一分の綻びもない真っ白な絶対零度の白へと強制上書きされ、肉体からは世界の常識を無視したコールド・ミスト(冷気の嵐)が幾重もの大津波となって噴出。足元の大地は、接触したコンマ数秒の刹那にダイヤモンド構造の絶対氷結へと結晶化していく。
「……いいね」
カイは、その目の前で完全覚醒を遂げた二頭のバケモノの姿を冷徹に見据え、その【漆黒】の瞳を細めた。
「――随分とまともな、実務(お相手)にふさわしい格付け(ステータス)になってくれたじゃないか」
「一介の生まれたての魔王に、本物の『真竜』という絶対の存在がどれほどの怪物であるのか、その本当の答えを教えてやるさ」ヴォラスが兇悪に吠える。
カイは、漆黒と鮮血の紅を湛える絶対の魔剣を、その正面へと完璧に真っ直ぐに構えた。
「――来いよ、クソトカゲども。すべての日常(負債)を、今ここで完璧に清算してやる」
次の瞬間、三頭の絶対的な大質量は、空間から影も形も完全に消失(消失)した。
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次の瞬間、交錯した二つの刃が周囲の光景を完全に消失させた。カイはヴォラスの【虚無】を纏った刃を己の魔剣で正面から相殺し、足元から這い上がってきたスコルンの巨大な氷柱を極小のフレームで回避。その慣性のままヴォラスの顔面へと絶対の拳を叩き込み、あいつの肉体を幾重もの次元レイヤーごと力任せにぶち抜いて吹き飛ばした。
すかさずスコルンの追撃が襲いかかり、接触したコンマ数秒の刹那にカイの左腕をカチカチの絶対零度へと凍りつかせにかかる。
《告知。――対抗システム(カウンターマニフェスト)を完全展開。氷結概念を強制解除します》脳内のヌル(虚無無意識)が冷徹に告げた瞬間、まとわりついていた氷がバキバキと音を立てて木っ端微塵に爆散。カイがそのお返しと言わんばかりに叩き込んだ烈震の一撃がスコルンの肉体を捉え、あいつは激しく地面をバウンド。着弾した座標を中心に、半径数百メートルの更地が一瞬にしてダイヤモンド構造の絶対氷結へと変貌した。
スコルンはメキメキと音を立てて肉体を起こし、その口元に兇悪な笑みを浮かべた。そして、これまでの小テスト感覚の出力をデリートし、真の究極能力【絶対零度の氷結】を完全解放した。――それはもう、特定の座標を狙うような生温い攻撃なんかじゃない。大気、光、環境魔力、さらには時空の位相構造そのものを、右肩上がりに拡張していく巨大な白濁の波動が、無条件で丸ごと一斉に凍らせて(ハメ殺して)いく大天災。
《警告。対象能力の凍結速度は宿主の移動インフラと同等。――即座の緊急回避を推奨します》ヌルが脳内アラートを響かせる。
カイは奔った。だが、絶対零度の侵食速度は、彼の移動速度と寸分の狂いもなく完璧に同期(追随)して迫り来る。彼はさらに【と思考加速】を最大解放して加速したが、氷の嵐は何の猶予もなく同じ距離感をキープして背後へと肉薄してくる。
「――奔れ(エスケープせよ)、魔王!」スコルンが最高に嬉しそうに吠えた。
だが次の瞬間、カイのデータはその座標から完全に消失した。
あいつが「ハメ殺した」と確信したまさにその刹那、カイの肉体はスコルンの睫毛が触れ合うほどの、正真正銘の『ゼロ距離(眼の前)』へとリブート(出現)していたのだ。あいつの戦闘知覚がその接近をログに記録するよりも早く、カイの絶対の拳があいつの顔面へと完璧にクリーンヒットした。
それと同時に、ヴォラスが最悪のカウンターを執行。すべてを貪り喰う無限の【虚無】が彼ら二頭を取り囲む全域の座標を一瞬にして丸ごと呑み込み、空間における『距離』や『方向』という概念特性を完全に破棄した。
カイは、手にした漆黒と鮮血の紅を湛える自らの魔剣を見つめた。
(ヌル。――俺、この武器に新しく名前を上書き(命名)できるか?)
《肯定。あなたがその絶対コマンドを流すのであれば、システムへの正式登録(承認)が可能です》
彼は、その柄をガッチリと、壊れんばかりに強く握り締めた。
「――『ハルマゲドン(Armageddon)』だ」
ブゥゥゥゥン!!!
その瞬間、魔剣の刀身が激しく共鳴を起こし、その内部スロットに格納されていた至高の神話級権能が一斉に完全覚醒(究極覚醒)を果たした。――【終焉の破壊】【因果断裂】【概念虚無】【万物生命風化】【永久消滅】。
それは、純粋な攻撃力の数値が底上げされたわけではなかった。ただ、普通の刃では逆立ちしたって触れることすら叶わない、世界の常識(概念)そのものを根こそぎ切り裂くという、不条理極まる『処刑インフラ(バケモノ)』へと上書きされたのだ。
彼はヴォラスの展開した無限の【虚無】のド真ん中へと一歩踏み出し、ただ、その魔剣を静かに振り下ろした。
――シャズッ!!!
光を一切反射しないはずの【虚無】の閉鎖空間が、中央の座標から、まるでただの薄い紙切れでも引き裂くかのような手軽さで綺麗に真っ二つ(二等分)へと両断された。
「……な、何をしやがった……!?」ヴォラスの顔から、完全に余裕のデータが消滅した。
「ただの実務(両断)だよ」カイは冷淡に言い捨てた。
「――切り裂いて(デリートして)やった。それだけだ」
間一髪、スコルンの【絶対零度の氷結】の嵐が再び押し寄せ、この【無限星雲虚無世界】のインフラそのものをカチカチに凍らせにかかる――。カイは休む間もなくハルマゲドンを横一閃に奔らせた。すると、押し寄せていた氷の概念は、熱量で融解するプロセスすら完全にスキップされ、ただの不条理な因果の残骸となって、左右へと美しく真っ二つに切断されて霧散(消滅)した。
「……あり得ない。不条理だ……!」スコルンが血を吐きながら、本気で戦慄して呟いた。
カイはコンマ数ミクロンのフレームでその間合いを踏み潰し、一瞬にしてあいつの至近距離へと肉薄。ハルマゲドンの切っ先がスコルンの胸元の座標へとごく軽く接触したその刹那、あいつの肌に、光を吸い込む禍々しい漆黒の幾何学紋様――【絶滅の刻印】が強制上書き(刻印)された。
スコルンの宿す真竜としての最高峰の自己再生システムが、即座にそのエラーログを修復しようとスロットに数値を流し込んだ――。だが、弾き出される修復確率は、どこまでいっても完全な『ゼロ』。刻まれた消滅の因果の前には、あいつの超回復インフラは一ミリとして稼働(再生)してこない。
「……言っただろ、あんたたちの超回復なんて、俺の魔剣の前にはただの出来損ないのバグ(無意味)だってさ」
カイは、突き立てていた刃を冷徹に引き抜いた。
スコルンは狂気に目を血走らせ、自らの宿す残りの全リソースをスロットへと完全解放。ヴォラスもまたその段取りに完全に同期し、二頭の放つ【虚無】と【絶対凍結】の最高出力を、カイに向けて左右の座標から同時に一点収束させた――。
彼の肉体は右半分を一瞬にして分子レベルで消滅(解体)させられ、左半分をカチカチの氷結デバフによってハメ殺され、彼の持つ精神核心はあまりにもデタラメすぎる重複プレッシャーの前にオーバーフロー寸前まで追い詰められる。――だが次の瞬間、脳内のヌルが限界を超えた過負荷のアラートを響かせながらシステムを強制再起動。彼の肉体を、一瞬にして傷一つない元の健康な状態へと完全再生(上書き完了)してみせた。
「……まだ、出力(数値)が足りないな」
カイは冷淡に言い放ち、再び神話級魔剣ハルマゲドンをその正面へと完璧に真っ直ぐに構えた。
そこから先に繰り広げられたのは、お世辞にも日常なんて生温い言葉では説明のつかない、正真正銘の神殺しの領域だった。
三頭の絶対的な化け物たちは何度も、何万回も激突を繰り返し、交錯のたびにこの【無限星雲虚無世界】の残された僅かなインフラ構造を、分子レベルで根こそぎ更地へと変貌させ続けた。カイの肉体は完全消滅と完全再生の無限ループを狂ったように繰り返し、ヴォラスの放つ【虚無】は構築された端からハルマゲドンによって一刀両断され、スコルンの【絶対凍結】はその出力が臨界点に達する前にただの肉片のように切り刻まれた。
この戦いは、とっくの昔に『純粋な出力の引っ張り合い(おままごと)』なんて日常のセオリーを超越していた。――これは、世界に実在するすべてのインフラが根こそぎ解体(消滅)されたその果てに、一体どこのどいつの『絶対的な実在証明』が最後までチェス盤の上に直立し続けているか、その一事実の格付けを決めるための、正真正銘のデス・ゲームだった。
そして。
長い、悠久なる死闘の果てに、三頭の肉体は互いに間合いを離し、その荒野の更地の中に直立していた。
――満身創痍。お世辞にもセーフとは言えないほどに致命的な連続ダメージのエラーログを刻まれ、二頭の真竜のステータスは、これまでの長い長い生涯において一度だって経験したことのない、本物の死のイベントの瀬戸際(限界値)まで追い詰められていた。
「……あんたたち、確かに強かったよ」
カイは、顔に刻まれた【漆黒】の瞳を細め、淡々と言い放った。
「――だけどな。このクソみたいな実務(復讐)は、今この瞬間に完璧に『強制終了』だ」
真竜ヴォラスが、自らの魂に内蔵されたすべての【虚無】の出力を、その肉体の核心へと限界を超えて一極集中(超圧縮)。
真竜スコルンもまた、世界のすべてをハメ殺すための【絶対零度】の残りの全リソースを、その魔剣のスロットへと完全インポート。
二頭の放つ絶対的な大質量が完璧に【完全融合】を果たし、――虚無、氷結、そして純粋なる世界の終焉の因果が、一筋の、常軌を逸した超弩級の絶対破壊の濁流となって、正面からカイの絶対座標めがけて一点収束された。
カイは静かに、その【漆黒】の瞳を閉じた。
《告知。すべての戦術演算が完了しました》
脳内のヌル(虚無無意識)が、冷徹に、かつ絶対的な確定数値を弾き出した。
《対象二個体の完全消滅確率:99.999999パーセント》
彼は目を開けた。
「――ハルマゲドン(Armageddon)」
カイは低く呟き、魔剣を正面へと構えた。刀身は、一切の音を吸い込む絶対の光を湛えている。
「――最大出力完全解放」
彼は、何の急ぎもない、至極平然とした手際で、ただ横一閃にその魔剣を奔らせた。
ド派手なエラーの爆発も、天空を貫くような魔力光線すらそこには実在しなかった。音声ログのノイズすら、ただの一片として発生しない。
――シャズッ!!!
放たれた絶対終焉の一閃は、この【無限星雲虚無世界】の全域を、ただの一筋の『静かなる因果線』となって横切った。――ヴォラスの【虚無】を両断し、スコルンの【絶対凍結】を切り裂き、空間と時空の位相構造のすべてをバイパスし、あいつらの肉体を、魂を、精神核心を、存在証明を司る絶対権限のすべてを根こそぎぶち抜き――この世界のシステムにおいて、あいつらをあいつらたらしめていた『実在の根源』そのものを、最初からなかったことへと強制デリートしたのだ。
二つの禍々しい【絶滅の刻印】が、同時に二頭の胸元へと物質化(上書き)された。
真竜ヴォラスはだらしなく、完全にエラーを起こして崩壊していく自らの成れの果てを見つめた。
「……ククッ。なるほどな。これが、正真正銘の『敗北』というわけか……」
「あんた……」スコルンの肉体が、その境界線の端から灰となって分子レベルで崩壊していく。その瞳が恐怖に狂ったように見開かれた。
「……あんたは、本当に……正真正銘のバケモノ(世界の敵)だよ……」
次の瞬間、二頭の真竜の全データは世界の常識から完全に、かつ永続的に永久消滅し、塵一つ、魔力の残渣一つすら空間に残さなかった。
戦場の全域に、正真正銘の、絶対的な死の静寂が訪れた。
カイは、その何もない更地のド真ん中に、未だに魔剣ハルマゲドンを握り締めたまま、ただ一人で直立していた。
長年の、そして前世から引きずり続けてきた復讐の実務が、ついに完璧な数値で完了したのだ。
――だがその瞬間、世界のすべてが、突如として停止した。
動きの速度が遅くなった(デバフ)のではない。俺の脳内データにある、いかなる時間停止魔法のシステム(常識)でも説明のつかない、絶対的な停止。
完全なる氷結。――ニュクサーラも、ネロも、ヴァドスも、エンゾも、ミレラもお袋さえも、指一本、細胞一つとしてピクリとも動かせない完全なフリーズ状態にハメ殺されていた。そして他ならぬカイ自身もまた、その絶対的な檻の中に一瞬にして直立不動でロック(完全封印)されていた。
風が吹かない。魔力エネルギーの流通もない。音のデータすら実在しない、恐るべき【無限星雲虚無世界】のフリーズ。
(……おい。ちょっと待て。これ、一体全体何が起きてやがるんだ……!?)
カイは、声に出して叫ぶ(アラートを吐く)ことすら叶わぬまま、内心で本気でパニックを起こしていた。
驚くべきことに、脳内のヌルからの応答は、ただの一言も返ってこなかった。あの世界最高峰のナビゲーション・インフラが、自らの創設以来初めて、主に対して提供すべき解答を完全に失って沈黙していたのだ。
カチリ。カチリ。カチリ。
その完全に凍結した死の静寂を引き裂いて、一歩、また一歩と、確かな『足音』が空間に不気味に木霊し始めた。
何もない虚空の座標から、一人の人影が音もなく姿を現した。――その男の瞳と、カイの【漆黒】の瞳が正面から完璧に同期したその刹那、カイの胸の内に、生まれて初めての凄まじい絶望のプレッシャーが弾き出された。
(……嘘、だろ……)
そこに現れた見知らぬその『男』は――間違いなく、自分自身の顔をしていた。だが、それは同時に、自分であって自分ではない全く別の怪物。あいつの身に纏うプレッシャーの格付けは、この世界のあらゆる常識やインフラを遥かに超越しており、世界の構造そのものが、あいつの実在の前にただ従順に、静かに捻じ曲げられている。あいつの直立するこの凍結した宇宙のすべてが、本物の現実なんかじゃない、ただの『描きかけの不完全なスケッチ(出来損ないのバグ)』に過ぎないのではないかと、そう錯覚させられるほどの絶対的な絶対の質量。
「――ようやく見つけたぞ、私」
その見知らぬ自分自身は、至極冷静に、クスクスと面白そうな笑みを浮かべて言い放った。
カイは、動けない。言葉を発することもできない。
これほどの最高位の魔王へと大進化を遂げ、世界のバケモノたちを力づくで捩じ伏せてきた今になって、彼は自らの魂の深層において、とっくの昔にデリートして忘却していたはずの、あの剥き出しの原初的な感情を、否応なしに突きつけられていた。
――正真正銘の、絶対的な【恐怖】。
その男は、自らの口元に最高の、兇悪極まる不敵な笑みを浮かべた。
「俺はあんただよ」あいつの声が、凍りついた空間全体をバキバキときしませながら鳴り響く。
「……ただし、あんたとは全く異なる、別の時間軸の果てから這い寄ってきた、ね。――俺はね、あの無限のループの果てに、ただ一頭で登り詰め……」
あいつの瞳が、次の瞬間、カチッと完全に見開かれた。
その瞬間、あいつの全身から放たれた常軌を逸した絶対の格付け(オーラ)が、世界全体の全全域を一瞬にして丸ごと貪り喰うようにして大爆発した。一分の狂いもなく、完璧な絶対無二の頂点の数値。
「――この世界の【創造神】へと覚醒(上書き)した、あんた自身の成れの果てさ」




