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転生の向こう側 【The Other Side of Reincarnation / Beyond Reincarnation】  作者: ルーク
壊れた世界(偽りの現実)

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第40話:悪魔が本当に望んでいたもの

アイヴィーが俺を見つけたのは、避難民キャンプ(移住特区)の端だった。俺は未だに仮設シェルターの間を歩き回り、この過酷な一日の午後のうちに、一人でも多くの民の名前(ステータス)を憶えようと必死に実務をこなしていた。


「……掴みました」

彼女は静かに言った。その声のトーンには、前回の報告の時と全く同じ、俺が耳にしたくないであろう最悪の報せを運んできた者特有の、張り詰めた重みが据わっていた。


「話してくれ」俺は促す。


「あの邸宅の悪魔は、魔王ベリアルより直接放たれた猟犬でした」彼女は淡々と告げた。「単なる行きずりの残虐行為ではありません。マイラスを兵器化して貴方様にぶつけ、その全容を推し量るための、意図的に仕組まれた『実戦テスト(シミュレーション)』です」


テスト、だって?

あいつ、ただの性能テストのためだけに、一国の歴史を丸ごと盤面から消去しやがったのか。


「そこまで俺の戦闘能力(スペック)を確かめたいって言うならさ」俺はフラットに吐き捨てた。「なんで最初からコソコソ隠れてないで、直々に俺の前に立ち塞がらなかったんだ?」


『なぁエース、何かロジック的な仮説はあるか?』俺は半分八つ当たりの念話(リンク)を飛ばした。


『単純に、お前が怖かったのではないですか?』エースが他人事のように返してくる。


いや、それはないな。ベリアルという男は、これしきのことで恐怖(アラート)を起こすようなヤワなタマには思えなかった。奴には、もっと別の確固たる理由があるはずだ。


「……それで全部か?」俺はアイヴィーに尋ねた。


「いいえ」彼女の知性的な瞳がさらに冷徹さを増す。「まだ最悪のディテールが残されています。あの国王は単に踊らされていたのではありません。脳内回路を書き換えられる完全な『精神支配(マインドコントロール)』の元にありました。そして、ベリアルの真の目的――この狂気的な陰謀の着地点は、貴方様を『吸収(アブソーブ)』することにあります」


「……流清にそれはノーサンキューだな」

アイヴィーから突きつけられた情報の質量に胃を抉られながらも、俺の口からは乾いたジト目のツッコミが零れ落ちていた。「だけどさ、あいつなんでそんなに俺を吸収したがってるんだ?」


《解。対象の狙いは、貴方の魂の系譜に刻まれた『虚無(ヌル)』の固有魔素である可能性が極めて高いと判断します》


脳内の『超越知性(トランセンデント・インテリジェンス)』が、相変わらず無駄を削ぎ落とした短いトーンで割り込んできた。


「エンゾの逆鱗に触れて暴発させたのも、最初からのプランの内だったのか?」俺は重ねて訊ねる。


「ええ、おそらくは」アイヴィーが頷いた。「国王が完全な操り人形であった以上、あの戦場におけるすべてのプロセス――無礼な侮蔑、エンゾのプライドをピンポイントで抉るような明確な挑発の言葉は、偶然の産物などではなく、最初から冷徹にデザインされていたと見るべきです」


その瞬間、俺の胸の奥底が完全に凪いだ。激しい怒りすら通り越した、絶対のマイナス(零度)の質量。


「魔王ベリアル……」

俺はゆっくりと、自分の表情がどう変貌していくかを肌の感覚で察知しながら言葉を紡いだ。

「俺個人に対する安っぽい悪口なんて、最初からどうでもいいんだよ。問題の本質はな、あいつが俺のスペックを計るためだけに、エンゾのプライドを玩具にして一国を丸ごと消去する(アストロ・ノヴァを撃たせる)ように誘導したって点だ。エンゾが俺じゃないと分かっていながら、ただの消耗品としてマイラスの民を使い潰したんだよ」


俺の身体から、『虚無』の覇気(魔力)がゆったりと、しかし絶対的な威圧となって外部へと侵食し始める。


「いいだろう」俺はより静かに、引導を渡すように告げた。「そこまで俺の全力を拝みたいって言うならさ、こちらから直々にチェス盤の前に立って清算(チェックメイト)してやろうじゃないか」


――と、そこまで大真面目に格好良く決意を固めたその瞬間、俺の思考回路に、現在のシリアスな空気感と全く噛み合わない凄まじい疑問符(バグ)が突如として跳ね上がった。


「……いや、ちょっと待て」俺はアイヴィーに向き直った。「そもそもさ、お前その本物の強者だったっていう悪魔を、一体どうやって完膚なきまでにブチのめしてきたんだよ?」


アイヴィーはそれまでの凄絶な魔王級の佇まいを瞬時に霧散させ、心底愛おしそうに微笑んだ。「マスター・カイのためでしたら、私はどんな奇跡(神業)でも成し遂げてみせますよ」


「……。お前、それ全く質問の答えになってないからな」


---


一方、避難民たちの間から湧き上がっていた『真実の説明』を求める弾劾の声は、ここ数日間で日に日にその質量を増し、ついには看過できないレベルの地鳴りとなって俺の元へと突きつけられていた。マイラスの元・宮廷貴族や官僚たちからなる独自の代表団(デレゲーション)が、俺に対して直接の公式会見を要求――いや、事実上の強迫をしてきたのだ。


俺はホライゾンクレストで最も広大な中央広場に、数千、数万の民を集結させた。彼らの眼差しには、喪失の深い悲しみと、行き場のない恐怖、そして俺に対する隠しきれない『静かな激昂(ヘイト)』が等しい質量で渦巻いていた。


彼らには、この盤面のすべての真実を知る権利がある。どれほど俺たちの立場が悪くなろうとも、小賢しい隠蔽工作で嘘の上塗りをするつもりは毛頭ない。


「お前たちの王は、明確な侵略の意思を持って我が国へと進軍してきた」

俺はマイクも通さず、広場全体へ容易く通る声で直球に切り出した。社交辞令によるオブラートなどは一切ない。

「だが、あの男は『魔王ベリアル』という化け物の完全な精神支配(マインドコントロール)の元にあった。あの壊れた魔王がお前たちの軍部強硬派を兵器として踊らせ、自らの手を汚さずにホライゾンクレストを滅ぼすための最初の一手(オープニング・ストライク)として、お前たちの故郷をチェス盤の駒に変えたんだ」


広場全体に、激しい動揺のざわめきと、信じられないといった風の怒りの嵐が駆け巡る。


「そして、俺の同盟者であるエンゾは、お前たちの王が吐き散らした挑発に対して、俺たちの想定を遥かに超越した超高火力(アストロ・ノヴァ)で応戦した」俺は言葉を重ねた。「それについて言い訳をするつもりは無い。マイラスが地図から消去されたのは厳然たる事実であり、その破滅を引き起こした当事者が俺たちである以上、今すぐ俺のことを信用しろと言う方が無理な話だ」


「だったら、なぜ私たちはそんなデタラメを信じなきゃならないんだ!」

群衆の中から、悲しみに引き裂かれた鋭い叫び声が上がった。「侵略者の言葉など、何一つ信用できるか!」


「今すぐ信じる必要なんてないさ」俺は言った。「その代わりに、俺たちがこれからこの盤面で『一体何を実行するか』を、その両眼で正しく監視していればいい」


――その瞬間、俺の魂の最奥から、まだ自分でも完全に論理を組み立てきっていなかったはずの『絶対の言霊』が、勝手に唇を突き破って外へと解き放たれた。


「俺は、お前たちの王国をもう一度丸ごと完全再建(グランド・リビルド)する」俺は宣言した。「完璧にな。ホライゾンクレストの絶対の庇護下(連盟)においてだ。二度と、どこの誰とも知らない魔王の強欲に踊らされて、こんな虚しい戦争の消耗品にされないための、絶対の故郷を俺たちが建て直してやる」


……。完全な、水を打ったような静寂。

直後、広場全体から、あまりにも現実味のない大言壮語に対する剥き出しの猜疑心と「正気か?」というあきれた視線が一斉に突き刺さった。


「一国の全領域を建て直す、だと……?」

ある官僚が、信じられないといった面持ちで信じられないといった面持ちで吐き捨てた。

「そんな超常の神業、この世界のどこの誰であれ不可能です! 空虚なハッタリにも程がある!」


待て、俺、今何て言った?

本気でそんなイカれた約束を、俺に対して最大のヘイトを向けている数万の民の前で、大声で確定(コミット)しちまったのか!?


《告知。貴方は今、満座の群衆に対して『全領域の完全再建』の生存戦略を公式発表(アナウンス)しました》


脳内の超越知性が、相変わらず何一つ実務的なフォローを入れてくれない無慈悲な精度で、事実のログだけを確定させた。


……自分で言っておいて何だけど、本当に正気の沙汰じゃないな(白目)。


---


俺はその場に立ち尽くし、自分がたった今口にしてしまった約束の途方もない『質量の重み』に背筋を凍らせながらも、数万の猜疑と悲しみに満ちた瞳が「今すぐ前言を撤回して言い訳を始めるか」あるいは「この大言壮語が単なる空虚なジェスチャーではない証拠を見せるか」を固唾を呑んで待っている現実を真っ向から受け止めていた。


「具体的にどうやってそれを実現するかは、正直言って今の俺にもさっぱり分からん」俺は素直な本音を認めた。その剥き出しの誠実さが、彼らの不安をどれほど宥められたかは怪しいものだったが。「だけど、俺は自分が吐いた言葉を違えるつもりは毛頭ない。俺に時間をくれ。俺がただ口先で何を語るかではなく、この手で実際に何を『創造(ビルド)』していくかを、その眼で正しく品定めしてくれればいい」


群衆の全員が俺の言葉を信じたわけではなかった。それは事実として正直に書き残しておくべきだろう。大国としてのプライドを未だ捨てきれていない一部の強硬な声からは、「これまで破壊と蹂躙しかしてこなかったような化け物集団に、一国の建国などという高度な国政(ミラクル)が本当に可能なのか」という、極めて鋭く、痛烈な猜疑のトゲが投げつけられていた。


……まぁ、もっともな正論だな。俺が彼らの立場だったら、間違いなく目の前のガキの言葉を鼻で笑って一蹴しているはずだ。


その日の夜、俺はそのあまりにも巨大な未解決の約束(グランド・プラン)をホライゾンクレストの夜空へ高く掲げたまま、広場を後にした。そして、このイカれた超常の神業を本気で実現するためのピースを握っているであろう、我が家が誇る最高の『天才職人たち』の元へと、全意識を切り替えて足を進めるのだった。




------------




その日の夜、俺はエリスとエレインの二人を捕まえていた。自分が吐き散らしたあの空前の約束(グランド・プラン)の途方もない質量の重みが、未だに胸の奥底へとどっしりとのしかかっていたからだ。


「みんなの力を貸してくれ」俺は直球に切り出した。「一国の全領域を建て直すなんて大見得を切っちゃったんだけどさ、ぶっちゃけ具体的にどうすればいいのか、俺には一ミリも分からん」


それを聞いたエリスは、この状況の圧倒的なシリアスさを前にしてもなお、声を上げて朗らかに笑った。そして、どこか大袈裟なほどの愛おしさを込めて、俺の頭をぽんぽんと撫で回してきた。「また始まったわね。いつもいつも、まっとうに頭で考える前に都合のいい約束ばかり口にするんだから」


「……全部聞こえてるぞ」俺はジト目で応じる。


「聞こえるように言ったのよ」彼女は一文字の反省の色もなく、不敵に言い放った。


さらに、なぜかこのタイミングを「最高の見学時間」だと勝手に判断してピンポイントでフリーロード(不法侵入)してきた魔王ニクサラが、その一連のやり取りを心底楽しそうに眺めていた。

「あの子、未だに自分の中に『元素創造(アーク・クリエイト)』のスキル回路が残っていると誤認しているのかしら」彼女は誰ともなく虚空に向けて告げた。「実にかわいらしい錯覚ね」


……。あぁ、そうだった。俺、あのスキルはとっくの昔に手放して、もう持ち合わせていないんだった。己のドラマチックな暴言の熱量のせいで、脳内の仕様(ステータス)を完全にど忘れしていたらしい。


一方、近くに佇んでいたエンゾは、この状況のどこにも一片の罪悪感すら抱いていない様子で、むしろどこか誇らしげにすら見える平然とした佇まいだった。今回の全領域消去(バグ)を引き起こした張本人のくせに、流石は古竜公、面の皮の厚さが次元違いである。


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《提案。主個人のスキル欠落を補完するため、個体名:エレインが保有する『創造魔法』の回路に対して、貴方の『虚無(ヌル)』の固有魔素をダイレクトにルート接続(チャージ)する戦術を推奨します》


脳内の『超越知性(トランセンデント・インテリジェンス)』が、相変わらず無駄のない冷徹なトーンで teasing(からかい)を遮って割り込んできた。


「……そんなこと、システム的に可能なのか?」俺は念話で訊ねる。


《肯定します。個体名:エレインは、貴方が授けた『名前』の系譜(パス)を通じて魂の最奥で完全同期しています。貴方の意志次第で、必要なだけの虚無魔素を無限に供給することが可能です。この戦術におけるボトルネックは魔力総量(パワー)ではなく、それを受け取る彼女自身の創造魔法が、これほどの絶対の出力(スケール)をまっとうに処理できるか否かという『回路のキャパシティ』に依存します》


なるほど。俺はエレインへと向き直った。「……今のロジック、いけそうか?」


「不可能、というわけではありませんが……」エレインは慎重に言葉を吟味した。

「一国の全領域をグランド・リビルドするために必要な『反魔素(アンチ・マナ)』の質量は、それこそ古竜公であるエンゾ様クラスの超越者が全出力を注ぎ込んでようやく成立するレベルの神業です。理論上は、エンゾ様がその気になればお一人で清算できる代物ですが」


「断る」エンゾが極めてシンプルに一蹴した。「あの小王はカイを侮辱した。その無礼がもたらした因果応報(ペナルティ)の帳簿を、なぜ私が奴らのために指一本動かして相殺(クリア)してやらねばならんのだ」


……。ま、これまでの経緯を思えば実に真っ当な正論だ。だけど、それで俺の目の前の難題(コスト)が解決するわけじゃない。


そこで、俺はある重要な仕様(ステータス)を思い出した。「……待てよ。俺が名付けた仲間たちは、もう反魔素なんて生ぬるいものは使ってないだろ。あいつらの魂の底にあるのは『虚無(ヌル)』の魔素だ。それって、前提のロジックが根本から変わってくるんじゃないか?」


「……確かに」エレインの知性的な瞳に、ハッとした深い思索の光が過った。

「ですが、まだ決定的なミッシング・リンクが残されています。私の創造魔法が、たとえ無限の『虚無』をチャージされたとしても、一国のスケールを無から創造できるほどの格(権能)を有しているか否か。そのような超常の神業、過去のログのどこを探しても前例がありませんから」


《告知。そのバグ(制限)をフィックスするため、主の権能の元で個体名:エレインに対して新たな『鍵(ギフト)』を付与し、彼女の創造魔法を上の次元へと強制変異(進化)させるプロセスを提案します》


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「おい」俺は思わず脳内でツッコミを入れた。「お前、そんなことまで出来るのか? 他人に直接新しいスキルを grafted(植え付ける)するなんて暴挙が」


《肯定します。現在の私の演算能力(ステータス)を以てすれば、容易に実行可能です》


「……どんなスキルだ?」


《『創生之核(ジェネシス・コア)』。貴方の『虚無』の波動そのものから分画・抽出される、完全なる無からの創造を司る固有能力です》


俺はエレインの正面に立ち、その真摯な瞳を真っ向から見据えた。「……エレイン、お前にこの『鍵』を託したい。もし、お前自身にその覚悟があるなら」


彼女は息を呑み、本物の衝撃の中で完全に硬直した。彼女の隣にいたエリスや他の面々からも、突如として一切の雑音が消え失せ、広間は息詰まるような完全な静寂へと融けていく。


「……本気、なのですか。カイ様」長い沈黙の果てに、エレインが声を絞り出した。


「あぁ、大真面目だ」俺は頷く。


彼女はその場に静かに膝を折り、両の眼を閉じた。それは、かつてこの場所で彼女に『エレイン』という名を授け、その運命の歯車を回したあの最初の夜と、全く同じ厳かな絶対の儀式(ポーズ)だった。

俺は片手を伸ばし、彼女の頭上へと厳かにかざした。


《確認。対象『個体名:エレイン』に対し、固有能力『創生之核(ジェネシス・コア)』の付与を実行します。……よろしいですか?》


「あぁ、承認(実行)しろ」


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その瞬間、俺の手のひらから、目に見える物質的な質量を持った『虚無(ヌル)』の粒子が奔流となって彼女の器へと流れ込み始めた。それはかつての名付けの輝きすら遥かに超越した、圧倒的な白熱の極光。

世界が生まれたその原初の時代から生き長らえてきたはずの魔王ニクサラでさえ、その超常の神業(ミラクル)の前に完全に言葉を失い、自らが信じてきた世界の前提(ルール)が目の前でリアルタイムに粉々に砕け散っていく光景を、ただ顎を戦慄かせて凝視していた。


万事において冷静沈着を貫くアイヴィーの佇まいすら、その圧倒的な因果の上書きを前にして、かすかにその輪郭を震わせていた。


《告知。個体名:エレインの創造魔法が『創生之核(ジェネシス・コア)』を完全統合。――回路の強制進化を確認しました。能力遷移:『創生之王(ジェネシス)』へと覚醒完了。能力系統『創生之権能(オーソリティ・オブ・ジェネシス)』が完全解放されました》


彼女の身体から放たれる覇気の波動が、決定的に、かつ深遠な領域へとシフトした。それは一瞬前までそこになかった、世界の記憶の最古の層から引きずり出されてきたかのような、圧倒的な『創生』の格の鎮座だった。彼女がゆっくりと眼を開く。


「……終わったぞ」俺は自分の手が微かに震えているのを見つめながら、未だに信じられないといった面持ちで呟いた。


「……感謝いたします、我が主(カイ)様」

エレインが自らの内に脈打つ新しい世界のスケールを完璧にホールドし、その声音の最奥に、言葉に尽くせぬほどの深い『畏怖と敬意』を込めて一礼した。


沈黙を守っていたニクサラが、ようやく我に返ったように、ほとんど独り言のように呟いた。「……あの子、私が思っていた以上に、とんでもない次元のオモチャだったみたいね」


---


かくして、広間の空気は再び実務的な熱量(ロジック)へと引き戻された。「よし、それじゃあ現地への出撃準備を整えよう」俺は号令をかける。「俺たちが吐いた大言壮語が、本当に本物の神業(建国)として形になるのかどうか、答え合わせの時間だ」


そんな折、俺たちの元へと一つの極めて幸運な外交情報(ログ)が舞い込んできた。

マイラス王国の第一王子である**ジーク**が、あの日エンゾが粉々に清算した主力軍の中には同行しておらず、本国の別宮にて奇跡的に生き延びていたという事実だ。彼は今、自らの国が地図から消去された深い喪失の悲しみの中にありながらも、あの狂気的な父親に比べれば、遥かに理性的で現実的な思考(リアリズム)を持ち合わせている男らしい。


俺は彼をホライゾンクレストの宮殿へと直々に招待し、膝を突き合わせて長い時間をかけて『国政の清算』について対話を重ねた。新しい王国はホライゾンクレストの絶対の庇護下(連盟)に入るが、そこから先の統治と内政の主導権は、すべて彼らの民自身の足で立つために返還する、という生存戦略のフレームワーク。


隣で黙って話を聞いていたエンゾが、その美しい顔立ちのまま極めて直球なコメンタリーを投げつけた。

「もし、お前がその父親と同じような傲慢な支配者(ルーラー)へ成り下がる道を選ぶなら――その時は、この私が二度目の完全消去を実行するだけだ」


「あ、アハハ! こいつの言うことはただの冗談だから気にするな!」俺はジークの顔面がみるみるうちに土気色(ホラー)へと変貌していくのを見て、猛烈な速度でフォローを入れた。


「……半分は本気だがな」エンゾが冷徹に付け加える。


流石にこれにはニクサラも呆れ果てた様子で、大きな溜息を一つ吐くと、エンゾの襟首を後ろからガシッと掴み取り、まるで部屋の中で粗相をしでかした大型犬でも処分するかのように、彼を物理的に部屋の外部へと引きずり出していった。その横で、エリスは何事もなかったかのように完璧な所作で全員のカップにお茶を注ぎ足しており、そのシュールすぎるコメディの空間は、もはや我が家の日常のステータスそのものだった。


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ジーク王子との間で正式な『連盟協定(アライアンス)』の調印が完璧に完了した後、俺は最終的な実務メンバーの総力を結集した――俺、エース、アイヴィー、エリス、ジーク、そして新しい権能を手に入れたエレイン。

座標は固定され、次の瞬間、俺たちはあのマイラスの帝都がかつて存在していた、今はただぽっかりと穿たれているだけの巨大な『無(ヌル)のクレーター』の中心へと直接跳んだ。


なお、エンゾの野郎については、「あいつは今週だけで十分に世界を引っかき回しすぎたから、大人しく留守番をさせておきなさい」というニクサラの極めて真っ当な現実論(サンクション)の元に、ホライゾンクレストの本国でお留守番を指定されていた。




------------




俺たちは揃って空中へと浮上し、その超常の神業のすべてを特等席から正しく『観測』していた。ジーク王子は転落を恐れてエースの身体に必死にしがみついており、その前方に位置するエレインは、ゆっくりと自らの右手を天界へと掲げた。


彼女が固有能力『創生之王(ジェネシス)』を発動したその刹那、世界からすべての雑音が消え失せ、完全な静寂が訪れた。


崩壊した廃墟の遥か上空に、ただ一つの白熱する黄金の光の粒子が実体化した。それは新たな宇宙の星の誕生のように瞬き、次の瞬間、天界の全天を覆い尽くすほどの超巨大な幾何学魔法陣へと爆発的に拡張していった。円周の軌道上に、原初の神聖文字(古代ルーン)が次々と点火されていく――金、銀、サファイア、エメラルド、真紅、菫色。それは完璧な精度で連動し、複雑に噛み合いながら回転する無数の魔力輪(リング)を形成した。


輪と輪の隙間では、生の魔素(マナ)によって構築された『天上の歯車』が音もなく噛み合い、まるで宇宙そのものが一つの巨大な、神聖なる超精密機械へと変貌したかのようだった。その魔法陣の中心から、天界の底を抜けて一条の巨大な結晶核(クリスタル・コア)が厳かに降臨した。結晶の内部を流動する光の河は、無から有を生み出すための絶対の設計図(アーキテクチャ)そのものだった。


大気が激しく震動する――それは『破壊』によるものではない。完全なる『創生』の質量がもたらす神威の圧力だった。


黄金の魔素の糸が、まるで天上の大瀑布のように地上へと降り注ぎ、粉々に粉砕されていた大地へと編み込まれていく。崩壊していた防壁が、まるで時間が逆流(リバース)したかのように自ら立ち上がり始めた。粉砕されていた石塊が宙へと浮かび上がり、あり得ない精度で互いに結合していく。倒壊していた尖塔が、一層ずつ完璧に再構築され、ひび割れていた大路は何の傷跡も残さずに自動修復(バグフィックス)されていく。河川の上には光り輝く柱が基盤を築き、壮麗な大橋がその腕を伸ばした。灰に埋もれていた土壌からは瑞々しい庭園が狂い咲き、死に絶えていた森林は一瞬にしてエメラルドの天蓋を山々に取り戻した。清らかな水流が河を満たし、頭上の魔法陣の極光を完璧に反射する美しい湖が形を成していく。


そして、ついに『王城』が姿を現した――数千、数万の黄金の奔流が王国の中心へと収束し、雲を貫く壮麗な宮殿を形成していく。その頂点には結晶の尖塔が王冠のように君臨した。帝都の周囲には白亜の輝かしい外壁が聳え立ち、民たちの家屋、活気ある市場、大魔導アカデミー、神殿、そして広大な目抜き通りが、息を呑むほどの完璧さで次々と具現化(マニフェスト)していった。


大国マイラスの全領域が、いまや『創生』の絶対法則によって完璧に書き換えられていた。


ジーク王子はただ声も出ないほどの衝撃の中でその光景を凝視しており、俺には彼のその脳内フリーズの理由が嫌というほど正しく理解できた。それはまさに、世界が生まれた原初の第一日の創生ログを、リアルタイムで特等席から眺めているようなものだったからだ。


最後のルーンがその回転を終えた瞬間、すべての魔法陣は数百万の光り輝く星屑(スターダスト)となって融解し、全天から静かに風の彼方へと消え去っていった。


ほんの一瞬前まで無残なクレーターだったその場所に、かつて失われたそれよりも遥かに壮麗で、気高き王国が天界の下に聳え立っていた――時間を超越した、この世界に未だかつて存在したことのない絶対の聖域。それは紛れもなく、固有能力『創生之王(ジェネシス)』という名の奇跡の体現だった。


やった。俺たちは、本物の神業(建国)を成し遂げたんだ。


---


カイたちがマイラスの事後処理と同盟諸国の完全再建という大仕事に全神経を注がれていたその裏で、魔王ベリアルはすでに自らのチェス盤を動かしていた――その巨大な国家規模の混乱を完璧な目眩まし(カモフラージュ)として利用し、直属の配下たる二頭の猟犬を、ホライゾンクレストの内部へと直接潜入させたのだ。


彼らの隠密行動はどこまでも慎重で、気が長く、一般の防衛網の隙間をすり抜けるために完璧にデザインされた手際だった。その手法は極めてシンプルであり、かつ残酷極まるものだった。適当な民間人に近づき、何かしらの都合の良い大義名分を捏造して「囲い込み(マーク)」、カイや我が幹部陣(コバヤシの系譜)に関する有用な内部情報を限界まで抽出する。もしその民間人が何の価値もないと判明すれば、その場で音もなく清算し、次の標的(ターゲット)へと何食わぬ顔でチェス盤を進めるだけだ。


ある日の午後、奴らは絶好の突破口を見出した――近隣の町からの帰り道、楽しげに談笑しながら歩いていた一人の人間の少女と、一人のエルフの少女。二人がその会話を最後まで完結させる瞬間は、永久に訪れなかった。ベリアルの放った二人の隠密は、完璧に訓練された親しみやすい所作で彼女たちへと近づき、少女たちの側には、まだ自らに迫る絶望の質量を察知する術など持ち合わせていなかった。


だが、ベリアルの猟犬どもが完全に見落としていた致命的な誤算(バグ)が一つだけあった。――その一部始終は、完璧に『観測』されていたのだ。長老アーロンの二人の息子たち。実務的で冷静沈着な兄と、未だ自らの世界の格を手探りしている最中の弟。二人はその不審な接触の瞬間を目撃し、音もなくその足跡(トレイル)の追跡を開始していた。


隠密どもは二人の少女をホライゾンクレストの国境線の外側へと連れ出し、近隣の町の端に位置する無人の荒野にて、カイに関する直接の尋問を開始した。当然、少女たちの口から有益な内部情報(ステータス)が吐き散らされることはなかった。すると、猟犬の一頭が自らの意思表示(見せしめ)として、何のためらいもなくエルフの少女の胸を短刀で貫いた。冷徹で、容赦のない清算。残された人間の少女の顔面が、恐怖によって完全な絶望へと染まり、その沈黙が引き裂かれるその瞬間を愉しむかのように。


――アーロンの息子たちがその死線へと突撃したのは、まさにその瞬間だった。


直後に暴発した戦闘は、凄絶極まるものだった――エルフ族は、正式な『名付け』を経ていなくとも、その器の内に膨大な反魔素(アンチ・マナ)を宿している戦闘種族だ。二人の兄弟は自らの魂の全出力を絞り出し、命がけの猛攻を仕掛けた。しかし、対峙する敵は魔王直属の暗殺者。どれほど兄弟が死に物狂いで牙を剥こうとも、根本的な階級(次元)の断絶は、あまりにも残酷な格の差となって瞬時に彼らの肉体を抉っていった。


「その子を連れて、今すぐ走れ!」

兄が自らの身体を肉盾に変え、二頭の猟犬の進路を力任せに塞ぎながら、弟に向けて絶叫した。「エレインの元へ行くんだ! ……すべての真実を、主へ伝えろ!」


弟はその絶対の命令に従った。未だ激しいパニックの最中にあった生き残りの少女――**ミコ**の腕を掴み取り、自らの限界を超えた神速でホライゾンクレストの国境線を目指して猛烈に疾走する。


だが、二人が逃げ延びた距離はあまりにも短すぎた。

突如として空間が歪み、彼らの進路を完全に遮るようにして、二頭の猟犬が平然と目の前に立ち塞がったのだ。弟の心臓が、恐怖で完全に凍りついた――奴らがここにいるということは、すなわち、自らの兄の絶対防衛線が完全に『清算(死亡)』したことを意味していたからだ。


「チッ、面倒くさい仕事だな」猟犬の一頭が不機嫌そうに吐き捨てた。「まっとうな成果(ログ)を持ち帰らなきゃ、ベリアル様にどんな清算をされるか分かったもんじゃないぞ」


「このエルフのガキなら、何か有益な情報を持っているかもしれないわね」もう一頭が冷笑を浮かべる。


「……ロード・カイに関する情報など、俺の魂が消滅してもお前たちのような化け物に差し出すものか!」

少年は恐怖で全身を激しく震わせながらも、その瞳の奥には確固たる覚悟の光を宿らせていた。彼は隣のミコへと向き直る。「走るんだ、ミコ! 今すぐ! 自分の限界のその先まで駆け抜けろ!」


彼は自らに残された最後の魔力をすべて絞り出し、彼女の身体へと肉体強化(エンチャント)と持続回復(リジェネ)の回路を限界チャージで付与すると、その背中を力任せに前方へと押し出した。


彼女が走り出したその刹那、猟犬の一頭が彼女の無防備な背中に向けて、凶悪な魔力弾(エネルギー・バレット)を解き放った。


――少年は、一切の躊躇なく、自らの肉体をその破滅の軌道の上へと投げ出した。


彼は自らの命の最後の残滓をすべて燃やし尽くし、彼女が国境線の結界の彼方へと消え去るまでの時間を、力任せに稼ぎ出し続けた。……だが、その代償はあまりにも重すぎた。隠密どもが彼の最後の防衛網を完全に破綻させて踏み潰した時、そこにはもう、奴らの脅威になり得る生命の気配など影も形も残されていなかった。


少女ミコは、ただ一人でホライゾンクレストの正門へと辿り着いた。激しい過呼吸と、溢れ出す涙。彼女が携えてきたその最悪の凶報は、我がコバヤシの譜系の全幹部たちの逆鱗を叩き割り、この世界のチェス盤のすべてを、根本から決定的に激変させることになる。


エレインは正門でミコから直接その一部始終を聞き届けた。語られる凄惨なディテールが増えるたびに、彼女の端正な顔立ちから目に見えて血の気が引いていった――待ち伏せ、エルフの少女の理不尽な死、そして長老アーロンの二人の息子たちが、本来なら決して一人で直面すべきではなかった階級違いの死闘に巻き込まれたという、最悪の凶報。


彼女は自らの足でアーロンの元へと向かった。このような重大な悲報を、人づての中介者(セカンドハンド)を通じて伝えるわけにはいかないからだ。彼の妻と娘が傍らに寄り添う中で、エレインは真実を告げた――一人の息子が自らの命の残滓をすべて燃やして時間を稼ぎ出し、もう一人の少年の安否は未だ完全には確定(未確認)していないこと。そして、このホライゾンクレストの絶対の国境線が、単なる行きずりの野盗などではない、完璧に組織化された何者かによって蹂躙されたという現実を。


彼女は次にエリスへ、そしてその次にエンゾへと真実を伝えた。直後、広間にいた全員の脳裏に、誰もが本心からは直面したくない最大の疑問符(タスク)が重くのしかかった。


「……誰かが、カイ様にこの事実を正しく伝達(報告)しなければなりません」

エレインが重苦しい静寂を引き裂いて呟いた。声音には確かな怖気が混じっていた。


即座に自ら立候補する者は一人もいなかった。その部屋にいた誰もが、言葉にして説明するまでもなく、この最悪の真実(ログ)が彼らの主に対して『一体どれほど恐ろしいバグ(暴発)』を引き起こすことになるのか、正しく理解していたからだ。


その完全な沈黙を、最終的に鼻で笑って打ち破ったのは、ニクサラだった。

「あの子に話しなさい」彼女はフラットに、一切の反論を許さぬ絶対の響きで言い放った。

「そうじゃなきゃ、ここから先の国政も戦争もまっとうに機能しなくなるわ。あの子には真実を知る権利があるし、率直に言って、ベリアルの野郎にはこれから降りかかるであろう絶対の破滅(チェックメイト)がお似合いだもの」


「……貴方様が、直接ベリアルを処理(清算)してくださることはできないのですか?」幹部の一人が微かな期待を込めて訊ねた。


「私は最初からそう提案したわよ」ニクサラは肩をすくめた。

「だけど、カイ自身が私に『そこは俺に直接ハンドリングさせろ』と要請してきたの。私はあの子の意志を尊重するわ。たとえ私自身が、奴の精神領域を直々に引き裂いて終わらせる娯楽(スポーツ)をどれほど心底渇望していようともね」


---


最終的に、その死線を踏み越えてカイに真実を告げたのは、エリスだった――物静かに、慎重に、しかし一片の隠蔽工作もなく、すべての事実を剥き出しのまま差し出す。


エリスが言葉を紡ぎ終えたその刹那、カイ(俺)の表情から一切の人間的な感情が完全に消失し、絶対の無(空白)へと上書きされた。数瞬のディレイを経て、俺の胸の奥底へとどっしりと鎮座したのは、もはや一片の温かみすら残されていない、世界の底が抜けたかのようなマイナス(零度)の波動だった。


《警告。主の精神宿る魂のパラメーターに、急激かつ絶対的な変異(オーバーロード)を観測しました。固有能力『虚無(ヌル)』の出力がシステム限界値を超えて外部へと漏出(ドレイン)し始めています》


脳内の超越知性の冷徹な宣告が脳裏に響くが、今の俺にはそんなログはどうでもよかった。


「魔王ベリアル……」

俺の声は完全にフラットで、乾ききっており、しかし一文字ひと文字の最奥には、気の遠くなるほど冷徹な怒りの奔流が凝縮されていた。

「お前はたった今、絶対に踏み越えてはならない最後の一線(ボーダー)を跨ぎやがった。……その代償は、お前の完全な『消滅(死)』を以て清算させてやるってわけだ」


---


その頃、別の世界の狭間に位置する魔王ベリアルの本国宮殿では、奇跡的に生き延びて帰還した二頭の猟犬が、自らの致命的な大失態(大フンボルト)を言葉を詰まらせながら報告していた。


「人間の少女の身柄を……取り逃がしました」一頭がようやくそう白状した。


「ふむ、それで?」ベリアルは玉座に深く腰掛けたまま、これっぽっちも動じる風なく返した。「何が問題(エラー)だというのだ?」


「あの少女に……私たちがベリアル様より放たれた直属の隠密であるという事実が、完全に露見いたしました」もう一頭が言葉を重ねる。


「……なぜだ」


「そ、それは……あの場にいた全員を確実にその場で清算する手筈でしたので」最初の一頭が冷汗を流しながら認めた。「誰も生きて還らぬ前提でしたので、奴らの猜疑を煽るための余計な言葉を……少々口走ってしまいました」


「その結果は?」


「我々が情報を完全に抽出して処理する直前に、二名の上位エルフ(ハイエルフ)の戦闘員による決死の奇襲を受けました」二頭目が告げる。「奴らはその場で清算いたしましたが……その混乱の隙を突かれ、人間の女に国境の防衛線の彼方へと逃亡されました」


ベリアルは長い間、その精密な知性回路で事態の先にあるパワーバランスを計算していた。

「なるほどな。つまり問題の本質は、我がポーン(歩兵)たちの無能ゆえに、ホライゾンクレストの『コバヤシの系譜』にすべての隠密ログが逆探知され、カイというバグが、私という真の黒幕の手を最初から正しく看破したという点にあるわけだ」


「……はっ、その通りでございます、ベリアル様」


その直後、ベリアルの傍らに何事もなかったかのように音もなく佇んでいた直属の最高幹部**リッテ**が、一切の予備動作なく空間を裂いて動いた。その刹那、二頭の無能な猟犬の首は、何の儀式的な猶予も与えられることなく、一瞬にしてチェス盤の上から完璧に『清算(切断)』された。隙のない、完璧な行政処理。


「ベリアル様」リッテは何事もなかったかのように振り返り、一礼した。「ここから先、我が国はどのように生存戦略(プラン)を進めるべきでしょうか?」


「あの少年は、自らの足で直接この場所にやってくるさ」

ベリアルはその確固たる未来予測(ログ)に、心底満足げな笑みを浮かべた。

「間違いない。奴の行動パターン(性質)を見ればな」


「ならば、こちらから先手を打ってホライゾンクレストへと総力戦を仕掛けますか? 奴が我がテリトリーに到達する手前の空間で、完璧に排除(清算)するべきでは」


「いや、それは愚策だ」ベリアルは手首を軽く振って却下した。

「あの場所には未だ、原初の悪魔であるニクサラと、新たに上の次元へと進化を遂げたあの厄介な古竜公(エンゾ)が本陣を構えているからな。それに……あの軍勢の中に一人、エリスとかいう名の最強の剣士がいただろう。あの女の魂の系譜には、少々奇妙なバグ(異質さ)が混じっている。おそらく本人は未だその本質に気付いてすらおらんようだがな。あそこへ直接踏み込んで全面衝突を演じるのは、パワーバランスの現実論として悪手だ。大人しく、奴をこの『私の絶対領域』へと誘い込み、ニクサラの横槍が入らない孤立した空間で迎え撃つ方が遥かに確実だ」


「では、奴をチェス盤の上で清算するための迎撃準備を?」


「あぁ」

ベリアルは再び自らの黒曜石の玉座へと深く身を沈め、片手を美しい顎のラインへと添えた。その端正な顔立ちに、ゆっくりと、しかし底知れぬ飢餓(強欲)に満ちた凄絶な笑みが広がっていく。

「奴を完璧に『吸収(アブソーブ)』し、その器の底にある『虚無(ヌル)』という究極の法則をこの手で獲得する。これ以上ないほどの、最高のチェックメイトの時間だ」


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