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転生の向こう側 【The Other Side of Reincarnation / Beyond Reincarnation】  作者: ルーク
壊れた世界(偽りの現実)

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第38話:第一波

これから語ることは、あの戦場に身を置いていたすべての当事者――エンゾによる極めて理性的で正確な回想、エリスの研ぎ澄まされた精密な記憶、そしてあの日の光景を一瞬たりとも忘れることのない精鋭三人衆の共有データ――から、後に一つずつパズルを合わせるようにして繋ぎ合わせた真実の記録である。


---


我が精鋭たちは、ホライゾンクレストの国境から二日分の進軍距離に位置する広大な平原にて、マイラス王国の本国主力軍と正面から接触した。

それは文字通り、息を呑むほど圧倒的な光景だった。一万五千の兵士が完璧に統制された軍事陣形(フォーメーション)で行列を成し、大国としての確固たる誇り(クレスト)が描かれた軍旗が朝日に美しく翻る。そしてその最前列には、すでに自らの代名詞たる超高火力魔法の発動シーケンス(詠唱)を完了させつつある大量の魔法師団が、狂気的なまでの密度でひしめき合っていたのだ。


「……流石に、物凄い数だね」

ルークがぽつりと言った。彼のいつもの絶対的な自信が、目の前に実在する物理的な軍勢のスケールの前に、目に見えて理性的な警戒へと上書きされているのが分かった。


「ただの数よ」

エリスは声のトーンを一切変えず、すでに部隊の最前線へと自らの足を進めていた。

「自分たちの身勝手な前提(ルール)が、これからどれほど無残に粉砕されることになるのか、今から身をもって思い知るだけの哀れな数よ」


――あいつ、こういう時のスイッチが入ると本当に底知れない化け物だな。

エンゾは彼女の背中を見つめながら、内心でそんな畏怖を抱いていた。一万五千の大量破壊兵器を前にして、一切の揺らぎがない、完全なる凪の佇まいで迎撃態勢を整えているのだから。


---


軍勢の中心には、国王ラスボーンその人が本陣を構えていた。遥か遠方からでも、朝日の光をこれみよがしに反射してギラギラと輝く、傲慢極まる超豪華な王冠の意匠によって、その位置は容易く識別できた。


「敵軍、進軍スピードを一切緩めません」

精鋭三人衆の斥候が緊迫した声で報告する。「交戦前に交渉に応じる気配は皆無です」


だろうな、とエンゾは冷徹に思考した。

これまでの生涯において、遠隔砲撃戦でただの一度も敗北を知らない無敗の王だ。戦う前に言葉を交わす必要性など、最初からこれっぽっちも感じていないはずだ。


最初の一撃(オープニング・ストライク)は、なんの予言(前触れ)もなく放たれた。

一万の魔法師団が一斉に解き放った、同時多発の『第八階梯・爆雷魔法(マギ・エクスプロージョン)』。それは凝縮され、完璧に兵器化された他者の魔素(マナ)の奔流であり、その余波だけで空そのものがどす黒く変色したかのように錯覚させるほどの質量だった。歴史上のあらゆる軍事ログによれば、この一斉掃射ただの一発で、対峙した敵国の主力軍が丸ごと一つ『消滅』してきたとされる絶対の破壊だった。


---


「……来なさい」


エリスは、目の前に迫る破滅の巨大な壁を前にしてもなお、不気味なほど冷静に呟いた。そして、ここ数週間で自らの内に完璧に構築し、研ぎ澄ませてきたあの新しい『鍵(ギフト)』を解放した。


彼女の立ち位置を起点にして、『虚無(ヌル)』の波動が冷徹に、そして絶対的な拒絶の質量をもって外部へと侵食(ドレイン)していく。それは、これまで俺たちが遭遇してきたあらゆる既定の魔力を完膚なきまでに無に帰してきた、根本的な『システム的不互換』の現れだった。


飛来した大量の爆雷魔法が、彼女の展開した概念結界(ヌル・シールド)と接触した瞬間――世界は、奇妙なほど静かに『停止』した。

天地を揺るぐはずだった大爆発は起きず、それは単なる無害な、漂うだけのただの煙と砂塵へと文字通り融解し、エリスが微塵の揺らぎもなく維持し続けている絶対の防衛線の手前で、その因果関係ごと虚無へと消え去ったのだ。


……成功だ。このイカれた大陸規模の出力(スケール)を相手にしてもなお、俺たちの『虚無』は完璧に上書きしてみせたのだ。


風が吹き抜け、ゆっくりと視界がクリアになっていく。そこには、ホライゾンクレストの全精鋭部隊が、髪の毛一本すら傷つくことなく、最初と全く同じ座標に平然と佇んでいる異様な有様が広がっていた。


---


一方、マイラスの最前線では、自分たちの最強の最初の一撃が完璧に着弾して敵を消し炭にしたと完全に誤認した兵士たちから、気の早い戦勝の歓声が巻き起こっていた。自分たちの誇る最大火力が、何一つ意味を成さずに虚無へと融けて消え去った現実など、彼らの凡庸な脳内では想像すらできていなかったのだ。


「あいつら、自分たちが勝ったと本気で思ってるよ」セリカがあきれたように呟いた。「私たちがまだ五体満足で立っていることすら、見えていないんだわ」


「砂塵がまだ視界を遮っているからな」エルヴァが冷徹に言った。「……今に分かるさ」


歓声が突如として絶叫(悲鳴)へと切り替わったのは、煙が完全に晴れ渡ったその瞬間だった。一万五千の軍勢が、ただの一切の擦り傷すら負うことなくそこに立っている敵軍の姿を見つめ、声も出ないほどの衝撃の中で、信じられないといった面持ちで硬直していた。


かつてアッシュフォードの軍勢が崩壊の直前に味わったあの『絶望の始まり』の感覚と、おそらく完全に同じものだろうな――エンゾは、マイラスの統制された軍陣の中に目に見えて広がっていく動揺と大混乱の波紋を特等席で眺めながら、そう確信していた。自分たちが絶対だと信じ込んできた『強さの前提(ルール)』が、根底から粉々に砕け散っていくあの瞬間だ。


---


しかし、ホライゾンクレストの軍勢は、その圧倒的な戦術的アドバンテージを前にしても、即座に追撃(カウンター)を仕掛けることなくその場に踏みとどまっていた。すべてはエンゾが事前に下していた厳格な命令通りだった――無駄な侵略(殺戮)はしない。完璧な猛攻のチャンスが目の前に転がっていようとも、彼らの牙は完璧な自制の元でコントロールされていたのだ。


「全員、そのまま待機(ホールド)だ」

エンゾの声は、平原全体へ向けて容易く響き渡った。「俺たちは、イージーモードの勝利を確信してやってきた哀れな連中を、ただ一方的に虐殺しにきたわけじゃない。まずは、カイが俺に託した『青臭い正論(外交)』の答え合わせをさせてもらうぞ」


彼は一歩前に踏み出した。たった一人で、ゆったりとした、しかし確固たる足取りで。

わずか数瞬前まで「勝利は絶対だ」と信じ込んでいた己の前提を必死に再評価(シミュレーション)し、急激な恐怖と不安に晒されつつあるマイラスの最前線に向かって、彼は歩みを進める。その佇まいには、一万五千の大量破壊兵器に囲まれていることなどこれっぽっちも気にしていない、圧倒的な『世界の天井(古竜公)』としての絶対的な格の高さが宿っていた。


さあ、拝ませてもらおうか。この狂気的な死線の手前で、俺たちの主が信じる『理性(外交)』という名の鍵が、本当にこの頑固なチェス盤の扉を開けることができるのかどうかをな。


彼は片手を厳かに上げ、正式な『会談(パーレイ)』を要求した。そして、国王ラスボーンの抱く自らの『大国のプライド』が、その警告の言葉を正しく聞き入れるだけの度量を持ち合わせているかどうかを、静かに見定め始めた。




--------------



国王ラスボーンは、数人の将軍たちを従えて自ら馬を進めてきた。その表情には、自軍の静まり返った動揺など微塵も感じさせない、確固たる傲慢さが張り付いていた。


――悪くない兆候だな、とエンゾは近づいてくる王を見つめながら思考した。少なくとも、こちらの言葉に耳を傾けるだけの度量は持ち合わせているらしい。


「貴様、この私と言葉を交わしたいそうだな」

間合いを詰めたラスボーンが口を開いた。その極めてシンプルな事実の承認にすら、大国の覇王特有の尊大な響きが混じっている。

「私が直々にチェス盤の前に立ってやった。言うべきことがあるなら、精々述べてみよ」


「軍勢をマイラスの本国へと撤退させよ」

エンゾは直球に、カイが彼に託したメッセージの質量をそのまま込めて告げた。

「我が主、ロード・カイはこの虚しい戦争をこれっぽっちも望んではいない。貴殿らは、自国の真の利益とは全く無関係な理由の元に、ある魔王の強欲に踊らされてホライゾンクレストへの侵略を強要されているのだ」


ラスボーンの表情は、数段階の不快な困惑を経た後、最終的には見るに耐えないドス黒い嘲笑へと定着していった。


「カイとやらが、この私に命令を下す権利を持っているとでも?」

王は信じられないと言わんばかりに吐き捨てた。

「その上、この私が踊らされている、だと?」

彼は短く、侮蔑に満ちた声を上げて笑った。

「ならば、そのカイとやらは一体どこにいるのだ? 私の前に直接立つことすら恐れるほどの、卑劣な臆病者(チキン)か?」


「ロード・カイは現在、別の重大な事象を処理(ハンドリング)されている」

エンゾは明確な挑発を前にしてもなお、完全に安定したトーンで返した。「この戦場には不在だ」


「それでよく王(支配者)を名乗れたものだな」

ラスボーンの声に、明確な毒(怨念)が混じり始める。

「自らの軍勢を直々に戦場へ率いる覚悟すら持ち合わせていないとは」


王の露骨な侮蔑に牙を剥かれた将軍の一人が、ここぞとばかりに自らの傲慢なコメンタリーを付け加えた。

「王の風上にも置けぬ、恥知らずな存在め」


その言葉を受けて、背後に控える一万五千の兵士たちの間から、残酷でカジュアルな嘲笑の波紋が平原全体へと広がっていった。


---


――来るか、とエンゾは身構えた。ラスボーンの表情が、単なる侮蔑を遥かにつり越えた、決定的な暴発へと切り替わっていく。


「私の前に立っている貴様、その人間の皮を被った虫ケラめ」

王は声を張り上げた。その声は、背後に控える一万五千の軍勢の最果てまで容易く響き渡る。

「貴様のその身体の奥底から、獣の悪臭が漂ってきているぞ。硫黄と従属の腐った臭いだ。あのガキが差し向けてきたのは、これほど哀れな存在か? 人間の顔を真似たトカゲが、その膝を折って、与えられる価値すらない慈悲を乞いに来たというわけか!」


「カイ、だと?」

彼は一文字ひと文字にドス黒い嫌悪を込めて言葉を紡ぐ。

「名前からしてただの冗談だ。ドブネズミの唸り声( grunt )にも劣る。私は奴の正体を知っているぞ――貴様らの本質をな。竜の出来損ないと原初の悪魔の魂を継ぎ接ぎにした、世界に見せる真の顔すら持たない醜悪なハイブリッド(混血児)だ! 文明の檻の中に生きる人間の領域を、壁の裏に隠れて、鎖に繋いだ飼い犬どもに悲鳴をあげさせることしかできない弱者めが!」


止まらない。この男は、自らが吐き散らしている身勝手な妄言のすべてを、本心から『絶対の真実』だと盲信しているのだ。


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「私は、あのガキの哀れな生涯よりも遥かに古い歴史を持つ血統(クラン)を、この手でいくつも根絶やしにしてきたのだ」

ラスボーンは、まるでこの瞬間のために夜な夜な私室で練習を重ねてきたかのような、完璧に統制された残酷な演説(スピーチ)を続けた。

「気まぐれな娯楽(スポーツ)のために、いくつもの都市を消し炭に焼き払ってきた。それをお前のような――ただの愛玩動物(ペット)が――この私に向かって、陰謀だの戦争だのと講釈を垂れるか!」


「貴様らの主こそが、この世界に這い出たバグ(病魔)なのだ」

王の声は、完全に狂気(アンヒンジド)の領域へと上書きされていく。

「生まれた瞬間にドブ川に投げ捨てて溺死させておくべきだった私生児(バスタード)だ。創造の歴史に刻まれた最大の汚点であり、神々すらその生存を許したことを後悔している絶対のエラーだ!」


エンゾの表情は、その過酷な侮蔑の間中、ただの一度も動かなかった。

しかし、その完全な『沈黙』が孕む空気の質量は、単なる忍耐のそれとは決定的に異なる、世界の終焉を思わせるほどドス黒い不気味さへと変質し始めていた。


---


「私がホライゾンクレストへ進軍する時」

ラスボーンは、目の前のエンゾから漂い始めた決定的な異常気候(プレッシャー)に気付くこともなく、あるいは意図的に無視して言葉を重ねた。

「そこに外交(交渉)の余地など無い。一切の慈悲も、生存者も残さん。あのガキの首を撥ねて我が帝都の正門へと高く掲げ、我が民どもにその頭蓋骨が白骨化するまで小便を引っ掛けさせてやるわ!」


彼はその知性的な瞳に、歪な歓喜の色を宿らせてエンゾを真っ向から見据えた。

「そして貴様――あのガキの忠実で哀れな負け犬よ。貴様には、それを特等席で指をくわえて眺めてもらう。眺め、悲鳴をあげ、自らが愛したすべての聖域が『カイ』という名の安っぽい嘘の上に築かれた砂の城に過ぎず、その嘘がこの私によって完全に上書きされる現実を絶望しながら死んでいくがいい!」


背後の一万五千の兵士たちが、地鳴りのような咆哮をあげて王の演説を完全承認(コミット)した。


――あいつ、本気で自分がすでにこのチェス盤に勝利したと確信しているんだな。

エンゾの完璧な沈黙の裏底で、冷徹にして絶対的な『終わり(結論)』の歯車が完全に噛み合った。この男は、自分が一体どれほど途方もないバケモノの逆鱗(トリガー)に触れてしまったのか、その想像力すら持ち合わせていないらしい。


---


ラスボーンは自らのパフォーマンスに心底満足した様子で、背後の魔法師団に向けて片手を厳かに掲げた。


「……撃て」


彼は最初の一撃が不発に終わった現実などこれっぽっちも気にする風ではなかった。一万五千という絶対的な兵力の数字(ステータス)さえあれば、いずれ敵の防衛網など力任せに圧殺できると盲信していたのだ。


同時多発の爆雷魔法が、今度は明確にエンゾ個人をピンポイントで抹殺するために解き放たれた。会話を永久に切断するための、集中豪雨地みた超高火力の面制圧。


しかし――そのすべてが、何一つとして着弾しなかった。かすり傷すら、世界に届くことはなかった。


エンゾはただそこに、微塵の微動だにせず伫んでいた。天地を割るはずだった大爆発の因果関係は、彼の周囲の空間と接触した瞬間に漂うだけの無害な煙へと融解し、まるで世界そのものが「この男の存在領域に暴力を到達させる価値はない」とシステム的に自動判定(バグフィックス)したかのような異様な有様だった。


「貴国は、大陸最強の火力を誇る爆雷魔法の絶対無敗を自負していたな」


エンゾの声は、平原全体を襲った突発的な、そして耐え難いほどの困惑の静寂(しじま)を容易く引き裂いて響き渡った。

「……それは、致命的な誤認(バグ)だ」


その瞬間、彼の声音の輪郭から一切の人間的な温かみが完全に消失した。フラットで、冷徹で、これまでの気の長い忍耐の欠片すら残されていない、絶対の断罪。


「それでは」彼は告げた。「……本物の『爆発(エンド)』が一体どんな質量をしているのか、今から身をもって教えてやろう」




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エンゾがその片手を静かに天へと掲げた瞬間、天界そのものが彼の呼び出しに完全同期(コミット)したかのように鳴動した。


彼の周囲の空間に、無数の光の粒子が染み出すようにして実体化していく。最初は小さく、気の遠くなるほど遠方に浮かぶ星屑のように見えたそれは、ゆっくりと、しかし完璧に統制された起動軌道を描きながらエンゾの頭上へと集束していく――それは本物の星々、世界の天底のどこからか強制的に引きずり出されてきた、本物の星の核だった。それらは物理的な質量を無視して互いに引き寄せ合い、あり得ない密度で超圧縮を開始する。


「……何、あれ」

戦場の端からその光景を目撃していたエリスの胸中に、驚愕と、そして生命としての根源的な『恐怖(アラート)』が同時に跳ね上がった。


集束する光の密度は一秒ごとに跳ね上がり、目に見える熱の波動となって大気を歪めていく。やがてエンゾの広げた手のひらの上に浮かび上がったのは、まさに寿命を迎えて自己崩壊を起こしつつある『超新星の核』そのものだった。白熱し、世界を焼き尽くさんばかりの神威を放つその球体は、空間そのものを悲鳴をあげて引き裂くほどの超高重力圧(プレッシャー)を孕んでハミングしていた。


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一方、マイラスの魔法師団は、未だかつて本物の敗北を知らない無敗の王の絶対的な自信(ステータス)に突き動かされ、二の矢の詠唱を強行していた。一万の突き出された手のひらの上に、再び『第八階梯・爆雷魔法(マギ・エクスプロージョン)』の因果関係が組み上がっていく。すべてを終わらせるための、破滅の一斉掃射。


――しかし、奴らがそれを解き放つ瞬間は、永久に訪れなかった。


「……全員、退避(リトリート)!」

エリスの声が、ホライゾンクレストの最前線を引き裂いて響き渡った。それは鋭く、一切の躊躇も許さない絶対の命令だった。

「今すぐここから離れなさい! 二人とも、部隊を引かせろ! ――これはもう、あいつらの魔法がどうのっていう次元の話じゃないわ!」


精鋭三人衆とその配下たちは、彼女の危機感知能力(センサー)を万に一つも疑うことなく、即座に反転・離脱した。コバヤシの譜系たる全軍勢が、エンゾがたった今この世界へと解き放とうとしている超常の災厄から少しでも距離を置くために、猛烈な速度で間合いを外していく。


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エンゾの瞳の奥から、一切の感情が消失し、どこか気の遠くなるほど遥かな深遠へとシフトしていた。彼の意識は、己の手のひらの上で崩壊しつつある星の核だけに完璧に固定されている。彼の声が、戦場全体を平然と押し潰して響き渡った。


「――『星崩壊極光波(アストロ・ノヴァ)』」


その言霊が彼の唇から零れ落ちた瞬間、マイラスの一万五千の軍勢が死に物狂いで放った遅すぎる一斉掃射が激突した――一万五千の兵士たちが誇る大国のプライドが、自国の歴史のどこを探しても生き残る術など載っていない、完全に上の次元の絶対法則と衝突したのだ。


超新星が、地上へと投下された。


---


まず、視界のすべてを純白の絶望で呑み込む、圧倒的な閃光が平原を突き抜けた。爆発そのものが本格的に形を成すよりも早く、世界から空そのものが文字通り『消失』したのだ。

直後に訪れたのは、単一の衝撃波などという生ぬるい言葉では到底形容できない、超高密度の破滅の連鎖だった。生の宇宙エネルギーが完全な球体(ポートレート)を描いて外部へと侵食し、容赦のない因果の波となって世界を上書きしていく。


《告知。対象の固有結界(アストロ・ノヴァ)による干渉を検知しました。特性:『星光侵食(ステラー・コロージョン)』。――マイラス軍の全防衛魔導壁の構造破綻を確認。防御パラメータ、完全無効化》


マイラスが誇る無敗の防衛結界など、紙クズ同然に一瞬で消し炭にされた。残された星屑の残滓(スターダスト)が爆風の跡を追いかけ、触れるものすべてを概念ごと焼き尽くしていく。生き残った者が必死に試みようとしたあらゆる魔素回復(リカバリー)の手続きさえ、その空間の歪みの前には何一つ作動しなかった。


奇跡的に最初の一撃を耐えた者たちにとっても、その平原自体が完璧な処刑場と化していた。超新星の爆心地を中心に、重力場が内側に向かって完全に崩壊(ブラックホール)を起こしていたからだ。周囲の移動速度はシステム的に『ゼロ』へと固定され、残された宇宙エネルギーが、執拗に、かつ完璧にその本質を清算し尽くすまでの間、そこから脱出することは万に一つも不可能だった。


「……星崩壊(ステラー・コラプス)」

エリスは、十分に安全な距離まで退避していたことに心底安堵しながらも、遥か彼方で展開される世界の終焉の光景を、ただ声も出ないほどの畏怖の中で見つめていた。


---


そして――その破滅の波は、軍勢の境界線(国境)だけでは止まらなかった。


それは平原全体を呑み込み、マイラス軍の本陣の背後にそびえ立っていた巨大な山脈を文字通り消し炭にして粉砕し、なおもその侵食の手を緩めることなく狂気的な速度で突き進んだ。そして、ついにその因果の波は、彼らの本国そのものへと到達したのだ。


大国マイラス。

その帝都、王城、住人たちが何世代にもわたって築き上げてきたすべての家屋、市場、大魔導アカデミー、そして神殿。そのすべてが、影も形もなく『消失』した。あまりにも完全な、世界の底が抜けたかのような絶対の静寂の前に、その光景を目撃していた者たちの脳裏には、どんな大爆発の爆音よりも遥かに耳を聾するほどの絶望が轟いていた。


一万五千の魂。そして、一つの国家。

それが、たった一つの名前を与えられた魔法(ギフト)の前に、わずか数瞬の間に世界から綺麗に消去(バグフィックス)されたのだ。


---


後に残されたのは、完璧で、どこまでも終わりが見えない絶対の静寂(しじま)だった。

ほんの一瞬前まで、一万五千の命と、傲慢極まる一つの王冠と、そして『マイラス』という輝かしい大国の名が存在していた世界に、今やただぽっかりと、巨大な『無(ヌル)』の穴が穿たれているだけだった。


エンゾはゆっくりと手を下ろした。彼の頭上で引き裂かれていた天界の亀裂が、何事もなかったかのように音もなく閉じていく。彼は自らの袖に付着した塵を、無造作に払った。

それは、もはや通常の物質としての名前を持たない塵だった。かつてそれが何であったのか、どんな栄華を誇っていたのかなど、世界はもう二度と思い出すことはない。


彼は一度も後ろを振り返ることなく、ゆったりとした足取りでその場から歩み去り始めた。


「……貴様は、一つだけ正しいことを言っていたな、哀れな小王(ラスボーン)」

彼は、数分前まで確かにそこに玉座が存在していたはずの、主を失った無の空間に向けて静かに呟いた。

「あいつは確かに混血児(ハイブリッド)だ。私生児(バスタード)であり、この世界の既定法則(ルール)からすれば、ただのバグ(汚点)に過ぎん」


エンゾは一瞬だけ足を止め、その声音の最奥に、拒絶を許さぬ絶対の引導を込めて言い放った。


「――だがな、あいつは『私の主』だ。……私のものについて、お前のような虫ケラがその汚い口を開くことは許さん」


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