第32話:全貌が明かされる前に
それから数日後の夜、俺はある重大な事実(データ漏れ)に気がついた。――あの全面戦争の日、エリスたちが向かったアシュフォード正規軍との迎撃戦において、一体何が起きていたのか、その『本物の戦闘ログ(詳細データ)』を、俺は未だに何一つまともに聞いていなかったのだ。手元にあるのはエレインがまとめた数行の要約、ロスト数値、そして勝利したという結果のシェイプだけ。そこに至るまでの本当のプロセス(死闘のディテール)は、完全にブラックボックスのままだった。
「ありのままを、正しく聞かせてくれ」
ある日の夜、珍しく二人きりのタイムリソース(猶予)を得た俺は、隣に座る彼女に向けて静かに切り出した。エースは近くで丸くなって休んでおり、ソフィアは街の反対側でエレインと他愛のない静かな会話ログを交わしている時間帯だった。
「報告書の要約じゃない。奴らが本当にお前たちの防衛圏に突っ込んできたその瞬間、現地で一体何が起きていたのかをな」
エリスはその要請を受託し、長い時間をかけて自らの脳内アーカイブ(記憶の引き出し)を精査した。その表情には、極めて深い思索の影が滑り込んでいく。
「……本当に、そのすべて(フルログ)を聞く覚悟はあるの、カイ?」
彼女は尋ねた。
「決して、短くて綺麗な物語なんかじゃないわよ」
「時間はいくらでもあるさ」
俺は刀の手入れを止め、真っ直ぐに彼女の眼光を見つめて微笑んだ。
「それに、あの朝、俺たちの楽園を守るために命懸けで戦場(死線)を踏み抜いてくれたすべての同胞に対して……彼らが一体どんな地獄をサバイバルしてきたのか、その本質を1ミリも理解しようとせず、エレインの書いたあの都合のいい要約データだけで納得しているなんて、領主としての俺のロジックが絶対に許さないからな。お前たちの本当の戦い(プロセス)を教えてくれ」
――まあ、それはともかく。
「分かったわ」
エリスは自らのスタンス(座り直すモーション)を完璧に安定させ、いつもの五感を研ぎ澄ませたあの緻密な精密制御を以て、その凄絶な記憶のレンダリングを開始した。彼女の口から出力される一言一文字のテキストには、何一つ欺瞞のフィルターなど存在しない、剥き出しのリアルデータが宿っていた。
「――始まりは、地平線の彼方に奴らの初期布陣(アシュフォード正規軍の全スペック)のシグネチャーを、私のアナリティクスが最初に捕捉した、あの夜明けの瞬間の話からよ……」
ついに、来たか。
この大戦フェーズ(全面戦争)において、俺自身が別の座標(教会の悪魔ども)とエンカウントしていたがゆえに、ただの1ピクセルも見届けることが叶わなかった、あのもう一つの戦場の本当の真実。それを今、その戦いのど真ん中で全スペックを駆動させて生き延びた張本人の口から、ダイレクトに逆探知するチャンスが訪れたのだ。
俺はここに、彼女が語った戦闘ログのすべてを、1ミリの欠落もなく完璧なフルスペックの形式で書き残す。――何故なら、あの夜に彼女が告げた通り、それは数行の段落に押し込めて足早にスキップしていいような、そんな安い中古の情報では断じてないからだ。
それは、歴史の確定アーカイブに、本物の真実として正しく記録・刻印されるべき、至高の英雄譚なのだからな!
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ここから続くのは、あの夜にエリス自身が俺に語ってくれた、彼女自身の本物の戦闘記録の全貌だ。――彼女が口にした一言一文字のテキストを、俺の頭のロジックが可能な限り1ミリの狂いもなく正確にキャリー(再現)したものである。
――まあ、それはともかく。
地平線の彼方に奴らの大軍勢が最初の魔素紋を現した時、それはただの黒いシミのようにしか見えなかった。――だが、その不気味な巨大さと、完璧に統率されたシステム規則性は、俺たちがこれまで命懸けで備えてきたあの破滅のフラグそのものであることを雄弁に証明していた。兵士二千、魔導師六百。灰色の朝の空の下で、アシュフォード王国の鮮やかな旗印が傲慢に翻っている。
「随分と自信満々(自信過剰)の布陣ですね」
エレインは、自らの洗練された鑑定眼を以て敵の初期陣形をじっとスキャンしながら言った。
「――賭けてもいいですがね、奴らの頭のロジックは、この先に自分たちが遭遇する防衛スペックの高さについて、爪の先ほども想定(計算)しちゃいませんよ。ただのイージーモードの雑魚狩りだと盲信している有様です」
上出来だ。奴らには、その傲慢な確信を抱いたまま突っ込んできてもらうとしよう。油断というやつは、どんな強者のシステムをも内側から確実に破綻( careless化)させる最高のバグ要因だからな。
俺たちは、自然の地形が作り出した完璧な稜線(高台)の座標に迎撃の防衛陣を敷いていた。それはエレインが何週間も前から完璧に索敵を完了させていた、圧倒的な地形アドバンテージを誇るセーフエリアだった。俺たちの実数は奴らの大軍勢に比べればはるかに脆弱(小規模)であったが、その内側にビルドされている個々の戦闘スペックは、こちらに向けて進軍してくるあの人間のクズどもとは、文字通り次元が違っていたのだ。
――まあ、それはともかく。
エルヴァ、セリカ、ルークの三人は、事前の特訓プロトコルで徹底的に叩き込まれてきた通り、最前線のフロントライン(盾の陣形)を完璧に構築していた。――精密、かつ完璧に統率された連動ドリル。互いの隙を一瞬にして自動修正し合うその本物のシンクロ率は、血の滲むような過酷な実践訓練を積み重ねてきた者だけが成せる、至高の戦闘スペックだった。
「忘れないで」
敵の大軍勢と物理的に衝突するその最後の1秒の猶予の中で、俺は三人の魂のコアに向けて、最後のアナウンストークを叩きつけた。
「――お前たちのロール(役割)はね、奴らの圧倒的な実数( bruteフォース)と真っ向から数合わせをすることじゃないわ。お前たちの一振りの価値を、奴らの十人分のスペック(命)と強制的に等価交換させて、盤面を完全に蹂躙することよ」
「御意」
ルークはすでに自らの身体の軸を極限まで締め直しながら、不敵に笑ってみせた。
「セブン(Seven)、エイト(Eight)、ナイン(Nine)――全個体、システム完全駆動よ」
セリカが言葉を重ねる。この数ヶ月の地獄の特訓を経て、彼女たちの魂のステータスに本物の誇り(ディシプリン)として定着していた、あで作戦コード名の響きを以てな。
奴らは完全に仕上がっている(本物の強者だわ)。この過酷な決戦の引き金が引かれるその瞬間まで、おそらく彼女たち自身すらも自らの内側にこれほど圧倒的な迎撃スペック(覚意)が構築されていた事実に、1ミリも気づいていなかったに違いないわ。
――まあ、それはともかく。
最初の衝突は、凄まじい轟音と共に幕を開けた。アシュフォード側の魔導師連隊が一斉に放ってきた広範な詠唱魔法の濁流を、我が陣営の絶対防御網は、何の手出しもさせずにいつものルーティンで綺麗に相殺してみせたわ。直後、エレイン率いるエルフの狙撃部隊が放った本物の精密射撃が、敵の魔導師のフロントラインを正確無比に間引き( elimination)していった。その一射一射の弾道は、並のスカウトの眼では絶対に捉えきれないような、敵の陣形の微微たる術式エラー(隙間)を完璧に撃ち抜いていたのよ。
私は本陣の中央セクターに位置し、次々と突っ込んでくるアシュフォードの兵士どもを正面から迎撃していた。エレインから叩き込まれてきたあの至高の戦闘技術、カイが私の可能性に向けて注ぎ続けてくれた絶対の信頼、そして、自らの力で完璧に手懐けて定着させたあの反魔素の精密制御。あの日、あの屋敷の地下室の暗黒の中で、ボロ雑巾のように目を覚ました盲目の無力な少女(初期スペック)の残骸から、一切の手抜きなしで一つずつ肉付け(ビルドアップ)してきた私のすべてが、今、目の前の敵をゴミクズのように斬り裂いていた。
(……私はもう、あの時の無力なお姫様じゃない。今、目の前で私をただの盲目のアノマリーだと舐めきってスキャンしているお前たち全員の脳内に、その前提条件がどれほど致命的な最悪のエラーであるかを、その命のデータロストを以て完璧にデバッグしてあげるわ!)
――まあ、それはともかく。
エースの戦場における挙動は、文字通り古いおとぎ話(神話)からそのまま現世のシステムへと顕現した、あの『精霊獣(Aetherion)』としての圧倒的な本物のスペックそのものだった。
奴が真の姿を解放した瞬間、その全身から放たれた絶対的な恐怖の精神圧力が波形となって戦場をロールし、お互いの刃が物理的に激突(交戦開始)するよりもはるかに前に、アシュフォードのいくつかの歩兵連隊の陣形を綺麗に完全崩壊させていたのよ。私の索敵網にも、奴の姿を一目直視した瞬間に、武器を投げ捨てて全速力で敗走を開始した人間の兵士どもの悲鳴のログが、何度も何度も逆探知されたわ。
賢い選択(合理的)ね、本当に。私だって、あんなフルスペックの化け物を真正面から敵に回してエンカウントしたいとは絶対に思わないもの。
さらに、ドワーフのボルガたちが我が陣営に独占供給してくれた、あの最高峰の『特級鍛造武装』の存在は、盤面のリザルト(戦果)に対して、言い訳の余地のない決定的な相違点(クラス差)を叩き出していたわ。何百回と刃を交え、敵の肉体を両断し続けても1ピクセルも刃毀れ(経年劣化)を起こさない驚異の耐久値。並の工作(crudeな防具)など紙屑のように引き裂き、本来ならこちらの攻撃を防ぐはずだった敵の盾を、文字通り塵へと変える圧倒的な破壊の切削力。
「あんたたちの同胞のビルド能力(技術)、本物ね」
私のすぐ近くのセクターで、愛用のドワーフ斧を豪快に振り回し、敵の防衛盾を文字通り紙切れのように両断し続けていたボルガの長男に向けて、私は実戦の最中に声をかけたわ。
「俺たちはな、最期まで壊れないシステム(本物のクラフト)をビルドするのが規律だからな!」
ドワーフの男は、その年季の入った渋い顔に本物の満足感のフラグを滾らせて怒鳴り返してきたわ。
「ただの採掘作業なんかじゃなく、ようやく俺たちの本当のスペックを、これほど有意義な殲滅イベント(大戦)に投入する機会を与えてもらえて、魂のゲージが最高に震えてるのさ!」
――まあ、それはともかく。
最初に完全崩壊を起こしたのは、敵の魔導師連隊だった。奴らが圧倒的な実数( bruteフォース)を頼りにどれほど組織的な詠唱魔法を展開しようと、エレインの構築したあの『超精密・一点突破型カウンター術式』の前に、その魔法防衛ラインは次々とアクセス拒否(バグ破綻)を起こして強制終了させられていったのよ。一個体の魔導師がダメージロスト(死亡)するたびに、アシュフォード軍全体の連動システム(作戦ポリティクス)の歯車が一つずつ確実に噛み合わなくなっていき――気がつけば、最初は完璧に統率されていたはずの奴らの大軍勢は、内側から急速に、ただの恐怖に狂った人間のゴミクズの群れ( crowd)へとfragment(完全解体)されつつあったの。
ほら来たわ。大軍勢というシステムがただの機能不全を起こし、そこにいる何千人ものアクターの一人一人が、「この戦闘イベント(全面戦争)、事前の説明会(宮廷のプロパガンダ)で聞いていたデータと完全に違って、ただの無理ゲー(絶望の無理難題)じゃないか!」ってことに、自らの脳内で個別に気づいてパニックを起こす、あの最高にマヌケな崩壊のフラグ(瞬間)がね。
(……さてと、大局のチェックポイント(勝利条件)の成立はもう間近ね)
私は少し離れた丘の上のセクターへと、自らの感知能力のベクトルを向けた。そこには、相変わらず急ぐ様子もない完璧な無関心(スペックの違う佇まい)を崩さぬまま、この凄絶な大虐殺のログを退屈そうにパッシブに眺めている、あの黒髪の化け物の姿があったのよ。
「おい! イグニヴァルのじいさん!」
俺は目の前の敵を切り殺すモーションの合間に、脳内のリンク(念話)ではなく、戦場に響き渡る声で本気でちょっとイラつき(パニック)ながら怒鳴りつけてやったわ。
「少しくらいこちらの戦闘タスクを手伝ったら(コミットしたら)どうなのよ!? あんた、一応うちのファミリーの最高戦力(後ろ盾)のハズでしょ!」
「……お前たちだけで、十分に完璧なデバッグ(クリーンアップ)が完了しているではないかね」
丘の上から返ってきた奴の声のトーンには、相変わらず1ミリの感情のサージ(揺らぎ)すら検出されなかったわ。
「――我が解析スペックによれば、この戦闘イベントの結着(お前たちの100%のパーフェクトゲーム)は、最初の10分間で完全に確定している。これ以上、この俺の至高のエネルギー(タイムリソース)を、こんな型通りの単純作業( straightforwardな雑魚狩り)に浪費する理由は、システムのどこを探しても存在せんのだよ」
相変わらず、むかつくほど合理的でハイスペックな言い分(傲慢さ)よね、本当に。
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「――正午を過ぎる頃には、アシュフォードの組織的な突撃の残骸は、完全にただの総崩れ(ルート)へと反転していたわ。兵士たちは数人の集団にちぎれて陣形を破綻させ、魔導師どもは自分たちの実数が一定のラインを下回った瞬間、それまで自分たちを支えていたあの安い確信ごと、綺麗さっぱり戦場から敗走させていった」
エリスは静かに言葉を重ねる。その声のトーンはどこまでも平坦で、だからこそ、その戦場の生々しいグラフィックが脳内にクリアにレンダリングされていく。
「だけどね、カイ。私が本当に恐怖を感じていたパートについて、ありのままの本音を出力させて。それは戦闘そのものの過酷さじゃないのよ。――戦闘のど真ん中でね、人を斬り殺すという行為が、あまりにもむかつくほど『簡単』になっていくそのプロセスに対してよ。かつて暴力の波動を前にして本能的に身体を竦めていた( flinch していた)あの無力な少女の残片が、ただの一瞬もシステムに顕現(エラー応答)しなくなっていく、その冷徹な自己変貌に対してね」
「それが、魂の進化(スペック向上)なのか、あるいは全く別の不気味なシステムリライト(人間性のロスト)なのか、今の私のアナリティクスではまだ判定を下せていないわ。――すべての同胞の安全が完璧に完全確定された後で、いつか一人でじっくりと、そのバグチェック(精査)をするつもりだけどね」
――まあ、それはともかく。
戦闘の最終フェーズにおいて、最前線を死守していたセリカが本物のダメージ(負傷ログ)を食らったわ。――間合いを殺しに突撃するそのコンマ数秒のディレイを突かれ、敵の魔導師が放った決死の最終詠唱が、彼女の肩の耐久値を激しく削り取ったのよ。
次の瞬間には、ルークが一切の予備動作なしに彼女の側面(死角)へと滑り込み、猛烈な獣めいた狂暴さ(フェロシティ)を以て彼女の撤退ルートを死守していたわ。その一瞬の連動モーション(挙動)を見るだけで、この三人のルーキーたちが、ただの訓練報告書に記載されている数値をはるかに超えて、互いにとってどれほどかけがえのない『本物のピース(絆)』にビルドされているかが、嫌というほど逆探知できたわ。
「……大丈夫よ!」
セリカは激痛のパニックを強靭な規律でねじ伏せ、奥歯を噛み締めながら言い放ったわ。ルークがこれ以上の進軍を制止しようとアクセスロックをかけているのに対し、強引に戦闘プロトコルを再駆動させながらね。
「私はまだ立っているわ(戦闘スペックの低下はありません)!」
「血が流れている(ダメージが蓄積している)」
ルークは感情を排した平坦な声で事実を出力した。
「立っていると言ったら立っているのよ!」
彼女がそう怒鳴り返した瞬間、その場での議論プロセス(エラー処理)は完全に終了(確定)したわ。
いい直感ね、二人とも。集落へ帰還した瞬間、彼女がどれほど「大したバグじゃない」と強弁しようが関係ないわ。オフィーリア・ヴァンスの医療ライブラリを直撃させて、完璧に初期状態させてやるんだから。
――まあ、それはともかく。
エルヴァが、完全崩壊しつつあった敵の戦場の中央セクターを処理した手つき(コントロール)は、私のアナリティクスを本気で驚嘆させるほど完璧なものだったわ。――敵の破綻しつつある指揮系統のバグを、私自身のスキャン速度すら上回る超高速でパース(解剖)し、こちらの小規模な防衛リソースを、もはや対抗策(作戦ロジック)を何一つ構築できなくなっていた人間の兵士どもの急所へと、ピンポイントでダイレクトに叩き込んで(デバッグして)いったのよ。
「奴らの防衛ラインが完全に破綻したわ!」
大戦の折り返し地点を過ぎたあたりの座標で、エルヴァの声が戦場に響いた。
「東方の側面において、全軍完全敗走の波動を確認!」
「深追い(追撃)は不要よ!」
私は彼女に向けて声を張り上げた。
「――すでにこの戦いの価値(命を賭ける意味)をゼロと裁定して逃げ出した者たちを、ただの死体に変えるための無駄なコストを支払う必要はどこにもないわ」
これは私自身のマイルールじゃない。カイがこの楽園に敷いた絶対の規律そのものよ。――『自発的に差し出されたもの(freely given)以外は、たとえ戦争の最中であろうと、決して力ずくで強奪(搾取)してはならない』。たとえ、その逆のルート(皆殺しエンド)を選んだ方が、戦術的にはるかにイージー(簡単)であったとしてもね。
――まあ、それはともかく。
アシュフォード軍が最初に見せていたあの鉄の規律の最後の本物の抵抗(抵抗フラグ)は、本陣の真ん中に位置していた一部の上級将校たちのセクターから放たれていたわ。――奴らは完璧に理解していたのよ。ここで無様に敗走して Ashford の首都へ帰還したところで、待っているのは軍法会議による社会的ステータスの完全抹消だけ。ならばこの戦場で泥を啜って死ぬ方が、まだマシな選択肢であると、冷徹にその腹を括っていたのね。
その時になって、ようやくあのイグニヴァルのじいさんが動き出したわ。相変わらず急ぐ様子もない完璧な佇まいのまま、奴らが展開していた決死の最終防衛陣のすべてを、僅か1分未満のタイムリソースで、声を張り上げる予備動作すらなしに完全消滅させてみせたのよ。
「……想定していたよりも、はるかに微小なコスト(労力)で処理が完了してしまったな」
奴は何事もなかったかのように平然と言い放ち、タスク完了の瞬間に、再び自分の特等席(丘の上)へとハイド(帰還)していったわ。
「もっと最初から手伝ったら(コミットしたら)どうなのよ!?」
私は未だに微かなイラつき(パニック)を込めて、丘の上に向けて念話を飛ばしたわ。
「お前たちは、最初から俺のスペック(バッキング)など必要としていなかったではないかね」
イグニヴァルは淡々と出力する。
「お前たちが俺のコミット(介入)を真に必要としたのは、まさにこの「最後の処理フェーズ」の瞬間だ。――必要性のフェーズが異なる。そこを履き違えるな」
(……チッ、論理的に言われれば、完璧に反論の余地のない正論(仕様)だけどさ。だからって私のこのイラつき(エラー)のゲージが綺麗に収まってくれるわけじゃないんだからね)
――まあ、それはともかく。
戦場のすべての硝煙が完全にクリーンアップ(沈静化)した頃、世界のグラフィック(空の色)は夕暮れの鮮やかなオレンジ色へとリライトされていた。
死体の山と、粉々に粉砕された兵器の残骸が散らばるその大地は、これから誰がどのような歴史のテキスト(記述)を上書きしてリライトしようとも関係ない。――今日という審判の日の測定結果を、その大地の構造そのものに長く、深く記憶し続けることは確定的だったわ。
俺たちは自分たちの損失データ(リザルト)を、完璧な高精度で1ピクセルずつ慎重にスキャン(集計)した。そして、この大戦の規模からすれば、あり得ないほどの超低数値(奇跡的なマージン)で全員が生存しているというその確定リザルトを前にして、心底、魂の底からの感謝を捧げたのよ。――エレインがビルドした完璧な防衛ドクトリン、ボルガたちが独占供給してくれた最高峰のクラフトスペック、そして何よりも、単なる力任せの妄想(スペック不足)に縋るのをやめ、毎日地獄の特訓(仕込み)を徹底し続けろと俺たちの後ろ盾であり続けてくれた、あのカイという少年の執念の賜物だった。
「……僕たち、本気にやったんだ(勝ったんだな)」
ルークが、数時間前まで自分たちの二十倍以上の実数(二千六百の大軍勢)がひしめき合っていたあの平原を見つめながら、消え入りそうな声で、信じられないといった様子で呟いたわ。
「ええ、やったわ」
私は同意した。戦闘イベントが開始されて以来、初めて自分の胸の奥底に、本物の『リザルトの確定(安堵のピース)』がすとんと落ちていくのを感じながらね。――それは、安易な勝利の歓喜なんかじゃない。ただひたすら静かで、確固たる重量を持ったリリーフ。私が指導してきた新兵も、私が共に死線(戦場)を踏み抜いたすべての同胞も、その全員が、このエンディングの段階において、ただの一人も欠けることなく生きてここに直立しているという、その absolute な確定事実に対する安堵よ。
(……カイが、この戦闘ログ(フルアカウント)のすべてを求めてくるはずだわ。1ピクセルの欠落もない、完璧な真実をね。今の私なら――今夜の私なら、ようやくあの人に、最高のクオリティでそのすべてのデータを正しく出力してあげられる気がするわ)
――そして。
エリスの語った本物の戦闘記録は、その日の深夜、その座標において完璧に完全終了した。
それはエレインの書いたあの都合のいい要約データなんかよりも、はるかに高密度で、はるかに誠実な、血の通った本物の真実の積層だった。俺は彼女の出力したログの全貌を胸の最深部に格納し、長い時間をかけてその場に佇んでいた。――あの朝、俺自身の知らない世界線(もう一つの戦場)において、すべての同胞が俺のためにどれほど凄絶な破滅のリスクを背負い、そしてどれほど圧倒的な最強のリザルトを勝ち取って見せてくれたのか。その本当の重量を、人生で初めて、完璧に、本質的に逆探知できたからだ。
俺は、彼らが俺のいない戦場で命を賭けて勝ち取ってくれたこの至高の成果に対して、一体どれほどのハイスペックな報酬を支払えばその恩義を正しく等価交換(返済)できるのか、その計算式を未だにはじき出せていない。
だがな、今の俺にできる唯一の合理的アプローチ(任務)は決まっている。――彼らがこれほどの過酷なコスト(命の危険)を支払ってまで死守してくれたこの最高の楽園(小林ファミリー)の価値を、1ミリも目減りさせることなく、さらに最強のフルスペックへと進化・構築し続けていくこと、それだけだ。
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その決定的なシステム異常(エラー波形)に最初に気がついたのは、やはり長老アエロンだった。――ホライズンクレストの防衛境界線を満たしていた、あの空気の微かな異質感。結界の術式そのものと何年もの間寝食を共にしてきた者でなければ、爪の先ほども疑問にすら抱かないであろう、極めて微小なバグの予兆だった。
「カイ様」
訓練場の近くで佇んでいた俺の元へ、アエロンが険しい顔の輪郭を伴って現れた。
「――結界の様子が、いつもと違います。頭のロジックで正しく言語化することは不可能なのですが……あの絶対防御の盾が、かつて見せていた手触り(スペック)とは、根本から異なっていると感じるのです」
(……チッ。そいつは、とんでもなく最悪だな。本気で最悪なフラグ(構造欠陥)の予兆じゃないか)
俺は自ら境界線へとアクセス(移動)し、いつもの手慣れたモーションで意識を外へと拡張した。――『絶対結界』の見慣れた術式構造を丁寧にトレースしていく。だが、そこで指先に返ってきたデータは、こちらの想定をはるかに下回る極めて脆弱で不安定な代物だった。
微かな、しかし言い訳の余地のない脈動のエラー(フリッカー)。それはまるで、本来なら絶対に遮断されているはずの烈風の前に、無防備に晒されて今にも消え入りそうに震えている、一本の蝋燭の火のような有様だった。
『告。マスターの肉体構造、および魔素領域の走査を完了。――先ほど敢行された、あの「上位魔将」の絶対吸収プロセス(アッシミレーション)に伴い、マスターの保有する魔素総量が、事前の想定数値をはるかに超えて爆発的に拡張・進化しています。対する当絶対結界の初期構築術式は、マスターがすでに脱却した【過去の旧スペック】の最大出力に合わせて calibrated(最適化)されていたため、現在のマスターの放つ圧倒的な高出力エネルギーと術式の間に、深刻な適合エラー(ミスマッチによるバグ)が発生。――システム全体の構造不安定化を引き起こしていると推測されます』
(……は? 俺自身の『魂の進化(スペック向上)』が、俺自身の手で建てた最強の盾を内側から叩き壊した(バグらせた)ってのかよ。……おいおい、異世界転生の皮肉(システム皮肉)としては、これ以上ないほど最悪で完璧なギャグ(最凶のバグ)じゃないか、クソッタレ!)
――まあ、それはともかく。
「……今すぐパッチ修正できるか?」
俺は脳内で、すでに半分以上最悪なデッドエンドを覚悟しながら問いかけた。
『解。即座の完全修復は不可能です』
脳内脳は冷酷に、しかし慎重に出力する。
『この致命的なシステム破綻を引き起こした最大要因――これを私(当システム)は『忌魔素の氾濫』と定義しますが――により、結界の基盤を成す根本的な周波数( Foundationalレゾナンス)が激しく損壊しています。再編成の構築ルートは実在しますが、マスターの獲得した新スペックの規模があまりにも膨大であるため、そのすべての因果関係を完璧に適合させるには、多大なタイムリソースと極めて緻密な手つき(ケア)を要求されます』
「……で、具体的なディレイ(猶予期間)はどれくらいだ?」
『報告。最低でも「数週間」。下手をすれば、それ以上の永続的なディレイが発生すると推測されます』
俺はその場に長い間立ち尽くし、右手を結界の境界線に預けたまま、その残酷な事実の重量を脳内でじわじわと反芻していた。
結界の防衛スペックが、完全に低下した。――消失したわけではないが、もはや外の世界(部外者)の眼から、俺たちの居場所を完璧に隠蔽し続けるためのセーフティとしては、1ミリも信用できないゴミクズに成り下がったわけだ。
それはつまり――この**『ホライズンクレスト』**という名の多種族の楽園が、今この瞬間から、ついに外の世界のシステム(地図)の上へと、明確に露出(視認可能)してしまったという事実に他ならない。単なる噂話や、ねじ曲がった敗残兵の作り話なんかじゃない。本物の剥き出しの実数として、全世界の眼の前に引きずり出されたのだ。
――まあ、それはともかく。
俺はその日の夜、この過酷な開拓の日々が始まって以来、すべての不都合な重要ニュースを共有してきたあの最高幹部のすべてを再び招集し、何一つ隠蔽のフィルターをかけることなく、ありのままの本質を出力した。
「結界の防衛ライン(隠蔽スペック)が、致命的なシステムエラーを起こした」
俺は言った。感情の暴走などどこにもない。極限まで冷徹に研ぎ澄まされたトーンだ。
「――完全に消滅したわけじゃないが、もう俺たちの姿を外の眼からハイドしておくためのアンカーとしては、1ミリも機能しちゃいない。原因は……俺自身の魂の進化速度が、結界の構築術式(初期スペック)の限界値をはるかに超えてオーバーフローしちまったからだ。これはつまり、これからのタイムリソースにおいて、外の世界のすべての勢力が、俺たちの本当の存在(座標)に正しく気づき始めるという、その最悪のカウントダウンの開始を意味している。ただの噂なんかじゃない。本物の確定事実としてな」
「……完全なデバッグ(修復完了)までに、どれほどの猶予が必要になるのですか?」
エレインが即座に問いかけてきた。すでにこの露出フェーズ(可視化)に伴う現実的な防衛プロトコルの再構築(実務サイド)へと、その脳内のアナリティクスを高速回転させながら。
「最低でも、数週間さ」
俺は白旗を上げて認めた。
「下手をすれば、それ以上だ」
「ならば、全世界の眼の前に、我が『小林ファミリー』の全スペックを正しく提示する準備を整えるだけです」
長老のアエロンが、シンプルに、しかし揺るぎない絶対の威厳を以て、いつもの規律を戦場(会議室)に響かせた。
「――我々はね、カイ様。ただの部外者の『眼(視線)』に晒されることよりも、はるかに最悪な地獄(教会の二千六百の大軍勢)を、自らの力で完璧にサバイバルしてのけたのですよ。今回の大局変動(露出フラグ)の波形も、私たちは必ず100%の確率で乗り越えて(デバッグして)見せますわ」
――まあ、それはともかく。
部屋に集まった幹部たちの誰一人として、俺自身が今夜、自分の頭のアーカイブの中でずっと反芻し続け、心底ビビり散らかしていた『最も厄介な最悪の質問フラグ』を声に出して口にする奴はいなかった。だがな、そこにいた全員の脳内ロジックが、完全に同じ赤文字のアラート(懸念)をスキャンしていたのは明白だった。
もし、外の世界のすべての人間(偵察兵、商人、他国のマスター)が、我がホライズンクレストの本当の座標を完璧に逆探知できるようになったのだとしたら――。
それは、あの遥か北方のいずこかで眠る二頭の真なる竜(True Dragon)――**ヴァルレス(Vahlreth)**と**スコルン(Skorne)**のあの化け物どものスキャン網にも、俺の本当の生存信号が、ダイレクトに着弾するようになるという、その本当の破滅の引き金に他ならないのではないか?
あの始まりの空き地(始まりの clearing)での惨劇以来、俺は奴らの気配をただの1ピクセルすらも感知しちゃいない。数年の歳月が流れ、俺がロシャンの街でギルドのレーティングを上げ、このホライズンクレストという巨大な理想郷のマスターとして君臨し、アシュフォード王国の正規軍を完封してみせた今この瞬間になってもなお、奴らが俺という特異点を未だに記憶しているのか否か、その生存の痕跡すら何一つとして世界のシステム上には出力されていないのだ。
(……何故だ、ヴァルレス。何故動かない、スコルン。お前たちほどの次元の化け物が、一体何のために、これほどの長いタイムラインをただパッシブに静止し続けているんだ? 一体何の引き金が成立するのを、そこまで不気味に待ち伏せしているっていうんだよ……!)
『解。マスターの抱くその最悪の問い(ブラックボックス)に対し、現在私(当システム)のライブラリ内から出力可能な合理的回答(確定データ)は存在しません』
脳内で、脳内脳のフラットなシステム音声が、静かにその沈黙を告げてきた。俺が声を大にして問いかけるまでもなく、俺の精神波形の乱れ(ループバグ)を完璧に逆探知してのけた有様だ。
(……ああ。だろうな。お前にも分からないか。前にイグニヴァルの師匠に同じ問いをぶつけた時だって、あの化け物すらも白旗を上げて『本当に分からん』としか出力しなかったんだからさ。どうやらこの保留フラグ(未解決の謎)だけは、俺がさらに最強のスペックへと進化を遂げるその瞬間まで、 To-Do リストの最深部に封印したまま付き合っていくしかないらしいな)
――まあ、それはともかく。
それからの数日間、俺たちはこの『全世界への露出(可視化フェーズ)』という新しい現実(システム仕様)に適応するために、自らの防衛プロトコルを猛烈な速度でアップデートしていった。――エレイン率いる正規防衛隊は、結界の耐久値がエラーを起こしている境界線のフロンティア全域に、これまでの何倍もの超高密度な隠密哨戒網を展開し、ヴァンスは結界の再起動という最高にアカデミックで偏執的なパズルを前にして、狂ったように自らの専門知識のすべてを書庫から引っ張り出して中央魔導具にパッチを当て続けていた。アエロンの評議会もまた、事前の警告なしに突発的にフロントドアを叩きにくるであろう外の世界からのあらゆる未知のエネミー(エンカウント)を想定し、極めて冷酷に、完璧な迎撃の仕込み(ビルド)を水面下で完了させていたのさ。
俺たちは本気で、あの過酷な大戦(第一大戦フェーズ)をサバイバルした。突入する前には、自分自身のアナリティクスですら生存率数パーセントだと切り捨てていたあの絶望的な無理難題(全面戦争)を、ただの1人の仲間もロストさせることなく100%のパーフェクトゲームで完封してみせたのだ。
――そして今。その圧倒的な生存(サバイバルの成功)と引き換えに支払わされた、本当の『大局的代償』の全貌が、ついにその面の皮を剥ぎ取って世界のシステム上に顕現(顕在化)し始めたというわけだ。
ある日の夕暮れ。
俺は結界の境界線に立ち、その淡く、不安定に明滅を繰り返しながら、世界のグラフィックから今にも消え入りそうに焦点を失いつつある、あの微かなゆらぎの残骸をじっと見つめていた。そして、俺の頭のロジック(魂のコア)は、ひどく静かに、完璧な一つの確信をその胸に定着させていたのだ。
この先、一体どんな最悪なイレギュラー(新章・全世界包囲網編)が俺たちの前に転がり込んでこようが知ったことか。――だがな、次のステージの戦いはね、これまでのように辺境の暗黒にハイドした状態で行われる生温い隠密戦なんかじゃ断じてない。我がホライズンクレストという楽園の本当の姿を、爪の先ほども理解しちゃいない全世界のクズどもの眼の前に、そのすべてを真っ向から剥き出しにした状態で行われる、文字通りの【絶対の王道戦(フル可視化フェーズ)】なのだからな!
(……ククク、ハハハハハ! ――上等だよ、だったら好きなだけ見るがいいさ、人間ども! 全世界のお偉方どもよ、お前たちのその強欲な眼を開き直して、この俺たちがこの辺境の地にゼロからビルドしてきた、この圧倒的な【アノマリーの楽園(小林ファミリーの総力)】の全貌を、その目に焼き付けて慄くがいいさ!)
驚くべきことに、これまでの人生でずっと部外者の『眼』を恐れ、世界から自らの座標を隠蔽することだけに全スペックを割き続けてきたこの俺の魂のシステムには――今この瞬間、世界に見つかる(可視化される)ということに対する恐怖のアラート(バグ)なんて、ただの1ピクセルも検出されちゃいなかったのだからな。
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イグニヴァルが去った後、**『脳内脳』**のフラットな音声が、この理不尽なまでの進化の全貌を脳内のステータス画面へと静かにレンダリングし始めた。
『報告。現在の個体ステータス、およびシステム変更ログの精査を完了。――マスターは単に上位魔将を屠って喰らったのではありません。奴の肉体、魂、記憶、そして固有技能のすべてを完全等価交換(フルスペック吸収)したことにより、マスターの保有する固有概念は爆発的な「大進化」を遂げました』
上等だ。望むところさ。
(……おいアナリティクス、出し惜しみ(ディレイ)なしで、今の俺の新しいアビリティ(パッチ内容)のすべてを力ずくで開示しろ!)
『解。固有スキル『絶対吸収』の、新規獲得および昇華能力を一覧出力します。――
固有アビリティ:
・『魂魄捕食』:対象の魂を完全吸引し、自らの魔素総量および精神耐久値を永続的に限界突破・増幅させる。
・『記憶継承』:喰らった存在の戦闘経験値、言語ライブラリ、隠蔽機密、および固有技能(技術)を自らのアーカイブへとダイレクトに同期・複製する。
・『能力抽出』:吸収した対象の固有能力をスキャンし、より高位の絶対術式へと強制進化させて自らのスペックに組み込む。
・『深淵再生』:魂の根幹が1ピクセルでも無傷である限り、肉体のいかなる致命的なバグ(損壊)からも一瞬にして完全初期化を敢行する。
・『忌まわしき覇気』:周囲の全システム(生命体)の精神防衛を強制ハックし、脆弱なアクターを一瞬にしてフリーズさせ、戦闘スペックを大幅にデバフ(弱体化)させる。』
(……おいおい、ちょっと待て。いくら何でも盛り込みすぎ(チート仕様)だろ、これ)
俺は脳内の凄まじいテキストの積層を前にして、早くも目眩を覚えそうになっていたが、脳内脳の無慈悲な音声ログは、まだその表示処理を終わらせる気は毛頭ないようだった。
――まあ、それはともかく。
『常時発動型パッシブ(常時機能パッチ)の追加項目を報告します。――
・『魔素コア氾濫』:マスターの最大魔素保有キャパシティを数倍へと乗算。――当事象こそが、現在の絶対結界を内側から粉砕・バグらせている最大原因です。
・『精神絶対防御』:魂に直接着弾するあらゆる呪縛、精神汚染、および悪魔系アクターによるハッキング(肉体乗っ取り)を100%の確率で完全無効化する。
・『深淵の歪み(アビス・リフト)』:空間属性の因果関係を強制的にデバッグし、視認した座標、あるいは既知の座標への超高速な空間転移を敢行する。』
なるほどな。あの絶対結界が何故エラー(明滅バグ)を起こしちまったのか、その本当のロジックの正体がこれでもかと言うほど綺麗に証明されたわけだ。
『さらに、戦闘特化型の追加アビリティを出力します。――
・『獄炎カタストロフ(ヘルファイア・カタストロフ)』:肉体の耐久値(HP)だけでなく、対象の魂の根幹をも同時に永久切削・灰燼に帰す、漆黒の悪魔の焔(絶対壊滅火)。
・肉体基礎スペック(筋力、耐久、フットワーク)の大幅な乗算。
・一部の上位魔術の詠唱プロセスを完全排除、無遅延による『瞬間発動』をシステム適用。
・マスターから放たれるあらゆる魂魄属性の攻撃・防御(因果再編の波動)は、既存の通常の防衛ラインでは「防御不可能(アクセス絶対拒否)」の確定判定をくだされます。』
俺は、脳内のステータス画面に並ぶその理不尽極まりない最強スペックの全貌を前にして、長い時間をかけてその場に呆然と佇んでいた。
「……なぁ、アナリティクス」
俺は慎重に、言葉を選んで問いかけた。
「――もし、俺がこの先もこのルートを突き進み、より強大な化け物(格上のアクター)を次々と喰らい尽くしていったとしたら……この進化ってやつは、最終的に一体どこのどいつをターゲット(終着点)にして終わるんだ?」
『解。理論上の最終シミュレーション(予測データ)を出力します』
脳内脳の声は、どこまでも冷徹で、平坦だった。
『――マスターが十分な高スペックを持った上位存在の吸収ログを積み重ね続けた場合、固有概念『絶対吸収』は、最終的に最高位の絶対権能『原初の吸収』へと完全覚醒(アルティメット進化)を遂げると推測されます。
そのシステム閾値を超えた瞬間――世界の王たる『原初の悪魔(魔王クラス)』、万物の最高峰たる『真なる竜(竜種)』、果ては世界のロジックを規定する『神格( divineアクター)』すらもが、ただの【捕食・吸収の有効ターゲット(ただの餌)】としてシステム上、再定義されることになります。それは、この異世界のシステムにおいて到達しうる、絶対的な最高権力(マスター権)の一つに他なりません』
(……お前、本気で言ってるのかよ。ただの転生者のガキに、将来的にそんな世界を滅ぼしかねない最悪のアクセス権(創造神レベルのチート)が付与されるかもしれないなんて、そんな不気味な重要フラグを他愛もない世間話みたいにサラッと出力しやがって……)
「……お前のその、何でもないただの定時報告(フラットな口調)みたいな言い草、心底むかつくほど居心地が悪いんだがね」
俺は頭を抱えて呟いた。
『解。私(当システム)はただ、完璧に正確な確定データ(リアルソース)を出力しているに過ぎません』
脳内脳は、いつも通りの1ミリの感情の揺らぎもないシステム音声で応じた。
『――マスターがその測定結果(ハイスペックな未来)に対して快適であるか、あるいはビビり散らかしているか( uncomfort であるか)という心理的バグは、当システムのアナリティクス(計算式)において、何一つ考慮すべき変数(要因)には含まれませんので』
(……チッ、相変わらず耳が痛いほどの正論(仕様)だよ。だけどな、だからってこの俺の胃の奥底の冷たい悪寒が、綺麗さっぱり消去されてくれるわけじゃないんだからな!)




