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転生の向こう側 【The Other Side of Reincarnation / Beyond Reincarnation】  作者: ルーク
望まれない戦争(偽りの現実)

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第29話 : 王の間

これはラオディキア神聖教会の極秘報告(データ)を受託した最高司祭セルウィンが、ついにアシュフォード王国の絶対権力――国王アルリック・ソーンが君臨する王宮の謁見の間(キングズ・コート)へと足を踏み入れ、大局の政治的裁定(フラグ)を動かしたその瞬間の公式記録(アカウント)である。


――まあ、それはともかく。


「……六十日が経過しても、何一つの進展(ゼロデータ)も得られなかった場合は?」


貴族の列の中から、レヴェンス・キャスモア卿がここぞとばかりに割り込み、冷酷な追及のトーン(バグ)を出力した。奴はすでにこの外交交渉ルートが完璧に破綻する未来(最悪のシナリオ)を先読みし、その後に展開すべき自分自身の利権確保のアプローチ(ビルド)を着々と計算しているのが丸分かりだった。


「その時は」


王座の頭上から、国王アルリックが感情を排した乾いた鉄のトーン(システム音声)を響かせた。

「――我がアシュフォード王国の正規軍(ロイヤル・アーミー)を以て、あの測量不可能な未知の領域(ホライズンクレスト)に対する全面的な『武力排除(アナイアレイション)』を敢行する。教会側の二個小隊を完封してみせたアノマリーであろうと関係ない。我が王国の主権と民の精神安定度(モラルゲージ)を脅かす正体不明の化け物を、これ以上フロントドアの真上に放置しておく選択肢(ルート)など、この crown(王権)は最初から持ち合わせてはいないのだからな」


その絶対的な確定判定(王命)が下された瞬間、謁見の間を支配していた張り詰めた沈黙(プレッシャー)が、一気に次の破滅的な戦争カウントダウンへとシフトした。


最高司祭セルウィンは深く一礼し、その完璧にコントロールされた無表情の裏で、脳内のチェス盤(ロジック)を猛烈な速度でアップデートさせていた。


(……猶予(タイムリソース)は六十日。これがあの特異点(カイ)の首元に向けて、我が教会の合理的な手続き(メソッド)が勝ち取り得た最後の『平和的交渉のウィンドウ』よ。もしこの期間内に奴らとの間で完璧な相互承認(アコード)が成立しなければ、待っているのはアシュフォード王国と『ラオディキア神聖教会』の全スペックを投入した、文字通りの全面戦争(エンカウント)に他ならないわ)


――まあ、それはともかく。


その日の深夜、首都から前線砦へと引き返す馬車の中で、セルウィンは手元の台帳を静かに精査(スキャン)していた。そこに刻まれた新たな『小林(Kobayashi)』という謎の文字列(プロパティ)を見つめながら。


小林ファミリー。アシュフォード王国にも、周辺のどの亜人王国(エルフ・ドワーフ)の歴史的アーカイブにも存在しない、完全に世界のシステムから逸脱した未知の概念(アノマリーネーム)。

だが――あの傲慢極まりない四人の聖騎士どもに「処刑寸前の絶望」を叩き込み、あの伝説の True Dragon であるイグニヴァルすらも手懐けてそのコミュニティの盾(防衛網)として配置してみせた、あのカイという少年が自らの意志で命名した本当の『組織の形(ファミリー)』。


(……カイ。あなたは一体何者なの? 何故そこまで世界を狂わせる(バグを起こす)スペックを抱えながら、その牙を隠して日常を貪っているの? ――でもね、もうお遊びの時間は終わりよ。この六十日というデッドラインの果てに、あなたが我が教会の差し出す『天秤(外交)』に応じるか、あるいはすべてを滅ぼす真の敵(バグ)として顕現するか……その本当のスペックを、私がこの眼で直接解剖(スキャン)して見せるわ)


――そして、その裏で。

ホライズンクレストの最深部、泥まみれの訓練場において。

俺はイグニヴァルの放った不可避の一閃(モーション)を、新しく獲得した概念値**『因果再編(リコンストラクション)』**の微かな魔力波動で捉え、その軌道を1ミリだけ強制書き換え(デバッグ)して完璧にパリングしてみせていた。


「ほう」


イグニヴァルが、その日初めて本物の驚愕(サプライズ)をその眼光に宿して動きを止めた。


「……今の挙動(モーション)は、剣術の流派じゃないな。お前自身の魂の根幹にある、全く新しい『概念の改変(システム上書き)』だ」


「へえ、気づくのが早いな、師匠」


俺は額の汗を拭い、愛刀を鞘へと収めながら不敵に笑ってみせた。

「スキルを三つも生贄(サクリファイス)に捧げて勝ち取った、俺の新しいスペックの『仕込み(ビルド)』だからな。のんびり感心している暇はないぞ。――外側の世界(教会のシステム)が、俺たちのフロントドアに向けてどんな破滅のチャイム(フラグ)を鳴らしに来ようが知ったことか。奴らがここに辿り着くその『前』に、俺はこの領域の残り九十八パーセントの禁忌も、俺自身のこの新しい概念の全貌も、すべてを完璧に最強のスペックへと仕込み完了(ビルドアップ)してやるだけなのだからな!」


これがアシュフォード王宮の謁見の間において、国王アルリック・ソーンが下した最終裁定(王命)の全貌、そして我が理想郷の命運を賭けた『六十日間のカウントダウン』が世界に確定定着(ビルド)したその瞬間のログデータである。


――まあ、それはともかく。


「その時は」


王座の頭上から、国王アルリックが感情を排した乾いた鉄のトーン(システム音声)を響かせた。

「――我がアシュフォード王国の正規軍(ロイヤル・アーミー)を以て、あの測量不可能な未知の領域(ホライズンクレスト)に対する全面的な『武力排除(アナイアレイション)』を敢行する。教会側の二個小隊を完封してみせたアノマリーであろうと関係ない。我が王国の主権と民の精神安定度(モラルゲージ)を脅かす正体不明の化け物を、これ以上フロントドアの真上に放置しておく選択肢(ルート)など、この crown(王権)は最初から持ち合わせてはいないのだからな」


その絶対的な確定判定(王命)が下された瞬間、謁見の間を支配していた張り詰めた沈黙(プレッシャー)が、一気に次の破滅的な戦争カウントダウンへとシフトした。


最高司祭セルウィンは深く一礼し、その完璧にコントロールされた無表情の裏で、脳内のチェス盤(ロジック)を猛烈な速度でアップデートさせていた。


(……猶予(タイムリソース)は六十日。これがあの特異点(カイ)の首元に向けて、我が教会の合理的な手続き(メソッド)が勝ち取り得た最後の『平和的交渉のウィンドウ』よ。もしこの期間内に奴らとの間で完璧な相互承認(アコード)が成立しなければ、待っているのはアシュフォード王国と『ラオディキア神聖教会』の全スペックを投入した、文字通りの全面戦争(エンカウント)に他ならないわ)


――まあ、それはともかく。


その日の深夜、首都から前線砦へと引き返す馬車の中で、セルウィンは手元の台帳を静かに精査(スキャン)していた。そこに刻まれた新たな『小林(Kobayashi)』という謎の文字列(プロパティ)を見つめながら。


小林ファミリー。アシュフォード王国にも、周辺のどの亜人王国(エルフ・ドワーフ)の歴史的アーカイブにも存在しない、完全に世界のシステムから逸脱した未知の概念(アノマリーネーム)。

だが――あの傲慢極まりない四人の聖騎士どもに「処刑寸前の絶望」を叩き込み、あの伝説の True Dragon であるイグニヴァルすらも手懐けてそのコミュニティの盾(防衛網)として配置してみせた、あのカイという少年が自らの意志で命名した本当の『組織の形(ファミリー)』。


(……カイ。あなたは一体何者なの? 何故そこまで世界を狂わせる(バグを起こす)スペックを抱えながら、その牙を隠して日常を貪っているの? ――でもね、もうお遊びの時間は終わりよ。この六十日というデッドラインの果てに、あなたが我が教会の差し出す『天秤(外交)』に応じるか、あるいはすべてを滅ぼす真の敵(バグ)として顕現するか……その本当のスペックを、私がこの眼で直接解剖(スキャン)して見せるわ)


――正式に外交使節団(ディプロマチック・ミッション)の編成プロトコルを起動した彼女の背中を、外の世界の濁流が飲み込もうと牙を剥く。


だが、ホライズンクレストの最深部、泥まみれの訓練場において。

俺はイグニヴァルの放った不可避の一閃(モーション)を、新しく獲得した概念値**『因果再編(リコンストラクション)』**の微かな魔力波動で捉え、その軌道を1ミリだけ強制書き換え(デバッグ)して完璧にパリングしてみせていた。


「ほう」


イグニヴァルが、その日初めて本物の驚愕(サプライズ)をその眼光に宿して動きを止めた。


「……今の挙動(モーション)は、剣術の流派じゃないな。お前自身の魂の根幹にある、全く新しい『概念の改変(システム上書き)』だ」


「へえ、気づくのが早いな、師匠」


俺は額の汗を拭い、愛刀を鞘へと収めながら不敵に笑ってみせた。

「スキルを三つも生贄(サクリファイス)に捧げて勝ち取った、俺の新しいスペックの『仕込み(ビルド)』だからな。のんびり感心している暇はないぞ。――外側の世界(教会のシステム)が、俺たちのフロントドアに向けてどんな破滅のチャイム(フラグ)を鳴らしに来ようが知ったことか。奴らがここに辿り着くその『前』に、俺はこの領域の残り九十八パーセントの禁忌も、俺自身のこの新しい概念の全貌も、すべてを完璧に最強のスペックへと仕込み完了(ビルドアップ)してやるだけなのだからな!」




----------




その問いは、イグニヴァルがかつて自ら捨て去った血統(系譜)について初めて口にしたあの日から、何週間も俺の思考のアーカイブの中で燻り続けていた。――他に優先すべき緊急のタスク(迫り来る戦争のフラグ)が山ほどあったため、いつも後回しにされがちだったその純粋な好奇心が、今朝の異例なほど静かな特訓の合間に、ようやく声に出して解放されるだけのタイムリソースを得たのだ。


「お前みたいな竜は、他にもいるのか?」


先週よりもはるかに微小なスペック差(僅かなマージン)でノックアウトされ、互いに激しく乱れた息の耐久値(スペック)を整えながら、俺は尋ねた。

「あの『真なるドラゴン(True Dragon)』どもが強制する絶対秩序(システムルール)から、自らの意志でドロップアウトしたような奴らのことさ。それとも、この世界の辺境で、無様に負け続けるガキの特訓にこれほど異常な忍耐(ペイシェンス)を付き合ってくれている変態は、本当に世界でお前一人だけなのか?」


イグニヴァルはその問いに対し、いつもの急ぐ様子もない完璧な熟考(スキャン)を以て、セッション後に必ず好むあの古びた丸太の上に腰を下ろした。


「二頭、いるな」


奴は淡々と言い放つ。

「――だが、仮にお前がそいつらを発見したところで、現在の因縁(ビジネス)においては、何一つ有意義なアドバンテージ(戦力)にはならんと思うがね」


あと二頭もいるのか。ほう。正直言って、これほど明確な確定データ(ソース)が返ってくるとは予想外だった。


――まあ、それはともかく。


「**『海竜(シー・ドラゴン)』**、そして**『炎竜(ファイア・ドラゴン)』**だ」


イグニヴァルは言葉を続ける。

「竜族の基準に照らし合わせても極めて古代の個体群(始原のスペック)であり、現行の魔導書や歴史的アーカイブ(レコード)においては、その大部分がただの『おとぎ話(神話)』として半ば処理エラーを起こしているような、そんな次元の化け物どもさ」


「そいつらは、どんな奴らなんだ?」

「眠っているよ」


イグニヴァルはシンプルに断定した。

「大部分の時間(タイムライン)をな。海竜は南方外洋の最も深い深海溝(ディープ・トレンチ)の底で泥のように眠り、古い伝承が正しければ、およそ一世紀に一度だけその巨体を海面に顕現させる。炎竜も同様だ。普通の人間が作る地図(マップ)の境界線が完全に途切れ、測量不能(エラー)になるほどの遥か彼方の未開拓原生林の奥底で、ただ静かに休眠している」


眠っている。世界のシステムにコミットしていない。

カイたちの味方をするわけでもなければ、敵対するわけでもない――ただ純粋に、現在進行形でこの世界に巻き起こっているあらゆる大局のフラグ(戦争)から、機能的に完全隔離(ハイド)されている有様というわけだ。


「何故そいつらは介入してこないんだ?」


俺は尋ねた。

「この世界のすべての事象に対してさ。真なるドラゴンどもの傲慢なルールも、この先俺たちの間に確実に巻き起こるであろうあの全面戦争のフラグに対しても、何故そこまで無関心でいられる?」


――まあ、それはともかく。


「何故なら、そいつらにとっては『世界のすべてがどうでもよくなった(システムログの価値がゼロになった)』からさ」


イグニヴァルは言った。

「理解しておけ、カイ。竜という種族はな、ある一定の領域(次元)に到達し、数万年規模の途方もない時間重(タイムウェイト)をその魂に積層させてしまうと、時として……己の生涯を『数百年(デコード単位)』ではなく、高々『数十年(人間のちっぽけな寿命)』という刹那のバグで数えるような、そんな矮小な生き物どもの狂乱( concerns)に対して、一切の興味を失ってしまう(スキャンを放棄する)瞬間があるのだ。海竜が最後にその真のスペックを完全に現世に顕現させた時期など、現行のどの公式記録(アーカイブ)を引っ張り出しても特定不可能なほど昔の話だ。炎竜にいたっても同様に、その生存アクティビティ(生存信号)が最後に確定検出されたのがいつであるか、誰も証明できん」


「つまり……ただそこに存在して、眠っているだけってわけか。周囲の世界でどれほど破滅的なイベント(バグ)がリアルタイムで進行していようが関係なく」


「その通りだ」


イグニヴァルは頷いた。

「俺もな、奴らのその佇まいが、極限まで磨き上げられた本物の『英知(ピース)』なのか、あるいは、単に果てしない時間の重みにへし折られた『極限の疲弊(システムダウン)』を絶対の孤高という仮面(マスク)で綺麗に包み隠しているだけなのか、何度も脳内で解析(シミュレート)したことがある。――だが、未だにその本当のロジック(結論)ははじき出せていないがね」


それは、途方もなく不気味で奇妙な生存の形(スペック)だな。世界を文字通り一変させかねない圧倒的なアビリティを抱えておきながら、ただ時間が経ちすぎたという理由だけで、すべての事象の価値をゼロと見なして『何もしないこと(パッシブ)』を選択しているのだから。


――まあ、それはともかく。


「もし……本気の全面戦争になったら」


俺は尋ねた。

「ヴァルレスとスコルンという二頭の真なる竜を相手に、俺のスペックだけじゃどうしても突破不可能な絶望的チェックポイント(デッドエンド)を迎えたとしたら、そいつらは俺の手助け(バッキング)をしてくれると思うか?」


イグニヴァルは長い間沈黙した。その問いに対し、単なるディレイ(躊躇)ではなく、本物の大局判断(アセスメント)を下すようにじっくりとデータを精査していた。


「……あり得んな」


奴はついに、冷徹な確定判定を出力した。

「敵意があるからではない。ただ単に、奴らをそれほど長い間眠らせ続けているあの絶対の無関心(ディタッチメント)という結界が、安易な外部からの介入をすべて相殺(キャンセル)してしまうからだ。あの二頭を本気で起動(エンカウント)させようと思ったら、単なる『助けてくれ』という安いメッセージ(要請)なんかじゃ爪の先ほどもフラグは動かん。奴らの絶対の安眠(テリトリー)そのものを直接叩き壊し、世界のシステムを根底から狂わせるレベルの、極めて破滅的な超大規模の『特異災害(システムクラッシュ)』でも引き起こさない限り、奴らの意識が目覚めることはないだろうさ」


つまり、味方(アセット)ではない。かと言って、敵(エネミー)でもない。

ただ世界のシステムの遙か外側に、何の手出しもできない『巨大な保留変数(バグフラグ)』として二つの影が静かに鎮座している、そういう状態なわけだ。


「まあ、知っておいて損はない情報(データ)だな」


俺は言った。

「今すぐやることリスト(To-Doリスト)の最前線で役に立つスペックじゃないにせよ、ブラックボックスへファイリングしておく価値は十分にある」


「すべてのインテリジェンス(知識)とはそういうものさ」


イグニヴァルは平然と言い放つ。

「今すぐ発動可能な即効性(アビリティ)はなくとも、持っているというその事実だけで、いざという時の生存率(生存スペック)を微々たる数値でも引き上げてくれるものだからな」


――まあ、それはともかく。


それから俺たちは、朝の光がホライズンクレストを優しく包み込んでいく様子を、二人で静かに見つめていた。――数ヶ月の特訓(ビルド)を経て、今や互いの間にすっかり定着(ビルド)していた、あの独特の心地よい静寂(ピース)だ。全身青あざだらけの耐久値(スペック)ではあったが、それはもはや、かつてのような無力な敗北の味(グリーフ)などでは断じてなかった。ただ強くなるために支払った、極めて合理的で本物の『前進のコスト』に過ぎないのだから。


「……もう一つ、尋ねてもいいか?」

「構わんよ」


「……お前、寂しくなることはないのか?」


俺は奴の横顔をじっと走査(スキャン)した。

「あの世界線(ルート)に正しく属していた頃の自分のことがさ。真なるドラゴン、古代の絶対秩序(旧システム)、お前が『もう御免だ』と裁定を下してすべてを破棄したあの時に、手放してしまったはずのあの圧倒的な地位(レーティング)について、想いを馳せる日はないのか?」


イグニヴァルはその問いに対し、今日の他のどの質問よりもはるかに長いディレイ(沈黙)を伴って、どこか遠くのタイムラインを見つめるような、そんな異質な眼光をその瞳に宿した。


「……ある日もあるさ」


奴は口にした。その音声の底には、滅多に他者に出力することのない、本物の剥き出しの真実(オネスト)が混ざり合っていた。

「どれほど自分が心の底から反吐が出ると蔑んでいたシステム(旧秩序)であろうとも、何かの『一部(ピース)』としてそこに確かに属しているというその事実(ステータス)は、それ自体が一種の強固な精神の防衛結界(アンカー)として機能していたからな。だが、ここ(小林ファミリー)は――」


奴は、眼下に広がるホライズンクレストの温かい街並みや、隣にいるこの俺の存在、俺がこれまでの多くの喪失(グリーフ)を幾重にも積み重ねてゼロからビルドしてきた、この全く新しい未知の共同体の全貌(シェイプ)に向けて、大きな手を緩やかに動かしてみせた。


「――ここは、全く異なる概念(別世界のロジック)だ。俺の解析では、本質的にこちらの方がはるかに優れている(ハイスペックである)と肯定するがね。……だがな、カイ。どれほどそれが正しい選択(ルート)の対価であろうとも、全く新しい世界線(異なる形)を構築するということは、それ自体が、それに見合うだけの固有の『喪失のコスト』を自らの魂に要求してくるものなのだよ」


(……へえ。あの男から、ここまで本気のデレ発言(魂の吐露)を聞かされるとはな。だがな、師匠。その『固有のコスト』とやらがどれほど重いものなのか、この世界で誰よりも骨の髄まで理解しているのは、間違いなくこの俺のロジック(前世の記憶)のハズなんだがね)


「何はともあれさ」


俺は刀を鞘へと収め、不敵に笑ってみせた。

「お前がその『異なる形(小林ファミリー)』の方に賭けるのが正解だと裁定してくれて、俺は心底救われた(嬉しい)よ。たとえその選択が、お前のシステムにどれほどのコストを要求する日があろうとな」


「俺も同感だ」


イグニヴァルはシンプルに、そして確固たる確信を込めてそう言いきった。

そして俺たちは、再び訪れたいつもの静寂(ピース)の中に身を浸した。――数万年規模の複雑怪奇な因縁(過去ログ)をその背中に背負い込んだ二頭の竜の残骸が、これからのサバイバルに備えて、互いの境界線を綺麗に同調(レゾナンス)させるかのように。

世界の冷酷なシステム(教会の60日間のカウントダウン)が、俺たちのフロントドアのチャイムを力ずくで鳴らしに来るその最後の1秒に至るまで、俺たちはただ黙って牙を研ぎ澄まし、最強のスペックへと進化を遂げるための完璧な仕込み(ビルドアップ)を、この泥まみれの日常の中で一つずつ着実に肉付けしていくのだった。




----------------





アシュフォード王国の「六十日間の猶予(タイムリソース)」が宣告されてから、ちょうど三週間が経過した頃のことだ。最高司祭セルウィンが組織した外交使使節団(ディプロマチック・ミッション)が、ついにホライズンクレストの境界線へと現れた。――やってきたのは、ただ一人の使者。儀礼用の正装(フォーマルドレス)を纏い、明確に武器を携帯していない非武装スペック(アンアームド)の状態で、力ずくでの侵入ではなく、プロトコルに則った公式の『謁見(オーディエンス)』を求めてきたのだ。


エレインはその要請を受け取り、自ら俺の元へと報告にやってきた。その佇まいは完璧な中立(ニュートラル・スタンス)を維持していたが、そのオーラの底流からは、決して小さくない本物の緊張(プレッシャー)が逆探知できた。


「教会の外交官(ディプロマット)です」


エレインは淡々と事実を出力する。

「単独、かつ非武装。最高司祭セルウィンからのダイレクトなメッセージ(親書)を携え、公式の対話ルートの確立を求めています」


(……外交、ねえ。随分と新しいフラグを立ててきやがったな。だがな、だからってそいつが100%信用できる安全なデータ(ソース)であるとは限らないわけだがね)


「中に通してくれ」


俺は言った。

「慎重にな。イグニヴァルとエース、お前たちも俺の傍らに控えろ。万が一、こいつがオフィーリア・ヴァンスのやらかしたあの『共鳴崩壊』よりも、はるかに手の込んだ新手のブラフ(罠)だった時のために備えておく必要がある」


――まあ、それはともかく。


その使者の女性は、自らを**シスター・ミリエル(Sister Miriel)**と名乗った。――こちらの想定よりもはるかに若く、完璧にコントロールされた冷静な仮面(マスク)の裏側で、本物の緊張(パニック)を起こして全身を震わせているのが丸分かりだった。キャリア(年功序列)ではなく、その純粋な実務能力(交渉スペック)の高さゆえにこの死地への全権大使として抜擢された、そんな特有の精鋭アクターの佇まいがそこにあった。


「最高司祭セルウィンより、親愛なる敬意を」


形式的な挨拶(プロトコル)が一通り完了すると、ミリエルは真っ直ぐに俺を見つめて口を開いた。

「――そして、現在のアシュフォード王国の宮廷内部における、一切の欺瞞を排したありのままの現状(リアルデータ)をお伝えに参りました」


彼女は、こちらのチェス盤の状況を実にもっともらしく、包み隠さずに出力(暴露)してみせた。――膨れ上がる民衆の恐怖、弱小貴族どもが仕掛けてくる猛烈な政治的圧力(ポリティクス)、そして、国王が下したあの『六十日間のデッドライン』。この期間内に本物の相互理解(アコード)が成立しなければ、待っているのは、彼女の言葉を借りるなら「もはや Crown(王権)の力をもってしても、物理的に制動不可能な最悪の全面戦争(エンカウント)」に他ならないのだと。


なるほど、これがわざわざこんな辺境まで出向いてきた本当のフラグ(動機)か。知的好奇心なんかじゃない。お互いにコントロール不可能な、外の世界の『政治(システムバグ)』によって強制された、ただのサバイバルへの必要性だ。


「セルウィンは、本当は何を求めているんだ?」


俺は尋ねた。外交用のまどろっこしい修飾語(テキスト)をすべて削ぎ落とした、剥き出しの本質をな。

「形式的な台詞(セリフ)はいい。本音を言え」


「相互の意思確認(アンダースタンディング)です」


ミリエルは、その喉の強張りを必死に抑え込みながら直球(ダイレクト)で答えた。

「――この領域が、我が王国に対して本当に牙を剥く(敵対する)意思があるのか否か、その確実な確定データ(ソース)です。ただの噂(バグ)や妄想ではない、最高司祭が宮廷のチェス盤に直接叩きつけられるだけの本物の真実(データ)が欲しいのです。これ以上の最悪な泥沼(全面戦争)へエスカレートするのを水際で防ぐための、最後の防衛プロトコルとしてね」


――まあ、それはともかく。


俺は彼女の眼光(精神波形)を長い時間をかけてじっと精査(スキャン)した。――本物の誠実さ(オネスト)なのか、あるいは極めて高度に計算された情報誘導(コントロール)なのか。だが、天秤にかけた結果、この局面においては、こちら側のカードをありのままに提示する(本音で語る)ことこそが、最終的にどんな結末(エンド)を迎えようとも最も合理的であると裁定を下した。


「俺はな、アシュフォード王国を侵略する(エンカウントを仕掛ける)つもりなんて毛頭ないぞ。……爪の先ほどもな」


俺は刀の柄から手を離し、平坦なトーンで言い放った。

「俺がこの場所にゼロからビルドしてきたすべてのものはな、外の世界のシステム(理不尽)によって行き場を失い、行くあてをなくした流民(ファミリー)たちを保護するための絶対の聖域(ホーム)だ。強欲な領主に踏みにじられた人間、爆破実験で故郷を失ったドワーフ、森を追われたエルフ。――最初からこちらに牙を剥いて突っ込んでくる猟犬(ハンター)でもない限り、俺の側からわざわざ喧嘩を売りに行く(バグを発生させる)理由なんてどこにもないさ」


「……では、我が教会の二つの小隊を完封(消滅)させたという、あの確定事実についてはどう説明されるのですか?」


ミリエルは問いかけた。その全身から溢れ出る physiological な生理的悪寒(プレッシャー)を必死に抑え込みながら。プロトコル上、絶対に外せない最悪の質問フラグだ。


「どちらの個体群(ユニット)も、明確な敵意( hostile)を漲らせてこのフロントドアを踏み抜いてきたからさ。ただそれだけだ」


俺は本音(オネスト)で出力した。

「一つは、俺の愛した最初の家族を惨殺した張本人。もう一つは、俺の絶対の庇護下にある生物(エース)に対して一方的に刃を突き立ててきたアクターだ。――どちらの戦闘(コンバット)も、俺の側から引き金を引いたわけじゃない。ただ、その後に続く最悪の選択肢(大切な仲間をこれ以上ロストする未来)を完全にキャンセルするために、俺のスペックでその因縁(ビジネス)を終わらせた。それだけのことさ」


――まあ、それはともかく。


ミリエルはその回答の全貌(ログ)を慎重に吟味し、彼女の表情の底にあるプロファイル(認識)が目に見えてシフトしていくのが分かった。――100%の全面的な信頼(アプルーバル)にはまだ遠い。だが、既存の先入観(アノマリーはすべて悪であるというバグ)を排した、本物の『大局的アセスメント』の眼差しがそこにはあった。


「……信じますわ」


彼女はついに、そう口にした。

「――現在のアシュフォード王宮というシステムが、真実(データ)よりも民衆の恐怖(バグ)の処理にしか興味を示していないという絶望的な状況において、私のこの個人的な承認(データ)にどれほどの価値が残されているかは分かりませんが」


「ここから先は、どうなるんだ?」

「私はこのまま帰還(リターン)し、ありのままの戦闘ログ(事実)を最高司祭へ報告します」


ミリエルは言った。

「――ですが、その正確なソース(データ)だけで、すでに強欲な貴族どもの圧力によって極限まで耐久値(スペック)を削られている国王アルリックを納得させられるかどうかは……本当に、我が教会の解析(アナリティクス)でも予測不可能です」


(……ああ。だろうな。それこそが、この世界のシステムが抱える最悪の構造欠陥(根本的な問題)だからな。最終的なチェスの駒を動かす決定権(マスター権)を持ったアクターどもが、最初から事実(真実)に耳を傾ける気なんてサラサラないのだとしたら、どれほど誠実な外交交渉(アプローチ)を重ねたところで、はじき出される結果(リザルト)は最初からデッドエンドに決まっているんだからさ)


――まあ、それはともかく。


シスター・ミリエルは、今来た道をそのままの速度で静かに撤退していった。――本物の真実のログ(確定データ)をその胸に抱えて、もはや誠実さなんていう安いアビリティには一切の価値を見出さなくなっている、あの狂った王宮( Ashford)へ向けてな。


そして、それから数週間後。

俺のこの最悪の懸念(逆探知のシミュレーション)が、1ミリの狂いもなく100%の確率で完全的中していたことを、俺は外の世界のシステムログから思い知らされることになるのだ。


あのレヴェンス・キャスモア卿は、外交ルートからミリエルの報告書の本当の中身(確定事実)を盗み読み(スキャン)した瞬間、いつもの手慣れた老獪な政治的フィルター(リライト)を施し、宮廷のど真ん中で高出力の爆弾(バグデータ)として再出力(アナウンス)しやがったのだ。


「……お聞きになりましたか、皆様! 奴らは我が神聖教会の騎士たちを殺害したというその大罪を、ついに全面的に自白(コンファーム)したのです!」


奴はミリエルが注意深く記載していた「正当防衛のコンテキスト(背景データ)」を綺麗さっぱり抹消(デリート)した状態で、拡声器(アンプ)を握りしめて喚き散らした。

「何の悔恨(Remorse)のデータすら示さず、自らが定義した傲慢なマイルール( discretion)に従って、今後も王国の同胞をいくらでも切り殺すと公然と脅迫しているのです! 国王陛下、これが最高司祭セルウィンの約束してくれたあの『外交の成果(アコード)』とやらの真の正体ですか? ――ただの最悪なテロ犯の供述( confession)を、外交という美しいドレスで包み隠しただけに過ぎないではないですか!」


(……チッ、やってくれるじゃねえか。技術的(テクニック)に見れば、奴は嘘は吐いちゃいない。ただ単に、その自白が成立するための『前提条件(すべてのコンテキスト)』を綺麗さっぱり削ぎ落として、システムエラーを意図的に誘発させているだけだ)


――まあ、それはともかく。


あらゆる言い訳の余地(マージン)を剥ぎ取られ、極限まで最悪に尖鋭化されたバージョン(リライトデータ)を目の前に突きつけられた国王アルリック・ソーンは、これまで通りの重苦しく、そして受動的な諦念( gravity)を以て、ついにその運命の防衛プロトコル(開戦命令)を起動してしまったのだった。


「六十日間の猶予とは、互いの意思確認(アコード)のために用意したシステムウィンドウであったはずだ」


王座の上で、完全に疲れ果てた鉄のトーンが響く。彼は自らの宮廷を汚染しているあの弱小貴族どもの恐怖(バグ)が、自分が大局を弾き終わるよりもはるかに前に、このチェス盤の結末(全面戦争)を最初から100%の確率で決定づけていたという残酷なロジックを、すべて理解しているような諦めの眼光を宿していた。

「――だが、得られたリザルトは、我が主権に対する致命的な武力行使( lethalフォース)の自白。我が王国の神聖教会を相手に、独自の裁定で刃を振るったという明確な宣戦布告データに他ならない」


「国王陛下! お待ちください、まだ交渉の余地が――」


最高司祭セルウィンが、事態の破滅的なベクトル(フラグの成立)を察知し、宮廷のロジックを力ずくで修正(デバッグ)しようと声を張り上げたが――。


「あなたの進言(カウンセル)は十分に拝聴したわ、最高司祭」


国王の裁定(システム確定)は、冷酷にその退路を遮断した。

「私はこの一件に対し、宮廷の半数が無能な静止(バグ)だと蔑むほどの、最大限の辛抱強さ(タイムリソース)を投資してきた。――だが、これ以上、我が王国の主権と民の精神安定度(安全スペック)よりも、ただのパシブな慎重さ(caution)を優先していると全領民に誤認(エラー判定)されるような真似は、このCrown(王権)のプライドが絶対に許さないわ」


彼はもう一瞬だけ沈黙した。その年老いた顔の輪郭に、一国を背負う者としての絶対的な決断の重量(ウェイト)が、目に見える形で定着(ビルド)していく。


「――我が王国の正規軍(ロイヤル・アーミー)の全スペックを総動員(モビライズ)しなさい」


王命が下る。


「軽率な狂乱(バグ)には踊らされない。――完璧に洗練された『組織的合意(ディリバレート)』の下で、あらゆる事前の仕込み(スペック補強)を整え、綿密な戦術プラン(アドバンテージ)のすべてを注ぎ込んで、あの領域(ホライズンクレスト)を完全に解体(クリーンアップ)する。……全軍、進軍開始(エンカウント)よ」


――まあ、それはともかく。


最高司祭セルウィンは深く一礼し、その完璧にコントロールされたcomposed(composed)な威厳を維持したまま、その最高命令(フラグ)を受託した。――だがな、後に俺が彼女の本当のパーソナリティ(スペック)をすべて解剖したからこそ断言できるが、この瞬間、彼女の魂のシステムが支払わされた本当の精神的代償(コスト)とは、彼女のあの凍りついた無表情の底からは到底スキャン不可能なほど、あまりにも破滅的で苛烈なものであったに違いない。


六十日間のカウントダウン。

命を賭けて真実を運んだ、一人の誠実な外交官(ミリエル)。

そして、お互いに破滅を回避するために敢行された、本物の相互理解への最後のウィンドウ(アプローチ)。


(……ククク、ハハハハハ! ――やれやれ、最高じゃないか! すべての誠実な仕込み(データ)を踏みにじり、狂った人間の作り話(バグ)が世界のシステムを上書きして、ついに全面戦争の最悪な引き金(フラグ)を引きやがったわけだ!

猶予は残り三十日。アシュフォード王国の本物の正規軍、そしてラオディキア神聖教会の全スペックを投入した、文字通りの『殲滅戦争(総力戦)』の開幕だ。

上等だよ! 奴らがどれほど綿密な戦術(アドバンテージ)を練り上げてこちらのフロントドアを粉砕しに来ようが知ったことか! 奴らがこの聖域の境界線にその無様な足を踏み入れるその瞬間に――我が『小林ファミリー』の全スペックが、奴らの想定を100万倍上回る絶対的な【絶望の化け物(アノマリーの楽園)】として完成していれば、それでいいだけの話なのだからな! 全員まとめて、跡形もなく駆逐(デバッグ)してやるさ!)


そして結局のところ、これまでの誠実な外交(データ)のすべては、最初から本物の事実(リアルデータ)なんてものには1ミリも興味を示さなかった、あの強欲な一人の弱小貴族による「民衆の恐怖の完璧なコントロール(リライト)」という老獪な戦術(ロジック)の前には、何の意味もなさないゴミクズに過ぎなかったわけだ。


国王の絶対命令(モビライズフラグ)は、数日間のうちにアシュフォード王国の首都から全土へと発信され、各地の正規軍の駐屯地(ガリソン)や徴募兵のネットワークへと行き届いた。――その大軍勢が完璧にスペックを整えて進軍を開始するまでには、物理的なシステムディレイ(数週間の時間)を要する。だがな、その猶予(タイムリソース)こそが結果的に、我がホライズンクレストに対して「避けることのできない破滅(エンカウント)」が向かってきているという、これ以上ないほど確実な事前警告(アラート)として機能してくれたのだから皮肉なものさ。


――まあ、それはともかく。


そのインテリジェンス(バグニュース)が最初に俺の元へ届いたのは、コーラの交易ネットワークからだった。――ロシャンにいる未亡人の連絡先から緊急転送(リレー)されてきたメッセージ。さらに数日もしないうちに、ヴァンスが外の世界に残してきた学者仲間(魔導通信のログ)から繋ぎ合わせた断片データによって、その情報(ソース)の真実味は100%の確率で完全確定(コンファーム)した。


アシュフォード帝国。そして、ラオディキア神聖教会。

全戦力総動員。――狙いはこの俺という特異点(アノマリー)の完全排除、あるいは、俺たちがこの地にゼロからビルドしてきたこの理想郷のすべてを力ずくで強奪(システム上書き)すること。どちらが奴らにとって都合の良いリザルト(結末)であるかは知らんがね。


俺はその日の夜、我が陣営の最高幹部(アクター)のすべてを招集した。――エリス、エレイン、アエロン、イグニヴァル、ヴァンス、そしてエース。彼らの前に手に入れたすべてのリアルデータを広げ、何一つ綺麗にオブラートに包むことなく、剥き出しの本質を淡々と出力した。


「奴らが来る」


俺は言った。感情の暴走(パニック)などどこにもない。極限まで冷徹に研ぎ澄まされたトーンだ。

「――今度はただの噂(バグ)じゃない。王国全土を巻き込んだ、本物の正規軍の進軍(モビライズ)だ。奴らがこの絶対結界のフロンティアに到達するまでにどれだけの時間が残されているかは分からんが……奴らがここにその無様な足を踏み入れるその『前』に、俺たちの迎撃スペックを完璧に仕込み完了(ビルドアップ)しておく必要がある」


部屋にいた誰一人として、驚くようなマヌケな挙動(リアクション)は見せなかった。

ただひたすら静かで、そして魂の根幹にカチリと音を立てて『確固たる覚悟(リゾルブ)』が定着(ビルド)していく、あの独特の沈黙が部屋を満たしていた。これまで重ねてきた何てことのない平穏な日々(楽園の時間)のそのすぐ先に、いつか必ずこの審判の日(全面戦争のフラグ)が待ち受けていたのだという事実を、誰もが心の底でプロファイリングしていたかのように。


「ならば、備えるだけです」


長老のアエロンがシンプルに、しかし揺るぎない確信を込めて、いつもの絶対の威厳を以て言い放った。

「――完璧にな。全員でよ」


全員で。ああ、その通りだ。いつも通り、これまで通りのやり方さ。

この先にどんな地獄(破滅のカウントダウン)が待ち受けていようが関係ない。少なくとも今の俺は、かつてあの始まりの空き地(クリアリング)で、ただの『悲哀の残骸(グリーフ)』として一人で山の上に立ち、脳内のシステム音声(アナリティクス)だけを相棒に絶望していたあの頃の無力なガキ(初期スペック)では断じてないのだからな。


俺は部屋を見回した。――自らの明確な自由意志(アクセス権)を以て、この俺の戦い(因縁)のすべてを共に背負い、この楽園を命懸けで守り抜くためにここに留まることを選択してくれた、かけがえのない本当の家族(小林ファミリー)の全スペックを。

その瞬間、押し寄せつつあった最悪の不確定要素(恐怖のアラート)のさらにその奥底に、これほどまでに強固で、これほどまでにブレない絶対の『王道(アンカー)』が、綺麗にカチリと収束していくのを俺は確かに感じていた。


(……ククク、ハハハハハ! ――上等だよ、全員まとめてかかってこい!

アシュフォード王国のロイヤル・アーミーだろうが、ラオディキア神聖教会の聖騎士どもだろうが、あるいはすべてを裏で操る強欲な政治家どものクズ(バグ)であろうが知ったことか!

お前たちがどれほどの事前準備(アドバンテージ)を整えてこちらのフロントドアを粉砕しに来ようが――お前たちが跨ごうとしているその絶対結界の向こう側(ホライズンクレスト)には、お前たちの貧弱な想像力を100万倍上回る絶対的な【絶望の化け物(アノマリーの楽園)】が完璧なフルスペックで待ち構えているのだという事実を、その命という最悪のコストを以て、骨の髄まで叩き込んで(デバッグして)やるさ! 全員まとめて、跡形もなく駆逐(クリーンアップ)してやる!)


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