表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生の向こう側   作者: K.tsukishiro
見知らぬ場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/12

エピソード2: ホリゾンタル・ラインでの三年間

このエピソードでは、カイがホリゾンタル・ラインで過ごした三年間を描いています。


力を身につけること。


自分自身を理解すること。


そして、家族と過ごす何気ない日々。


一見すると、穏やかで平和な時間に見えるかもしれません。


けれど、カイの周りには、まだ彼自身も気づいていない謎が少しずつ積み重なっています。


オーラの色。


母さんの隠された反応。


父さんの長い不在。


そして、誰も説明してくれない小さな違和感。


カイはまだ八歳。


だからこそ、今はすべての答えを知る必要はありません。


ただ、彼が成長していく中で、これらの小さな出来事がどんな意味を持つのか――ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。


それでは、カイの三年間の物語をお楽しみください。

振り返ってみても、ある季節が終わって、次の季節がいつ始まったのかなんて、俺には言えない。


山の上で三年間も一人で暮らしていると、そうなるらしい。


時間の流れが、いつの間にか暦じゃなくて、ただのリズムになっていく。


起きる。

訓練する。

食べる。

もっと訓練する。

眠る。


そして、繰り返す。


かつて東京の狭いアパートで暮らしていた「俺」という存在が、まるで誰かから聞かされた、遠い昔の物語みたいに感じられるようになるまで。


正直に言えば?


俺は、この生活を嫌いじゃなかった。


誰かを失望させるために、そもそも周りに誰もいない。


そんな環境には、どこか奇妙な安らぎがあった。


 


訓練の形が変わり始めたのは、二年目のどこかだった。


それまでは、もっと――ということばかりを考えていた。


もっと高く。


もっと速く。


もっと強く剣を振る。


でも、いつの間にか、それは「もっと」ではなくなっていた。


今度は「少なく」だった。


母さんは、それを制御と呼んだ。


俺は、苦行と呼んだ。


「アンチマナは筋肉じゃないのよ、カイ」


母さんは、俺が数え切れないほど聞いたその言葉を、また繰り返した。


「力んだからって強くなるものじゃない。耳を澄ますことで、身につくものなの」


「母さんに言われても説得力ないよ。母さんは何千年も、ずっと耳を澄ます練習をしてきたんだから」


俺がそう言うと、母さんは笑った。


それは、「確かにそうね」と認めながらも、「でも、だからって続けなさい」という意味を含んだ笑いだった。


 


だから俺は座った。


息をした。


そして、自分自身のエネルギーから一本の糸を引き出し、それを限界まで細くすることを覚えた。


枝には触れず、その先にある一枚の葉だけに火をつけられるほどに。


小さなことに聞こえる。


でも、最初の十数回は、退屈すぎて死ぬかと思った。


それでも、何度も何度も失敗しているうちに、前世で頭の中にあった、力を手に入れて無双するような幻想よりも、ずっと正直なものを感じるようになった。


俺は、最初から何でもできる選ばれし天才なんかじゃない。


一度で成功するような天才でもない。


俺はただの子供で、ゆっくりと、痛い思いをしながら、何かを少しずつ上手くできるようになっているだけだった。


 


そんな制御訓練をしていた、二年目もかなり深まった頃。


俺は初めて、それに気づいた。


いつものように、母さんに確認してもらうために、自分のオーラを外へ引き出した。


何かをする前に、それを目に見える形にするのが母さんのやり方だった。


自分が実際に扱えるものが何なのかを、正確に理解するためらしい。


母さんのオーラは、いつも通りだった。


綺麗で、途切れることのない赤。


揺らめくことさえない炎のように、安定した赤色。


でも、俺のオーラは違った。


中心部分は、母さんと同じ赤だった。


けれど、薄くなっていく端の部分。


そこから、深い紫色が滲み出ていた。


まるで、まだ混ざりきっていない水の中に、インクを一滴落としたみたいに。


最初は、それほど気にしなかった。


「これって普通なの?」


ほんの一瞬。


本当に、ほんの一瞬だけ。


母さんの顔に、俺が見てはいけなかった何かが浮かんだ。


でも、それはすぐに消えた。


もし俺が彼女の顔を真正面から見ていなかったら、きっと気づかなかった。


「ドラゴンのオーラは、それぞれ少しずつ違うものなのよ」


そう言って、母さんはすぐに俺の呼吸の仕方を直し始めた。


それは答えじゃなかった。


答えのように見せかけた、話のすり替えだった。


でも、俺はそれ以上追及しなかった。


俺はまだ八歳だった。


「母さんは俺に何かを隠している」


そんな言葉を理解するための語彙なんて、まだ持っていなかった。


ただ、自分でも説明できない、妙に引っかかる感覚だけが残った。


それは、いつかその言葉を知ることになる、その少し前に感じるような感覚だった。


 


同じ頃から、父さんが家を空ける時間も長くなっていった。


もともと家にいる時間より、いない時間のほうが多かった。


でも、二年目のどこかから、その間隔が少しずつ伸び始めた。


三日だったものが五日になり。


五日だったものが、一週間半になった。


どこへ行っているのかと聞いても、答えはいつも似たような形だった。


その時によって言葉は違ったけど、意味は同じ。


仕事。


片付けなきゃならない用事。


心配する必要はない。


そんな感じだ。


俺は、そのパターンに気づいていた。


たとえ、それを説明することはできなくても。


父さんは、何かが起きた直後には決して出かけなかった。


いつも、何も起きない静かな期間の直前に出ていく。


まるで、ここで何も起きていない間、自分が別の場所にいることを誰かに見せているみたいに。


 


……いや。


もしかしたら、俺がただの元大人で、八歳の身体に閉じ込められた疑り深い人間なだけかもしれない。


父さんの仕事の予定に、勝手に陰謀を読み取っているだけ。


今の俺の人生なら、それくらいのことがあっても、別に一番変なことじゃない。


 


その期間で、一度だけ本格的に山を下りたことがある。


二年目の終わり頃。


物資を買うための旅だった。


俺の両親が名前を教えてくれなかった国境近くの町。


孤立した生活が、ようやく途切れる場所。


ホリゾンタル・ラインの麓にある町だった。


そこで俺は初めて、母さんでも父さんでもない誰かを見た。


人間にはありえないほど尖った耳を持つエルフ。


前腕のあたりに毛が生えているような、デミヒューマンの商人。


そして、他の種族と比べると拍子抜けするほど普通に見える人間たち。


俺は、少し見すぎていたと思う。


でも、誰も気にしていないようだった。


――一人の商人が、母さんのために乾燥させた薬草を量っていた時までは。


その商人は、俺が少し近くに立っていることに気づいた。


何も言わなかった。


言葉なんて必要なかった。


ただ、俺の目を一瞬長く見た。


何なのか、よく分からないものを見るような目。


そして、意図的に視線を逸らした。


二度と俺を見ようとはしなかった。


母さんは、それに気づいていた。


でも、何も言わなかった。


ただ、母さんの手が俺の肩に触れた。


軽く。


何気なく。


そして、俺がその場に長く留まる前に、次の店へと俺を連れて行った。


 


……説明されていないことリストに、また一つ追加だ。


 


でも、その三年間がすべて不安と違和感に満ちていたわけじゃない。


中には、ただ――良いこともあった。


三年目のどこかだった。


父さんとの模擬戦で、俺は何か月も失敗し続けていたことを、ついに一度だけ成功させた。


父さんの防御を突破した。


たった一度。


ほんの一瞬。


木製の訓練用の剣が、父さんが修正するより早く、その脇腹を正確に捉えた。


父さんは一歩後ろによろめいた。


目を瞬かせた。


そして――俺が父さんを知ってから、もしかしたら初めてだったかもしれない。


本当に嬉しそうに笑った。


大きく。


驚いて。


そして、誇らしそうに。


「そこだ」


父さんは脇腹をさすりながら言った。


「お前の中に、それがあるって分かってた」


その日、俺は一日中笑っていた気がする。


不思議なものだ。


心に残るのは、そういうことなんだな。


魔法じゃない。


空を飛んだことでもない。


ただ、父さんが俺を見て、まるで俺が誇れることをしたみたいに思ってくれたこと。


 


その同じ年のある夜。


訓練が終わった後、俺は母さんに、オーラの端にある紫色のことを直接聞こうとした。


質問はもう、半分くらいまでできていた。


どうして俺のオーラは、母さんのものと違うの?


そう聞こうとした、その時だった。


母さんが先に口を開いた。


まるで、俺がその質問をするのをずっと待っていたみたいに。


「カイ」


母さんは、夜のために火を小さくしながら、俺を見ずに言った。


「あなたが自分自身について何を知ることになったとしても」


「ここであろうと、どこであろうと――」


「あなたは、私たちのどちらよりも劣っているわけじゃないのよ。覚えておきなさい」


まだ俺が聞いてもいない質問への答えだった。


でもそれは、いつか俺がその質問をすることを、母さんが分かっているようにも感じた。


「……分かった」


俺には、それ以外に何と言えばいいのか分からなかった。


 


これも、心の中にしまっておくことにした。


 


三年目。


ある、ごく普通の夜。


俺たちはいつものように夕食を食べていた。


父さんは、ある商人に騙されて金を少なく渡されたとかいう、少し大げさな話をしていた。


母さんは、ちょうどいいタイミングで呆れたように目を回していた。


俺は食べるのが早すぎて、母さんにゆっくり食べなさいと言われていた。


普通だった。


小さな日常だった。


だからこそ、そんな夜を大切に覚えておこうなんて思わなかった。


何も、その夜が最後になるなんて教えてくれなかったから。


その夜、俺は眠りについた。


考えていたのは、もっと大事なことなんかじゃない。


どうすれば、飛べる高さを十フィート以上にできるか。


そんなことを考えていた。


 


その時の俺は、まだ知らなかった。


これが、俺にとって最後の――


何の問題もない夜になることを。

三年間という時間は、長いようでいて、振り返ればあっという間です。


カイにとって、この三年間は訓練の日々であり、家族と過ごす大切な時間でもありました。


空を飛べるようになったこと。


アンチマナを学んだこと。


父親との訓練で初めて一撃を届かせたこと。


そして、何気ない夕食を家族三人で囲んだこと。


どれも、その瞬間には特別なことには思えなかったかもしれません。


でも、人生で本当に心に残るのは、案外そういう何気ない瞬間なのかもしれません。


そしてカイは、まだ知りません。


あの夜が、自分にとって最後の「何も起こらない夜」になることを。


ここから、カイの人生は少しずつ変わり始めます。


最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。


次のエピソードでも、カイの物語を見届けていただけたら嬉しいです。


それでは、また次のエピソードでお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ