エピソード1: 新たな一日
カイの物語の始まりへ、ようこそ。
ここからすべてが始まります――新しい人生、新しい世界。そして、自分の前にどんな未来が待っているのかも知らない、一人の少年の物語です。
カイの旅は、何もかもを簡単に手に入れられる物語ではありません。
彼は学び、苦しみ、間違いを犯し、それでも少しずつ成長していくことになります。
笑える瞬間もあれば、失う瞬間もあるでしょう。
そして、この世界にはまだ多くの謎が残されています。
でも今は――
まずは、シンプルなところから始めましょう。
まったく新しい一日から。
この物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
待って。ちょっと待て。
俺、まだ生きてるのか?
もう二度と何かを考えることなんてないと思っていた。
なのに、俺は今、考えている。
自分のものとは思えない身体。
どうやって動かしているのか、自分でも覚えていない肺。
そして、その全部がどうしてこうなっているのか、まったく分からない。
よし。
まずは目を開けてみよう。
光。
ぼやけた景色。
どこにも日本らしさはなかった。
というより、それ以前に。
病院にも見えない。
死体安置所にも見えない。
そもそも、死んだ人間がいるべき場所には、とても見えなかった。
何かを言おうとした。
何でもいい。
「るるるるるるるるる――」
……え?
今の、何だ?
俺の声か?
否定したい気持ちを抑えきれず、もう一度試してみる。
「るるるるるるるるる――」
……マジか。
いや、待て。
俺は――
転生したのか?
馬鹿げた考えだとは思った。
でも、自分の口からこんな音が出ているのを二度も聞いて、それでも信じないほうが、よっぽど馬鹿げている気がした。
「おい――目を覚ましたみたいだぞ」
近くから声が聞こえた。
どこか人間とは違う何かが混じった声だった。
「本当? ちょっと見せて」
……え?
この人たち――
俺の両親か?
いや、待て。
なんで俺、もう両親だと思ってるんだ?
顔が一つ、俺の上から覗き込んできた。
鱗。
鋭い目。
そして、残っている俺の神経という神経を一斉に逆立たせるような、とんでもない存在感。
「やあ、息子。調子はどうだ?」
……
うん。
分かった。
もう受け入れるしかない。
俺は転生した。
異世界に。
お願いだから、こっちの世界にはケンジみたいな奴が少なくあってくれ。
……いや。
俺、何を期待してるんだ。
---
俺が理解できた範囲で言えば、母親はドラゴンだった。
父親は……俺が納得できるような説明をしてくれたことがない。
どうやら〝亜人〟と呼ばれる種族――正確には獣人の出身らしい。
つまり俺は、その二つの種族の間に生まれた、何らかのハイブリッドということになる。
その事実を受け入れるまでには、我ながらかなりの時間がかかった。
でも。
彼女は俺の母親だった。
どう見ても鱗だらけだったけど。
だから、まあ。
受け入れるしかなかった。
俺がまともに歩いたり話したりできるようになったのは五歳の頃だった。
個人的には、まあまあ早いほうじゃないかと思っている。
何しろ、転生したばかりだったわけだし。
母親は、俺が眠りにつく前の夜になると、この世界についていろいろ教えてくれた。
この世界には、七つの種族が存在するらしい。
ドラゴン。
エルフ。
人間。
悪魔。
亜人。
精霊。
そして、獣人。
そして、そのすべての上に立つ存在がいる。
神々だ。
「ここって、神様は何人もいるの?」
ある日、俺は母親に尋ねた。
「ええ、そうよ。何人もいるわ」
「なんで一人じゃないの?」
「それぞれ違うものを司っているからよ」
「何を司ってるの?」
「力よ」
その言葉を聞いた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
「……どんな力?」
「創造神。破壊神。混沌神。戦神。生命神。時神。そして、祝福神」
なるほど。
この世界は、俺が恐れていた通り、きっちりと頭のおかしい世界だった。
父親は、ほとんど家にいなかった。
何か仕事をしているらしいが、それについても母親は詳しく教えてくれなかった。
だから、俺を育てたのはほとんど母親だった。
戦いの基礎を教えてくれた。
魔法の基本を教えてくれた。
そして、俺がまだ準備できていないと思っていた頃から、いろいろなことを叩き込まれた。
この世界には、魔力がある。
そして、その先には――
反魔力と呼ばれるものが存在する。
魔力は、この世界のあらゆるものを流れる共通の力だった。
どんな魔法も。
どんな小さな術式も。
誰が使おうと、その色は黄金。
そして、その力には届く範囲に明確な限界があった。
反魔力は違う。
より希少で。
より強い。
そして母親の話では、ドラゴンや悪魔、それから一部の高位存在にとっては、ほとんど生まれつき与えられているようなものらしい。
俺にも、それが使えた。
どうやら母親側から受け継いだ何かのおかげらしい。
反魔力にも色がある。
青は初心者。
紫は、それなりの実力者。
そして赤。
それは完全に極めた者だけが持つ色だった。
魔王。
ドラゴン。
原初の悪魔。
精霊。
そして、まだ俺が知らないいくつかの存在。
そのさらに上にあるのが――純魔力。
銀白色。
そして、それを持つ存在はただ一つの種族だけ。
「純魔力を持っているのは神様だけよ」
母親はそう言った。
そして、少しだけ身を乗り出す。
「それとね、カイ。秘密を教えてあげる」
俺は母親を見た。
「七柱の神様はね――みんな、もともとはドラゴンだったのよ」
カイ。
それが今の俺の名前だった。
今のところ、気に入っているかどうかはまだ分からない。
「ドラゴンが神様になったの?」
俺は尋ねた。
「どうやって?」
「簡単なことじゃないわ。まず一万五千年生きて、進化の種を手に入れなきゃいけないの。それから初めて、神へと昇華できるのよ」
俺は母親を見つめた。
「……母さん」
「なあに?」
「この世界って、何歳なの?」
母親はただ笑った。
つまり――
今のお前には理解できないくらい昔からある世界よ、ということらしい。
……いや。
それ、完全にふざけた話だろ。
一万五千年。
そもそも、誰がそんなルールを決めたんだよ。
一万五千年だぞ?
そりゃ神様が七人しかいないわけだ。
もしもっと簡単だったら、昼飯を食べる頃には、この星の半分くらいが多元宇宙を支配してそうだ。
俺たちは、他の誰とも関わらず、ある場所の頂上で暮らしていた。
その場所の名は――水平線。
そこにあるのは、俺たち三人だけ。
父親がどういう方法で建てたのか分からない、木造の家。
そして、どれだけ眺めても飽きることのない景色。
まあ、一日の他の部分には飽きることがあったけど。
母親の名前はアシュリー。
父親の名前はダニエル。
俺が六歳になる頃には、父親との剣の訓練が始まっていた。
そして、どうやらこの男。
普通に強かった。
「カイー! お昼ご飯できたわよ! ダニエルも! 今日はもうそこまで!」
母親に呼ばれると、俺たちは二人とも汗だくのまま家へ戻った。
二週間もすると、俺は飛べるようになった。
……まあ、「飛べる」と言っていいのかは微妙なところだけど。
地面から約二メートル。
それ以上は無理。
でもまあ。
飛んでいることには変わりない。
四ヶ月もすると、自分の反魔力の形を感じ取れるようになった。
父親によれば、それはオーラとして現れるらしい。
そして、その色が自分の到達した段階を示す。
普通なら、魔力から反魔力へ至るまでには、ある種の壁があるらしい。
でも俺には、その心配がなかった。
ドラゴンの血。
それのおかげで、俺は生まれた時からすでに、その壁を越えていたらしい。
あとは、それを強くしていくだけだった。
そんな日々が、二年続いた。
そしてある朝。
母親は俺を座らせた。
いよいよ、本格的に力の制御を教えるつもりらしい。
「まずは心を落ち着けて、カイ」
「うん、母さん」
「息をして。心を空っぽにするの。周りにあるものじゃなくて、自分自身の力を感じて」
「うん、母さん」
今度は、本気で言っている。
「私が町から戻ってくるまで、ここから動いちゃダメよ。ちょっと買ってくるものがあるから」
俺は目を瞬かせた。
「え? ずっとここに座ってろってこと?」
「そうよ。あなたならできると思うわ」
「……分かった」
母親は行ってしまった。
俺は、その場に座った。
そして。
この世界で目を覚ましてから初めて。
俺はようやく、静かに考える時間を手に入れた。
――俺は、この世界で。
一体、何になるべきなんだろう。
そして、ここからカイの新しい人生が始まります。
この時点で、カイは自分がこれから何者になるのかも知りません。
ホリゾンタル・ラインの外側に、どんな危険が待ち受けているのかも。
そして、この新しい世界が、やがて自分自身をどれほど大きく変えていくことになるのかも。
彼が知っているのは、ただ一つ。
もう一度、生きるチャンスを与えられたということ。
生きるチャンス。
成長するチャンス。
そして願わくば――
前の人生で犯した過ちを、今度こそ繰り返さないチャンス。
エピソード1を最後まで読んでくださり、そしてこの物語に興味を持ってくださって、本当にありがとうございます。
これはまだ始まったばかりです。
これからカイの旅がどこへ向かうのか――ぜひ最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
それでは、次のエピソードでお会いしましょう。




