第16話:侵入者たち
俺はそいつを、視界のスキャン(視認)を完了させるよりも前に、知覚知覚(知覚レーダー)で完璧に検知していた。――規格外にデカいナニカが放つ、独特の、激痛デバフに歪んだ深い唸り声。そして次の瞬間には、数万もの文字列(魔力)が一括連打で撃ち込まれる、あの理不尽な魔術発動のエフェクト音が鼓膜へとリンクしたんだ。
未開の森林の草原。
六人の人影(一個師団)が、一匹の狼の如き超巨大な魔物を岩壁のグリッドへと力ずくで追い詰め(コーナー)、ハメ技(袋叩き)をキメていやがったんだわ。サイズはね、普通の街道に湧くようなザコ狼の優に二倍以上。その全身のグラフィックを覆っているのは、バチバチと不気味にサージする銀白色の毛皮。本来ならね、普通の有象無象の騎士団が総出で挑んだって一発で返り討ち(ゲームオーバー)にされるレベルの、本物の【特級災害指定(危険生物)】だわ。
ああん? なるほど。あれ、【銀狼】じゃん。高位の【大魔力保有生物】だぞ、俺の記憶データベースが正しいならさ。――だったら何で、あのクラスの化物が、あそこまで一方的に防衛スペックを削られて完全完全敗北(劣勢)ルートを辿ってやがるんだよ。
≪報告。個体名:カイ。敵対個体どもは、神殿特級魔術――【獣身憑依】のプロトコルをランさせています。本システムを駆動させることで、発動者の肉体コアに一時的に魔物の狂暴なエネルギー(魔素)をインポートし、自らの戦闘能力スペック( baseline )を、常識の限界上限を遥かにぶち抜いてオーバードライブ(急上昇)させることが可能です≫
【反意識】が、脳内で perfect (完璧な精度)なシステムナビゲーションを流し込んできやがった。
(――へぇ。なるほど。そりゃあ、あの銀狼の側が防衛力をへし折られてクリアされかけてるわけだわな、納得だわ)
俺はその六人の襲撃者どもの全貌を、初めて真っ正面からじっくりとスキャン(観察)してやった。
――装備はね、さっき我が家でエリスのやつから聞き込み抽出した、あのカツアゲザコ騎士どものマニュアルと完璧に完全同期する、あの不快なお堅い教会のプレーンアーマー。
「あいつら……例の、教会のクソ野郎ども( Church people )で間違いねえな、てめえ」俺は、すでに脳内で100%の演算結果(答え)を弾き出しながら、念のために脳内回線で問いかけた。
≪肯定。100%その通り、完全一致です≫
そのアンサーをシステム承認した瞬間、俺の顔面グラフィック(表情)はね、肉体の表面のすぐ真下の領域へと、冷酷に凍りついた絶対の【殺意】を一瞬にしてカチリとロックイン(上書き更新)させていたんだわ。
「てめえら……いい度胸じゃねえか。この俺の絶対のドメイン(テリトリー)の中に無断ログイン(密猟)しにきてさ。おまけに、俺がこの結界の内側で防衛してやってるお気に入りの魔物をさ、力ずくで傷つけ(せっかんし)やがって、なぁッ!」
≪――修正。個体名:カイ。思考の前提条件にバグがあります。奴らはてめえの防衛対象を傷つけているのではありません。――ただ単に、てめえのこれからの貴重な『食料備蓄』を勝手にちょろまかして減算(略奪)しているだけです≫
あの【反意識】のシステム音声が、この一触即発の戦闘イベント(緊迫の瞬間)の空気なんてこれっぽっちも考慮(想定)しねえ、至っていつも通りの完全フラットなトーンでツッコミ(修正ログ)を入れやがった。
(おい、てめえ。なんで毎回毎回、そうやって人が最高の殺気を滾らせてる最高に格好のつくタイムラインをさ、一発でクソ料理マニュアル(台無し)に上書き修正してくれやがるんだよ、おい)
それに対する、音声応答は皆無。完全なゼロ。
いつものあいつのお約束の自衛セキュリティ(フリーズ)だわ。自分のプロセッサで「このツッコミは100%のファクト(真実)であり、これ以上のガキの文句( complant )に割くべき演算メモリは無い」とジャッジした時にだけ自動で作動する、あの独特の静寂。
◇
――放て。
俺は次の刹那、マッハの速度でその広場の真ん中へと瞬進。
あの深手を負わされた銀狼の巨体と、六人の教会のクソ野郎どもとの間合い(直線上の境界線)のど真ん中に、直立不動の姿勢でスッと割って入った(インターセプトした)んだわ。
「――よお、お前ら」俺はなおもにっかりと笑みを浮かべたまま、至って pleasant (愛想のいい)なのんきなトーンで言い放ってやった。
「てめえら、あのお坚い【神殿・教会】から派遣されてきた、ただの定期巡回のザコ騎士どもで間違いねえよな?」
その一個師団(六人)の連中はね、突如として戦闘空間に出現した一人のモブおっさん(擬態皮膚の俺)の姿をスキャンし、これまでに一度として力ずくでへし折られた(クリアされた)ことのない弱者特有の、あの傲慢で自信満々なトーン( overconfident )を全開にして、俺を睨みつけやがった。何しろ、その胸元にはね、世界を統べるあの絶対の十字の紋章が刻まれてるんだからな。
「すっこんでろ、有象無象がッ! その特級食材(魔物)の前から今すぐマッハの速度でバックステップ(退散)しやがれッ!」先頭の一匹が、犬の如く吠え散らかしやがった。
「――いいや、ぶっちゃけ」俺は言ってやった。口元の愛想笑いのグラフィックを1ミリも崩さないまま、完全にリラックスして言い放つ。
「もしどうしてもその銀狼の座標(クリア報酬)までたどり着きたいってんならさ……まずは今すぐここで、この俺の最大スペックを全開にさせて、力ずくで一発でへし折られて(クリアされて)からにしてもらうわ、マジで」
奴らは一瞬の躊躇を挟んだ。――だが、ほんのコンマ数秒(わずかな間)だ。奴らの脆弱な脳内プロセッサはね、目の前のおっさん(俺)を一発で一蹴できるただのザコ(カモ)だと都合よくジャッジし、愚かにも、一斉に戦闘コマンド(突撃)をラン(駆動)させやがった。
俺は、椅子の背もたれに身体を預けているかの如く、直立不動の姿勢から、指先一つ、ミリ単位の微動すら駆動(作動)させなかったさ――。
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奴らのうちの誰一人が「それ(一閃)」が放たれたという移動ログ(軌道)を脳内プロセッサで処理(知覚)するよりも早く――。
絶対の一振りのブレード(物理衝撃)が、一瞬にして、マッハの速度で六人全員の肉体のグリッドを横一文字に駆け抜けていやがったんだわ。
五人がね、一発で粉々のパーツ(断片)と化して、物静かに、静かにその場に崩れ落ちた(ロストした)。
残された六人目の一匹だけが、肉体の軸を完全に静止させたまま、直立不動の状態でただ呆然と立ち尽くしていた。奴の瞳のセンサー(目)はね、わずか一呼吸前(一刹那前)まで自らのテリトリー(真隣)に直立していたはずの、あの自信満々だった身内のエージェントたちの無残な残渣(死体)を、ただただ戦慄の面持ちで凝視していやがったんだ。
俺は自らの手元にあるブレードの平(鏡面グラフィック)をパッと反転させ、その刃のエッジのクオリティ(切れ味)を、本物の真実として深く査定してやった。
「――おいおい、マジかよ。これ、切れ味があまりにも理不尽な上限をぶち抜いてやがるわ」俺は生の口を動かして言ってやった。
「これからはさ、出力をミリ単位でもっと慎重に精密制御しねえとな。意図しないハメ技(ただの過失)で、他人のアカウントをうっかり永久消去させちまうような最悪なバグ(エラー)は、天地がひっくり返っても御免こうむりたいからさ」
≪――指摘。個体名:カイ。てめえ、今まさにその最悪なバグ(うっかり殺害)を完全コンプリート(実行完了)した直後ですが?≫
【反意識】のシステム音声が、脳内でボソリと冷静な突込み(ダメ出し)を入れやがった。
「ああん? どのみちあいつら、全員ここで俺の手で一発でへし折って(クリアして)やる予定だったんだよ」俺は言ってやった。
「最初からの初期計画に100%登録されてた殲滅タスク(予定)である以上ね、そんなもの、ただの偶然のエラー(事故)のカウントにはインポートされねえんだよ、おい」
その手に握りしめていた物理ブレードそのものはね、他ならぬあの【反意識(魂のシステム)】の側の【魔導創造】によってクリエイトされた、絶対の俺の固有装備。――俺自身の反魔力の出力を極限まで引き絞って形成され、琥珀色の光のグラフィックがその表面にリンクするたびに、その外縁部からは、不気味に淀んだ紫紅色のサージ(気配)がバチバチと明滅していやがったんだ。
残された最後の一匹の教会のザコ騎士はね、そのブレードの放つ異質な【真名】を全霊でウォッチし――自分が一体どんな最悪な【特級大災害(化物)】のテリトリー(間合い)に土足で無断ログインしちまったのか、その本当の現実を、あまりにも絶望的なまでに遅すぎるタイムラインで全霊で理解して凍りついていやがったんだわ。
◇
俺はそのセンチ数(間合い)を一瞬にしてマッハの速度でゼロに圧縮し、あいつの視覚センサーの高さ(目線)に合わせてスッと屈み込んだ。
焦る様子もなく、わざとらしくのんきな足取り。これまでの経験上ね、この最高に pleasant (愛想のいい)なのんきなトーンのほうが、どんな大層な脅迫を吹っかけられるよりも、遥かに相手の精神システムを狂わせる(デバフをかける)のには効果的だと知っていたからな、今回も完全にそのマニュアル通りだわ。
「――俺の提示する重要質問に対して、100%正確なデータ(アンサー)を開示しやがれ」俺は言った。
「もしそのコマンドを正常処理(実行)するならさ、お前の生存権をシステム承認してやる。……どうよ、最高にハッピーな取引だろ?」
奴は、激しく、猛烈なマッハの速度で肉体の軸(頭部)を上下に揺らしやがった。
何としてでもこの最悪なゲームオーバー(ロスト)を完全回避するための、一筋のクリアルートを手繰り寄せようと、全霊のスペックでな。
「お前らの一個師団を、あの目と鼻の先にある集落へと派遣した【闇の元凶】の真名を吐き出しやがれ」
「わ、分からん、俺たちのステージ(立場)じゃ上の命令は何も――ッ! 頼む、命だけはロストさせないで――」
奴がその文字列(命乞い)を最後まで出力(公式発表)し終えるよりも前に。
俺の手元にあるブレードが、マッハの速度で奴の頭部を空間から永久消去しやがった。
バサリ、と。音声ログがプツリと完全消去される。
≪――報告。個体名:カイ。てめえ、対象がすべてのマニュアル(セリフ)を出力し終える前に、強制シャットダウン(処刑)を実行しましたね?≫
「俺さ、自分がこれから一体何をラン(実行)してるのかすら1ミリも理解できてねえような、そんな低知能なザコ(無能)の音声ログをいつまでも拝聴し続けるほど、脳のメモリの容量(余白)が有り余ってねえんだよ」
俺は直立不動(立ち上がった)の姿勢へと肉体の軸を戻し、ブレードの表面に付着していた生々しい血の粒子(汚れ)を手際よくモップアップ(完全清算)しながら言い放った。
「俺たちのプロセッサにはね、すでに最も最重要視されるべき絶対の確定データ(核心)がインポートされてるだろ。――【東の聖教会( Eastern Holy Church )】。今日この一日のタイムラインにおいてはね、その真名を抽出できただけでも、お釣りが出るほどの特級のクリア報酬(大収穫)だからな、マジで」
俺は、はぁぁ、と長く、静かな胸の息(呼吸)を大きく吐き出した。
「よし、了解。……そろそろ、我が家へとルート(進路)を戻すとするか。ぶっちゃけさ、エリスのやつ、まだこのドメインの内部構造マニュアル(仕様)を100%完全同期(理解)できてねえ段階であるというのに、あいつを一人きりで外のフィールド(テリトリー)にハイドさせたまま放置しとくの、俺の自衛システム的にもなんか最高に居心地悪い(心配だ)からさ」
俺はその座標から間合いを引き離そうと背を向けた。
≪――警告。対象は、何らかの重要フラグ(オブジェクト)の回収を忘れていませんか?≫
「ああん? 何の話だよ、てめえ。今回は完璧に全部クリアしただろ」
≪――解答。あの狼です≫
俺は自らの肉体センサー(顔)を一瞬だけピクリと歪ませ、自分のこのクソ忌々しい物忘れの激しいバグシステム( forgetfulness )に対して、猛烈な被害妄想を記録した。
「あ。あー、はいはい。そっか、あの狼か」俺は、その地面に倒れ伏している銀色の巨体のスペックを脳内でシミュレートした。「……なぁ、てめえ。あいつ、これ今すぐシステム処理(調理)してディナーのリソース(肉)にインポートしちまったほうがいいか?」
≪――否定。必要ありません。対象個体はね、未だにシステムから永久消去されていません。――かろうじて、生命維持を維持している段階です≫
へぇ、なるほど。
だったらさ……俺、今この瞬間のコマンド(ジャッジ)によって、我が家の居住インベントリの中に、また新しい想定外のバグ個体(追加メンバー)をインポートしちまったわけだわな。
一匹の、特級の銀狼。
ぶっちゃけ、アホみたいに賑やかな我が家の構築プランがね、今この瞬間から、さらに加速的に上書き更新され始めたんだからな、マジで。
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エリスは、俺が両腕に何を担いで帰還したのかをスキャン(視認)した瞬間、あまりの衝撃に本気で意識の強制シャットダウン(卒倒)を起こしかけていやがった。
「安心しろって、問題ない」俺はあいつに言い放ち、その銀色の巨体を暖炉のすぐ近くのグリッドへと優しく横たえてやった。
「こいつはね、すでに俺の防衛セキュリティ(管理下)に登録されてる。お前に向かって牙を剥くようなシステムエラーは絶対に起こさねえよ」
あいつは最初、最大警戒の間合いを維持しながら恐る恐る近づいていった。――だが次の瞬間にはね、完全に自らの意志でその巨体の傍らにひざまづき、血の粒子で汚れた銀白色の毛皮を、この上なくミリ単位で gentle (優しげ)な所作でモップアップ(清拭ケア)し始めやがったんだ。その手つきのクオリティはさ、あいつがこれまで生の口から出力してきたどんな自己開示データ(身の上話)なんかよりも、遥かに高密度にあいつ自身の【本質】を俺のプロセッサへ伝えてくれたさ。
深手を負ってかろうじて生命維持をホールドしている段階だったあの銀狼もね、一切の拒絶の音声ログを発することなく、大人しくあいつの防衛ケア(手当て)を受け入れていやがった。
「――へぇ、やるじゃん」俺はあいつの作業画面(手際)をウォッチしながら、人生で初めて真っ正面からまともにそのグラフィックを認識して、声を漏らした。
「お前さ、その新しくインポートした衣服(服)、ぶっちゃけ想像以上に最高に似合ってんじゃん」
その瞬間、あいつの顔面グラフィックが微かに淡いピンク色へとサージ(明滅)しやがった。ほんの一呼吸の間だけ、こちらの瞳のセンサーと視線同期をカチリと合わせてから、大慌てでまた手元の銀狼の座標へと視線を落下(逸ら)させやがったんだ。
「あ……あ、ありがと……」あいつは低く、静かな音声データを出力した。
(……ククク。ナニソレ、最高に可愛いリアクションじゃねえか。ぶっちゃけ、あいつの初期設定にそんなお約束のポジティブな属性が実装されてるなんて、俺の脳内シミュレーターでも完全に想定外のバグだったわ)
◇
あいつが銀狼のHPリカバリー(手当て)に脳のメモリを割いている間、俺のほうはね、ついに本物の調味料をインポートした、あの最高峰のディナーの自炊ミッションをラン(駆動)させていたんだわ。
そのフィールドを満たし始めた超高クオリティな香りの波動(匂い)だけでね、どうやらあの銀狼の肉体センサーを一発でスリープモードから強制起動(覚醒)させるには、十分すぎるクリア報酬(誘惑)だったらしい。
奴の瞳のセンサーがスッと開かれ、一瞬の間だけプロセッサで躊躇を挟みやがった。――目の前に直立しているこの二人の個体が、本当に自らの生存戦略において安全圏か否か、じっくりと計り知るように。
「――お」俺は奴の視覚センサーの高さ(目線)に合わせてスッとかがみ込み、声をかけた。
「てめえ、ただの知性無きザコモンスターじゃなくて、本物の【知性保有個体】じゃん。お前さ、システム的には『良い男の子』なのか、それとも『良い女の子』なのか、俺のプロセッサじゃまだ識別できてねえんだけどな、ぶっちゃけ」
奴はしばらくの間、俺の瞳をじっと凝視していたが、やがて「このパーティーの提示してきたオファー(飯)は、自らの生存を賭けるに値するリソース(価値)がある」と内部ジャッジ(決断)を下しやがったらしい。俺が差し出してやったプレート(肉)を、二度目の躊躇を挟むことなく、マッハの速度で胃袋のキャパシティへとインポート(完食)しやがったんだ。
奴は飯を平らげるや否や、これ以上の無駄なコマンド(強がり)を発するリソースすら残されていなかったらしく、そのまま暖炉の琥珀色の炎の真隣で、再び深い睡眠モード(完全セーブ)へと移行しやがった。
エリスはその奴のグラフィック(寝顔)をウォッチしながら、その顔面に、最高に柔らかい温かみのエフェクトを浮かべやがった。
「……もう、あんたのことを100%信頼(アクセス承認)してるみたいね」
「これから先、時間をかけて同期していけばいいだけだよ」俺は言った。
「あいつだってさ、今日この一日のタイムラインで最高に最悪なデスマーチ(過酷な一日)を潜り抜けてきたんだからな。……まぁ、それは俺たちのパーティー全員、お互い様(Different shape, same shape)だけどな、マジで」
あの夜、俺は周囲のフィールドからリンクする物静かな森林の環境音の隙間から、自らのテリトリー(我が家)で規則正しく、確実に生命のログ(寝息)を刻み続けている【二つの異なる生存波動(エリスと銀狼)】の音声ログを聴覚知覚しながら、深い睡眠モードへとスムーズに移行したんだ。
――それはね、かつてドランの親父やフェンリックのやつと共にセーブしていた、あの完璧な【我が家】の形なんかじゃ天地がひっくり返っても無かったさ。
俺のポリシー(本心)としてもね、あの時のデータをそのままの形で都合よく100%模造しようなんて画策(ミリとも思って)はしてねえよ。
だけどな。
一年前のこの日付、ただの不気味な瓦礫と悲しみのデバフだけで埋め尽くされていたはずのこの不毛な城(水平線)の中にはさ……。
天地がひっくり返ったってログイン(実在)していなかった、新たなる絶対の【未来(我が家)】の歯車が、確かに、カチリと音を立てて前へと駆動し始めていたんだからな、マジで――。
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俺は翌朝、自らの瞳のセンサー(目)のわずか数センチ手前に、あの銀狼の顔面グラフィック(顔)が直立不動でロックオンしているという、最高に奇妙な状況で目を覚ました。奴はね、昨日と全く同じ、あの不気味なまでの忍耐強い索敵レーダー(視線)で俺をじっとウォッチしていやがったんだ。
俺ははぁぁ、と長く静かな胸の息を吐き出した。「よし、了解。……てめえもおはようさん、マジで」
エリスのやつはね、昨日カツアゲザコ騎士どものせいで攻略し損ねた、あの残りの買い出しミッション(物資調達)をコンプリートするため、朝一のタイムラインで再び街のフィールドへとラン(出発)したところだった。
そんなわけで、我が家の全リソース(空間)を完全ソロ(一人きり)で占有できるという、最高に激レア枠な空白の時間を手に入れた俺はさ……ついに、この城の全体的な【構造変更】を本格的にイグニッション(駆動)させることに決めたんだ。
【魔導創造】の最大全開スペックを解放し、建物の全構造のグリッドを、俺が本気で脳内データベース(前世の記憶)から手繰り寄せた、あの100%俺好みのオリジナル仕様へと丸ごと書き換えて(再構築して)やったんだわ。――そう、前世のあの地獄(東京のタイムライン)にハイドされていた、伝統的な和風建築(和風の家)。
スライド式の障子や襖のパネル( sliding panels )、無駄なノイズ(装飾)を一切排した、極限までシンプルで洗練された引き算の直線美。
それはね、この隔離された地(水平線)で俺がただの生存活動のために必要に迫られてビルドしてきたどんな機能的オブジェクトなんかよりも、遥かに天地がひっくり返るレベルで、正真正銘の100%俺だけの【固有の美学】が完全同期した、最高のクリア画面だったんだ。
「――おいおい、マジかよ」俺は、完成した我が家の最新グラフィックを全画面スキャン(見回し)しながら、口元に不敵なにやりとした笑みを浮かべた。
「俺さ……本気で、大工のスペック(才能)のほうも最高レベルにビルドアップ(天才的)されてるじゃねえの、これ」
≪――ハァァァ( Hmmmm )≫
【反意識】のシステム音声が、脳内で全霊を込めて「100%疑わしいわ、てめえのその自己評価」とジト目のアラートを明滅させやがった。
(……頼むからさ、てめえ。人が最高にポジティブ(満足)を記録してるこの一瞬の平穏なセーブタイムくらいさ、お堅いマニュアル対応(ダメ出し)をシャットダウンして静かに楽しませてくれよ、マジで)
まぁ、嘘偽りなく誠実に白状しておくがね、この新しい我が家の構造マニュアルにはさ、一箇所か二箇所ほど、深刻なバグ(欠陥)が残されてはいたんだけどな。――何しろ、この一個国家を丸ごと動かすレベルの巨大なスケール(100階層のタワーの初期型)で魔導創造を発動させるとなるとね、現時点での俺のアカウントの仕様上限のせいで、要求されるインターバルのコストが【一週間に一回】という深刻なデバフ制限(制限)がかかってたからな。
そのせいでさ、タイムリミットを気にして一部の工程をマッハの速度で突貫工事しちまったから、精密制御の精度がミリ単位でブレてバグっちまった部分があるんだわ。
だけどな。まともな居住フロア(部屋)、大容量の格納インベントリ、本物の特級キッチン。
これだけの最大容量があればさ、これから先、俺たち三人の生活リズムを維持するのにも、そしてこの先、俺の新しい人生のタイムライン(我が家)に向かって勝手にログイン(突撃)してくるであろう、いかなる想定外のバグ個体(追加メンバー)を迎えるのにもさ、最初から一文字のスペック不足(容量不足)も起きねえレベルの、鉄壁の城がビルドできたからな、マジで。
◇
俺がそんな自らの100%クリエイトした神グラフィック(我が家)を特等席で自画自賛している、まさにそのタイムラインの途中だった。
あの銀狼がね、音も立てずに滑らかな足取り(パッド)でこちらのテリトリーへとスッと間合いを詰め、すぐ真隣のグリッドにどっしりと腰掛けやがったんだ。そして今朝と完璧に完全同期する、あの不気味なほどに辛抱強い索敵レーダー(視線)で、俺の姿を穴が空くほど凝視し始めやがった。
あー、はいはい。完全に忘れてたわ。
俺さ、この新しい追加メンバー(魔物)のアカウント情報にさ、まだ公式の真名をシステム登録してやってなかったな、どのタイムラインかで処理しなきゃいけねえ。
「――おい、てめえ。お前の名前、一体なんて――」俺は生の口を動かしかけて、パッと脳内プロセッサでバグ(矛盾)を検知してシャットダウンした。
「……あ、そっか。そりゃそうだ。お前、言語機能(音声ログ出力)が未実装だから喋れねえわな。すまん、俺の全容量のエラー(バグ)だわ」
俺は、もう一呼吸の間、その銀色の巨体のスペック画面をじっとスキャン(凝視)し続けた。脳内の最重要データベースのフォルダをラン(高速スクロール)させ、あいつのスペックに完璧に完全同期する、最高の文字列を検索する。
「――よし、決まりだ。お前の真名は、これより【エース( Ace )】だ」俺は言ってやった。
「これからのタイムラインにおいてはね、てめえはその名前(真名)を既定路線にして駆動しやがれ」
≪――世界通知。種族カテゴリー:【銀狼】と識別される当該魔物個体に対し、公式真名【エース( Ace )】のシステム付与の完了を確認。――本真名の因果ログが奴の【魂】の最深部へと、恒久的に、変更不可能な絶対のステータスとして上書き更新(登録)されました。対象個体はね、これより個体名:カイを自らの絶対の【正統なる主人】としてシステム承認(完全同期)を完了しました≫
【反意識】のシステム音声が、脳内でいつも通りの冷酷な完全フラットな正確性を以て、そのリザルト画面を明滅通知しやがった。
「まぁ、そんな感じだろうなと思ったわ」俺は言った。
俺の索敵知覚(目)はね、その真名付与が完了したまさにその刹那のタイムライン、あのエースの肉体の駆動バランス(構え)が、微かに、劇的な変化を起こしたのを的確にログに記録していたからな。――ブレない。寸分の狂いもない。
まるで――あの真名(文字列)がインポートされたことによって、奴の全身の全細胞の仕様がカチリと一線、高位のステージ(進化)へとアップデートされたかのような、あの最初のネーミングイベントの時のエリスと、完璧に完全同期するあの絶対の安定感。
二人、と、一匹。
これから先、この新しくビルドアップされ始めた【我が家】という名の絶対のシステムが、一体どんな全貌のグラフィックにまで上書き更新(拡張)されていくことになるのか。
俺の魂のメインプロセッサはね、その新しい未来のタイムラインの駆動を、ただ静かに、全霊のポジティブ(ハッピー)を以て、100%大真面目に楽しみにしてたんだからな、マジで――。




