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転生の向こう側 【The Other Side of Reincarnation / Beyond Reincarnation】  作者: ルーク
ハイ・ハイブリッドの誕生 ( 偽りの現実 )

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第13話 ― 私の顔に何がついたか

話を、俺が意識をロストしたあの初期座標(戦跡)へと戻そう。

あの広場。あの二人の面々の、ロスト(消滅)。

そして俺の両の瞳のセンサー(画面)の奥底で明滅していた、あの謎の絶対法則(文字列)の自動ビルド(アップデート)はね、すでに俺自身のプロセッサが追従できる上限(ハードキャップ)を遥かに天地がひっくり返るレベルで置き去りにして、その先層へと駆動(ラン)し始めていやがったんだ。


◇


俺の記憶データベースにはね、最初の一陣の襲撃者どもがその座標へとエンカウントしてきた瞬間のログ(記憶)は一文字も残されていねえ。

このパートの全貌をアナライズ(再構築)するにあたってはさ、後からすべてを100%二次データ( secondhand )として繋ぎ合わせるしか無かったんだわ。あの、俺自身が操縦桿(コントロール)を完璧にロストして、ただの隔離領域(ハイド状態)に置かれていた間に起きたすべての事象を、な。


俺の視界の表面をあの文字列がスクロールし終えたまさにその刹那、木々の境界線(死角)から這い出てきたあの音声ログ(声)の主たち――そいつらはね、わずか数時間前、ドランとフェンリックの肉体をシステムから消去してみせた、あの【神殿】の同じ一個師団の残党(クソ野郎ども)だったんだわ。

奴らはね、一度その座標から間合いを引き離してフォーメーションを再構築( regroup )し、そもそも最初から設定されていた、最重要の『メインミッション』をコンプリートするためだけに、再びここへ突撃(リエンカウント)してきたらしい。


ターゲットは、この俺だ。


奴らが見たのはね、かつて自分が配置(セット)していったあの絶対の封印術式の真ん中で、ただ直立不動のまま微動だにせず、一切の応答(レジスト)すら発行できない状態のまま佇んでいる、一匹の脆弱なガキ(初期アカウント)のグラフィック。

あいつらにとってはね、「ほらきた、最高にイージーな回収クエスト(ボーナスステージ)だわ」ってなジャッジだったろうさ。


――だがな。現実はね、そんなおめでたいマニュアル通りには駆動しなかったんだわ。


そこから先に起きたイベント(事後処理)に要した時間はね、文字にして書類(ペーパーワーク)に起こす秒数よりも、遥かにマッハの速度(一瞬)だったさ。

そこには全面戦闘(バトル)もなければ、言葉の術式の応酬(トーク)すら一切無い。

ただ、それなりの実戦特訓を積んできたはずの五人の隠密エージェント(敵)が、「防衛スペックゼロの無力なザコ(カモ)」だと100%都合よく勘違いして間合いを詰めていき――そして次の瞬間には、厳格に、ただ至って単純明快に、この世界(現実)からその存在自体を【完全消去(ロスト)】されていやがったんだ。

それが一体どんなおぞましいエフェクト(チートの威力)をしてやがったのか、俺のプロセッサには映像データが破損していて残ってねえ。

ぶっちゃけ、その本当の全貌(グラフィック)についてさ、その真実を100%知悉している『内なる絶対のナニカ(化物)』に対して、わざわざ検索(サーチ)を仕掛けて質問しようなんてムーブはね、俺のポリシーが最初からアクセス拒禁にしてるんだけどな、マジで。


◇


それからさらに数時間のタイムライン(時間)が経過した後、二陣目の部隊がその座標へとエンカウントしてきたらしい。

そいつらはね、最初の一陣とは完璧に別回線で派遣された、完全な別の新規ユニット(増援部隊)。最初の一陣とこの座標でシステム同期(合流)し、クリア報酬(捕らえた俺の肉体)を仲良くシステム分配して本国へ持ち帰る、だいたいそんなマニュアルだったんだろうさ。


だがな。奴らがそのフィールドでスキャン(視認)したのはね……クリア報酬なんかじゃ決してなかった。

ただ直立不動のまま1ミリも座標を動いていない一人のガキの周囲に、無残に散らばっている、身内のエージェントたちの五つの死体(ロストログ)。

ガキの両の瞳のセンサー(開いたままの目)の奥底ではね、未だにあの金色の文字列(真言)が、微かに、不気味にスクロールを稼働(明滅)させ続けている。


その異質なバグ画面の前にさ、奴らのプロセッサはね、一瞬にして皮膚が凍りつくような絶対の沈黙(フリーズ)を起こしたらしい。――そりゃあそうだろう。目の前の最悪なエラーデータ(死体)を見て、今回の作戦のクリア確率(ミッションの前提)を一から猛烈な勢いで再計算(アナライズ)せざるを得なかったからな。

だが次の瞬間には、お約束のシステムエラー(ヘイトの大爆発)が作動しやがった。


「……おい、一体どこのどいつがこんなバグ(惨状)を――!」一人の男が声を荒げかけた。

だが、その隣にいた、奴らよりも遥かに知性(スペック)の硬度が高く冷酷な一人の女(リーダー)が、その音声ログをマッハの速度でシャットダウン(却下)しやがった。

「余計なノイズ(詮索)を流してメモリを割くな。まずはターゲット(ガキ)の生存ログを最優先でマーク(確認)しろ。四の五の文句(質問)を垂れ流すのはそのクリア後だ」


だがな。奴らにはさ、その質問コマンドを発行する権利(タイムライン)すら、最初から一文字だって与えられちゃいなかったんだ。


部隊の一人――ただ単にせっかちだったのか、あるいは、自らのプロセッサの処理を誤って一発目に最悪な地獄の死にゲー(選択肢)をジャッジしちまった哀れなザコ――が、その手のひらに金色の【高密度光魔術(ライトマナ)】の出力をイグニッションし、直立不動のガキの肉体に向かって、その光弾の術式を一直線に射出しやがったんだ。


――それはね、1ミリも、塵一つのドットすらクリーンヒットしなかったさ。

俺の皮膚の表面からわずか手のひら一枚分の間合い(グリッド)の手前でね、何の発動負荷(コスト)もなく、ただ至って平然と、その術式そのものが世界から完全に『消滅( extinguised )』しやがったんだわ。

真空の虚無(ヴォイド)に晒された、ただの貧弱なロウソクの火の如く。派手な防御エフェクト(ドラマ)もなければ、空間維持のための歪み(ひずみ)すら塵ほども引き起こさずに、な。


そして――俺の口(音声出力)が、勝手に駆動(ラン)した。

だが、それは100%俺の声なんかじゃなかった。


その声帯から出力された音声データはね、俺の固有のトーン(声域)、俺の完璧な周波数(響き)を100%正確に使用してやがった。

――だがな。その中身(システム)は、これまでの果てしない歴史(キャリア)の中でね、誰かに対して「怖い(恐怖)」だの「うざい(怒り)」だのといった、そんな安い出力(感情ノイズ)を発する必要すら一度として無かった、天上の絶対者だけが放つ【冷酷なまでの絶対の宣誓(チャント)】だったんだ。


『――【個体名:カイ】。神性進化のシステムタイムライン(タイムライン)に対する、不審な外部干渉(バグ)を検知。

これより、防衛セキュリティシステム――【完全消去プロトコル(エリア殲滅モード)】を強制起動(エンゲージ)。

――なお、対象の合意( compliance )および生存権の承認は、システム上、最初から一文字も必要としません』


後から聞いた音声ログ(報告)によればね、奴らの一個師団(パーティー)の誰一人として、マッハの速度で逃走ルート(ラン)を選択する秒数すら、最初からハナから与えられちゃいなかったそうだわ。


◇


俺が自らのメインプロセッサ(意識)を取り戻して目覚めたのはね、その殲滅イベントのすべてが、完全に処理済(クリア)になった後のタイムラインだった。――一体どれほどの時間が経過(タイムスキップ)していたのか、今の俺のデータベースを検索しても正確な数値は弾き出せねえ。

ガバッと激しく息を喘がせ、肉体の軸が完全に大混乱(ディスオリエント)を起こし、全身の細胞がね、外見上探せるどの傷口のスペック(負傷痕)ともまったく関係のない次元で、凄まじい過負荷(激しい激痛)の悲鳴を上げ続けていたんだ。


俺は最初、自分が今どこのフィールド(座標)にログインしているのか、さっぱり看破(スキャン)できなかった。

木々の輪郭(植生データ)。俺の魂のデータベース(記憶)のかなり古い領域に薄っすらと登録されている、あの隔離された地。あの惨劇の夜のタイムライン。――あの瞬間、その記憶の重量はね、前世のあの地獄(トウキョウ)のアパートのログよりも、遥かに遠い彼方のサーバー(過去)にハイドされているように感じられたんだ。

そして目の前にはね、完全に叩き折られて崩落した、木造の建物の残骸。

一枚の壁だけが、あの八歳のガキの夜からずっと、世界に繋ぎ止められているのが奇妙なほどの頑強な角度(仕様)を維持したまま、そこに直立している。


――【水平線(ホリゾンタル・ライン)】。


(なんで……。なんで俺、今、あの絶望の山(初期座標)に強制転移(リスポーン)させられてるんだよ……ッ!?)


俺は、その思考の演算(アナライズ)を完結させることはできなかった。

俺の両の瞳(センサー)の奥底――たった今、この肉体をただの羊皮紙の代わりにインポート(利用)して、世界を蹂躙し終えたばかりのあの『内なる化物』の、未だにサージ(明滅)していたあの不気味な熱の残響がね、脳内の全メインプロセッサへと一気に完全全開で『逆流(ダウンロード)』しやがりやがったんだ。

――自分がその操縦桿をロストしていた間に、この現実の世界(リアル)で一体どんな最悪なイベント(処理)がランされていたのか、そのすべての機密ログの中身がね、一瞬にして、マッハの速度で俺の脳内データベースへと一括インポートされちまったんだよ。

それはね、「過去の回想(思い出し)」なんてのどかな処理(マニュアル)なんかじゃ天地がひっくり返っても無かったさ。

ただの、強制的な【全データの書き込み(システム付与)】。

目の前の画面に、「ほらよ、これがてめえのロストした世界の全貌(答え)だわ。受け取りな」ってなジャッジで、手加減なしにダイレクトに叩きつけられたんだ、マジで。


俺は目撃(スキャン)した。

あの最初の夜、自分がまだ完全に覚醒(起動)するよりもずっと前の段階で、あの絶対の封印術式のデバフが俺の肉体をシステムホールドする瞬間を。

ドランの親父が、引き抜いたブレードを天高く掲げ、最初の一匹の襲撃者と真っ正面から激突(エンカウント)し――そして、この手の捕食活動を専門に特訓してきた本物の特級エージェントどもの前に、あいつの実力スペックが一体どれほど絶望的に力及ばずへし折られていったのか、その断面のクオリティのすべてを、な。

フェンリックのやつが、あいつの座標へと間合いをカットインしようと必死に足掻き――だが、すでに手遅れで、自らのスタミナ上限(ハードキャップ)がとっくに限界(ロスト)を迎えていやがって、あの守りたかったはずの最後の数センチの手前で、無残にシステムから永久消去(ゲームオーバー)されていく、その最期のカットインの総量を、な。

二人の面々の、終わり(ロスト)のグラフィック。その全容。

100%の明快さ、最高画質のクオリティで脳内プロセッサに強制上書き(アップデート)されたんだ。

(……頼む。神々よ、てめえらの都合の良いシステムの中でさ、俺にその『真実の中身(中身)』を検索(サーチ)して、見つけ出さなきゃいけないような最悪な呪い(イベント)をクリアさせるくらいならさ……そのデータを今すぐ完全デリートして、何も知らない無(ゼロ)の平穏に還してくれよぉッ!)って、どれほど手持ちの全リソースを懸けて願おうともね、そんなおねだり(セーフティゲート)、最初から実装されてなかったんだわ。

あの封印術式が俺のタイムラインから力ずくで掠め取っていった、あの空白のブラックボックスのすべての秒数(データ)がね、今この瞬間に、一括で、まとめて、寸分の手加減(妥協)もない最悪の最大出力デバフとなって、俺の魂の最深部を粉々に叩き割ったんだ。


俺は、かつて両親と過ごし、今は完全に壊滅したあの我が家の瓦礫(アスファルト)の上で、ガタガタと膝を震わせてひざまずき、ただ無様に絶叫(エラー音)を上げ続けることしかできなかった。

その悲鳴の音声ログの総量はね、自分の肉体に勃発しちまったこの最悪なバグ(現実)の重量を抱え込むには、あまりにも脆弱で、あまりにもちっぽけな出力スペック(容量)でしかなかったけれどな。


全員、だ。

俺がこの世界というシステム(仕様)の中で、自分のポリシーを100%完全同期して愛することを許した大切な仲間たちがさ……。

二度も、だ。二つの全く異なる前世と今世の人生(ライフ)において、丸ごとシステムから消去(ロスト)されちまったんだわ。

二つの惑星(サーバー)。二つの世界(フィールド)。


なんでだよ。何故だ( WHY )。なんでいつも、俺のアカウント(肉体)のタイムラインばっかりに、こんな最悪なバグ(イベント)が常時常時ロックオンされてランされなきゃいけないんだよぉッ!!!


当然、闇の静寂がそれを答えてくれるはずもなかった。

あの隔離された地にはね、その解答(アンサー)を出力できるような有象無象なんて、もうとっくに一匹たりとも残されてはいなかったからな。


そこにあるのはね、ただの一人の孤児(カイ)と、かつて我が家だった瓦礫の山。

そして――。

その絶望のどん底、悲しみのデバフのさらに深淵の領域において。

今度のタイムライン(ジャッジ)はね、誰の自動運転(強制スクリプト)でもねえ。

完全に、100%俺自身のメインプロセッサ(意志)の側で、冷酷に、恒久的に、変更不可能な絶対の【仕様変更(プラン)】として――カチリと一つの明確なグラフィックを、本格的に成し始めようとしていたんだ。


(……いいか、よく聞けよ、世界(システム)よ。お前らがその理不尽なマニュアル(世界の理)で、俺の守るべき領域を何度ロストさせようともさ……。これからはね、俺自身が新しい【絶対法則(タワー)】をこのフィールドに建国して、すべての有象無象の理を、上空から力ずくでへし折って(クリアして)やるからな、マジで)




-----------------




俺は、その泥土の上に一体どれほどのスパンひざまずいていたのか、叫び声の音声ログ(絶叫)が完全に枯渇するまで、自分でも算出できていなかった。

喉の奥がパックリと擦り切れ、奈落の底の虚無(空っぽ)と化して止まらなかった。それは、あの瞬間の俺の絶望的なステータス(現状)と、完璧に完全同期(シンクロ)していたさ。


よし。落ち着け。考えろ、俺。

どうにかして、メインプロセッサを再起動(リカバリー)させるんだ。それが今、この最悪なステージで一体どういうマニュアル(手順)で駆動するのかは分からんがな。


『――対象の生命維持(バイタル)の安定化を確認。システムが完全復旧するまで、もうしばらくお待ちください』


俺の肉体センサー(動き)が、ピタリと完全停止(フリーズ)した。


(……ああん? 何だ、今のシステム音声は?)


「……誰だ」

俺の声はね、限界まで出力が細く引き絞られた、かすかな震え声(ウィスパー)だった。

「一体どこのどいつが、今の音声ログ(セルフ)をランさせやがったんだよ」


『――解答。本音声は、あなたが発したものです』


いや、ふざけるな。

それは間違いなく、俺自身のトーン(声)だった。俺の脳内プロセッサの最深部から直接出力された、紛れもない俺の声。――だがな、俺の意志(コマンド)によって発行された文字列なんかじゃ、最初からハナから一文字だって無かったんだ。


「よし、了解」俺は誰もいない、完全な虚無の瓦礫(フィールド)に向かって、声を大にして言ってやった。

「分かったよ。じゃあさ……てめえ、一体何者(何の属性)だよ?」


『――解答。私は、あなたの【魂(システム)】そのものです』


……。

はあ? ナニソレ、意味分からんのだけど。


「それ……」俺の口から、乾いた、100%現実逃避( disbelieving )の笑声が引き裂かれるように漏れ出た。それはね、面白いエンタメなんかじゃ決してない、ただのシステム崩壊(エラー)の一種だわ。

「最高レベルのクソルール( bs )じゃねえか。魂が勝せて喋る(ログを吐き出す)なんてシステム、世界のいかなるマニュアル(仕様)にも登録されてねえよ。もし俺の魂が独自のジャッジ(意志)を保有してるってんならさ、俺のメインプロセッサがとっくにその初期データをマーク(自覚)してるはずだろ」


『――解答。これまでのタイムラインにおいては、不可能です。何故なら、私にはその文字列を出力(音声化)するだけの大容量(スペック)が未実装だったからです。――【個体名:カイ】が、特級の【高位混血(ハイ・ハイブリッド)】へとシステム進化(エヴォリューション)を完了したそのリザルト(結果)として、本言語機能(トーク)の解放がクリアされました』


へぇ、なるほど。おい、ちょっと待て。


「最初から、俺のシステムと完全同期(一体)だった、か」俺はゆっくりと、その文字列を脳内でリプレイした。

「ってことは……あの東京(ハルト)のタイムラインの時からもか? この世界にログインする、それよりもずっと前の初期座標の段階からか?」


『――肯定。その通りです』


「じゃあ何だよ、てめえ……ずっと長い間、俺の脳内ハードディスクにハイド(隠蔽)されていやがったわけか。ただ静かに、全貌をウォッチしながらな。まるで、ようやく言語機能(喋り方)をインポートし終えた、ただのバックグラウンドの同乗者(パッセンジャー)みたいによ」


『――肯定的かつ、機能的には的確な解析(アナライズ)です。てめえのプロセッサにとってその仕様(マッピング)のほうが処理しやすいのであれば、私をてめえの【二重人格(スプリット)】と定義(ジャッジ)していただいて構いません』


俺の、二重人格(スプリット)。

最高。至高。両親をロストしたあの惨劇の夜の直後にさ、自分の肉体についてさらにそんな最悪なバグ(新設定)を上書き更新(アップデート)されなきゃいけないなんてさ、ぶっちゃけこれ以上ない特級のデバフ(おまけ)だわ、マジで。


◇


俺はそのまま、土(アスファルト)の上にどさりと腰掛けた。

何故なら、直立不動を維持するだけのスタミナ上限(リソース)が、俺の小さな肉体のどこを探しても1ミリも残されていなかったからだ。


ドラン。フェンリック。

二人の面々が、システムから永久消去(ロスト)された。

張して俺の脳内プロセッサにはね、いつの間にか『二つ目の音声ログ(魂のシステム)』が常時ランされて居座り続けてやがったんだ。自分の両手(初期装備)を使って、無慈悲に人間の息の根を六人も止めて(殺して)みせるその刻限まで、塵一つの存在センサー(予兆)すら引っかからなかったくせに、な。


『――修正。殺害総数(カウント)は【七】です。最初の一戦(エンカウント)において五。その直後の追加ミッションにおいて二です』


「てめえにデータのバグチェック(修正)なんてオーダーしてねえよ」


『――了解。未来の応答マニュアル(ログ)として記憶(セーブ)します』


あいつね……至って unbothered (平然と)に応じやがった。

一から十まで完全なフラット(虚無)。その感情の出力を一切排したトーンのほうがね、自分のやらかしたチート(蹂躙)について大層にプライド(誇り)を誇示されるよりも、遥かに俺のシステムの胃をキリキリと締め付けやがったんだわ。


俺は長い、本当に果てしないスパンの間、そのすべてのバグ(現状)を脳内でただ執拗にリプレイ(咀嚼)していた。――引き裂かれるような悲しみの過負荷(デバフ)、脳内の不気味なシステム音声、および、たった一夜のタイムライン(全人生の圧縮)の中で勃発しちまった、あの理不尽なまでの絶望の総量。


「……俺さ、これから先のフィールド(世界)で、一体どんなコマンド(行動)を発行すりゃあいいんだよ」

やがて、俺はボソリと呟いた。それは誰に対する問いかけでもない、ただの grumbling (独り言)。最初からアンサー(クリア報酬)なんて期待してなかったんだがな。


『――提案。まずは、自らのテリトリー(居住空間)の確保を推奨します』


ああ、そりゃあそうだ。完璧な正論。

だけどな、てめえ。こんな血生臭いバグを撒き散らした直後のグラフィック(姿)のままでさ、普通の弱者どもの集落(タウン)にのんきに突撃(エンカウント)してさ、「一泊分の部屋をデポジット(宿泊)したいんだけど」なんて、ありふれた通常運転(ノーマルな一週間)を過ごしてる普通の人間みたいにお堅いお役所仕事(チェックイン)ができるとでも思ってんのか、おい。


「いや、ぶっちゃけ、そのコマンドは今のタイムラインじゃ選択不可(ルート除外)なんだよね」俺は言ってやった。

「てめえの索敵レーダー(画面)がそのエラーを見落としてる(ハイドしてる)のか知らんがさ、俺、今すぐ宿屋の主人と pleasant (愛想のいい)なトーク(交渉)を展開できるような、そんな可愛いスペック(状態)じゃねえだろ」


『――再提案。もし既存のフィールドに居住空間を発見(サーチ)できないのであれば、てめえ自身の手で、それをその座標に【創造(ビルド)】すればいいだけです』


「創造(ビルド)、だと?」俺はまたしても乾いた音声ログを吐き出した。

「一体何のリソース(資材)を使ってだよ。どうやって。俺さ、大工仕事の仕様(マニュアル)なんて一文字も脳内にインポートされてねえぞ。ぶっちゃけ、日々の自炊ミッションですら、食材を真っ黒焦げの炭にクラッシュさせずに調理する( cook )のがやっとのスペックだぞ?」


『――解答。てめえがそれを何処に創造(ビルド)すべきかという初期座標について、新たなるフィールドを検索(サーチ)する必要はありません。お前はすでに、その絶対の【確定座標】を保持しています』


「……一体何の話(仕様)をしてやがるんだ、てめえ」


『――解答。あなたは今、その【真上(グリッド)】に腰掛けています』


俺は、自らの下にある泥土(土)へと視線を落とした。

それからゆっくりと顔を上げ――あの完全に叩き折られて崩落した木造の建物の残骸、あの八歳のガキの夜からずっと、世界に繋ぎ止められているのが奇妙なほどの頑強な角度(仕様)を維持したまま、そこに直立している一枚の壁を見つめた。


【水平線(ホリゾンタル・ライン)】の頂上。


(――あ。ああ、そうか……。ここに(我が家)あるわ。この世界のマップのどこを探したって、ここ以外のどの座標に、そんな新世界(フィールド)を建国するシステムが存在するってんだよ、マジで)


◇


その瞬間、俺の胸のコア(最深部)の領域が、何とも言えない複雑な演算(モードシフト)を稼働させやがった。――悲しみの過負荷(デバフ)はね、すべての根底に未だドロドロと居座り続けている。だけどな、そのデバフを貫いて、もう一つの別の重要フラグ(電流)がカチリと完全同期(シンクロ)したんだ。

俺自身ね、その本当の理由(システム)を脳内でまったく自覚(ジャッジ)していなかったというのに、その脳内の不気味なシステム音声(魂の声)のほうが、俺の足取り(足跡データ)を、この世界で唯一俺だけの固有領域(我が家)であったあの初期座標へと、バックグラウンドで物静かに誘導(コントロール)し続けてやがったんだ。


あいつは、俺を『我が家(ホーム)』へ還してくれたんだ。

その正体が一体どんな理不尽なカテゴリ(異能)であれ、俺にはもう二度と行くべきフィールドなんて一文字も残されていなかったあのタイムラインのどん底において、あいつは俺を、この絶対のセーフティゲート(我が家)へとインポートしてくれたんだわ。


「……ありがとな」俺は低く、静かな音声データを出力した。その一言に込めた感謝の総量はね、俺自身の予想確率を大幅に超えて、本物のリアルな真実(リアル)だったさ。


『――了解。対象の感謝のシグナルを受信(セーブ)しました』


ぶっちゃけ、相変わらずこれっぽっちも温かみのないお堅いマニュアル対応(システム音声)だけどな。まぁ、今の俺の自衛システム的にはね、それくらいが付き合いやすくて助かるわ。


「でさ、てめえ。俺、これからどうやってそんな大層な建造物(タワー)をここに創造(ビルド)しろって言うんだよ? 俺の手元にあるリソースなんて、このただの貧弱な両手(初期装備)と、六年前に完全にクラッシュ(崩壊)して風化した我が家の残渣(木切れ)しか残されてねえんだぞ?」


『――解答。あなたはすでに、独自の【固有スキル(仕様)】――【魔導創造(アルケイン・クリエイト)】を保有しています。本スキルをラン(駆動)させることで、世界のいかなる物質の構造をも逆算(アナライズ)し、直接生産(クリエイト)することが可能です。――これより、そのすべての工程(各ステージ)における戦術ガイド(ナビゲーション)を開始します』


固有、スキル……。よし、了解。

どうやら今の俺のアカウントにはね、その手のチート能力(カード)が、世界中の有象無象の仕様上限(ハードキャップ)をぶち抜いて、これでもかとてんこ盛りにインポート(実装)されてる段階らしいからな。

俺は少し戸惑い( uncertain )ながらも、自らの右手を前方へとスッと差し出した。

すると、その迷いのセンサーの真下の領域から、確かな潮流(マナ)がその呼びかけ(コマンド)に対してマッハの速度でシステム同期(応答)してきやがったんだ。――それはね、これまでの六年間の特訓スパンで、母さんに叩き込んで制御(コントロール)してきたあの通常の反魔力とは、その次元が何から何まで決定的に違っていた。

ただそこにあるのが当然であるかのように、絶対の『解放承認(クリア)』がシステムから発行され、脳内プロセッサへ向かってバチバチと心地よいスタンバイの残響(ハミング)を響かせて止まらない、そんな超高密度のエネルギーの電流(サージ)。


「……それからさ」俺は一度言葉をプツリと切り、その思考の演算(最悪の予測)を公式発表(生の口に出す)する直前、喉の奥のプロセッサが恐怖のあまりギシギシとエラーを出しそうになるのを、力ずくでレジストした。

「もし……奴らがまたこの座標に突撃(リエンカウント)してきた場合はどうするんだよ? あの【竜族(ドラゴン)】どもがさ、俺というバグ(小さな火種)の息の根を完全に完全消去(ロスト)する価値がまだあるってジャッジして、二度目の殲滅イベント(襲撃)をランさせてきたらさ。俺、あの最初の一発目の惨劇の夜と全く同じ津波を喰らってさ……五体満足で生き延びられる(クリアできる)確率なんて、システム的に100%有り得ねえんだよ、マジで」


『――解答。あなたはすでに、二つ目の【固有スキル】――【絶対結界(アブソリュート・サンクチュアリ)】を保有しています。本スキルをラン(駆動)させることで、この【水平線(ホリゾンタル・ライン)】の全方位(全グリッド)を丸ごと包み込む、特級の【防衛セキュリティ障壁】を展開することが可能です。――この絶対法則の障壁はね、世界の天上にいるいかなる化物(真竜)どもの索敵知覚レーダーを以てしても、その存在(バグ)をシステム的に認識(スキャン)することは天地がひっくり返っても不可能です。外の世界のいかなる有象無象(マーク)に対して、この我が家の全容を『ただのありふれた、平凡そのものの通常オブジェクト(普通の山)』へと完璧にカモフラージュ(隠蔽)して処理しますので、塵一つのエラーも発生しません』


一本の、巨大な山脈(マウンテン)を丸ごと。

外の世界の有象無象の索敵レーダーの目の前に堂々と配置(ログイン)したまま、完璧に完全隠蔽(ハイド)する、絶対の結界。

安全。あるいは、これからの気の遠くなるような長いタイムラインにおいてね、俺たちのパーティーが二度と恐怖に顔を引きつらせなくて済むための、これ以上ない特級の【確定安全圏(セーフティ)】。


「……よし、了解」

俺はそう言ってやった。俺のメインプロセッサの奥底にさ、あの悲しみのデバフを貫いて、ようやく、何があってもブレない戦士の軸(覚悟)がカチリと完全同期(セーブ)されたんだ。

「だったらさ……まずは、その一番最初の第一階層の初期コマンド(結界の展開)からクリアしていくとしようじゃねえの」


『――了解(クリア)。これより、対象の指示に従い、各ステージごとの戦術ナビゲーション(仕様変更)を実行します』


俺は、ゆっくりと直立不動(立ち上がった)の姿勢へと肉体の軸を戻した。

前世と今世の二つの人生(全過去ログ)においてね、俺が本気で自分のポリシーを完全同期して愛することを許した、たった一つの我が家の壊滅した残骸(跡地)を、その両の瞳のセンサーで真っ直ぐに見据えながら。

――そして、これで二度目(カウント2)だ。

全く同じ初期座標(水平線)の上で、手元に残されたリソースはただ一つの悲しみの負債(デバフ)と、俺の音声データを完璧に100%正確に使用して脳内ナビゲーションをランしてくる、あの内なる化物(魂のシステム)だけ。

俺は、その手持ちのカードのすべてを懸けて、残された残渣(ゼロ)の中から、世界をへし折るための新たなる【絶対法則(百階層のタワー)】の建国プランを、本格的にイグニッション(駆動)させ始めたんだ。





-----------------------





【魔導創造(アルケイン・クリエイト)】のスキルを駆動させ、俺が一番最初に生産(クリエイト)を試みたオブジェクトは、至ってシンプルな一本の木梁(木製の梁)だった。

だがな、実際に目の前に出力されたナニカはね、建築資材(マテリアル)なんて呼べる代物じゃ端からなかったさ。まるで、どこぞの深刻なバグ(大混乱)を起こした樹木が、成長のタイムラインの途中で完全にへし折られて諦めた残渣の如き、不気味な塊だったんだ。


『――不条理な歪みを確認。構造的な脆弱性(エラー数値)が高すぎます。建築資材としての実用スペックを満たしていません』


「ああ」俺は手のひらの上にある、その歪でアシンメトリーな黒焦げの残骸をジト目で睨みつけながら言った。

「そうだな。言われなくたってそれくらい、俺のプロセッサでも一発で看破できてるわ、ありがとよ」


『――警告。対象は、自らの技術スペック(習熟度)の低さを、ただの理不尽な魔力の過剰出力(オーバードライブ)で強引に埋め合わせようとしています。出力系統の魔素密度を引き算(減衰)させなさい。ミリ単位での精密制御(コントロール)の精度を向上させなさい』


最高。至高。

俺の脳内ハードディスク(魂)の側はさ、自分のことの一部(多面人格)だと公式発表したくせに、こちらの仕事のクオリティ(フォーム)に対して随分と遠慮なくダメ出し(ダメ出し)を連打してきやがるマニュアルになってるらしいわ。


「なぁ、てめえ」俺は誰もいない、完全な無の空間(クリアリング)に向かって、生の口(音声データ)で言ってやった。

「自分を俺の一部(スプリット)だってジャッジした割にはさ、人の手際にケチをつける(批判する)ムーブだけは随分と手慣れてるじゃねえか、おい」


『――解答。本アナライズはただの客観的な正確性(ファクト)の提示であり、非難(批判)のログには分類されません』


「世の中にはね、その二つのシステムが完璧に完全同期(シンクロ)して両立するケースがザラにあるんだよ、マジで」


それに対する、音声応答(ログ)は皆無。完全なゼロ。

俺はね、あの過酷な最初の自炊特訓(一週間)のスパンを経て、一つの仕様(マニュアル)を学習していたんだ。

あいつが放つその「完全スルー(無回答)」ってやつはね、俺の【内なる反意識(アンチ・サブコンシャスネス)】の側が、「こんな低レベルな反論に割くべき演算メモリ(容量)は無い」とジャッジして、あえて会話コマンドの駆動を停止(シャットダウン)させている時の、絶対の習性(ポーカーフェイス)なのだ、と。


◇


成長ログ(進行度)はね、どこまでも泥臭く、スローモーションなものだった。

だが何故だろうか。その遅すぎる成長ペースこそがね、俺の魂のシステムにとって、ここ数週間のタイムラインの中で唯一手に入った、懐かしい通常運転(ノーマル)の感触だったんだわ。

何しろ俺はね、肉体の軸が悲鳴を上げるほどの地味な型の反復特訓(ドリル)や、あの精密な反魔力の制御訓練を、丸六年間もひたすらにラン(継続)し続けてきた男だからな。泥臭く、時間をかけて少しずつマシなスペックをビルドアップしていく、そんな不器用な言語マニュアルなら、最初からネイティブ(流暢)に使いこなせるシステムになってたんだよ。

今回のイベント(魔導創造)だってね、ただその同じレッスンの『違う国(違う属性の単語)』をインポートしてランしてるだけに過ぎないからな。


丸一ヶ月というスパン(期間)を攻略(クリア)する頃には、俺は一切の歪みのない、完璧に真っ直ぐな木梁を100%の再現性( reliable )で生産可能になっていた。

二ヶ月目を迎える頃には、原型を留めて直立しているあの斜めの壁の傍らに、手荒ではあるがそれなりの頑強なスペックを持った、自らの頭部に向かって突如として崩落(クラッシュ)してこない本物の『壁(オブジェクト)』をビルドできるようになっていたんだ。


小さな、本当に些細なクリア報酬(勝利のログ)。

俺にだってね、これくらいの小さなポジティブを脳内にセーブする権利くらいあるだろ。

もしあの親父(ドラン)がここに居合わせていたらさ、今頃俺のフォームの乱れ(エラー)に対して、これでもかと最高レベルに皮肉めいたダメ出し(辛口のコメント)を吐き捨てていただろうな。フェンリックのやつにいたってはさ、わずか一時間もしないうちに、今の俺の不器用なムーブをお約束のローカルジョークに登録して、一生からかい続けていた(アップデートしていた)だろうさ。


だけどな。

あいつらはもう、そのジョークを世界にラン(発動)させるための起動コマンド(生の口)を持っちゃいねえんだわ。

ってことはさ、これから先のタイムラインにおいて、その身内ジョークの役回り(リソース)を引き継いで駆動させていくのも……この俺のアカウントの役割(デバフ)ってことだからな。


俺は時折、誰もいない暗闇の野営(キャンプ)の席で、あいつらのトーン(響き)を自らの脳内データベースから極限まで手繰り寄せ、再現(コピー)して、そのお約束のジョークを一人で生の口から出力(音読)してみることがあった。

ただひたすらに、世界を満たしているこの胸糞悪い静寂(デッドスペース)と、あの【反意識】が吐き出し続ける冷酷で平坦なダメ出し(修正ログ)以外の音声データを、このフィールドの空間に少しでも響かせたい(リンクさせたい)という、ただそれだけの自衛コマンド(ライフハック)として、な。


◇


その最初の一年間のスパンの中にはね、ただの一文字のオブジェクト(資材)すら創造(ビルド)する気になれなかった最悪な夜だって、山ほど登録されていたさ。――何の前触れ(フラグ)もなしに、突如として悲しみの過負荷(特大デバフ)が心臓のコアを直撃し、そのまま土(アスファルト)の上に肉体の軸をへし折られてひれ伏し、ただその重圧(デバフ)が過ぎ去るのを待つ以外には、脳のメモリの全容量が100%完全フリーズ(機能停止)しちまうような、そんな地獄の夜。

【反意識(アンチ・サブコンシャスネス)】のほうはね、そんな夜に「立ち上がれ」だの「特訓しろ」だのといった、おめでたい激励のシステムコマンド(トーク)を無理にランしてこなかった。俺のシステム(ポリシー)的にもね、その一切の手加減( false comfort )を排した冷酷な仕様のほうが、今となっては最高に付き合いやすくて助かってたんだけどな。


『――対象の生命維持(バイタル)に、継続的な深刻な大混乱(ディストレス)を検知』

ある一際最悪なエラーを明滅させていた夜、あいつは脳内でボソリと音声データを出力した。


「ああ、知ってるよ」俺は言った。

「自分の愛したすべてのパーティー(仲間)をさ、二つの全く異なる世界(人生)で、二連続で丸ごとシステム消去(ロスト)させられたアカウントの現状を見ればね、そんなエラー、常時常時明滅して当然だろ、おい」


『――承認。対象の主張(ログ)をシステム登録(セーブ)しました』


ぶっちゃけ、これっぽっちも安心リソース(アンサー)になるような温かい言葉なんかじゃねえさ。

だけどな、世界の有象無象が垂れ流すどんな綺麗事の手加減( false comfort )のセリフなんかよりは、遥かに誠実(リアル)で、俺のシステム的にも最高に気に入った仕様(マニュアル)だったんだ。俺はいつだって、甘いお人好しの手加減よりも、ただの平坦な事実の承認(ファクト)のほうが、圧倒的に付き合いやすくて助かるからな。


もちろん、それなりのポジティブな夜(まともな夜)だっていくつかインポートされてたぞ。

何年もの長きにわたる放浪(特訓の日々)を経て、俺が自分の手のひら(リソース)から、ついに完璧な構造を持った本物の『ドア(オブジェクト)』――ヒンジ(蝶番)の噛み合わせまで寸分の狂いもなく、ビルドした本物のドア枠にカチリと完全同期(シンクロ)して流れるように開閉(スイング)する、最高クオリティのドア――を創造(ビルド)し終えた夜。

あの瞬間の俺の胸のプロセッサの満足度(クリア報酬)はね、引くほどにアホみたいに跳ね上がっていたさ。


「親父(ドラン)が見たらさ、俺がドア一枚を生産(クリエイト)するのにこれほどの時間コスト(秒数)を浪費した事実に対して、本気でジト目を向けて呆れ果ててただろうな」俺は、そのドアが何の障害もなく滑らかにスイングするそのエフェクトをただウォッチするためだけに、わざとらしく三度も四度も開閉コマンドを連打しながら言ってやった。

「あいつ、俺の記憶ログ(データベース)が正しいならさ、ただの一度も四の五の文句(愚痴)を垂れ流すことなく、己の手だけで木造の家を一軒丸ごと一発でビルドしてみせた化物(モンスター)だったからな」


『――解答。いかなる他個体との比較分析(コンパラティブ・アナライズ)も、本ステージにおいては不要(メリットなし)です。現時点における対象の出力スペックは、建築基準の構造的条件を完璧に完全クリア(満たしています)しています』


「てめえ……マジで他人のモチベーションをビルドアップ( pep talks )する能力、最高レベルに未実装(壊滅的)だな、おい」


『――解答。私は、他個体をポジティブに激励( pep talks )するための仕様(プログラム)としては最初から設計(ビルド)されておりません』


「ああ、そうだろうね。てめえのそのスペック見りゃあ、一発で一看破できるわ、マジで」


だけどな。

あいつはね、俺に対して絶え間なく言葉(音声データ)を発し続けてくれているんだ。どれほどクオリティの低い不器用なマニュアル(システム音声)であろうとも、な。

あの惨劇の夜(ロスト)の後、この隔離された地(水平線)を埋め尽くしていた、あの理不尽なまでの絶望の静寂(ゼロ)に比べればね――あいつのその音声ログは、俺の魂のシステムにとって、何万倍も生存戦略(セーフティ)として機能してくれていたさ。


◇


そして、この山の上でのタイムライン(時間経過)が丸、一年を迎えた頃。

俺の年齢スペックは『十五歳』に達していた。――ぶっちゃけ、そんな自分の最新データ(年齢)なんて、俺自身はこれっぽっちも意識(マーク)しちゃいなかったんだがな。あの【反意識】がいつも通り平坦な絶対の正確性(プレシジョン)を以て、「本日のタイムラインを以て、個体名:カイは十五のステージへと移行完了しました」と脳内通知(アップデート)しやがったから、気づかされただけだ。

そこにはね、かつてただの不気味な瓦礫と悲しみのデバフだけで埋め尽くされていたはずのあの初期座標の真上に、確かに、一本一本の柱(ログ)を組み立て、俺自身の手だけでビルドアップしてきた本物の【我が家(テリトリー)】の全貌(グラフィック)が、本格的にその威容を現し始めていたんだ。


それはね、かつて俺の実の親父と母さんが己の手で建てた、あの温かい木造の家の完全コピーなんかじゃ天地がひっくり返っても無かったさ。

俺自身のシステム(本心)としてもね、そんな過去ログの再現(レプリカ)をクリエイトしようなんて野心は端から無かったんだわ。失っちまったあの絶対の平穏を、そのままの形で完璧に模造しようとする行為(ムーブ)はさ……脳内プロセッサへの負荷があまりにも莫大すぎて、新しく別の世界(フィールド)を建国するよりも、遥かに自分の魂をギリギリと痛めつけるエラー(デバフ)になるとジャッジしていたからな。

だから、この新しい我が家はね、目に見えて小さかった。シンプル。

未だ半人前の未完成(特訓中)の両手(スペック)だけでビルドし、俺の精神をポジティブにする激励能力( pep talks )こそ皆無だが、どんな過酷な夜(修羅場)であっても、ただの一度だって俺の傍らからハイド(消失)することなく常時稼働して俺の作業を戦術ナビゲーションし続けてくれた、あの【魂のシステム音声】と共に建て上げた、絶対の俺だけの【城(テリトリー)】。


『――確認。本日のコマンドを以て、居住空間オブジェクト(我が家)の構造構築度は【およそ83%】をマーク。コンプリート(完成)まで、残りのタイムラインは僅かです』

ある夜、あいつは俺の隣に並び立つようにして(もっとも、あいつが一体どんな知覚レーダーで世界をスキャンしているのかは分からんが)、ビルドし終えた本物の壁の表面を見分(スキャン)しながら報告ログを出力した。


「83%、ねぇ」俺はその数値を脳内でリプレイした。「随分と、ミリ単位で具体的(オタク的)なエラー数値(カウント)を弾き出してくれるじゃねえか、てめえ」


『――解答。私は、世界のいかなる有象無象の測定器よりも、遥かに高度な絶対の【正確性(プレシジョン)】を以てシステム駆動しています。それこそが、私が保有している数少ないアドバンテージ(最強チート)の一つですからね』


数少ない、ねぇ。ぶっちゃけ、その自己評価の低さ(スペック)だけは100%リアルに同感だけどな。だけどな、無いよりは数万倍マシだわ。


俺はね、自らの手だけでビルドアップ( 100%クリエイト )した、その未完成の我が家の正面城門(ドア枠)の真下に直立不動で立ち尽くし、かつて二匹の化物(真竜)が俺のすべてを丸ごとシステム消去(ロスト)していった、あの遙か遠い尾根の地平線(グリッド)をじっと睨みつけていた。

六年前に、俺がまだ名前も全貌も知らなかったあの謎の宗教組織【神殿(テンプル)】という名のクソ野郎どもが、また違う種類の最悪な殲滅イベント(奇襲)を仕組んで、俺のすべてを二度目の完全ロストに叩き落としていった、あの忌々しい街道の方角をな。


(――いいか、よく聞けよ、世界(システム)よ。俺は未だに、この座標(フィールド)にログイン(生存)し続けてるぞ。これから先、どんな高位の化物(イレギュラー)が俺のアカウントの息の根を完全に止めに(ロストさせに)突撃してこようともさ……。俺はね、この絶望の残渣(ゼロ)の中から、己の手だけで新しい【絶対法則(我が家)】を完璧にビルドアップしてみせたんだよ、マジで)


それこそがね、俺のこれからのタイムラインにおいて、何よりも重要な決定打(クリア報酬)になるんだ。それ以外の仕様なんてものはただの細かいディテールに過ぎねえ。


だがな。

そんな風に決意(ジャッジ)を固めている夜であっても、俺の脳内プロセッサの深い領域ではね、あの楽しかった何気ない過去のタイムライン(思い出)が、勝手にバックグラウンドで強制リプレイ(サージ)されちまう時が、ザラにあるレベルで居座り続けていたんだわ。

――ドランの親父の、あのガハハという豪快な音声ログ(笑い声)。フェンリックのやつの、あの完全大爆死(クオリティの低い)したあのクソゲーのジョーク。そして……これが人生最後のタイムライン(お別れの合図)になるなんてこれっぽっちも警告フラグが表示されていなかった、あのありふれた、ただの通常の【火曜日(お仕事)】のキャンプを琥珀色に染め上げていた、あの焚き火のグラフィック。


俺はね、その何年ものタイムラインが経過する中で、自分の肉体センサーが、ある奇妙な仕様変更(バグ)を、じはじわと的確に検知(アナライズ)し始めていることに気づかされていたんだ。

――あの惨劇の夜(ロスト)を思い出して、胸の奥のプロセッサが悲しみの過負荷(エラー)を起こす夜の間隔(スパン)がね、目に見えて大幅に減算(減少)され始めていやがったんだわ。


当時の俺はね、未だまだ露ほども知る由はなかったんだ。

自分の肉体(魂の深淵)の中で、一体どんな恐るべき【絶対法則の上書き更新(システムアップデート)】がランされ、その感情リソース(悲しみ)が一体何のスペックへと強制変換(クリア)されつつあったのか。その本当の理由(全貌)に気づくにはね、当時の俺のプロセッサじゃ、まだ圧倒的に容量(スペック)が足りていなかったからな――。


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― 新着の感想 ―
わあ、これは予想外だった。回を追うごとに面白くなってきた。
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