第12話:すべてが始まった夜
俺は、身体がミリとも動かないという最悪の異常によって目を覚ました。
金縛り(パラライズ)なんかじゃねえぞ――何故だろうか、感覚的にはそれよりも遥かに最悪なデバフ(重圧)。
肉体のすべての筋肉が、命令に対してコンマ数秒(半秒ほど)遅れて作動しやがるんだ。まるで、自分の肉体が目に見えない不気味な分厚い何かに丸ごと包み込まれ、己の反応速度のわずか数ミリ手前で力ずくでホールドされているかのような、そんな理不尽な感覚。
瞳を開くことはできた。だが、口元(音声出力)が天地がひっくり返っても起動しない。
(――何だ、これ……ッ!?)
ドランの親父はすでに駆動していた。剣を右手に引き抜き、睡眠モードから一瞬にして完全戦闘モード(バトル)へと肉体の軸をシフトさせる、俺がこれまでに目撃したどの瞬間よりもマッハの速度の神ムーブ。
「――カイッ! 起きろッ!!」
俺はあいつに音声ログ(返事)を返すことができなかった。
ただそこに横たわったまま、すべての意識が覚醒しているという最悪の状況で、ただ無様にウォッチすることしかできなかったんだ。我が家のキャンプを包み込む漆黒の闇(死角)から、続々と這い出てくる【無数の巨大な影(敵の軍勢)】のグラフィックを。
数が多すぎる。連携のクオリティも異常だ。
かつてこれまでに、全く同じ捕食活動を何度も、何百回も完璧にクリアしてきた奴ら特有の、あの冷酷に洗練された絶対の静寂。
奴らの標的は、俺だ。
この肉体を縛り上げているこの【絶対の封印術式】が何であれ――それはね、最初からこの俺というバグ(化物)を確実に無力化するためだけに、専用設計された特級の術式だったんだ。
奴らはね、この座標に突撃してくるよりもずっと前の段階から、俺が一体何を実行可能か(最大スペック)を、裏のデータベースで完璧に完全看破してやがったんだよ。
奴らは俺の全貌を知っていて、その上で、100%のクリア確率を弾き出してここに襲来しやがったんだ。
◇
フェンリックのやつも、ドランのコンマ数秒後にガバッと跳ね起き、すでにその手に使い込まれた武器を構えていた。あいつは一瞬の躊躇もなしに、俺と、最も近くに肉薄していた敵の影との間に、自らの肉体を楯として滑り込ませやがったんだ。
「――そいつを連れてマッハの速度でバックステップ(離脱)しろッ!」
ドランの親父が声を荒げ、すでに最初の一匹の襲撃者と真っ正面から激突していた。鋼の刃が、世界の既存のいかなる金属とも異なる異質なナニカと激しくぶつかり合い、キィィィンッと鼓膜を引き裂く金属音を響かせる。
「いいかフェンリック! 神殿の狙いは俺たちじゃねえ、あいつが――」
俺は、そのセリフのロングバージョン(続き)を聞き届けることはできなかった。
何者かが俺の両脚を力ずくで引っ掴み、焚き火の琥珀色のグリッド(視界)から、暗闇の死角へと真横に猛烈な勢いで俺の肉体を引きずり回し(拉致し)始めやがったんだ。
俺はね、その瞬間に、自らの脳内プロセッサで最悪の演算結果を弾き出さざるを得なかった。
――これが、奴らの構築した本物のクリアマニュアル(作戦)だ、と。
俺のあの暴走しかねない制御不能な最大スペック(反魔力)を、安全な隔離領域にカチリと完全ホールド(バインド)して無力化し、その間に、残されたあの二人の面々に、これから押し寄せる神殿の総戦力をすべて身代わりとして一括ダウンロード(吸収)させる。そんな最悪のルート(展開)。
(ふざけるな。ふざけるなよおい! 逆だろ! それ、システム的に完璧に完全逆転してやがるだろッ! あいつらと地獄の間に立ちはだかって、そのすべてのヘイトを真っ向からレジスト(防衛)しなきゃいけないのは、最初から一から十までこの俺の役割のはずだろ、おいッ!!)
俺は手持ちの全リソース(反魔力)をフル回転させて、その理不尽な封印術式に対して猛烈な抵抗を試みた。
だが、誠実に白状しておくさ。――そんなものね、当時の俺の出力じゃあ、これっぽっちも足りやしなかったんだ。
俺を縛り上げているそのプログラムはね、自分がこれから一体『どんな化物』を相手にデバフをかけることになるのか、その変数の数値をミリ単位で知り尽くした本物のプロ(神殿の最高位の魔導師)が構築した、絶対法則だったからな。
俺の反魔力の潮流が、その絶対の壁(術式)に対して激しくサージ(明滅)し、激突し――だが、悲しいかな、塵一つの突破口すら見つけられなかったんだわ。
(頼む。頼むから動いてくれよ、俺の肉体……ッ! 今じゃねえだろ! 今夜だけは絶対にダメだ! ――神々よ、てめえらの都合の良い人生のタイムラインの中でさ、今夜以外のどのタイミングだったら幾らでもくれてやるから、今夜だけは絶対にエラー(ロスト)を起こさないでくれよぉッ!!!)
◇
そこから先に起きたイベント(破滅)のログについてね、俺の記憶データベースに残されているデータはバラバラの断片だけで、それが一体どんな時系列(順番)で並んでいたのか、今の俺のメインプロセッサでも未だに完璧な同期(復元)はできていないんだ。
覚えているのは、ドランの親父の音声ログ。
本来あるべき間合い(センチ数)を遥かに天地がひっくり返るレベルで置き去りにして、果てしなく遠い彼方のサーバー(死角)から響いてくるかのような、あいつの声。俺の聴覚センサー(耳)の中でバチバチと鳴り響いていた凄まじい不協和音(エラー音)のせいで、あいつが最後に俺に向かって何を言い残したのか、その文字列(中身)を解読することは不可能だった、ということ。
覚えているのは、一つの音声データ。
それがフェンリックの喉から引き裂かれるように放たれた悲鳴だったのか、あるいは、全く別の見知らぬクソ野郎(敵)のエラー音だったのか。あまりにもマッハの速度でプツリと音声ログが完全消去されちまったせいで、その正体をバグチェック(識別)することすら叶わなかった、ということ。
覚えているのは、絶対的な『光』。
それは赤々と燃えるのんきな焚き火のグラフィックなんかじゃ決してなかった。もっと冷酷で、完全無慈悲な白銀の輝き。何年も前に街道ですれ違ったあの商人の武勇伝がかつて恐々とお役所に語っていた、あの周辺のグリッド(大気)を一瞬にして融解させて焼き尽くす、あの絶対の【神聖魔術】のエフェクトが、俺の脳内プロセッサが二度と思い出したくなかったあの惨劇の夜のタイムラインと完全にシンクロして、視界を丸ごと白々とお預け(ジャッジ)にしやがった、ということ。
覚えているのは、自らの肉体が、せめて一文字の絶叫(悲鳴)だけでも体外へ出力(公式発表)しようと猛烈に駆動していたこと。だが、あのクソ忌々しい封印術式のデバフはね、そのガキの最後のささやかな抵抗(音声ログ)すらも、システムから綺麗さっぱり消去しやがった、ということ。
そして――。
俺が今でも、全霊のヘイトを込めて完璧に記憶ログ(セーブ)しているのは。
あの激しい質量激突の金属音、肉体がへし折られるエラー音が、明確な二つの『相棒の声』として識別不可能になった、まさにその刹那のタイムライン。
そして、広場を丸ごとジャックしちまった、あの完全なる【平穏な静寂】。
その静寂の持つおぞましい絶対的な重量はね、それまでに室内に鳴り響いていたどんな理不尽な大爆発のノイズ(絶叫)よりも、遥かに、何万倍も最悪な地獄となって俺の魂のコアを叩き割った、ということだ。
◇
俺は、自らのメインプロセッサがいつ睡眠モード(強制終了)へ移行したのか、その正確なセーブポイントの記憶が無い。
ただ覚えているのは、ある時点を境に、俺の演算領域に何一つのアクティブログ(意識)が記録されなくなった、ということだけ。
俺がこの世界で最後に知覚したあの地獄の静寂(リザルト画面)と、その後に押し寄せてきた完全なる無の深淵との間にはね、境界線なんてものは塵一つとして存在しなかった。
ただの、突然の、完全無欠な『終わり(ロスト)』。
それはね、吹き抜ける烈風に晒されたロウソクの火が、徐々に火力を引き算(減衰)させるような前振り(猶予)なんてミリもなく、一瞬でプツリと世界から完全消去されるかのように、あまりにも簡単にあっさりと、俺の十四のタイムラインが強制シャットダウンされたんだわ。
その後、わずか数分間の間にあのフィールドの座標で一体どんな最悪な事後処理がランされたのか。
俺の目がスキャン(視認)することも叶わず、俺の足がクリア(介入)しに動くこともできず、俺の耳がその全貌を音声知覚することすら許されなかった、あの空白のブラックボックスの中身。
――俺はね、それから果てしなく長い長いタイムライン(その後の人生)を駆け抜ける中で、何万回、何億回と、脳内プロセッサを狂わせながらこう激しく呪い続ける(願う)ことになるんだ。
(……頼む。神々よ、てめえらの都合の良いシステムの中でさ、俺にその『真実の中身(答え)』を検索して、見つけ出さなきゃいけないような最悪な呪い(イベント)だけは、最初から一文字も実装しないでいてほしかったわ、マジで)って、な。
だけどな。
この現実の世界の世界という生き物はね、そういう個人の「つもり(望み)」なんてものには、最初から端から興味は無いんだ。
俺はね、結局のところ、その最悪のクリア報酬(真実のログ)を、この両の眼で直視してアナライズさせられる羽目になる。
――まぁ、本当に世知辛い話だが。
ただ、現時点での俺のタイムライン(未解明のブラックボックス)においては。
まだ、その地獄の全貌は、画面には一切表示されていなかった、というだけの話さ。
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その絶対の封印術式がシステムから消去されたのは、ちょうど日没の境界線(夜明け)を迎える頃だった。
何故それが解けたのか、俺のメインプロセッサじゃ未だにその本当の理由は弾き出せてねえ。ただ単に術式の有効時間が限界を迎えたのか、あるいは……これをラン(発動)させたクソ野郎のほうが、もう術式を維持する必要すら無くなったのか。
俺はね、あれからずっと、その二つ目の最悪な可能性について深くアナライズ(思考を巡らせる)するのだけは、己の防衛システムで徹底的にアクセス拒禁にし続けているけれどな。
俺は一瞬にして己の肉体(初期スペック)へと強制同期され、ガバッと激しく息を喘がせた。何時間もの間、己の意志を無視して極限まで強張らされていた全身の筋肉がね、一斉に悲鳴を上げやがったんだ。
俺を取り巻くこの戦闘フィールドの跡地にはね、もはや一文字の平穏すら残されていない、ただの凄まじい【絶望の静寂】だけが居座っていた。
ドラン。フェンリック。
頼むから、何か喋って(音声ログを返して)くれよ。どちらでもいいからさ。頼む、頼むからよぉ……ッ!
当然、闇の静寂がそれを答えてくれるはずもなかった。
完全なる、ゼロ(無)。
◇
俺は、一発目にドランの親父の座標(遺体)を発見した。
ここで、そこで目撃したすべてのグラフィック(惨状)を、詳細に言語化してやるつもりは毛頭ねえ。
俺はあれから何度も、他人の演算領域を無駄に汚さずに、かつ今の俺の脳内データベースに今なお100%の明快さで焼き付いているあの地獄の映像を、誰も二度と思い出さなくていいような真っ当な法(言葉)でシステム化しようと画策してきた。だがな、どうシミュレートしたってそんな都合の良いマニュアル(言葉)なんて見つからなかったし、もう二度とここで無駄な試行を繰り返す気はねえよ。
ただ、仕様として言えるのはこれだけだ。これを仕組んだ【神殿】のクソ野郎どもはね、最高レベルに徹底的( thorough )だった、ということ。エフィシエント(能率的)。そこにあるのはね、怒り(ヘイト)の感情に任せた暴発なんかじゃ決してない、ただの淡々とした、お堅いお役所仕事の『殲滅タスク』。完全に仕事をコンプリートし、その後にその座標を訪れる有象無象(生き残り)が一体どんな絶望を味わうのかなんて、最初から一文字の考慮(想定)すら排して、ただの事後処理としてそこに置き去りにしていった、ただそれだけの理不尽だ。
あいつの瞳は、開いたままだった。
俺は自らの両手で、そっとその瞼をシャットダウン(閉じて)してやったさ。
その手の震え(エラー)があまりにも激しすぎてね、最初の一発目のコマンド(手つき)じゃ、完璧に完全失敗しちまったけどな。
(……てめえ、これから先どんな地獄が突撃してこようともさ、俺を一人きりでその前に直立不動で立たせるような最悪な展開は、この俺が絶対に発生させねえって言っただろ。あの満天の星空の屋根の上でさ、そう公式に発表(宣言)しやがっただろ、おい)
お前は大嘘(捏造データ)を吐いた。あるいは、この世界というシステムがお前を『嘘つき』へ強引に書き換え(アップデート)しやがったんだ。
ぶっちゃけ、そのどちらのルート(結果)のほうがより最悪なクソゲーなのか、俺にはさっぱり知る由もなかったがな。
◇
フェンリックのやつはね、そこから数フィートほど離れたグリッドの先に倒れ伏していた。
二人の間に残された地面の摩擦ログ(戦闘痕)をスキャンしたその瞬間、俺は全霊で理解させられた。あいつはね、最後の最期の瞬間まで、力ずくであのドランの座標へと間合いを詰めようと足掻いていたんだわ。あいつをマークして、助け出そうとして( reach )。
この理不尽なイベントの最期のカットイン(終着点)においてね、あの二人の面々はさ、自分の生存確率のことなんてこれっぽっちもメモリに割いちゃいなかった。ただお互いの防衛のことだけを考えて、己を犠牲にしやがったんだ。
(……海。俺たち、まだたったの一回しか海のフィールドを攻略してねえぞ。てめえのやりたいことリスト、まだ山ほど新規ファイル(未解決)が残されてるだろ。俺、てめえにそのリストを全部クリアしてやるって、絶対の確定事項をコミットしたはずだろ、おいッ!)
どうやって自分がその場にひざまずいた(コマンドを入力した)のか、その記憶データ(ログ)が残っていない。
俺が一体どれほどのスパン(時間)、その二人の遺体の上にそれぞれ己の両手(初期装備)をそっと宛てがったまま、直立不動で沈黙を守り続けていたのか、その数値も算出できねえ。
何故なら、あの瞬間の俺の胸のプロセッサにはね、この世界(現実)に対して出力可能なまともな音声データ(言葉)なんて、最初から一文字も残されていなかったからだ。
(こんなのあり得ん。こんな最悪なバグ(リザルト画面)が、本物の現実であっていいわけがねえだろ。六年だぞ……? 丸六年もの歳月を費やして、何もない無の状態から一歩一歩泥臭くビルドアップ(構築)してきた俺のこの新しい日常(我が家)がさ……なんで、何の大層な前振りもないただの『火曜日(お仕事)』の日常でさ、所属名も知らんような地面の上で、こんなにあっさりと強制終了しなきゃいけねえんだよぉッ!!)
なんでだよ。何故だ( WHY )。俺が一体何をした?
俺が、この今度の人生において、自分の倫理システム(ポリシー)を100%完全同期して愛することを許した大切な仲間たちをさ、何故二度も、二つの全く異なる前世と今世の人生において、丸ごとシステムから消去させられなきゃいけないんだよ。
この前世と今世(異世界)の二つのクソみたいな惑星はさ、どうやらこの俺というバ物の処理のあり方に関してだけはね、完全に100%完璧に完全一致してやがるようだったな――。
◇
――次の瞬間。
俺の心臓のコア(脇腹のグリッド)の真下の領域で、何かが決定的に、冷酷に『変貌』した。
かつて何年も前のあの放浪のタイムライン、あの鬱蒼とした森林の底で、俺のシステムを一度目の大爆発へと導いた、あの不気味な覚醒フラグと完全に完全同期する、絶対の衝動。
俺は自らの脳内プロセッサがその事象をアナライズ(解明)するよりもずっと前の段階で、その理不尽な【存在感】の胎動を肌で感知していた。
――己の両の瞳の奥底から、爆発的に湧き上がる圧倒的な威圧圧力。
鋭く、冷酷で、これまでの何年ものタイムライン(特訓の日々)で俺が自らの精密制御を以て100%レジスト(掌握)してきたあの反魔力の潮流とはね、最初から何から何まで次元の違う異質なナニカ。
それは、手加減(妥協)なんかじゃない。
もっと言えば、この俺という一個のポーン(肉体)の意志で、ホールド(維持)していいような、そんな可愛いレベルの容量じゃ端からなかったんだわ。
(――ああん? 何だ、このバグシステムは……ッ!?)
俺は、ドランの親父の右手のすぐ傍らに転がっていた、あの使い込まれたブレードの平(鏡面グラフィック)の反射の中に、ぐにゃりと歪んだ己の顔面をスキャン(視認)しちまった。
俺の両の瞳のセンサー(画面)の表面を、何らかの絶対法則(文字列)がマッハの速度で駆け巡り(スクロールし)、猛烈に上書き更新を繰り返していやがったんだ。
それは【真言】か。あるいは、世界の理そのものを書き換えようと画策している、未知の【究極の呪文】。
俺にはね、その古代の文字列(記号)の意味なんて、一文字も脳内データベースに登録されちゃいなかったんだ。だが何故だろうか、俺の魂のシステム(本能)はね、その恐るべき文字列の中身を、一発で完璧に完全理解(解読)しちまってたんだ。
まるで、既存の呪文の術式そのものが、世界の内部構造から逆算されて完全自動ビルド(再構築)を完了していくかのように。この俺という一個の脆弱なガキの肉体を、ただの白紙の『羊皮紙』の代わりにインポート(利用)して、その表面に絶対法則を刻み込みながら、なぁ!
これは、あのよろず屋の前でゴロツキどもをせっかん(威圧)した時のあの可愛い暴走なんかじゃねえ。
もっとデカい、世界そのものを丸ごとへし折るための、本物の【特級大災害】の胎動。
そしてそのプログラムはね、この俺という初期アカウントの『承認(アクセス許可)』なんて、最初から端から一文字だって必要としちゃいなかったんだ。
俺はスッと立ち上がろうと試みた。
俺の両脚はね、的確にそのコマンドを処理(起動)したさ。だがな、その肉体の軸の駆動システムはね、もはや俺自身のプロセッサが命令(発行)したそれとは、何から何まで決定的に違っていたんだわ。
――ブレない。寸分の狂いもない。
俺がこれっぽっちもリソース(命令)を割いていないというのに、肉体が勝手に、絶対の確定ステータス(自動運転モード)のまま、流れるような無慈悲な所作を開始しやがったんだ。
(……あー、なるほど。これ、俺、もうコックピットの操縦桿を完璧にロスト(奪取)されてるわ。俺、主導権じゃねえわ、今)
俺自身のメインプロセッサ(意識)が、これから押し寄せてくる完全無欠な無へと移行し、その操縦桿をその謎の絶対法則(化物)へと完全に引き渡す( surrender )直前、最後に100%の明快さでセーブした確定ログ。
それは――自分が何としてでもその命を懸けて防衛したかったはずの、そして一から十まで完璧に完全失敗して救えなかった、あの二人の大切な仲間の遺体の前に、俺はただの一言の音声ログ(絶叫)すら遺さず、完全無欠な『冷酷』のまま、直立不動で立ち尽くしていた、というただその一点のみだった。
その haze (混濁)の彼方から、俺の知覚レーダー(耳)が、生い茂る木々の境界線(街道の死角)を越えて、こちら側の座標(キャンプ地)へとマッハの速度で急接近してくる、新たな有象無象の音声データを的確にキャッチしやがった。
――聞いたことのない、見知らぬクソ野郎どもの声。
あいつらね、これから自分が一体『どんな本物の地獄(特級大災害)』の目の前に直立不動でエンカウントすることになるのか、その最悪のクリア確率(現実)を100%見誤り(ハイドし)、最高に careless (のんき)なマニュアルトーンで談笑しながら、このフィールドの罠へと足を踏み入れてきていやがったんだ。
俺は、そいつらの座標(方向)へと振り返るような無駄なコマンド(反転ムーブ)は、ただの一度だって実行しなかったさ。
――だって、そんなの、最初から一文字の必要( メリット )も無かったからな。
今この瞬間に、世界のシステム上への正式な上書き更新(完全覚醒)を完了しちまった、この俺の肉体の内側にある【化物(真名)】の側はね――これから自分が次の一手で、そのすべての有象無象の肉体を、一体どんな血生臭い方法で世界から完全消去してやるべきか。
そのすべてのクリアマニュアル(確定ルート)をね、最初からコンマ一秒の狂いもなく、完璧に完全把握(インポート完了)していたのだからな――。
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ここで、この事象がいつ発生したのか、タイムラインの正確な位置(注記)を記録しておかなければならない。
これはね、物語の現行ルート(最上階のタワー)に直接繋がる直前の描写じゃないんだ。
すべてのイベントが勃発するわずか数週間前――俺たち三人が共に過ごした、正真正銘の『最後の穏やかな夜』のログなんだよ。
時系列をパツリとへし折って( out of order )、あえて今この段階でこのデータをインポートしたのには理由がある。
俺からすべてを奪い去ったあの最悪な大災害について公式発表(描写)する前に、お前らにあの二人の全貌を、正しく知っておいてほしかったから、だ。
例え、今更こんな風に過去ログを美しくリプレイしたところでね、これから先に待ち受けている確定した破滅を100%リセット(回避)することなんて天地がひっくり返っても不可能だとしても……。
せめてそれくらいは、あいつらに対する最低限の義理(クリア報酬)だと思ったからな、マジで。
◇
それは、よくある日常のイベントの如く、誰も想定していなかった唐突な重要質問から始まった。
例の『二つ目のキャンプ跡』を発見してから数日後のことだ。――あの、この世界に存在しちゃいけない、どこまでも辛抱強い隠密のストーカー(敵)が確実に自分たちの背後を追尾しているのだと看破された、あの不気味なフラグ。
肉体センサーが感知したその恐怖はね、まだこの時点では、後に俺たちの魂をギリギリと締め付けることになるあの絶対的な絶望には、完全には定着しきっちゃいなかったんだ。
あの夜、その恐怖のエネルギーはね、別の方向へと出力されたんだわ。
過去何年もの長いタイムライン(付き合い)の中でね、俺たち三人が、これまで一度も見せたことのないほどに最高レベルに『誠実』に向き合うための、そんな起動コマンド(引き金)になりやがったんだ。
「……なぁ、お前ら。俺、ちょっとてめえらの本当の『真実(全貌)』が知りてえわ」
フェンリックのやつが、パチパチと鳴る焚き火の明かりをじっと見つめながら、何の前触れ(アプロポス・オブ・ナッシング)もなくボソリと切り出しやがった。
「過去六年間さ、俺たち、お互いに差し障りのない一部のカード(断片)だけを小出しにシステム分配して付き合ってきただろ? そうじゃねえ、全容量だ。なんかさ……もし本気で最悪な大災害(敵の奇襲)が目の前に突撃してくるんだとしたらさ、俺、半分しか素性の分からんような有象無象の隣に立って、そのままゲームオーバー(死亡)になるのだけは絶対に真っ平御免だからな」
ドランの親父は、長い間、冷酷に静まり返った。
それから、こちらのプロセッサの予測数値を少しだけ下回るスローモーションで、ゆっくりと深くうなずいた。
「――いいだろ」あいつは言った。「分かったよ。だがな、言い出しっぺの法則だ。まずはてめえの初期データ(過去)から公式開示しやがれ」
◇
フェンリックのターン(フェンリックの過去ログ)
「……俺の母親は、人間だったんだ」フェンリックが静かに声を紡いだ瞬間、周囲の大気の波動がスッと切り替わるのを、俺の知覚センサーは的確に検知していたさ。――過去六年間、あいつの口からそんな具体的な固有データ(母親の種族)が出力されたのなんて、これが人生で最初の一発目だったからな。
「親父のほうは獣人だ。あのクソみたいな故郷(村)の連中もね、親父一匹だけなら、それなりの仕様(許容範囲)として村のテリトリーに居座るのを大雑把に許容してた。……だがな、その二つの本来なら交わるはずのない絶対法則(種族)がシステム的に混ざり合って、この俺というバグ(混血)が湧き出てきたその瞬間、あいつらの対応マニュアルは100%のヘイト(拒絶)に上書きされたんだよ」
混ざり合った血。
ぶっちゃけ、この俺という異常個体のシステムと、完璧に完全同期する仕様(境遇)じゃねえか。中身のグラフィック(見た目)は違えど、その本質にあるシステムエラーの形は完全に同じだわ。
「あいつらはさ、俺がまだ物心つく前の初期段階(子供の頃)から、『てめえがこの世界に実在していること自体がバグ(不快)なんだよ』って現実を、これっぽっちも手加減なしにダイレクトに叩き込んできやがった」あいつは言葉を続けた。その音声ログの軸はね、完璧にブレずに安定していた。それは、自分の胸の奥のアラート(過去)をこれまでに何万回もセルフアナライズし、完璧な精密制御を完了させてきた強者特有のトーン。
「そのヘイト(デバフ)を、一番最悪な最大出力で喰らい続けたのは……母さんだった。世界の有象無象ってのはね、子供を直接せっかんするよりも、その親の防衛システムを力ずくでへし折るほうが、圧倒的にイージーで罪悪感の少ないセーフティな標的だとジャッジするシステムだからな。母さんはね、やがて肉体システムにエラー(病気)を発生させた。普通の日常ならさ、天地がひっくり返ったってロスト(死亡)するはずのない、可愛いレベルの初期バグ(ただの病気)だったんだ。もしあの村の連中がさ、『あの女にまともな回復アイテム(薬)や治癒魔術を回してやる メリット(価値)なんて一文字もねえよ』っていう最悪な排斥ジャッジを下していなきゃ、今でもピンピンして生きてたはずの病気だったんだよ……っ!」
あいつは、次の一行の音声データを、至って平然と言い放った。
限界まで感情の出力を引き算した、完全なフラット。
それはね、過酷なクソゲー(現実)の中で脳内プロセッサがオーバーヒートして完全崩壊するのを防ぐために、自らの魂と「これでお引き取り(和解)ください」とシステム的なセーブを完了させた者だけが放つ、冷酷なトーン。
「母さんはね、俺が十二の時にシステムから永久消去された。親父のほうも、それから間もなくしてこの座標(村)から完全にハイド(蒸発)しやがった。――まぁ、最愛の相棒を失ったことによる悲しみの過負荷が原因だろうけどな、あいつが最後に俺にまともな説明マニュアルを遺す前に消えちまったから真実は分からんわ。だから俺も、それから数年後のタイムラインで、すぐにそこを飛び出した。あそこにはさ、もう二度とログイン(滞在)し続ける価値のある重要リソース(思い出)なんて、塵一つとして残されていなかったからな」
十二歳、か。ただの脆弱な初期アカウント(ガキ)じゃねえか。
俺があの隔離された地(絶望の山)で両親をロストしたあの年齢のスパンと、だいたい完璧に完全一致してやがる。
「……すまん」俺は言った。何故なら、あの瞬間の俺の手持ちのカード(言葉)にはね、その100%大真面目な謝罪の音声ログしか残されていなかったからだ。
「謝るなよ、てめえのやらかしたバグ(過失)じゃねえだろ」
フェンリックのやつ、口元に微かな、本物の笑顔を浮かべてみせやがった。
「だけどさ……なんか、全容量を公式開示してみるとさ、不思議なことに、肉体のデバフ(胸のつかえ)が随分と引き算されて軽くなったわ。脳内シミュレーターの予測数値を裏切る、妙なバグ(ポジティブな変化)だけどな」
◇
ドランのターン(ドランの過去ログ)
ドランの親父のほうが、自らのメインプログラム(過去)をラン(起動)させるまでに要した時間はね、フェンリックのやつよりも遥かに長かったさ。手元にある木製のカップの軸を、何度も、何度も執拗に回し続けた後、ようやく重苦しい音声データが出力されたんだ。
「俺はね、元々は【兵士】だったんだわ」あいつは言った。「とっくの昔に歴史の闇に葬り去られた、古いタイムラインの話だがな。最終的には、とある二つの『世界マップの領土分割(国境線)』について、一生ギシギシと小競り合い(ヘイト)を繰り返して譲らない、めんどくさい諸王国の境界線をマークする守備部隊の【隊長】をやってた。優秀な一個師団だった。まともなスペックを持った、本物の戦士たち。――俺がね、あいつらの身代わり(楯)になってロスト(死亡)する覚悟なら、いつでも100%全開でセーブしてた、そんな絶対の仲間たちだったんだ。長い間、本気で自分はあいつらと共に終わるシステム(運命)なんだと信じ込んでいたくらいには、な」
はい、きた。
あの首筋の巨大な一本の古傷。あの扉を執拗に監視する不気味な習性。
そのすべてのブラックボックス(未解決の謎)の輪郭が、ここにきてようやく、カチリと一つの明確なグラフィック(正体)としてマッピングされ始めたんだ。
「――裏切り(エラー)に遭ったんだよ」あいつの声の出力トーンが、さっきのフェンリックと完璧に完全同期して、一気に冷酷なフラットへと切り替わった。
「組織の内側に潜んでいやがった、どこぞの特級の裏切り者(クソ野郎)がさ、俺たちの正確な布陣座標、時間、兵力スペックの全容量を、敵側のサーバーへ丸ごと売却しやがったんだわ。敵の軍勢はね、真夜中のタイムライン(夜)を狙って、完璧な奇襲を仕掛けてきやがった。――ぶっちゃけ、今夜俺たちが街道で怯えてるあの不気味な追尾とさ、そのシステム構造が何から何まで完璧に完全一致してるからこそ、俺の肉体センサーはね、あの特定の『隠密の気配(危険の形)』を察知するたびに、無性に激しい過負荷を起こして強張っちまうんだよ。……俺の部隊の九割九分は、その一戦でシステムから永久消去(全滅)した。生き残ったのは、この俺一匹だけだ。あいつらと共に犬死に(ロスト)する以外に、もう二度とゲームオーバーを回避するコマンドが残されていなかったあの最悪なリザルト画面の中で……俺はね、ただ一人で【逃走】を選択しちまったんだよ」
あいつは自らの顎から首筋にかけて走る、あの大きな傷跡を、無意識のうちに指先でそっとなぞった。自らの物語によって強制リプレイさせられるまで、そこに傷が存在していることすら脳内のメモリからハイド(隠蔽)していたかのように。
「この傷はね、その地獄のステージから脱出する際、その代償としてシステムから刻まれたただの物理エラー(勲章)だ。だがな、俺がそのフィールドから一緒に引きずり回して(持ち出して)きちまったデバフはさ、こんな目に見える可愛いレベルのグラフィックなんかじゃねえんだよ」
あいつは一呼吸の間、静まり返った。
「――それからさ、果てしなく長い長いタイムラインの間、俺は毎日毎日、自分自身のプロセッサを激しい自己嫌悪で狂わせ続けてきたんだわ。『あの時、俺も大人しくあいつらと一緒にその座標でロスト(死亡)しときゃあよかったんだ。一人だけ無様に生存活動を継続してさ、その生存に伴う莫大なコスト(十字架)を一生ハイドして背負い続けるくらいなら、なぁ』って、さ」
あいつがいつか街道の夕食の席で、俺に向かってボソリと言い放ったあのセリフ。
『俺もな、過去に逃走を選択したことがある。そのコマンドが要求してくる代償の総量はね、痛いほどよく知ってるわ』
あの言葉はね、戦術シミュレーションのロジックなんかじゃ天地がひっくり返っても無かったんだ。
あいつのこれまでの全人生においてね、最も最悪な判断(人生最大のバグ)を、ただ自嘲気味に吐き捨てた、絶対の【血の音声ログ】だったんだ。
「……あの、北方の山脈( mountain range )」俺は静かに、自らのプロセッサの中にあった最後のピースをカチリと噛み合わせた。
「ドラン、お前が二度と近寄りたくないって言ってたあの座標……あそこで、その殲滅イベント(惨劇)が起きたんだな」
親父は、ただ一度だけ、重く深くうなずいた。
「ああ。俺の自衛マニュアル(ポリシー)が許す限りはね、二度とあのルート(フィールド)にアクセス(再訪)する気はねえよ。この先一生、天地がひっくり返っても有り得んな」
◇
カイのターン(カイの過去ログ)
二人の壮絶な機密データ(過去)をその特等席で拝聴している最中からね、俺はシステム的に、次がこの俺のタイムライン(順番)になることくらい最初から100%先読みして分かっていたさ。
そして俺の胸のメインプロセッサはね、過去何年もの長いスパンの間、今この瞬間が訪れるのを、心のどこかでずっと激しくマーク(自衛警戒)していたんだ。
他人のリソース(信頼)を信用していないからなんかじゃ決してないぞ。もうとっくに、二人のことは100%俺のパーティー(身内)だとジャッジしてたからな。
ただな。己の魂の最深部に封印し続けているその全容量を、生の口(音声データ)から世界に対して公式発表(出力)しちまうって行為はさ、それをただ一人で脳内のハードディスクに大切に畳み込んで(隠蔽して)いた時とは、まるで現実味の次元が違ってしまうからだ。
「……俺さ、最初から最初の一歩の段階から、ずっと『カイ』って名前のアカウントだったわけじゃねえんだわ」
俺は口を開いた。至って単純明快な始まり。最もイージーな、最初の第一階層の文字列。
そこから先はね、俺は自らの保有する全暗号ログ(前世の記憶)を、嘘偽りなく二人にすべて一括ダウンロード(完全開示)してやったさ。
【小林 晴翔】。
人間の有象無象がひしめき合うあの東京という地獄のサーバーにおいてね、誰一人として訪問者の来ない、あの狭苦しいアパートの隔離サーバー(自室)から、一歩も外へ出ずに過ごしていた一人の男のアカウント。
数年もの長いスパンをかけて、ただ一人きりで表計算ソフトを睨みつけ、静かに、執拗にビルドアップ(構築)してきた、世界の誰もその容積(残高)を知らない最高機密の『個人取引口座(資産)』。
そして、何の前触れ(アウトオブどこか)もなく突如として着信を鳴らし、俺をあの二度とイエス(承認)のコマンドを発行すべきじゃなかった、最悪なハメ技のダブルデート(罠)へとスカウトしやがった、【ケンジ】という名の古い友人。
最後までシステム的なシンクロ(愛)を1ミリも構築できなかった、【ハナ】という名の有象無象の女。
そして――すべてのタイムラインが完全終了するあの帰路の交差点において、車の物理衝撃(質量兵器)が俺の肉体をクリーンヒットし、スピーカーの奥から『お前の肉体がへし折れる角度、俺のプロセッサで完璧に完全同期(計算)しといたからな。アッパレだろ?』などと、まるで誇るべきクリア実績であるかのように言い放ちやがった、あのクソ忌々しい音声ログ。
「あいつ、たったそれだけのリソース(金)のために、俺の息の根を止めた(殺した)んだわ」俺は言った。
「何年もの長い時間を共にしてさ、全貌を知り尽くしていたはずの相棒(友人)だぞ? 最後の最期の一瞬、ゲームオーバーを告げるあのゴングが鳴り響くその瞬間までさ……あいつが裏でそんな最悪な裏切りマニュアル(罠)をランさせてるなんてこと、俺の索敵レーダーは、ただの一度だって疑う(マークする)ことすら機能しなかったんだわ」
二人の面々はね、長い間、ただの一文字の音声データも返さなかったさ。
皮膚を刺すような、圧倒的な重苦しい静寂。
「……だから、てめえは他人のことをそう簡単に信用(リソース配分)しないシステムになってるわけか」
やがて、ドランの親父の口から、ジャッジが出力された。質問なんかじゃねえ、100%看破した戦士の確定事項。
「――ああ、まさにその通り(ザッツ・エグザクトリー)だよ」俺は言った。
「この世における、最も血生臭いハードモード(最悪な死に方)で、その世界の理を脳内プロセッサに強制インストールさせられたからな。おまけに今度の人生でもさ、あの隔離された山の上で、自分が一体何のヘイト(業)を稼いだのかも分からん理不尽なバグのせいで、二匹の化物(真竜)に家も両親も丸ごとシステム消去されちまっただろ? そして最近じゃあ、街道を歩くたびにさ、こちらの全貌を最初からすべて知悉しているかのような、あの不気味な神殿の奴らの視線を連続して喰らってる。三度目のダメ押し(アップデート)としてはね、十分すぎるスペックだろ」
そして俺はね、今夜このタイミングで、お前ら二人に対してその全容量の機密ログを開示したんだ。
何故なら、これから先、俺たちの街道に一体どんな最悪な【特級大災害】が突撃してこようともさ、俺は自分のパーティー(身内)に対して、ただの一文字のカード(隠し事)もハイドしたまま、その地獄の前に直立不動で立たされるような最悪なルートだけは選択したくなかったからだ。
お前らは今夜、それだけの本物の『誠実』を俺に提示してくれた。
だったら、俺のポリシーとしてもね、自らの手持ちのカードのすべて(全容量)を一括ダウンロード(強制開示)して、100%のクオリティでお返しするのが、絶対のルール(マニュアル)だからな。
◇
それから長い、本当に果てしないスパンの間、俺たち三人はその引き出された全容量の過去ログを、ただ静かに同じ焚き火の席で共有し続けていた。
――三人の人間が、ついに、お互いの隠蔽領域を綺麗さっぱりクリアにして、パズルの全貌をカチリと一つに繋ぎ合わせた、そんな絶対の瞬間。
「……まぁ、一応、俺個人のジャッジとして言わせてもらうとさ」やがてフェンリックが、自らの一行のログをボソリと出力した。
「あんたのその全貌を知れて、本気で良かったわ。何一つ隠蔽されてない本物の現実。……だからってさ、俺がてめえら二人に対して保有してる信頼の数値なんて、今更1ミリも上書き変更(書き換え)されたりしねえけどさ。ただ……知れて、ハッピー(満足)ってことさ」
「俺も、同感(システム同期)だ」ドランの親父も、物静かに、だがブレないトーンでそのジャッジをシステム承認した。
(……フッ。俺だって、完璧に同じポジティブを記録してるわ)
これから先、俺たちの街道に一体どんな最悪なバグ(神殿の津波)が突撃してこようともさ。
少なくとも今この瞬間、俺たち三人のパーティー(我が家)はね、お互いの【本当の正体】を完璧に相互スキャン(視認)し合って、カチリと完全同期(同期完了)しているんだ。
その確かな現実だけはね、これから始まるどんなクソゲー(死闘)に対しても、塵ほどの無駄でもない絶対のセーフティゲート(意味)になってくれるはずだからな。
あの夜、俺はここ何年もの長いタイムラインの中でね、最も最高にハッピーな気分(満面の笑顔)でベッドへと潜り込んだんだ。
一人きりで脳内のハードディスクに抱え込み続けていたあの重苦しいデバフ(前世と過去のヘイト)の総量を、ついに、信頼できる二人の相棒のプロセッサへシステム分配し、完璧に完全理解されたのだという、その絶対の安らぎ(クリア報酬)を噛み締めながら。
俺はね、まだ露ほども知る由はなかったんだ。
その夜に俺たちが100%の誠実さでビルドアップしたあの絶対の絆を使って、さらにその先の新世界(タワーの建国プラン)へとシステムを拡張してやるための猶予(時間コスト)が――俺たちの手元にはね、もう一秒たりとも残されてなんていなかった(タイムリミットを迎えていた)ことなど。
――だけどな。
今この瞬間(最上階のタワー)から過去のログをリプレイするたびに、俺は全霊を込めてこう確信しているんだ。
(……フッ。たとえ次の朝にすべての平穏がクラッシュ(ゲームオーバー)したとしてもさ。俺たちの人生のタイムラインに、あの琥珀色の『最後の夜』が確かに実在していたというその一事だけでさ、俺の今度の人生のスペック価値は、十分に、お釣りが出るほどあったからな、マジで)




