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転生の向こう側 【The Other Side of Reincarnation / Beyond Reincarnation】  作者: ルーク
戦争の余波

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第119話 - 余波(その6)――ネロの調査

『エリュシオン教団』は、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。


戦いは終わったのだ。

アシュフォードの軍勢は去り、ソフィアは敗北した。

汚染された聖結晶の原因を作った司祭は、厳重な監視下に置かれている。


しかし――カイは、これで全てが終わったわけではないと確信していた。


不可解な点が多すぎる。

教会が単独で、自分に牙をむくなどあり得ない。

誰かが、教会の背中を押したのだ。

誰かが、あの司祭を操った。

誰かが、汚染された聖結晶を用意した。

そして誰かが、最終的に戦争へと至る舞台を仕組んだのだ。


カイは第3層にある会議室の椅子に腰掛けていた。

すぐ近くにはユイが立っている。


セナはすでに司祭の記憶抽出を終えて戻ってきていた。

回収された記憶結晶は、今はユイの手元にある。


カイは椅子の背もたれに体を預け、天井を見つめた。


「……やはり、一つだけ腑に落ちないことがある」


ユイが視線を向ける。


「何が?」


「始まりの場所(オリジナル・サイト)だ」


ユイの目がわずかに細められた。


「汚染された聖結晶が、最初に仕掛けられていた場所ね」


「ああ」


カイはトントンと指先で机を叩いた。


「俺たちはその後に起きたことばかりに目を奪われていた。だが、すべての発端となった場所をまだまともに調査していない」


一拍置いて、カイは続ける。


「誰かがあそこに結晶を置いたんだ。なら、何かしらの痕跡が残っているはずだろ」


ユイが小さくうなずく。


「確かにそうね」


カイの表情が、一気に険しさを増した。


「なら、見つけ出す必要がある」


カイはそっと目を閉じ、意識をタワー全体へと広げていった。


『ネロ』


すぐに返答があった。


『はっ、カイ様』


ネロの声は、いつも通り冷徹で落ち着き払っていた。


『汚染された聖結晶が置かれていた、始まりの場所を調査してくれ』


短い沈黙の後、声が返る。


『承知いたしました』


『使えそうなものはすべて回収しろ。証拠、物品、魔力の残滓――そこで何が起きたのかが分かるものなら、何でもだ』


ネロは一瞬、沈黙した。


カイの声の温度が、一段と下がる。


『もし、邪魔者が現れたら?』


カイの唇の端が、すっと持ち上がった。


『殺せ』


静寂が満ちる。

次の瞬間、ネロの声に隠しきれない歓喜が混じった。


『――喜んで、カイ様』


カイが目を開けると、ユイがジト目を向けていた。


「ネロをひどく喜ばせたみたいね」


カイはため息をついた。


「分かっている」


「安易に殺しの許可を与えるべきではなかったわ」


「調査に必要な措置だ」


「そういう意味じゃないのだけれど」


カイはユイを見た。


「あいつだって、無関係の人間まで殺しはしないさ」


ユイが見つめ返してくる。

カイは一瞬言葉を詰まらせ、付け加えた。


「……たぶん」


ユイは諦めたように目を閉じた。


「はぁ……」


--


【始まりの場所(オリジナル・サイト)】


灰と塵に覆われた聖堂の遺跡は、不気味なほど静まり返っていた。


その崩壊した建造物の中央に、突如としてネロが姿を現した。

地面に足がついた瞬間、その鋭い視線が周囲のすべてをなぞる。


砕けた石材。

崩れ落ちた柱。

魔法陣の残骸。

焼け焦げた床。


一見すると、どこにでもあるありふれた戦跡だ。

あまりにも、ありふれすぎている。


ネロは動かなかった。

静寂に耳を澄まし、肌を刺す残留魔力を感知しながら、わずかな違和感をも逃さぬよう神経を研ぎ澄ます。


何も無い――いや。


焼け焦げたマナの臭いの奥底に、かすかな空間の歪みを感知した。

視線を聖堂の中央へと向ける。

ネロは静かに歩き出した。


その足取りは慎重そのものだった。

踏み出す前の床を凝視し、崩れた柱が落つ影を調べ、生き残った魔法陣の並びと周囲の損壊具合を比較していく。


指示された中央で足を止めた。


「ここか」


汚染された聖結晶は、本来ここに配置されていた。

ネロは腰を落とし、石の表面を観察する。

煤の下に、かすかな窪みが残っていた。

瓦礫が落ちてできたにしては、あまりにも正確すぎる形状。


指先でその床に触れる。


「興味深いな」


結晶は単に投げ出されたわけではない。

意図的に、そこに『設置』されていた。


ネロは立ち上がり、再び聖堂を見回した。

周囲の魔法陣は乱れていたが、破壊されてはいない。

その術式は、緻密な計算のもとに書き換えられていた。


汚染が始まる前から、何者かがこの場所を準備していたのだ。

ネロの表情が硬くなる。


「つまり、偶発的な事故ではない、ということか」


近くの壁に手を当てる。

指先から微弱な魔力のパルスを流し込んだ。


一瞬だけ、聖堂が反応を示す。

石の奥底で隠されたマナのネットワークがうごめき、しかしネロが完全に捉える前に霧散した。

ネロの目が細められる。


「用意周到なことだ」


さらに部屋の調査を続ける。

石のあちこちに、魔導具を使用した痕跡が残されていた。

円形の圧迫痕、切断された回路、かつて装置が固定されていたであろう場所に残る微量の残滓。


一部の道具は持ち去られ、他は破壊されている。

だが、彼らが残した傷跡までは消せていない。


ネロはその痕跡を一つずつ辿っていく。


「仕掛けられたポイントは3箇所……」


聖堂を横切り、別の場所を見つける。


「4箇所」


崩れた柱の影から、3つ目の痕跡を見つけ出す。


「5箇所か」


ネロの口元に、冷ややかな笑みが浮かんだ。


「実に入念な仕事だ」


ネロは再び、汚染された聖結晶が置かれていた中心部へと戻った。

石には今もなお、禍々しい汚染の残滓がこびりついている。


彼が手をかざすと、指先の空間がぐにゃりと歪み、転移の術式が展開された。

目の前に現れたのは、あの汚染された聖結晶だ。


すでに回収され、封印のコンテナに厳重に保管されているはずの代物。

しかし、その封印越しにすら、歪んだエネルギーが周囲の空間を侵食しようと脈打っている。


ネロは触れることなく、それを見つめた。


「これがオリジナルか」


ネロの手によって空間の二重封印が施され、結晶は再びその場から消失した。


--


【タワー】


解析室にいたユイの前に、突如として結晶が出現した。

ユイは顔を上げる。


「ネロね」


目の前に浮かぶ結晶。

通信リンクを通じて、ネロの声が響いた。


『汚染された聖結晶をそちらに転送いたしました』


ユイは手を伸ばし、それを受け取る。


「確認したわ」


『私は引き続き、調査を続行いたします』


「気をつけて」


短い沈黙の後、ネロの声が返ってきた。


『はっ、ユイ様』


そこで通信は途切れた。


ユイは結晶を見つめた。

すでに周囲の魔力が奇妙に歪み始めているのを感じる。

だが、彼女はまだ本格的な解析には着手しなかった。


まだ、待つべきピースがある。

――記憶結晶だ。


ユイは机の上に視線を落とした。

そこには、あの細工された通信結晶も置かれている。


二つの証拠。二つの独立した事件。

しかし、ユイの頭の中では、それらが一本の線で繋がっていた。


どちらの事件の底にも、同じ不気味な影が潜んでいる。

だが、まだパズルのピースが足りない。

これが一体どんな陰謀を描いているのか、その全体像を掴むには、あまりにも情報が不足していた。


--


【ネロの捜索】


遺跡に戻ったネロは、執拗なまでに調査を続けていた。


部屋から部屋へ、通路から通路へ。

少しでも損壊の仕方に不自然な点があれば、何度でもその場所へ戻って確認を繰り返す。

彼の目を逃れられる痕跡など、何一つ存在しなかった。


壊れた道具。魔力の残滓。

半分消しかけられた魔法陣。

空間のマナが意図的に歪められたいくつかの痕跡。


犯人はここに滞在していた。

それも、かなりの長い時間。


ネロは損傷した魔法陣の前にしゃがみ込み、その傷跡をじっと見つめた。


「ここで準備を整え――」


指先でラインをなぞる。


「ここで起動した」


視線を聖堂の中央へと移す。


「そして最終的に――」


ネロの瞳に、底冷えするような光が宿った。


「――あの結晶を置いた、か」


すべては計画通りだったのだ。

汚染は事故などではない。


誰かが場所を整え、誰かが結晶を手に入れ、誰かが状況をコントロールした。

そして――教会がそれを『発見』することまで、すべては仕組まれていたのだ。


ネロは立ち上がり、入り口の方へと視線を向けた。


「これほどの仕掛けを施した者が――」


誰もいない、がらんとした聖堂を見つめる。


「――教会にこれを発見させたがっていた、か」


その事実に思い至った瞬間、事態の危険度は一気に跳ね上がった。


ネロは再び調査を開始し、床下に隠されたもう一つの保管庫を見つけ出した。

だが、中身は空っぽだった。

ここを使っていた何者かは、保管されていたものをすでに持ち去った後らしい。


ネロはあらゆる角度からその保管庫を調べ上げた。


「……いや」


手を止める。


「ここか」


石の隙間に、極小の魔導具の破片が埋まっていた。

ネロはそれを取り出す。

ほとんど完全に破壊されていたが、その断面は偶然残されたものではなく、意図的に押し込まれたものであることを示していた。


ネロはそれを小さな空間収納コンテナに収めた。

また一つ、証拠が増えた。


ネロは執念深く捜索を続ける。

やがて、彼は別のものを見つけた。壁に刻まれた、極めて微かな跡だ。

文字ではない。紋章でもない。

距離、角度、そして位置――それは『測定』の跡に近かった。


ネロはそれを見つめた。


「すべてがどこに配置されるべきか、緻密に計算されているな」


ふっと、その唇に笑みが浮かぶ。


「素人の仕事ではない」


彼は最後にもう一度、周囲を見回した。

身元を示すものは無い。名前も無い。分かりやすい特徴も残されていない。

これを仕組んだ者は、実に入念だ。極めて、慎重に動いている。


ネロは転移のゲートを開いた。

回収された破片が密封コンテナに収まった状態で出現し、そのままユイのもとへと直接転送される。


『ユイ様』


すぐに彼女の声が応じた。


『ええ、何かしら?』


『追加の証拠を転送いたしました。結晶が配置されるより前に、この場所は意図的に作り込まれていました』


ユイの目が細められる。


『他には?』


『いくつかの仕掛けのポイントを確認しました。魔導具が使用され、後に持ち去られた跡があります。また、半分消しかけられた術式と、隠された保管庫も発見いたしました。この場所を準備した者は、己の成すべきことを完全に把握しています』


ユイは沈黙した。


ネロは言葉を続ける。


『ただし、誰の犯行であるかを示す手がかりは見つかっておりません』


『……分かったわ』


『私は引き続き、この周辺を捜索いたします』


『もし何か見つけたら、すぐに送りなさい』


ネロは微笑んだ。


『御意に』


そこで通信は途切れた。


ネロは遺跡を見渡した。

ここへ到着して以来、初めてある奇妙な違和感に気がつく。

この聖堂は静かすぎる。あまりにも、何も無さすぎる。


ここに仕掛けをした者は、ほとんど全ての痕跡を消し去っていた。

彼らは、調査が入ることを予期していたのだ。

誰かがここを調べに来ることを、最初から計算に入れていた。


ネロの目が鋭く細められる。


「慎重だな」


彼は奥の壁へと向き直った。


「――実に入念だ」


その時、遺跡のさらに奥から、微かな魔力のパルスが応じた。

ネロの笑みが消える。


全神経を研ぎ澄ませてその違和感を追ったが、出所を突き止める前にそれは霧散した。

誰か、あるいは何かが、この調査を『監視』していたのだ。


ネロは闇の中へと足を踏み出した。


「ならば、お前たちが何を見落としたのか、確かめさせてもらおう」


その姿が、掻き消えるように消滅した。


--


【解析】


エリュシオン教団の内部。

ユイは一人、解析室の中に佇んでいた。


彼女の前には、三つの結晶が置かれている。

汚染された聖結晶。

細工された通信結晶。

そして、セナが回収してきた、司祭の本来の記憶が収められた記憶結晶。


ユイはすでに、最初の二つの解析を終えていた。

何時間もかけて、そのすべての階層を精査したのだ。


汚染された聖結晶には、意図的な魔力妨害の跡があった。

通信結晶にも、細工が施されていた。

どちらの事件も、表面的な事実の裏に別の何かが隠されている。


パターン。構造。繰り返される魔力の配置。

同一ではない。しかし、確実に繋がっている。


ユイは周囲に浮かぶデータを見つめた。


「同じ、根底にある構造――」


彼女が手をかざすと、部屋の中に数千もの魔法陣が出現した。

紋様が回転し、分離し、結合し、そして比較されていく。

ユイはその一つ一つを精査した。


「術者は同じではないわね」


一拍置き、思考を巡らせる。


「……いえ、少なくとも『必ずしも同じである必要は無い』、か」


別の魔法陣の群れが出現する。


「だけど、手法が同じだわ」


彼女は目を細めた。


同一の目的を達成するために、異なる技術を用いて、それぞれの役割をこなさせている。

汚染された結晶は、疑惑を生み出すために。

通信結晶は、その疑惑を決定決定的なものにするために。

そして司祭は、人為的な説明を仕付けるための捨て駒として。


すべてが一つの方向を指し示している。

誰かが、カイに罪を着せようとしているのだ。


だが、一体なぜ?

ユイには、まだそれを解き明かすための情報が足りなかった。


彼女は扉の方へ視線を向けた。


「セナの記憶結晶……」


それの本格的な解析には、まだ着手していない。

できなかったわけではない。他のすべてと比較するために、あえて残しておいたのだ。


最初の二つの証拠は、すでに繋がりを示している。

ならば、三つ目のピースは、その繋がりが一体何を意味するのかを暴き出すはずだ。


ユイは待った。


扉が開いた。

セナが、回収された記憶を宿す結晶を手に、部屋へと入ってきた。


「ユイ様」


ユイが振り返る。


「セナね」


セナは机へと歩み寄った。


「お待ちかねのものは、これだと思います」


彼女は結晶を机の上に置いた。


ユイはそれを見つめる。


「ええ」


セナの背後から、カイも部屋へと入ってきた。


「何が分かった?」


セナが彼の方を振り向く。


「司祭の、本来の記憶です」


カイはうなずいた。


「それで?」


「彼は操られていました」


カイの表情は険しいままだ。


「それはすでに知っている」


セナは首を振った。


「回収された記憶には、それ以上のものが含まれています」


ユイが結晶へと手を伸ばした。


「見せて」


彼女の指先が触れた瞬間、解析室の空気が一変した。

結晶が輝きを放つ。


映像が浮かび上がった。

あの司祭。聖堂。汚染された結晶。

正体不明の影。壊れた三日月。そして、命令。


ユイの目の色が変わった。

情報が、彼女の意識へと奔流のように流れ込んでいく。

彼女は回収された記憶を、他の二つの証拠と脳内で照らし合わせた。


一つ。二つ。三つ。

すべてのパターンが、ピタリと一致する。


ユイの表情が、徐々に強張っていった。

カイがそれに気づく。


「どうした?」


ユイは答えなかった。

結晶は、今も回収された記憶を映し出し続けている。

正体不明の影は、依然として隠されたままだ。顔を特定することは不可能で、声も歪んでいる。


だが――その記憶を取り巻く『魔力の構造』が違っていた。

それは、単なる人間の魔力ではない。


ユイはそれを再度、解析した。さらにもう一度。

彼女の目が、驚愕に引き絞られる。


「待って――」


カイが一歩踏み出した。


「何があるんだ?」


ユイは生返事のまま、その魔力のパターンを隔離した。

第二の構造が出現する。そして、第三の構造。

ユイはそれらを汚染された結晶のデータと比較した。


合致する。

完全ではない。だが、十分すぎるほどに。


同じ根底にある手法。同じ、意図的な操作。

そして、その底に眠る、もう一つの何か。

――繋がり。


ユイは、目を見開いた。


カイは即座に気づいた。


「何か見つけたな」


ユイが彼を見つめ返す。


「ええ……どうやら、見つけてしまったみたいね」


カイの表情が、一気に真剣なものへと変わる。


「何だ?」


ユイは再び、回収された記憶へと視線を戻した。


「この事件を仕組んだ首謀者――」


一拍置き、重々しく告げる。


「――単独で動いていたわけじゃないわ」


カイは次の言葉を待った。


ユイは続けた。


「この人物と……『魔王』の一人との間に、明らかな繋がりがある」


静寂が奔る。

カイの表情が、凍りついたように硬くなった。


「魔王だと?」


ユイがうなずく。


「ええ」


セナの瞳が、スッと冷徹な光を宿した。


「……どいつだ?」


ユイは結晶を凝視した。

回収された記憶は、今なお首謀者の正体を隠し続けている。

魔力の構造をもう一度解析するが、何も出ない。情報が足りないのだ。まだ、そこまでは。


カイが一歩、足を進める。


「どの魔王だ?」


ユイはついに、彼へと視線を向けた。


「分からないわ」


カイの目が細められる。


「特定できないのか?」


「無理よ」


彼女は首を振った。


「繋がりがあること自体は証明できる。けれど、それがどの魔王なのかまでは割り出せない」


カイは沈黙した。

セナの表情が、さらに陰鬱なものへと沈んでいく。


「ならば、可能性はまだいくらでもある、ということですね」


「その通りよ」


ユイは、他の二つの結晶の隣にそれを並べた。


「この証拠だけでは、特定の魔王を指し示すには至らないわ」


三つの結晶を見つめながら、彼女は言った。


「けれど、極めて重要な事実を教えてくれている」


カイが腕を組む。


「何だ?」


ユイはカイを真っ直ぐに見据えた。


「教会は、単なるそこらの人間に操られていたわけじゃない」


その声の温度が、一段と下がる。


「魔王に連なる何者かが、意図的にこの事件のすべてを設計したのよ」


解析室を重苦しい沈黙が支配した。

カイは三つの結晶を見つめた。


汚染された聖結晶。

細工された通信結晶。

そして、回収された記憶。


三つの断片。一つのパターン。正体不明の敵。

そして、関与している可能性のある、複数の魔王たち。


やがて、カイが口を開いた。


「つまり、誰かが教会を利用して、俺と戦わせようとしたわけか」


ユイがうなずく。


「ええ」


「司祭をハメたのも」


「そうね」


「あの聖堂を準備したのも」


「ええ」


「通信結晶に細工をしたのも」


「そうよ」


カイの目が鋭く細められる。


「そして……すべての証拠が、俺を指し示すように仕組んだ」


ユイが小さく首を縦に振った。


「証拠が物語っているのは、そういうことよ」


カイは口を閉ざした。

これまでに起きたすべての出来事が、脳裏を駆け巡る。


教会。司祭。ソフィア。あの激戦。

アシュフォードの軍勢。そして、数千もの死者。


そのすべてが操られていたのだ。

偶然でも、衝動的なものでもない。誰かが緻密に計画したのだ。

そして今、カイは最も重要な部分へと行き着いた。


敵は、単なる人間の勢力ではない。

『魔王』に繋がる何者かだ。


カイはユイを見た。


「なら、どいつなのかを突き止めるまでだ」


ユイがうなずく。


「いずれはね」


カイはセナの方へと視線を巡らせた。


「あの司祭は、生かしておけ」


セナが、にぃっと妖しく微笑む。


「承知いたしました」


カイは再び、三つの結晶へと視線を戻した。


「今は――」


その瞳に、底知れぬ冷徹さが宿る。


「――奴らの次の動きを待つ」


--


『エリュシオン教団』から遥か遠く。

彼らの調査が到底届かないどこかで、この戦いを仕組んだ見えざる設計者は、完璧な沈黙を保っていた。


計画には狂いが生じた。

だが、首謀者の正体は未だ闇の中だ。


そしてカイは、教会の背後に立つ敵が、自分が予想していたよりも遥かに『魔王の世界』に近い存在であることに気づいたばかりだった。


調査は次の段階へと突入した。

しかし、回収された記憶の奥深く。歪められた声と隠された顔の底に、最後の痕跡が一つだけ残されていた。


それは、汚染された結晶を作り出したものと同じ魔力の断片。

ユイが以前、目にしたことのある特徴(シグネチャー)だった。


教会ではない。あの遺跡でもない。

――魔王たちの記録の中で。


繋がりは、もはや単なる仮説ではなかった。

何者かが、意図的にこの同じ刻印を三つの証拠すべてに残したのだ。

そして、それを仕組んだ者は知っていた。いつか、誰かがこれを発見することになるだろうと。


謎は解き明かされたのではない。

……幕を開けたのだ。


闇のどこかで、首謀者は彼らに真実を掴ませた。

ただし、それは「本物の敵はすでに手の届く場所から見つめている」ということを理解させるに足る、わずかな断片に過ぎなかった。

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