第111話 - 第2幕:教会の聖戦、第12部 — 戦火の拡大
最初の衝突は終わった。しかし、戦争が終わったわけではなかった。
カイはアシュフォード軍に向かって歩き続けた。兵士たちは彼が近づいてくるのを見つめている。武器はない。鎧もない。目に見えるオーラすら纏っていない。ただ一人の男が、戦場を孤独に歩いていた。
彼が近づくにつれ、兵士たちの間に動揺が広がっていく。
カイは最前線から数十メートルのところで足を止めた。
一人の聖騎士が剣を突きつけた。
「これ以上近づくな」
カイは彼を見つめた。
「すでに言ったはずだ」
その声は、どこまでも冷静だった。
「俺は戦いに来たわけじゃない」
騎士は武器を下げようとはしなかった。
「ならば引き返せ」
カイは彼を凝視した。一瞬の静寂。それから、カイは彼の背後に視線を向けた。何千もの兵士たち。アシュフォードの軍旗。そして、聖騎士たち。
彼はため息をついた。
「本当に、何も分かっていないんだな」
騎士が眉をひそめる。
カイの表情は穏やかなままだった。
「俺がここに来たのは、戦争を望んでいないからだ」
彼は言葉を区切った。
「だが、もしこれ以上俺の領地に侵入を続けるというなら――」
その瞳が冷たく冴え渡る。
「――いずれ、戦わざるを得なくなるぞ」
騎士は何も答えなかった。
カイは背を向けた。
「負傷者を連れていけ」
彼は歩き出し、背中越しに告げた。
「国へ帰るんだな」
彼を襲う者は誰もいなかった。追う者もいない。数分の間、戦場は完全な静寂に包まれていた。やがてカイの姿は、地平線の彼方へと消えていった。
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カイはエリュシオン教団へと戻った。彼が第一階層に足を踏み入れた瞬間、セナが駆け寄ってきた。
「カイ様」
カイは彼女を見た。
「状況は?」
「西方の防衛線は維持されています」
「被害は?」
「数名が負傷しましたが、死者はゼロです」
カイはうなずいた。
「そうか、よかった」
ネロが近くの柱に寄りかかっていた。
「カイ様」
「ん?」
「アシュフォード軍は撤退していません」
カイは彼に視線を向けた。
「知っている」
「彼らは別の陣形を整えつつあります」
カイの表情がわずかに険しくなった。
「どこだ?」
「北西の街道です」
カイはセナの方を振り返った。
「そこにエリュシオンが統治している集落はあるか?」
セナがうなずく。
「三つ、あります」
「民間人はどれくらいいる?」
「数千人ほどです」
カイは沈黙した。
ユイが彼の傍らに姿を現した。その瞳がかすかに輝いている。
『彼らはそれらの集落に向けて部隊を動かしているわ』
カイは彼女を見た。
「数は?」
『およそ四千よ』
カイの表情が変わった。
「四千だと?」
ユイは深くうなずいた。
『あの集落がエリュシオン教団に物資を補給しているという前提で、進軍しているみたい』
カイは目を閉じた。何が起きているのかを理解した。最初の衝突がすべてを変えてしまったのだ。アシュフォードがエリュシオンの防衛陣地を襲撃し、エリュシオンの戦力は自衛のために戦った。今や教会は、大義名分を手に入れてしまった。
戦闘。本物の戦闘だ。エリュシオン教団が訓練された兵士を打ち負かすことができるという証拠。カイの軍勢が、アシュフォードの予想以上に強力であるという証拠。そして、エリュシオン教団が戦う意思を持っているという証拠。
カイは目を開けた。
「状況が悪化しているな」
セナが彼を見つめた。
「ご指示を」
カイは即座に答えた。
「集落を守るんだ」
「迎撃しますか?」
「いや、それはしない」
セナはうなずいた。
「了解いたしました」
カイは他の面々を見渡した。
「もし襲撃されたら防衛に徹しろ」
彼は一拍置いて続けた。
「だが、決して深追いするな」
ネロが薄く笑った。
「また、奴らに立ち去るチャンスを与えるつもりですか」
カイは彼を見た。
「そうだ」
ネロは肩をすくめた。
「あんたは俺よりよっぽど気が長いな」
カイはため息をついた。
「お前がトラブルメーカーすぎるからだろ」
ネロは笑みを深めた。
「よく言われます」
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翌朝、アシュフォードの軍勢が再び動き出した。四千の兵士たちが平原を進軍していく。先頭を歩くのは数名の聖騎士たちだ。彼らの目的地は、エリュシオンの庇護下にある集落群だった。
その村々は、エリュシオン教団の領地の周囲に自然と形成されたものだった。農民、商人、職人、冒険者、そしてその家族たち。ただ安全に暮らせる場所を求めただけの人々だ。彼らは戦争などに関心はなかった。しかし、接近してくる軍隊にそんな事情が通用するはずもなかった。
一人の聖騎士が手を挙げた。
「構えろ」
兵士たちが足を止める。前方では、集落の門が固く閉ざされていた。その背後には、数名のエリュシオンの防衛兵が立っている。
村の長老が前に出た。
「私たちは争いを望んでいません」
聖騎士が怒鳴り散らした。
「ならば門を開けろ!」
長老は躊躇した。
「どうしてですか?」
「貴様らはエリュシオンの勢力を匿っている」
長老は困惑した表情を浮かべた。
「私たちはただの農民です」
聖騎士の表情が冷酷に歪む。
「門を開けろ」
長老は首を振った。
「私たちは何もしていません」
騎士は剣を抜き放った。
「ならば恐れる必要もあるまい」
防衛兵たちは視線を交わした。その言葉が何を意味しているのか、彼らには痛いほど分かっていた。
長老は静かに後退した。
「開けるな」
聖騎士たちが武器を掲げた。
「突撃せよ!」
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アシュフォードの兵士たちが突撃してきた。エリュシオンの防衛兵たちは結界を展開する。
――ズドォォォン!
第一波が結界に激突した。結界が激しく揺れ、数名の防衛兵が後ろへと押し戻される。
アシュフォードの兵士が一人生け垣を飛び越えてきた。すかさずエリュシオンの防衛兵がその胸を強打する。兵士は後ろへと吹き飛んだ。しかし、また別の兵士が乗り越えてくる。次から次へと。それでも防衛兵たちは、決して敵を殺そうとはせず、押し戻し続けた。
だが、戦火は拡大していく。さらに多くの兵士がなだれ込み、より多くの防衛兵が加わった。空には魔法が飛び交い、炎が大地を穿つ。突風が通りを駆け抜け、石壁が崩落していく。
民間人たちは避難所へと逃げ惑った。子供たちが泣き叫び、親たちは我が子を抱えて通りを走る。防衛兵たちは、兵士たちを居住区に近づけないために必死で戦った。
一人のエリュシオンの兵士が、アシュフォードの騎士が逃げ惑う民間人の一団を襲おうとしているのを目撃した。彼は瞬時にその前に立ち塞がった。
――キィィィン!
激しい金属音が響き、二人の武器がぶつかり合う。エリュシオンの兵士は騎士を力任せに押し戻した。
「そっちへは行かせない」
騎士が再び斬りかかる。エリュシオンの兵士はそれをいなし、告げた。
「行くなら、まず俺を倒してからにしろ」
騎士は一瞬怯んだものの、再び猛攻を仕掛けてくる。しかし、エリュシオンの兵士はその腕を払い、敵の剣を叩き落とした。殺す代わりに、彼はその剣を足で遠くへ蹴り飛ばした。
「立ち去れ!」
騎士は目を見張った。
「貴様――」
「立ち去れと言っている!」
騎士は圧倒され、ゆっくりと後退していった。
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戦闘は数時間に及んだ。やがてアシュフォード軍は集落からの撤退を余儀なくされた。集落が壊滅したからではない。莫大な被害を出さずして、その強固な防衛線を突破することは不可能だと悟ったからだ。
エリュシオンの軍勢は勝利を収めた。しかし、集落が受けた代償は大きかった。いくつかの建物は崩壊し、田畑は焼き払われ、多くの人々が傷を負っていた。
エリュシオンの防衛兵たちが、廃墟の中に立ち尽くしていた。その中の一人が、撤退していく敵軍へと視線を向ける。
「奴ら、また戻ってくるぞ」
もう一人がうなずいた。
「ああ、いつもそうだ」
三人目が塔の方角を見上げた。
「カイ様からは、追撃するなと命じられている」
最初の兵士が視線を落とした。
「ならば、俺たちは従うだけだ」
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その日の夜、国王エモンのもとに報告が届いた。彼はそれに二度目を通し、机の上に置いた。
「また別の集落を防衛されたか」
一人の将軍がうなずく。
「我が軍は撤退を余儀なくされました」
近くに立っていたソフィアが口を開いた。
「我が方の被害は?」
「予想以上です」
「死者は?」
将軍は言い淀んだ。
「……出ております」
ソフィアはそっと目を閉じた。こうなることは分かっていた。最初の衝突は限定的なものだったが、今回は違う。
エモンが彼女を見た。
「ソフィア、お前はどう思う?」
ソフィアは報告書を凝視した。
「あちらは防衛に徹しています」
将軍が即座に反論した。
「彼らは四千の兵を打ち破ったのですよ!」
「それは、こちらから仕掛けたからです」
「奴らは地域全域で戦力を集結させつつある!」
ソフィアは首を振った。
「それが、こちらを襲撃する意図の証明にはなりません」
将軍はエモンの方を向いた。
「陛下、もしこのまま奴らにあの拠点を占拠させ続ければ、我が国は西方領土の統治権を失うことになります」
エモンは地図に目を落とした。エリュシオン教団は、もはや単なる一つの『塔』ではなかった。その影響力は確実に広がっている。集落、街道、交易路、冒険者のキャンプ、そして難民たちのコミュニティ。それらはすべて繋がっていた。そしてアシュフォードは今、あらゆる場所で彼らと衝突し始めていた。
エモンがようやく重い口を開いた。
「西方防衛線を強化せよ」
ソフィアが彼を見つめる。
「また襲撃を命じられるのですか?」
エモンは躊躇した。
「いや」
その顔には、深い疲労がにじみ出ていた。
「まだだ」
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その知らせは、ラオディキア聖教会にも届いていた。最高評議会の場で、報告書が読み上げられる。
「エリュシオンの軍勢が、アシュフォードの別動隊を再び撃破いたしました」
一人の司教が眉をひそめた。
「我が方の被害は?」
「甚大です」
「敵方は?」
「最小限、とのことです」
評議会室が静まり返る。
一人の司教がゆっくりと首を振った。
「これで証明されたな」
その中にいたソフィアが、即座に視線を向けた。
「何が証明されたというのですか?」
「奴らの脅威的な強さだ」
ソフィアは不快そうに眉をひそめた。
「彼らが強いことなど、最初から分かっていたはずです」
「これほどとはな」
別の司教が報告書を机に叩きつけた。
「奴らは訓練された正規兵を二度も退けたのだぞ」
ソフィアは彼を睨み返した。
「どちらも、こちらから襲撃した後の話です」
司教はその言葉を無視した。
「ならば、なぜ奴らは撤退しなかった?」
「守るべき集落がそこにあったからです」
「まさにその通りだ」
ソフィアは彼を見つめた。議論の本質が、すり替わり始めている。教会はもはや「カイが有罪かどうか」を問うてはいなかった。彼らが問い始めているのは、「カイがどれほど危険か」ということだった。
それは、全く異なる性質の問いだ。前者は証拠によって答えを出せる。しかし後者は――恐怖によって、いかようにも答えを変えられる。
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三日後、アシュフォードの別部隊が再び動き出した。今度の標的は、エリュシオンが管理する交易路だった。その街道は、いくつかの集落と塔を結ぶ重要なルートだ。商人、冒険者、そして難民たちが利用していた。軍事道路ではない。しかしアシュフォードは、そこが物資の補給路として使われていると考えていた。
軍が夜明けに到着した。エリュシオンの警備兵たちが彼らの姿を捉える。敵の指揮官が手を挙げた。
「止まれ!」
アシュフォードの兵士たちが足を止める。
指揮官が街道の向こう側から怒鳴り声を上げた。
「この街道を封鎖する!」
エリュシオンの指揮官が前に出た。
「理由は?」
「アシュフォードの命である!」
「この道は民間人の領地だ」
「エリュシオン教団への補給路となっている」
「民間人に物資を届けているだけだ」
「ならば、我らが検問を行っても文句はあるまい」
エリュシオンの指揮官は首を振った。
「通すわけにはいかない」
アシュフォードの将校が剣を抜いた。
「ならば、そこをどけ」
エリュシオンの指揮官は彼を真っ直ぐに見据えた。
「俺たちは、この道を守れと命じられている」
長い沈黙が流れた。やがて、アシュフォードの将校が剣を振り下ろした。
「突撃せよ!」
エリュシオンの指揮官は静かに目を閉じた。
「防衛陣形!」
兵たちが動く。三度目の戦闘が始まった。
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戦火は拡大していった。一つの戦場が二つになり、二つが三つへ。そして五つへと増えていく。
アシュフォードが街道を襲撃し、エリュシオン教団がそれを防衛する。アシュフォードが集落を標的にし、エリュシオン教団がそれを保護する。エリュシオンの軍勢が軍事行動を阻止すれば、アシュフォードは巡回兵を増員してそれに応じた。
どちらの陣営も、正式な宣戦布告をしてはいなかった。どちらの陣営も、領土の侵略を公言してはいなかった。しかし、もはやそんな建前はどうでもよかった。人々は戦い、傷つき、そして一部の者は命を落としていた。
戦争は、現実のものとなっていた。
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カイは作戦室の中に立っていた。中央の机には大きな地図が広げられている。赤いマーカーはアシュフォードの軍勢を、青いマーカーはエリュシオンが管理する防衛拠点を示していた。今や、その数はあまりにも多すぎた。
カイはそれらをじっと見つめた。隣にはユイが、正面にはセナが立っている。ネロは壁に寄りかかり、エルヴァは腕を組んでいた。北方国境からはヴァドスが帰還し、クロエは負傷者の報告書を確認していた。
カイが地図に視線を落とす。
「広がっているな」
セナがうなずいた。
「はい」
「塔からさらに離れた拠点を狙ってきている」
「その通りです」
カイの指先が机の縁に触れた。
「数はどれくらいだ?」
「現在、少なくとも七つの戦区で戦闘が発生しています」
カイが顔を上げた。
「七つ?」
セナが深くうなずく。
「規模の小さいものも含めてですが」
「それでも、だ」
カイは息を吐き出した。対話を試み、協力を模索し、何度も撤退の機会を与えてきた。だが、そのどれもが実を結ばなかった。
戦争はもはや扉の外にあるのではない。すでに、彼の領地へと足を踏み入れている。
カイは仲間たちを見渡した。
「すべての拠点を防衛する」
セナが答える。
「了解いたしました」
カイは言葉を続けた。
「民間人の保護を最優先に」
「了解いたしました」
「撤退する兵は追うな」
「了解いたしました」
「もし降伏する者がいれば――」
彼は一拍置いて言った。
「――それを受け入れろ」
ネロが薄く笑った。
「まだ不必要な死を出したくない、ですか」
カイは彼を見た。
「ああ」
ネロの表情から笑みが消え、真剣なものに変わる。
「この状況になってもですか?」
「この状況だからこそだ」
部屋が静まり返る。
カイは再び地図に目を戻した。
「誰かがこの戦争を望んでいる」
誰も口を開かなかった。
カイの目が鋭く細められる。
「だが、俺たちがその期待に応えてやる義理はない」
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数週間が経過した。西方の街道は戦場と化し、平原は分断された。アシュフォードは軍事キャンプを設営し、エリュシオン教団は防衛拠点を構築していった。
補給路には護衛がつき、村々からは避難が始まった。商人は一人での移動をやめ、民間人を護衛するために冒険者たちが雇われた。聖騎士はエリュシオンの防衛兵と戦い、エリュシオンの防衛兵は聖騎士と戦う。
そして戦闘が行われるたびに、また新たな報告書が作られる。新たな糾弾が生まれ、双方の不信感を募らせる理由が積み重なっていくのだった。
教会は、エリュシオンの軍勢が日に日に行制を整えていく様を目にしていた。アシュフォードは、エリュシオンの管理する領地が押し戻そうとするあらゆる試みを跳ね返すのを見ていた。どちらの陣営も、真実のすべてを理解してはいなかった。そもそも誰が最初の引き金を引いたのかさえ、誰も知らなかった。しかし今や双方が、相手こそが真の脅威であると確信していた。
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ある日の夕暮れ、カイはエリュシオン教団の外に立っていた。太陽が地平線の向こうへと沈みかけている。遠くには煙が立ち上っていた。また別の戦場。また別の衝突。誰かに「これしか選択肢はない」と思い込まされた人々が、今日もどこかで殺し合っている。
ユイが彼の傍らに立った。
「また考え事をしているのね」
カイは薄く笑った。
「いつものことだよ」
ユイが彼を見つめる。
「怒っているの?」
カイは沈黙した。それから、静かに答えた。
「ああ、怒っている」
ユイは彼の横顔を注意深く見守った。
カイは遠くの煙へと視線を向けた。
「彼らが戦っていることに怒っているんじゃない」
彼は一拍置いた。
「戦火をこの場所に持ち込み続けていることにだ」
その瞳が冷たく冴え渡る。
「俺は戦争を望んでいない」
彼は背後にそびえ立つ塔を見上げた。
「ここには、ただ生きたいだけの人々がいるんだ」
ユイは小さくうなずいた。
カイは再び戦場の方角を向いた。
「だが、もしこのまま襲撃を続けるというなら――」
その表情が、鉄のように硬く引き締まる。
「――俺がみんなを守る」
彼はそれ以上、何も言わなかった。言う必要もなかった。
エリュシオン教団は数週間もの間、自衛の戦いを続けてきた。しかし、もはや衝突は一つの戦場だけに収まる規模ではなくなっていた。アシュフォードの軍勢は地域全域に広がりつつあり、エリュシオン教団もまた、報復措置を講じることを余儀なくされていた。教会は監視を続け、そして戦場の遥か彼方では、誰かが次の段階が始まるのをじっと待ち構えていた。
戦争は始まった。それがどこまで燃え広がるのか、まだ誰も知る由はなかった。




