小さな夢
琴音は病状が少し落ち着いたので、一日のみの帰宅が許可された。
久しぶりの帰宅で琴音は心が踊っていた。
「わあ、やっぱり家がいいな!」
「そうでしょ。琴音」
母親が優しく声をかけた。
「うん、早く、お母さんの味噌汁が食べたい」
「いいわよ、今から作るからね」
母親は早速、味噌汁を作り、琴音は、ご飯を家族と一緒に食べ始めた。
「あれ、なんだか、味噌汁の味が薄いのね」
「そんなことはないわよ」
「そう? 何か変ね」
母親の箸が止まった。
「そうね……きっと味噌の量を間違えたのよ……」
「お母さんたら、あわてんぼうなのね」
一緒に食べていた、水江の表情が曇った。
「どうしたの? みんな様子がおかしいわ」
琴音は不思議そうに家族の表情を見つめていた。
食事が終わると、さっそく、ゆうと散歩に行こうとした。
「久しぶりにゆうと散歩に行ってくる」
「琴音、まだ療養中だから、散歩はよくないよ」
水江が声をかけた。
「大丈夫よ。少しだけならいいでしょ」
「じゃあ、私も一緒に行くから。本当に少しだけよ」
「うん」
琴音は、水江と近くの野原まで散歩に行くことになった。
「琴音は入院していて、辛くない?」
「うん、辛いよ。ピアノも弾けないし、ゆうとも散歩にいけないし、それに……」
「そうよね……」
「お姉さん、私よくなるわよね?」
「大丈夫よ」
「私ね、いずれね、ピアノの先生になって、小さな子供たちに教えたいのよ」
「そうね……」
「やっぱり、お姉さん変よ?」
「そんなことはないわ、疲れているのよ」
琴音はしばらく歩くと、息切れをし始めた。
そして、立ち止まった。
「お姉さん、どうして息苦しいの? 病気のせい?」
「大丈夫? 早く帰りましょう」
「うん……ゆう、また散歩に行こうね」
ゆうは吠えることもなく、じっと琴音を見ていた。
水江は自宅に帰り、部屋へ戻ると涙が溢れた。
どうして……
琴音は精一杯なのに……
翌日になって、病院へ帰る時のことだった。
「お姉さん、そんな顔をしないでね、いつもの元気なお姉さんでいてね」
「うん……」
理恵子もいつもの明るい顔で見送りに来ていた。
「琴音ちゃん、早く良くなってね!」
「うん、理恵子も元気でね。先生に、またピアノを教えてって言っててね」
「うん」
白い鳥が軽い羽根音をたてて、飛び立っていった。




