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夕日に映る君――初恋の音色  作者: 月原 悠
翼になりたい

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白い光のかけら

渡辺は琴音を抱きかかえて、診療所へ向かった。

息があがった。

しかし、琴音の身体がやけに軽く感じた。


診療所は騒然となった。

看護婦が診療所内を駆け回った。

皆の表情はどれも険しかった。


「琴音ちゃん、しっかりして」


琴音の瞬きさえ、消えていくようだった。

白い寝台に身を預けると、ようやく琴音は気がついた。


「先生、ここはどこですか? どうしてここに?」

「琴音ちゃん……」


看護婦の足音もようやく落ち着き、医師が琴音に声をかけた。


「しばらく、ここで過ごしなさい」


渡辺は水江ら家族に知らせを送った。

知らせを受けた水江ら家族は診療所に集まった。


「琴音、大丈夫?」

「うん、少しだけ頭が痛いけど大丈夫よ」


琴音の微笑みさえも痛々しく感じた。

琴音の顔色は、より一層白かった。

その白さが寝台のシーツに重なってみえた。


精密検査をするために、中心街の大きな病院へと移った。

検査は数日にわたって行われた。

再び家族が呼ばれた。

渡辺も心配のあまりに同席した。

医師の説明があった。


「琴音さんは……」


水江ら家族は医師の言葉が遠く感じた。

そして、言葉を失った。


「先生、そんな……」


渡辺は医師に一歩詰め寄った。


「先生、何か方法はないのですか?」


父親は涙ながらに訴えた。

声は震えていた。


「娘を、娘をなんとかしてくれんか」


母親はハンカチを口に当てて言った。


「どうか、琴音を助けてあげてください」


医師は瞼を伏せた。

時計の針の音だけがやけに響いた。

看護婦は重い表情で立ち尽くすだけだった。


絶対安静だった日も過ぎ、渡辺と家族らは琴音の病室を訪れた。

皆が感情を押し殺す中、琴音の笑顔が柔らかかった。


「先生! 先生も来てくれたの」

「ああ、琴音ちゃん、体の具合はどうかな?」

「だいぶいいのよ。昨日までは息苦しかったけど、今日は楽なの。先生が来るんじゃないかって思ったの。そうしたら、よくなったのよ」


水江はその言葉を聞いて、おもわず病室を後にした。

母親は後ろを振り返った。

父親は琴音の手を握った。


「どうしたの? お父さん」

「いや、なんとなくな……」

「どうして、そんな悲しい顔をするの?」

「ああ、気のせいだよ。昨日はよく眠れなかったんだ」

「本当? お父さん?」


琴音は父親の顔を不思議そうに覗き込んだ。


「お父さんよく見たらハンサムなのね」

「そうだよ。琴音のお父さんだからな」


琴音が小さく笑った。

渡辺を見上げながら呟いた。


「そういえば、先生は口元にほくろがあるのね。初めて気づきました」

「そうだよ」

「今度はいつピアノを教えてくれるのですか?」

「そうだね。琴音ちゃんが退院したら、いつでもいいよ」


渡辺の笑顔が揺れた。

白いカーテンが揺れていた。

外から、鳥のさえずりが聞こえていた。


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