水の反映
琴音は嬉しくてたまらなかった。
渡辺の姿を見て心が踊った。
「先生、先生! いっしょに金魚すくいしましょう」
「そうだね……琴音ちゃん」
「どうしたの? 先生、なんだか元気がないみたい」
「気のせいだよ……」
「どうしたの、お姉さん、下をずっと見てばかりで」
「気のせいよ……」
「なんだか変なの」
境内では、町の人たちが輪になって踊っていた。
踊る人々の笑顔が舞っていた。
「先生、一緒に踊りましょう!」
「いや、先生はいいかな。見ているだけで……」
「なーんだ。お姉さんは?」
「私もいいわ……」
「もう、二人とも何だか変よ……」
「理恵子、踊ろう」
「うん」
渡辺と水江は二人きりになった。
琴音と理恵子は無邪気に踊っていた。
「水江さん、そこのござに座りましょう」
「はい……」
二人はござに座った。
何も話すことはなかった。
小さな花火が夜空に開いた。
花火の散った火が小さな音をたてて落ちていった。
「渡辺さん、ごめんなさい……」
「いえ、僕の方こそ……」
神社の境内の中に打ち水がまかれた。
涼をとるためだった。
水がはじけ散った。
たまった水に月が映し出されていた。
水江はその水たまりをじっと見つめていた。
渡辺は水江の姿に目を奪われた。
二人はしばらく言葉を失っていた。
踊りが終わると、琴音と理恵子が戻ってきた。
子供たちが花火をしていた。
琴音は水江の浴衣の袖を引っ張った。
「お姉さん、花火を買って! 先生も理恵子も一緒にしよう!」
「少しだけよ……」
「ほら、先生も」
「ああ……」
琴音が花火を買ってきて、みんなで花火をしていた。
「ほら、きれいね。見てみて、お姉さん」
「そうね……」
「先生の花火もきれいね」
「ああ……」
「なんだか今日は本当に、お姉さんも先生も元気がないのね……」
「そんなことないよ……」
「そうよ……」
水がはじける音がした。
「あ、この線香花火が最後ね。私がするから」
「きれいね。琴音ちゃん」
理恵子がぽつりと言った。
線香花火の赤い玉が、音をたてずに落ちた。




