夢の後に
ここから物語は、短い詩のような章を重ねながら、琴音の心の奥へと静かに進んでいきます。
繊細に揺れ動く心の変化を、静かに見届けていただければ幸いです。
夏祭りの余韻を残して、琴音らは帰っていった。
その途中だった。
水江と渡辺はちらり、ちらりと互いを見ていた。
琴音は祭りでのいつもと違う水江と渡辺の姿が気になっていた。
「ねえ、ねえ、どうして、お姉さんと渡辺さんは黙っているの……?」
「ああ、琴音ちゃん、疲れているんだ……」
「そうよ。琴音……」
「もう、いいわ」
琴音は自宅まで走りだそうとした。
「待って、琴音ちゃん」
渡辺が声をかけると立ち止まった。
ぽつりと言った。
「だって、先生がつまんなさそうにしているでしょ」
「そんなことはないよ。琴音ちゃん」
「本当……? だって、お姉さんも変だし……」
「気のせいよ。琴音……」
「どうして、こんなに楽しいはずなのに……先生もしかして……」
「違うよ」
「嘘……じゃあ、琴音と二人だけで帰ろう」
「琴音……」
渡辺は琴音と二人きりで帰ることになった。
「先生、この間ね、神社の赤い餅を食べたの。そしたら少しぽっちゃりなったの。だから、琴音のことが嫌いになったの……?」
「そんなことはないよ」
「先生、前にぽっちゃりした女の子が好きって言ったでしょ。あれは本当……?」
「ああ、本当だよ」
「先生、琴音のことを好き? 好きなんでしょ? 好きなんでしょ……? 琴音は先生のことが好きよ」
渡辺は突然言われて言葉にならなかった。
「どうして、黙っているの」
琴音は渡辺の方をじっと見つめた。
渡辺は目をそらした。
「もう、いいのよ……」
琴音は走り出した。
「待って、琴音ちゃん」
琴音は立ち止まった。
「先生、琴音のことが好きだったら、後ろから抱きしめて……」
渡辺は立ち尽くした。
小さな声で言った。
「琴音ちゃん……」
「どうして先生、できないの……」
「琴音ちゃん、手をつないで帰ろう……」
「うん……」
渡辺は遠くを見ていた。
「先生、琴音といると楽しい……?」
「ああ、楽しいよ……」
「本当? 先生……? でも顔が嘘をついてる」
「そんなことはないよ」
琴音は少し黙り込んだ。
「先生、ごめんなさい……ごめんなさい」
琴音は走っていった。
渡辺はもう追いかけることはできなかった。
小川のせせらぎの音がした。




