月の光
水江は、慣れない東京での暮らしにも馴染めず、実家へ戻っていた。
そして、以前の工場でまた働き始めた。
渡辺の様子は、琴音からたびたび聞いていた。
そのたびに、水江の胸は騒いだ。
夏祭りの日だった。
「お姉さん、夏祭りがあるから行こう? もしかしたら渡辺さんとばったり会えるかもよ!」
「私はいいわ……」
「どうして?」
水江は複雑だった。
渡辺が苦しんでいることはわかっていた。
そして、琴音がどれほど渡辺を想っているかも知っていた。
それが何より辛かった。
水江は優しかった。
優しすぎた。
「お姉さん、元気ないから、こんな日こそ行こう」
「少しだけよ」
「うん、それにお姉さんと金魚すくいもしたいし、綿菓子も買ってほしいもの」
「もう、琴音ったら」
水江が小さく微笑んだ。
二人は近くの神社の夏祭りへと向かった。
神社の近くは賑わいを見せていた。
空を見上げると丸い月が浮かんでいた。
涼し気な風が吹いた。
「ほら、お姉さん、綿菓子を買って」
「いいわよ。でも、琴音は太ってくるわよ」
「そうかな……? 先生に嫌われる?」
「そうよ」
水江はくすりと笑った。
琴音も笑った。
「じゃあ、金魚すくいしよう」
「いいわよ」
一方で、理恵子と渡辺も夏祭りに向かっていた。
途中に小川があった。
月の光が映っていた。
それが、なぜか渡辺の心に刺さった。
「お兄ちゃん、そういえば、琴音ちゃんもお祭りにいくそうよ」
「琴音ちゃんもか……」
渡辺は一瞬、戸惑った。
「そう、お姉さんと一緒に、来るって言ってたよ」
「そうなんだね……」
「どうしたの? 急に元気がなくなって?」
笛太鼓の音が聞こえて、踊りをする町の人もいた。
賑わいは話し声をかき消すほどだった。
多くの人が行きかっていた。
そんな時だった。
「あ、ほら、お姉さん、川崎先生よ! あ、理恵子」
最初に琴音が渡辺と理恵子の姿に気づいた。
そして、渡辺は水江の姿に気づいた。
水江は気づくと下を向いた。
理恵子は琴音の方を見た。
月の光は、それぞれを映し出していた。




