表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夕日に映る君――初恋の音色  作者: 月原 悠
無言歌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/53

哀歌

二人は玄関口で雨に濡れていた。

雨が洋服からしたたり落ちていた。


「水江さん、どうして……」

「渡辺さんこそ、どうしてここまで」

「水江さんと……」

「言わないでください。言わないでください」


水江は泣き崩れていた。

渡辺は遠くを見ていた。

そして、ぽつりと言った。


「水江さん、送っていきます」

「渡辺さん……」

「それが僕にできる精一杯のことです」


渡辺はようやく、傘を差し水江の肩に手を置いた。

渡辺と水江の背後から声がした。


「雄二……」

「ミレーゼ、どうしてここに……?」

「あなたの表情を見ればわかるわ。追ってきたのよ」

「ミレーゼ……」


ミレーゼも泣いていた。


「もういいわ、お別れにしましょう。私はあなたを追い詰めたくないわ」

「ミレーゼ……」

「愛しているからよ……私は水江さん以上に雄二を愛しているの、でも、でも……もういいの」


ミレーゼは走ってその場から去った。

渡辺はしばらく呆然と立ち尽くしていた。


「水江さん、申し訳ない。僕はもう……誰も愛する資格がないんだ」

「渡辺さん……」

「今は帰ろう、それぞれの道へ」

「はい……」


雨がさらに激しく降りしきり始めた。



あの雨の日から、数日が過ぎた。


理恵子と琴音が学校から帰る途中のことだった。

理恵子は手帳を取り出し、いつものように鉛筆で文字を書いた。


「琴音ちゃん、お兄さんはミレーゼさんと別れたみたいなの」

「本当、どうして?」

「理由は教えてくれないの、ただ、もう会社も辞めたみたいで」

「じゃあ、私は先生と会ってもいいのかしら?」

「それが、お兄さんは誰にも会いたくないといって、家に閉じこもったきりなのよ。何かあったみたい」

「そうなの?」

「だから、そっとしてあげて」

「うん。そういえば、琴音のお姉さんも元気がないのよ……ご飯もろくに食べないの、最近は痩せてきてね」


琴音はいてもたってもいられなかった。


そうだ、先生が元気がないのなら、お弁当でも作ってあげようかしら

でも、どうしようかな……

理恵子は、そっとしていてと言ってたけど


思い悩んだ琴音は、お弁当を作り、理恵子に渡してもらうように頼んだ。

お弁当に小さな手紙を添えていた。



川崎先生へ


先生、元気をだしてね

元気が出たら、琴音にまたピアノを教えてね。


琴音



渡辺は手紙を読んだ。

しかし、気持ちを抑えることはできなかった。

ふさぎ込む日々が続いた。


琴音は気になっていたので、理恵子から毎日のように渡辺の様子を聞いていた。


「理恵子、やっぱり先生は元気がないのかしら」

「うん」

「琴音のお弁当は食べたのかしら……?」

「見てないからわからないわ」

「そうなのね。どうしたら元気が出るかな……」

「やっぱりそっとしてあげて」

「うん、でも、琴音もつらい」

「琴音ちゃん……」


琴音はオルガンを弾きながら想い続けた。


先生、早く元気になってください

そうでないと、琴音は辛いです

先生が辛いなら、私もつらいです

先生、先生……


オルガンからは遠い嘆きの旋律が流れていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ