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夕日に映る君—―初恋の音色  作者: 月原 悠
波音が君を呼ぶ

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4/25

戸惑いとときめき

どこかで記憶が静かに流れた。


「お父さん、お父さん。ほら、夕日がきれいだよ」

「そうだな」

「すぐ目の前に届きそう。石を投げて見るかな? えい。届かないや」

「そうか、そうか。夕日までは遠いからな。遠くても、夢を持つことが大事だぞ」

「それを目標にして、頑張って進むんだ」

「わかったよ。父さん」

「じゃあ、父さんが肩車してあげよう」

「うん」

「ほら、ほら」

「わあ、怖いよ」

「はははは」

「家に帰って、一緒にご飯でも食べよう」

「うん、今日は何かな?」

「そうだな、何が食べたい」

「僕は何でもいいよ。お父さんとお母さんと一緒に食べることができればね」

「そうだな。家族とはいいものだな」


父さん……僕は……


水江は想いが伝わらない切なさに覆われていた。


「水江さん、最近どうしたの元気がないけど、僕が何かしたかな?」

「いえ、気のせいです……」

「僕でよかったら、なんでも相談にのるから」

「はい……渡辺さん……いえ、やっぱりよかったです……」

「どうしたの? 言ってごらん」

「お願いしたいことがあります」

「何かな?」

「やっぱり、いいです……」

「どうして……」

「いえ、ごめんなさい。私の方から言い出したのに」

「水江さん、気にしなくていいよ」


水江はいつものように、仕事のことで班長から叱られていた。


「ほら、水江さん、前に頼んだ書類はできたのかね?」

「班長、ごめんなさい。もう少しです」

「さっさとしてもらわないと困るよ」

「申し訳ありません」


しばらくして、渡辺が声をかけた。


「水江さん、書類を見せて。ああ、僕がやっておいてあげるよ」

「いえ、悪いです」

「いいんだよ、そんな気分なんだ」

「どうして、渡辺さんは私に優しくしてくれるのですか?」

「ほっておけないんだ」

「それはどういう意味ですか?」

「なんとなくかな……」

「なんとなくですか?」

「渡辺さんは誰にでも優しいのですね」

「そんなことはないよ……」

「渡辺さん、書類は明日作りましょう。もう、遅いです」

「大丈夫だよ。それより、もう少ししたら、一緒に帰ろうか」

「はい」

「だいぶ出来上がったから、明日の朝には僕が作り上げておくよ」

「いえ、申し訳ないです」

「いや、気にしなくてもいいよ。じゃあ、一緒に帰ろう。水江さんの家は近くなのかな」

「はい」


野原は再び水江と渡辺を待っていた。


「野原の近くだね。今日もここで休んで話をしよう」

「はい」

「もう、星が見えるね」

「はい」

「星はすぐ手に届きそうなんだよね。小さい頃から、そう思ってきた。あれが北斗七星か。僕は小さい頃はとても星がきれいに見えていたんだ。でも、最近はそう感じなくなることがあって……」

「どうしてですか?」

「その答えは簡単さ。視力が落ちたからだよ」

「そうなんですね、ふふふ」


「でも、水江さんの瞳の輝きはきれいだよ」

「もう、あまりお世辞をいわないでください。渡辺さんは、いつもそうやって言います。女性には誰にもそう言っているのではないですか?」

「そんなことはないよ……」

「もう一度、お願いしたいことがあります。手をつないでください。やっぱり駄目ですか?」

「ごめんね、それはできないんだよ」

「そうですか……ごめんなさい、無理を言って。女性からこういうことはいけませんね……」

「僕こそ、ごめんね……」


夜空が何かを言いたげに輝いていた。


一方で琴音はときめきを隠せなかった。でも、本当に川崎が自分のことを好きなのか自信がなかった。

琴音は想う。


先生、好きです。

でも、私はまだ十六歳よ。

可愛いって、お世辞だったのかしら?

そうだ!

あそこにある花で花占いをしてみよう。


先生は琴音が好き!

お世辞……

やっぱり、琴音のことが好き!

うーん、お世辞?

きっと私のことが好き!

あ、両想いだ! やった!


琴音の恋心はやわらかな花のようだった。

そっと風が吹いただけで、飛んでいきそうだった。

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